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ヒット曲がないロッカーはなぜカリスマたりえたのか

世間ではまだ樹木希林さんの亡くなったショックは続いているような感じで、ようやく夫である内田裕也さんのコメントが報道されたような状況です。今後樹木希林さんを追悼する番組が多く流れることになるかと思いますが、個人的には全国ネットで今回紹介する「転がる魂」を放送してくれないかなと思います。

このブログでは少々掟破りになるかも知れませんが、今回たまたま番組を録画された方にお願いして前・後編をまとめて見せてもらうことができました。ただ、録画したものはテレビの大画面で見たので、東京の方々から少し時間を置くことになってしまいましたが、本番組のナレーションと、実際に出演もされている樹木希林さんの語る内田裕也さんについて感じたことなどを書いていきたいと思います。

番組では内田裕也さんに密着していますが、そうして密着したのは映画監督の崔洋一さんで、その様子はたびたび出てきます。内田さん自身がちょっとしたことで感情の変化が激しく、何とか穏便に怒りをやり過ごし、番組として成立させるためにかなり気を遣われているという感じがひしひしと伝わってきました。常に傍らに付いているマネージャーの女性の態度はそうした内田裕也さんの気質を当然知り尽くしているでしょうから、ぞんざいな言葉遣いになることはあるものの、その奥にある尊敬の念が感じられ、心なしか樹木希林さんの心情とシンクロする部分もあるのではないかとすら思いました。ステージに立っていない素の内田裕也さんは、やはり体の衰えもあり年相応に見えてしまう一瞬もありましたが、しかし只の78才ではない迫力も併せ持っていました。

番組の中で印象的な一言としては、

「ヒット曲が何もなくてやってきたなんてすごいな」

という言葉があります。これは、ネットなどでも内田裕也さんをディスる際に出てくる言葉の一つではありますが、この事についても番組内で生い立ちの話などを聞いていると、さもありなんと思えるところがあります。元々関西のジャズ喫茶のステージに出て歌っていた時は、ご自身でも練習などほとんど若い頃はしなかったと言っていましたし、東京へ出てあの渡辺プロダクションと契約し、さらに後にグループサウンズの大スターになるザ・タイガースと行動をともにしながら、その渡辺プロダクションから沢田研二らザ・タイガースのメンバーから引き離されるなど、ヒット曲を出す以前にプロダクションとうまくやれないような気質ではなかなかプロデュースしてもらえなかったというのが正直なところではないでしょうか。

個人的にはヒット曲があるから何だという感じもしてしまいます。例えば、過去の大ヒット曲をカバーして歌ってそれが代表曲だと思われてしまうのは特に内田裕也さんにとってはあるでしょうし、「売れた曲=いい曲」でもないわけですから、自分の好きな歌を思い切り歌ってファンが熱狂するなら、それはそれでいいのではないかと思います。

というか、それ以上に内田裕也さんはその行動力とプロデュース力をいかんなく発揮して日本のロックシーンで欠くことのできない存在になっていくと同時に、多くのメディアに出現していきます。そんな中で、やはり音楽と同じくらい大きな印象を残したのが映画の世界での活躍だったと言えるでしょう。

実は、このドキュメンタリーの中で一番の不満がある点が、内田裕也さんの映画の中では代表作として、メガホンを取った滝田洋二郎監督にインタビューをしているのにその映画「コミック雑誌なんかいらない!」をほとんど紹介しなかったことです。この題名は元々、番組にも登場したPANTAさんが頭脳警察の活動をしていた70年代に出した「頭脳警察2」に入っている同名のナンバーから題名を拝借したものですが、この歌の世界をテレビのワイドショーの世界に移し、自身が芸能リポーターの役で出演した、ある意味このようなテレビに関するブログなど読まずにこの映画を見た方がテレビのバカバカしさがわかるのではないかと今でも思える秀作だと思います。

また、楽曲の「コミック雑誌なんかいらない!」については、内田裕也さんが東京都知事選挙に出馬した際に政見放送の最後に内田さん自らがアカペラで歌い、多くの人の印象に残っている楽曲であったので、この曲が番組の中で一度も鳴らなかったというのは、崔洋一さんが監督をしたからなのかと思ったりもします。

この番組では、樹木希林さんがナレーションを付けつつもインタビューに答える形で出演していて、内田裕也の歌う「朝日のあたる家」についての想いも語っています。こちらの方はしっかりと本人が歌っている様子が流れたのですが、浅川マキやちあきなおみの歌う「朝日のあたる家」も好きですが、やはり樹木希林さんが好まれるのももっともな感じもします。

話をヒット曲と内田裕也さんとの関係に戻しますが、自作自演の曲をヒットさせるのが偉いという前提で言うと、「ヒット曲も書けないくせに」といってディスる理由になるとは思いますが、過去には明らかに盗作であるのにさも自分が一人で考えたような体で出した曲がヒットしたことで