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結局2019年大河ドラマの「主役」は誰だったのか

ネットではかなりの否定的な意見が飛びかい、視聴率の数字も思うように上がらず、さらに複数の出演俳優の不祥事による急な内容変更など、不運も重なったことが記憶に残ったものになってしまった今回の大河ドラマでしたが、何とか最終回までたどり着きました。ネット上では好評価も見受けられるものの、改めて歴史物とは言っても現代に近い内容を扱うことの難しさを感じてしまった気がします。

基本的には今回のシナリオを書き、役者としても最終回に出演した宮藤官九郎氏の頭の中にあるイメージとストーリーの進め方について、「落語」パートについてついて行けなかったという声も挙がっていますが、通しで視聴させていただき、最後まで主人公がマラソンランナーの金栗四三なのか、1965年の東京オリンピックを招聘した田畑政治なのか、それとも「東京オリンピック」という大会そのものなのかイマイチわかりにくかったという事はあると思います。

前半では何の事やらわからなかった内容について、物語が進むにつれてその伏線を回収した時点で、脚本の妙というものもわかってニヤッとするところはあるものの、やはり語り手として物語を先導する「志ん生」とその弟子「五りん」にスポットを当てることになってしまったことは確かです。宮藤官九郎氏は落語が大好きだと言っているので、こうした構成というのに文句を言っても仕方ないのですが、大河の主題はオリンピックを中心にしたスポーツの歴史です。限られた時間の中であれもこれもということは難しいので、結果的にオリンピックに関係する様々なエピソードを紹介しそびれてしまう部分があったのではないかと考える人がいたとしても仕方ないでしょう。

個人的には、やはりこの大河ドラマは2020年東京オリンピックがあってこそのものだと思うので、日本のスポーツの黎明期から今日までの先人の苦労とその栄光をもっと紹介して欲しかったです。マラソンでは当時日本から出場して金と銅メダルを取った孫基禎・南昇龍選手の扱いは大きくありませんでしたし、ロサンゼルスオリンピック馬術競技金メダルの西竹一選手はその存在すら出てきませんでした。ロサンゼルスオリンピックでは他にも、メダルには届きませんでしたが男子100メートルで決勝に進出した吉岡隆徳選手の最速への挑戦という、現在の日本選手にもつながる話もできたのではなかったとか。

最終回は1964年東京オリンピック開幕からの記録映像とセットで進行していったので、そのハイライトとして続々と出てくると思っていた東京オリンピックの競技の内容についても放送時間を伸ばした割にはバラエティに豊んではいなかったのも残念でした。過去の回で本人役をドラマに登場させ、ある程度の伏線を出していたマラソンの円谷幸吉選手と女子バレーボールの紹介がほとんどで、残りはやはりと思える落語パートに終始していました。通しでドラマを見てきた人にとってはマラソンはともかく、あれだけ中盤で紹介した「水泳日本」の東京オリンピックはどんな結果だったのかについては全く触れられなかったのは成績が低調だったとは言え、メダル至上主義にも程があるとつい思ってしまいました(ちなみに日本水泳チームは銅メダルをリレーで取っています)。

そして、番組スタートから出てきたキーパーソンの一人である嘉納治五郎が世界に広めた武道であり、東京オリンピックで種目採用された柔道についても、ドラマ内の東京オリンピックの中では全く出てこなかったのは何故でしょう? 無差別級で日本の神永選手が金メダルを取れなかったからという単純な事ではないにしろ、出した方が柔道が世界のスポーツとして認知されたという評価もある試合だったので、神永対ヘーシンクの試合ぐらいは嘉納治五郎の志が花開いた一つのエピソードとして出すのに意味があったのではないかと思えます。

そんな中、個人的に評価したいのはいつの世にもオリンピックを利用してお金もうけをしたり、政治的な駆け引きの道具としてオリンピックを使おうとする輩がうごめいているということを、過去の話の中ではあってもしっかり描いてくれたことです。大会が始まって盛り上がればそれでいいということだけではなく、2020年の大会前の今だからこそオリンピックを利用しようとする悪い奴らの存在についても考えて、冷静に次の東京オリンピックの評価を多くの人にしてほしいものだと思います。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(47)「時間よ止まれ」NHK総合
2019/12/15 20:00 ~ 2019/12/15 21:00 (60分)
【出演】阿部サダヲ,中村勘九郎,綾瀬はるか,松坂桃李,麻生久美子,安藤サクラ,斎藤工,林遣都,三浦貴大,大東駿介,角田晃広,黒田大輔,平原テツ,須藤蓮,川島海荷,吉川愛,森山未來,神木隆之介ほか
【作】宮藤官九郎

(番組内容)

1964年10月10日。念願の東京五輪開会式当日。田畑(阿部サダヲ)は国立競技場のスタンドに一人、感慨無量で立っていた。そこへ足袋を履いた金栗(中村勘九郎)が現れ、聖火リレーへの未練をにじませる。最終走者の坂井(井之脇海)はプレッシャーの大きさに耐え兼ねていた。ゲートが開き、日本のオリンピックの歩みを支えた懐かしい面々が集まってくる。そのころ志ん生(ビートたけし)は高座で「富久」を熱演していたー

ナーバスな題材でも事実隠蔽は反発を招くだけ

このカテゴリーで前回書かせていただいた「ベルリンオリンピック陸上競技」の内容がドラマについにのってきました。前回のロサンゼルスオリンピックと比べるとベルリンオリンピックでは公式の記録映画が作られたこともあり、選手は吹き替えではなく一部本当の競技の内容を記録した映画のシーンを使っていました。

一部というのは実は、当時の機材では日没後に競技が延長されて続いた棒高跳びについては記録できなかったためで、映画や当番組で使われた日本の大江季雄、西田修平の跳躍については、翌日改めて競技の様子を映画用に録り直したものでありました。

ただ、前回の内容でちょっと触れましたが、やはりというかこの大河ドラマでは、メダル獲得者以外は興味がないようで、三段跳びの田島直人選手は出てきましたが、5千メートルと1万メートルでともに4位に入り、現地でも大人気だった村社講平選手の存在は全く出てきませんでした。

そして、ドラマのコンセプトであるマラソンについては、これも記録映画に残っているものをそのまま流し、金メダル孫基禎選手、銅メダル南昇龍選手のメダル獲得と、それまで日本マラソン界がなしえなかったオリンピックの金メダルと複数メダル獲得の快挙を伝えました。

番組の中では日本の放送席の隣に陣取っていた優勝候補のザバラ選手の母国であるアルゼンチンのクルーが、ザバラ選手の途中棄権がわかると、そのまま放送を終了して帰ってしまったことが出てきましたが、これは当時のNHKアナウンサーの証言そのものです。また、オリンピックのマラソン中継は、スタートの部分を実況したもののそこで放送は中断し、レースが終わってから改めて放送されたということも事実に即しています。当時の取材では全コースの模様をつぶさに実況できるような事はできなかったということで、恐らくドラマで表現されたような怒号のあとの歓喜というものは日本のあちこちで起こったものだと思われます。

マラソン金と銅の孫・南選手は当時は日韓併合の渦中にあった朝鮮半島出身のランナーで、いわゆる「金栗足袋」を履いての快挙であることも間違いありませんが、前回の放送から播磨屋の店頭に両選手が金栗足袋を履いていてオリンピック代表に決まったというくだりが実は正確ではありません。この点は日韓両国にとって実にナイーブな内容を含むのですが、今回の放送でメダルを取ったことがわかった後、一瞬「今回のメダル獲得は朝鮮半島出身ランナーの快挙で日本人選手ではない」ことに残念がる気分が広がったのですが、そうした当時の日本人の気分を忖度したのか、実は日本選手団が出発する時にもマラソン日本代表は決まっていない状態だったのです。

話はマラソン代表の選考会の時にまで遡るのですが、当時孫基禎選手は、以前から他の競技で活躍していた同じ朝鮮半島出身の先輩から、とんでもない情報を入手します。当時、選考会前に孫基禎選手は当時の世界新記録を出しており、マラソン代表は間違いなしと言われていました。朝鮮半島出身のランナーとしては今回紹介された南選手は実力的に孫選手に次ぐ力があっても、出場枠の3には入らず、当時の日本陸連は日本人選手2名を選ぶというのです。その話を逆手に取るような結果に選考会レースはなってしまうのですが、その結果は南選手が一位、孫選手が二位ということになってしまったのです。

普通に考えると世界記録を持っている孫選手を落とすことができず、さらに日本陸連のメンツにかけても朝鮮半島出身のランナーが代表で2名入ることは避けたいと思ったのかどうかはわかりませんが、ベルリンに派遣する選手は朝鮮半島の選手2名、日本選手2名とし、大会出場の3名はベルリン現地で行なう30キロの現地予選で決定するとしました。

こうした当時の日本陸連の選手選考における不可解さはそれこそ最近の日本のマラソン代表選考にも影響を及ぼしていたようにも思います。しかしドラマでは孫・南選手が大会に派遣される前から日本代表になっているかのような流れになっています。

この辺は2019年現在の日本と韓国との主に政府同士の関係の悪さもあり、史実をそのままドラマ化するよりもある程度フィクションを入れながら描いた方がいいという考えあってのことかも知れませんが、日本人が朝鮮半島出身のランナーに勝てないという状況の中で、露骨な日本人贔屓をした事実は事実として、それら多くの忖度による代表選考が続いたことの反省のもとで2020年東京オリンピック代表選考の一発選考「マラソン・グランド・チャンピオンシップ」が生まれたということもあるので、そうした背景とともに過去の歴史を学習する機会になれば良かったのではという気がしてしまうのです。

個人的には今回の内容自体がニュース配信され、さらなる日韓両国の関係悪化につながるような事にはなって欲しくないですね。まさか放送のあるタイミングで日本と韓国に関する騒動が加熱しているとは制作者側にとっては想定外だったかも知れませんが、この問題はシナリオを書く前から問題としては続いていたと思うので、今後に遺恨の種を残す可能性もある一連の放送ではなく、せめてドラマ終了後のミニコーナーの中ででも、きちんと日本側から見た当時の国内の状況をきちんと説明して欲しかったと思っています。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(35)「民族の祭典」NHK総合
2019/09/15 20:00 ~ 2019/09/15 20:45 (45分)
【出演】阿部サダヲ,中村勘九郎,上白石萌歌,柄本佑,杉咲花,仲野太賀,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,トータス松本,リリー・フランキー,三宅弘城,皆川猿時,塚本晋也,薬師丸ひろ子ほか
【作】宮藤官九郎

(番組内容)

ベルリンオリンピックはナチスが総力をあげ運営する大規模な大会となり、田畑(阿部サダヲ)を圧倒し当惑させる。IOC総会では治五郎(役所広司)が日本開催を訴える。

1936年夏。ベルリンで4年後の次回大会の開催地を決めるIOC総会が始まり、嘉納治五郎(役所広司)は「日本で平和の祭典を!」と熱く訴える。その直後に開幕したベルリンオリンピックは政権を握るナチスが総力をあげて運営する大規模な大会となり、田畑政治(阿部サダヲ)を圧倒し当惑させる。マラソンでは金栗四三(中村勘九郎)と同じハリマヤ足袋を履くランナーが出場。水泳では前畑秀子(上白石萌歌)のレースが迫る。

東京オリンピックでも「メダル至上主義」放送は続くのか

今回のNHK大河ドラマは途中で主人公が変わり、注目される種目も変わるというなじみのない展開になり、今回が阿部サダヲ演じる田畑政治氏がメインになって2回目の放送になりますが、まだ金栗四三氏の出番もあります。

ちなみに金栗四三氏はオリンピックのマラソンでは全くメダルには手が届かなかった選手で、そういう選手にスポットライトを当てたことで、いわゆる「勝利至上主義」をストレートに押してこないこれまでのドラマ展開をそのつもりで見ていたのですが、けたたましい調子でまくしたてる田畑氏の勢いそのまま、第二部は一気に「オリンピックは参加することに意義がある」ではなく、「オリンピックはメダルを獲ってこそ」という「メダル至上主義」の匂いを感じてしまった今回の放送でした。

今回のメインキャストははからずもアムステルダムオリンピックに日本女子選手として初めて参加し、金メダルを狙っていた100m走の準決勝で敗れたことで、一度も走ったことのない800m出場を役員に直訴し、何とか銀メダルを獲得して面目を施した(当時の期待された状況からするとドラマのようにそこまで手離しで喜べなかったと思うのですが)人見絹枝選手でした。

もちろん、女性の陸上競技の歴史の中では人見絹枝という存在は注目に値するでしょうが、あれほど日本のマラソンのために尽力した金栗四三氏が人見絹枝氏の結果だけを見て喜ぶシーンだけしか出さず、マラソン競技について全く触れなかったのはどう考えてもおかしな事です。落語のシーンをカットしても40キロ付近までトップで通過し、結果四位入賞した山田兼松選手の名前とそのレースの再現は入れないと、何でいままで金栗四三氏をメインで出してきたのか? もしかしてドラマ制作側の意図としては金栗四三氏は「マラソンの先駆者」ではなく「女子陸上普及の立役者」として出したかったのか? という風にも思えてきてしまいます。

それにひきかえ、前回まで全くドラマ的には出てこなかった陸上の三段飛び金メダリストの織田幹雄氏、そして水泳でも唐突に「新人」として出現し、前回出た東大地下の温水プールでは全く練習していないような(前回の筋ではこのプールを作って練習したことで日本の水泳チームが力を付けたように描かれていました)200m平泳ぎの金メダリスト鶴田義行氏はちゃっかりと出番がありました。

まさに、「メダリストはこれまでのストーリーとは無関係でもしっかり役者を付け名前を出すがメダルを取れなければストーリーに関係があっても名前すら出さない」という感じになってくるのです。

その予感が増大するのが、当時まだ小学生だったと思われるベルリン・オリンピックの平泳ぎで金メダリストになる前畑秀子選手が人見絹枝選手に続く日本人女子アスリートの象徴として出てきたことです。前畑選手を出した以上、戦前のベルリン・オリンピックについて触れないわけにはいかないでしょうが、果たしてそこで、当時の日本陸上界にとって悲願であったマラソン金メダルと銅メダルを獲得した朝鮮半島半身のランナー孫基禎・南昇龍の両選手の事はどう扱うのか。また、後のオリンピックチャンピオンになるザトペック選手が陸上を始めるきっかけになったという5000mと10000mでフィンランドの3選手と互角に渡り合うも両方のレースで無念の四位となった村社講平選手は出てくるのか、次回に向けて大変に楽しみになってきました(^^;)。

個人的にはメダルだけに執着し、メダリストばかり注目する状況というのは良いとは思わず、逆に四位入賞者にシンパシーを感じてしまうことがあります。マラソンでは2大会連続四位に入った中山竹通選手の凄さが印象に残っていますし、同じく2大会連続四位ということでは冬季五輪スキーモーグルの上村愛子選手の頑張りはメダリストに全く引けを取りません。しかも上村選手の夫はトリノオリンピックスラロームで四位入賞を果たした皆川賢太郎選手であるというところにもぐっとくるものがあります。

今回の大河ドラマは多くの視聴者を東京オリンピックに向けて盛り上げるために企画されたものだということはわかって見ていますが、今回の内容はあまりにもメダル至上主義が過ぎているという印象でした。次回に向けていくらかの軌道修正があるのか、とにかく次回を楽しみにしておきます。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(26)NHK総合
7/7 (日) 20:00 ~ 20:45 (45分)
【出演】
阿部サダヲ,中村勘九郎,桐谷健太,斎藤工,三浦貴大,大東駿介,上白石萌歌,柄本佑,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,じろう,永山絢斗,菅原小春,根岸季衣,萩原健一ほか
【作】
宮藤官九郎

(番組内容)

アムステルダム五輪が迫り、体協が相変わらず資金難に苦しむ中、田畑政治(阿部サダヲ)は記者人脈を活かし、政界の大物、大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)に選手派遣のための資金援助を直談判。本大会では女子陸上が正式種目に。国内予選を席巻した人見絹枝(菅原小春)はプレッシャーに押しつぶされ、期待された100mで惨敗。このままでは日本の女子スポーツの未来が閉ざされるー。絹枝は未経験の800mへの挑戦を決意する。

ドラマのリアリズムは現実にどこまで歩み寄るべきか

NHKの朝の連続テレビ小説の99作目「まんぷく」が終わりました。ここのところNHKでは大手企業やその関連する人物を主人公にした作品を多く作っていますが、この作品も日清食品グループの創始者夫婦と思しき人物を主人公にしたもので、今回の番組終了を機に日清食品グループがどのようなアプローチをするのか、そもそも一切ドラマ便乗の商法を行なわないのか、これを書いているうちはわからないので興味があります。

かつての朝ドラ「マッサン」の時は、日本全国でウィスキーブームが起き、そのためずっとウィスキーを好んで飲んできたような人にとっては特定の銘柄のウィスキーが入手が難しくなり、オークションで価格が上がるなど個人レベルでまでNHKがドラマで「ニッカウヰスキー」を取り上げたことによる影響が出ましたが、そういう状況が生まれるからこそ、どのような「事実に基いたフィクション」を作るかということが大事になってくるような気がするのです。

今回の「まんぷく」は日清食品が「カップヌードル」を作り、さらにそれが大成功して大団円ということになるのですが、ドラマのように歩行者天国での試食イベントだけで全国に広まったわけではありません。それこそ当時でも東京の歩行者天国というのは遠い存在で、一大プロモーションで「カップヌードル」という製品があり、自動販売機で売られているというところまでは知られたとしても、全国津々浦々のスーパーマーケットで売られるようになるには、歩行者天国でのキャンペーン後に起こったもう一つの大きな「事件」の産物で、結果的にカップヌードルには幸いしました。

実はこれにはドラマを制作したNHKも十分関わっているところなので、なぜ今回の脚本にその場面が出て来ないまま終わってしまったのか、かなり消化不良の印象があります。おばあちゃんの生前葬をやる時間があるなら、歩行者天国のくだりは前半に行なってしまい、最終回の一つ手前に「あの事件」を持ってきても良かったのではないかと思います。

ちなみに、歩行者天国でのキャンペーンは1971年11月で、その事件「あさま山荘事件」が起こったのが1972年の2月です。過激派が立てこもった「浅間山荘」の周辺は2月の気温がマイナス15度というとんでもない寒さで、差し入れのあらゆる食品がカチンコチンに凍ってしまい、作りおきしたおにぎりやお弁当という携帯食料では、酷寒の中ではまともに食べられないということが事件を生中継し続けたNHKのテレビを食い入るように見ていた全国の人々が知ることになったのでした。

そこで登場したのが「カップヌードル」でした。これなら犯人と対峙する機動隊も交代時間に食べられました。沸騰したお湯を注いで3分待ってすぐ食べるという、自分で調理し、自分で食べるタイミングを決定できる食品の有効性がきちんと伝わったことになります。本来コマーシャルは流せないはずのNHKで、カップヌードルを食べる姿が大写しになって流れたことで国民は商品の存在とセールスポイントを知り、大きな購入動機が生まれました。当時のテレビにとっては民放・NHKを合わせると現場中継を9割の人が見ていたというデータも残る中、広告費を出していない日清食品の一人勝ちで、実にNHKや他の食品メーカーからすると皮肉な結果になったという、テレビの歴史からするとかなり稀有な事件の主役がカップヌードルだったわけです。

実は最終週は、ナレーションだけでも事実として紹介されるのかなと思って見ていたものの、全く触れられずに、「チキンラーメン」や「カップヌードル」が売れるようになったのは今回の朝ドラヒロインのおかげですというような何か変な結論で終わらせるというのは、いくらフィクションとは言え無理がありすぎです。本当に日本の中でもわずかな地域で行なったキャンペーンだけで大ヒットになった? なんてことが本当なのかはちょっと考えればわかることでしょう。

たかがドラマにそこまでのリアリズムは必要ないと思う方もいると思いますが、それなら実在の人物で、さらに現在もテレビコマーシャルを民放局で放送している企業について利益を誘導するようなドラマ制作自体について、もう少し考えるべきでしょう。

(番組データ)

連続テレビ小説 まんぷく(151)[終]「いきましょう!二人で!」NHK総合
3/30 (土) 8:00 ~ 8:15 (15分)
【出演】安藤サクラ,長谷川博己,内田有紀,松下奈緒,要潤,大谷亮平,桐谷健太,瀬戸康史,岸井ゆきの,松井玲奈,呉城久美,中尾明慶,深川麻衣,牧瀬里穂,加藤雅也,松坂慶子,
【語り】芦田愛菜
【作】福田靖

(番組内容)

「まんぷくヌードルの価値が理解できるのは頭の柔らかい若者たちではないか」という福ちゃんの気づきをきっかけに、大勢の若者が集まる「歩行者天国」で、社運をかけてヌードルの大試食販売会をすることになりました。いよいよ勝負の日。誰もが成功を願う中、行き交う人々の反応は…。そして福ちゃんと萬平さんは、ある大きな決断をするのです。

幕末初心者への配慮なのか単なる現場の「手抜き」なのか

まず、番組データの中に出演者や司会として紹介されている人たちの顔ぶれを見ていただければおわかりかと思いますが、NHKの大河ドラマについての紹介番組なのにNHKアナウンサーを一切絡ませていないというのがこの番組のコンセプトを象徴しているように思えます。

番組の最初に司会の後藤輝基さんが台本通りのセリフなのか自身の想いなのか、幕末には詳しくないというようなことを言ってしまっていることからもわかる通り、今回番組で紹介することになる「坂本龍馬」「勝海舟」「岩倉具視」「桂小五郎」という、番組後半にキーとなる4人の歴史上の人物を細かく、知らない人に対して解説し、どうか後半のドラマの急展開に付いてきてね(^^;)。という番組であることは明らかです。

しかしながら、NHKが一番見て欲しいと思っている若年層の視聴者層はテレビそのものを見ないか「世界の果てまでイッテQ!」を見ていることでしょう。個人的にはこの種のPR番組を通常のドラマ枠でやるよりも、裏にそれほど強力な人気番組のない時に流すもので、ドラマ自体は複雑な幕末を扱うものだけにしっかりと今回も話を進めて欲しいと思っていたのですが、ドラマがあることを信じてテレビの前で待っていた人たちを大いにがっかりさせた番組であったと思います。

特に今回の番組のタイトルに「西郷どんスペシャル(2)」とあるように、通常のドラマを中断してまでドラマに関する別番組を流したのは今回が2回目であるということも見逃せません。ちなみに第一回目は4月1日に「鈴木亮平×渡辺謙の120日」 という題で撮影裏のお二人の姿を中心に放送されたのですが、この時もなぜ通常ドラマ枠を潰して放送に挟んだのかという疑問は出ていたと思います。

NHKの方では大河ドラマを4章に分け、場面が変わるところで通常放送枠でこのようなスペシャル版を入れる予定で本数を減らすということのようです。NHKでは否定していますが、いわゆる「働き方改革」にのっとってドラマ製作の仕事量を軽減させたという説まで出てきました。もちろんそのような説をNHKは肯定するわけはないでしょうが、貴重なドラマ一回分を民放のバラエティーのような形にして、さらにスタジオでのトークの内容も45分という時間の関係からかなり編集で切っていたのもわかったので、スタジオ出演者の話もあまり深く入ってこなかったことも事実です。

個人的には、このようにスタッフが結果的にでも楽をするような番組を入れるようになった現場はかなり疲弊していることが推測されるのですが、このまま行くと日本のテレビ時代劇にとってさらなる展開になるのではないかと危惧することもあります。

というのも、民放の時代劇であの水戸黄門さえ「大岡越前」「江戸を斬る」のような出演者が休めるような別の企画物が放送されなくなり、現代劇とワンクールごとの放送になったと思ったら長くスポンサーを務めてきた松下電器(現パナソニック)が撤退し、ついに連続ドラマとしての水戸黄門の放送は終了してしまいました。このような、最初は小さな変化だったものが最終的に大きくなってしまう事が大河ドラマでも起こるのではないかという危惧は笑い話で済ますことはできないでしょう。ドラマスタッフとしても多くのドラマの中でも時代考証の大変さや小道具や衣装の準備が大変な時代劇を今まで作った人の経験をいかに後世に伝えていくかというところで問題をかかえています。

いつになるかわかりませんが、大河ドラマの枠で時代劇が放送されなくなり、大河ドラマそのものが終焉を迎える未来というものも十分有り得ると思っています。そのきっかけとなるのが今年から始まった「西郷どんスペシャル」だと言われかねないような番組だなとここでは指摘するだけに留めますが、ドラマの番宣を本放送にもってくるということはそれだけ見る側にとっては重大なことだということをもっと多くの人に理解して欲しいと思います。今まで毎週楽しみに見ている大河ドラマファンをがっかりさせない番組作りを望みたいということです。

(番組データ)

西郷どんスペシャル(2)「いざ革命へ!西郷と4人の男たち」NHK総合
7/8 (日) 20:00 ~ 20:45 (45分)
【出演】鈴木亮平,近藤春菜(ハリセンボン),山崎怜奈(乃木坂46),厚切りジェイソン,江川達也,
【司会】後藤輝基(フットボールアワー),横山裕(関ジャニ∞),磯田道史

(番組内容)

いよいよ西郷どんは革命の表舞台へ。島流しで命さえ危うい“どん底状態”だった西郷が、なぜわずか3年で“日本一の大物”になれたのか?その鍵は4人の男たちとの出会いにあった。勝海舟(遠藤憲一)坂本龍馬(小栗旬)岩倉具視(笑福亭鶴瓶)、そして桂小五郎(玉山鉄二)。歴史家・磯田道史さんを中心に多彩なゲストが、西郷と出会う英傑たちの魅力とその「金言」を探る歴史バラエティー特番。出演:後藤輝基、横山裕ほか

山下洋輔の出てこない赤塚不二夫物語になるのか?

今回、第一回目の本放送を見逃したので再放送を録画で見たのですが、ドラマのスタッフ欄には音楽に大友良英氏の名前があり、赤塚氏が夜な夜なクラブで飲んでいる時にちょっと流れかけたジャズっぽい音楽が大友氏の手によるものなのかと思いながら、このドラマの「家族」というテーマにはちょっと違う観点から見ていました。

残念ながら赤塚氏が第一回目の中で遊んでいるのは主にフジオ・プロダクション内のアシスタントや漫画製作のためのブレーン、そして編集者に限られているようでした。実際私は直接赤塚氏とお会いしたことがないので本当のところはわからないものの、あらゆるジャンルで自身の表現を模索している人たちが赤塚氏と飲み、交流をし、その中から新たな展開が生まれてきたという側面もあり、私は赤塚氏の漫画とともにそうした赤塚氏のエッセンスを得て大きくなったクリエーターの方々も大好きです。

そんな中でも感謝しているのが、少年時代にリアルタイムで赤塚氏の漫画を読み、そろそろ自分も漫画からは卒業かと思った時に出会ったのが山下洋輔トリオ(ビアノ山下洋輔、アルトサックス坂田明、ドラムス森山威男)のフリージャズだったのですが、何とこのお三人は国内ツアーの時に移動手段がないので、懇意にしている赤塚氏のベンツを借りて全国を回っていたというお話を山下氏のエッセイで読み、改めて赤塚氏の懐の広さを感じられたことです。

ちなみに、赤塚氏のお葬式で「私もあなたの作品でした」と言ったタレントのタモリさんも、もともと赤塚氏と知り合いだったわけではなく、山下トリオが博多でライブを行なった時にその打ち上げで絶妙な密室芸を披露したことで山下さんらが赤塚氏にタモリさんを紹介し、タモリさんが赤塚氏のお宅に居候をしながらテレビに出してもらい、それがタレントとしてのタモリさんの活動の始まりということがあるのです。ネット上にはタモリさんはなぜ出てこないのか? という書き込みを多く見付けましたが、私としては山下洋輔さんをはじめとする多くの「非漫画家集団」がドラマで出てこないところが、今一つ赤塚氏の魅力を伝え切れないのではないかと不安に思うところです。

ドラマの中での赤塚氏のセリフの一つだったと思うのですが、「常識人でなければ面白い漫画を描くことができない」というのはドラマの中では実に皮肉に聞こえますが、それこそが漫画家の赤塚不二夫氏が抱えていた葛藤だったのではないかと思います。デビューまでは線の細い内気な美少年として仲間うちから描かれることが多い赤塚氏ですが、いわゆるギャグ漫画を心の中に秘めたように構想しており、それがギャグ漫画としてのデビュー作「ナマちゃん」に凝縮されています。

その後、赤塚氏は自分のギャグ漫画の原点としてその面白さを当時の子供たちにも伝えようと、彼が愛してやまなかった杉浦茂氏の漫画の登場人物の決めセリフ「レレッ?」をいつも使う「レレレのおじさん」というキャラクターを作ります。当時は杉浦茂氏の盗作ではないか? という話も聞かれたそうですが、私はあくまで杉浦氏の漫画をリスペクトする中での行動だと思いますし、杉浦氏自身が漫画一筋の真面目な方だったという話を聞き、ギャグ漫画家の理想として話に出したのではないかと思われます。

現代でも多くの漫画家は真面目でマスコミにはほとんど登場せず、かろうじて赤塚イズムを継承しているのはみうらじゅん氏が目立つくらいなのではないでしょうか。ただ、赤塚氏と比べてしまうと、時代のせいもあるとは思うのですがスケールが大きく、今後このドラマがどこまでそんな赤塚氏の事を描いていけるのか楽しみではあります。

ただ、最初に書いたように、できれば山下洋輔氏のような人もドラマでは出てきてほしいですし、漫画だけでなくあらゆるメディアやジャンルを巻き込みながら自身の表現もしてきた赤塚氏の全貌を特に当時の事を知らない人にもわかるように伝えて欲しいと切に思います。

(番組データ)

土曜ドラマ バカボンのパパよりバカなパパ(1)全5回「わしは天才なのだ」NHK総合
2018/07/02 02:35 ~ 2018/07/02 03:50 (75分)
【出演】玉山鉄二,比嘉愛未,長谷川京子,森川葵,馬場徹,駿河太郎,マギー,浅香航大,井藤瞬,千代將太,駒木根隆介,押元奈緒子,草笛光子,住田萌乃,
【語り】松尾スズキ
【原作】赤塚りえ子,
【脚本】小松江里子
【音楽】大友良英,Sachiko M,江藤直子

(番組内容)

破天荒な日々を送っていた不二夫(玉山鉄二)を元嫁の登茂子(長谷川京子)と、娘・りえ子(森川葵)は心配し、眞知子(比嘉愛未)を気に入り、結婚させようと画策する。

天才ギャグ漫画家・赤塚不二夫(玉山鉄二)は、アシスタントや編集者と遊ぶように漫画を描き、奥さんである登茂子(長谷川京子)、娘・りえ子と別れ、夜は飲み屋でバカ騒ぎするという破天荒な日々を送っていた。時は流れて、成長したりえ子(森川葵)は不二夫に再会する。そして、登茂子とりえ子は、大きな愛情で不二夫を包む眞知子(比嘉愛未)を気に入る。二人は、眞知子と不二夫を結婚させようと作戦を立てるが…。

無意識に地方軽視の姿勢を露呈させたJOBK

現在の日本では、本当に払う根拠があるのかという考えを持つ人もいますが、それほどの例外はなく、国内にテレビ受信機とアンテナを設置しただけでNHKの受信料を払っています。さらにその額というのは北海道から沖縄まで一律になっています。

この事について何の疑問も持たないのは生まれてからずっと全ての民放キー局を受信して見る事ができる地域に住んでいるからこそのものでしょう。しかし、例えばスポーツ中継などで、

「この後も、一部の地域をのぞいて中継をお送りします」

とアナウンスされることがあり、自分の地域がその「一部の地域」であることを自覚している人からすると、なぜ自分の地域だけがと思って悲しくなってしまうのではないでしょうか。NHKの受信料は民放も含めて払っているわけではないですが、場所の違いで見られるチャンネルが変わってくるなら、現在のペイチャンネルの考え方が当り前になってきている今であればなお、東京と青森が同じ受信料を取っているのはおかしいのではないかと思う人が出てきてもおかしくないでしょう。

ただ、こうしたTVチャンネルの地域差における大きな問題として、昔から今まで常に問題にされてきたものとして、「テレビ東京系列の番組がリアルタイムで見られない地域が多くある」というものがあります。かくいう私の住む静岡県内にもテレビ東京系の地方局はありませんので、このブログで取り上げたいテレビ東京の番組は多くあるのですが、リアルタイムで見られない事で、他のチャンネルのように取り上げづらいという問題が起こっています。

ちなみに、現在テレビ東京の番組がリアルタイムで見られるのは、北海道・関東・愛知・大阪・岡山・香川・福岡・佐賀(佐賀県と徳島県については地方局がなくても隣県で見られるなどの条件を考慮してあります)で、残りの地域では見られないわけですが、例えば静岡県であっても神奈川県に近い熱海や伊豆などではアンテナを向ければ映ってしまうような場所はあるものの、私の住む地域では全く見られないなど、同じ県でも差がある場合も出てきます。

こうした民放局の「地域格差」を無くすために衛星放送(BS)開始の時に期待されたのが、地上波アナログの難視聴地域対象に作られた東京地区で流れている地上波アナログ放送をBSのチャンネルで常時同時配信するチャンネルでした。ただ、このチャンネルを見るには地上波が見られない地域に住んでいることを証明して申請することが必要で、もしその申請が通ったとしても同時配信するチャンネルを全て見られるわけではありませんでした。もし申し込んだ人の住んでいる地域でテレビ東京が見られなかったとしたら、ご丁寧にテレビ東京のチャンネルだけスクランブルが掛けられて見られなくなってしまっていたのでした。

最初に書いたHNKの受信料が全国一律であるということから考えると、当時からBSのアンテナと専用テレビを持っている日本国内に住んでいる人に関してはこれら東京で見られるチャンネルを全て見られるようにするのが公平と言えそうな気もするのですが、そういう事を許すと地元の地方局の経営が圧迫されるからということで、護送船団方式で全国の地方局が守られてきたということですが、それでも常にリアルタイムで見られないチャンネルだけはスクランブルを掛けずに見せるべきでなかったかと私は思います。

そうした流れのせいもあり、テレビ東京が地上波でリアルタイムに見られないという状況は今のデジタルテレビの時代にも続いています。この件については、全く同じ時間に同じ番組を放送するわけではないので、地方局の営業阻害とは関係ないことです(静岡のテレビ局はテレビ東京の番組を買って週末などに一気に放送していますが、そんな事をしなくても済む分、むしろ地方局の経費削減にはいい影響も出るのではないかと思います)。このようなテレビに関するブログをやっていても、地方在住であれば見られる番組に制限がかかり、同じ事をやっている人がいたとしたら、それだけでハンデになってしまうからです。

ここまで前置きが長くなりました。しかし、こういった状況を知った上でこれから書くことを読んでいただけると、違った感想になってくるのではないかという考えの元で書かせていただきました。本日のドラマの内容は、落語「時うどん」を笹野高史さんが再現して素晴しかったのですが、ドラマが終了して次週案内のために出てきたのが、女義太夫の芸人リリコに扮した広瀬アリスさんと、主人公の親戚で、京都の薬種問屋に奉公している手代の風太に扮する濱田岳さんでした。

夫婦漫才のような感じで、濱田岳さんはご丁寧にびくと釣り竿を携えています。二人は来週のあらすじの紹介し終えると、濱田岳さんがいきなり「チヌ釣りに行こう」と急にごねだし、広瀬アリスさんがビンタを食らわすという知っている人にはおなじみのネタを披露して番組は終了したのですが、この時、ネットの実況を見ていると多くの人はそのネタ元をご存知だったものの、全くそのネタを知らない人にとっては、何故唐突にこの二人が仲良くなってるの? と疑問を持った方もいたようです。

普通にこのドラマだけ見ていれば風太と近い関係なのはむしろ同じ店で奉公しているトキに扮する徳永えりさんの方ですので、制作者の意図がわからないと思われても仕方のない面もあります。しかし、広瀬アリスさんと濱田岳さんが、テレビ東京のドラマ「釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助」で恋人関係から新婚の夫婦役になっているのを知っていれば、あのままの調子で演技されていたこともあり、ここに「テレビ東京とNHKとのコラボ」が実現していたということがわかり、余計に楽しめたというわけです。

しかし、ここで大きな問題になるのが最初に紹介した通り、テレビ東京の番組は全国一律で見られるものではないということです。私自身はテレビ東京のドラマは、地方局が購入したものを時間差で見たり、ネット配信されたものを見ているということはあるものの、リアルタイムには見ることはできません。ただ、視聴率とは関係なく地道にいいドラマを作るなという感じはあります。それは、出演料の関係で人気絶頂の俳優やアイドルを使えない分、地道なキャスティングをすることでカバーし、安心して見られるように作られているという風に思われるからです。ただ、それにしてもテレビ東京が全く見られない地域については「釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助」という、有名な同名映画をスーさん役を映画では浜ちゃんを演じた西田敏行さんが演じる形でリメイクしたドラマが放送されていたことすらも知らない人が今朝ドラを楽しみに見ている人の中にもいると思います。

個人的にNHKの大阪放送局に対して改めて問いたい事というのは、このような日本全国に届く放送を毎日行なっている中で、日本全国どこでもテレビ東京系列の放送がリアルタイムで見られる人ばかりだと思ってテレビ東京のドラマ内コラボを実現したとでも言うのかということです。

少なくとも今回の放送によって、私の中では半ば眠っていたテレビ視聴に関する地域格差の存在を思い出し、こんな形で爆発してしまいました。NHK大阪放送局は寝る子を起こしてしまったということになります。先日は来年の朝ドラでも企業のPRのような題材を扱うということで批判させていただいたばかりですが、この調子では来年の今頃にも何をしでかすかと考えると、ブログのネタを提供してくれる点ではありがたいですが、あまりつっ走り過ぎてもどうかと思います。

それこそ、将来的にNHKがネットで同時配信をするというなら、テレビ東京の見られない地域限定でも(もちろん、他の民放ネットが整っていない地域での民放も)NHKに加えて地上波で見られない同局の番組を常時同時ネット配信することが実現されなければ、今後も今回のように不平等な番組同士のコラボが生じる恐れも出てきます。そんな議論が出てくれば、改めてネットでの常時同時配信自体に影響が出るような騒動も起こりかねない今回のNHKの所業であったことは確かではないでしょうか。

(番組データ)

連続テレビ小説 わろてんか(42)「風鳥亭、羽ばたく」NHK総合
11/18 (土) 8:00 ~ 8:15
【出演】葵わかな,松坂桃李,大野拓朗,岡本玲,兵動大樹,藤井隆,内場勝則,笹野高史,高橋一生,鈴木京香
【作】吉田智子

(番組内容)

てん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)は風鳥亭の存続をかけ、文鳥(笹野高史)の特別興行を開催した。伊能(高橋一生)の助言で新聞にも取り上げてもらい、風鳥亭にはこれまでで一番大勢の客が押し寄せた。ところが高座に上がった文鳥が前座噺(ばなし)の『時うどん』をやると言うと、文鳥の十八番を期待していた客たちは驚いて騒ぎ出す。だが噺(はなし)が進むにつれ文鳥の巧みな芸に引き込まれ、寄席は爆笑に包まれてゆく。

映画は残りテレビは消えゆくものなのか……

初回放送から毎回楽しみにして、裏番組を見ている時も録画までして全回を通して見終えたのがNHKの土曜ドラマ、原作にボードビリアンの小松政夫さんの自伝的長編小説を使った「植木等とのぼせもん」でした。

ドラマの前説には小松政夫さん本人が出演し、当時の「ハナ肇とクレイジーキャッツ」のメンバーに扮した役者さん達は全て自前の演奏ができるという、かなりリアルな形での小松政夫さんと植木等さんの関係を中心に物語が進んでいきます。

恐らく、クレージーキャッツや植木等さんの事をよく知らない人は何だと思うかも知れませんが、当時の事については渡辺プロダクションの渡辺美佐氏が一切出て来ないことをのぞけば、良く作られていたと思います。

最終回に出てきた中では、勝村政信さんが演じるクレージーキャッツの映画「無責任シリーズ」の監督をされた古澤憲吾さんが植木さんの出したCD「スーダラ伝説」に関してのインタビューを受けている時に突然登場し、放った言葉が印象的でした。

「映画は、残るね」

というのがそのセリフですが、圧倒的なドリフターズ世代であった人たちも、年を経るにしたがってその記憶も薄れていきます。特にバラエティ番組において、テレビ番組のアーカイブス化ということについてはあまりにも権利者が多すぎるため、現代でもなかなか難しいところがあるのに比べ、映画というのはその辺はしっかりしており、ソフト化されたものをレンタルして見たり、最近ではビデオオンデマンドでも見ることができます。

私がこのブログをテレビをテーマにしてオープンさせたというのも、せっかくいいドラマを作ってもテレビドラマというものはなかなか後世に残らないというような、テレビの特性が前提にあります。人気ドラマもそれほど人気ではなかったドラマでも、映画のように番組終了後にDVD化されることが当り前になりつつも、全て見終わるまでは何シーズンもあると長いですし、2時間前後で一つの物語が終わる映画とはちょっと違って、よっぽど好きな人でなければ全巻揃えて見ないですし、それがお子さん世代や孫の世代まで受け継がれるかというと疑問な点があります。

そういう「映画」と「テレビ」の違いについていち早く気が付いたのが、北野武氏だと言えるかも知れません。今から50年後くらいに北野武氏の事は知っている人が多かったとしても、明石家さんまさんはどうかと考えてみてみましょう。いわゆる、伝説のコメディアンと呼ばれた人たちを活字では知っていても、一体どんなことをしていて、何が面白かったかというのは、実際にその映像を見なければわかりません。

特に戦前に活躍していた人などは役として出演している映画を見て当時の活躍を空想するしかなく、テレビ創成期に大活躍した芸人さんやコメディアンであっても、さすがにおじいちゃんがよく知っている人でお孫さんまでよく知っているという例というのは僅かなものです。テレビの出演というのは断片的なもので、そうした断片をつなげてまとめてもらえるような人でない限り、今大人気の人であっても将来的に名前が広く知られ続けるということはテレビに出ているだけでは難しいと思われます。

そうしたテレビの特徴に気づき、テレビはあくまで映画の宣伝として出て、メインの活動は映画にシフトするような北野武氏の生き方の方が名は残せるかなとも思います。しかし、放送しては消えゆくテレビの方が、世の中の今というものを直接的に映していることは確かなので、このような形で記録を残すことで、テレビ放送直後の想いというものをブログという場でキープしておきたいという気持ちがあるのだとご理解いただければ幸いです。

さて、ドラマの本編は満足いくものだったことは述べましたが、唯一残念だったのが番組のエンディングがひどくあっさり「スーダラ節」が流れただけで終わってしまったことです。せっかくなら紅白歌合戦のステージセットを作り、植木等さんの声色を作って必死に役作りしていた山本耕史さんに1990年の紅白のステージの再現をしてもらっても良かったですし、まだ植木等さんの物凄さを感じられていないかも知れない人に向けて、当時の紅白の資料映像を時間の許す限り流して欲しかったという想いもあります。

その年の紅白歌合戦はステージ裏での話題にも事欠くことなく、当の植木等さんも予定の時間よりもかなり巻きが入っている中でかなりストレスがたまっていた出演者もいたようなのですが、植木等さんがステージに登場するやいなやそんなステージ裏の雰囲気は一瞬で消えたように盛り上がって、まだ第2部が始まったばかりなのに大トリのようなステージで見ている人を十分に楽しませてくれたまさに「伝説となった紅白出演」だったと思っています。NHKのアーカイブスは有料ですのでなかなかその様子を見ようと思っても難しいので、せめてドラマのエンディングとしてあのステージの一部でも流してくれたら、クレージーキャッツの黄金期を知らない世代にも植木等さんの凄さを感じられたでしょう。

ただ、この文章を書いている現在では、Googleで「紅白歌合戦 スーダラ伝説」と検索をかけると、その時の様子がYouTubeでしっかり出てきます。リアルタイムでこの書き込みを見ていない方が同じように検索をしても動画は消されてしまっているかも知れませんが、このドラマを一通り見て、植木等さんの事に興味が出てきた方はぜひその動画を視聴してみることをおすすめします。

(番組データ)

土曜ドラマ 植木等とのぼせもん NHK制作
2017年10月21日(土) 20時15分~20時45分
山本耕史,志尊淳,山内圭哉,浜野謙太,武田玲奈,でんでん,高橋和也,優香,伊東四朗,中島歩,坂井真紀,富田靖子,勝村政信

(番組内容)

(8)「スーダラ伝説」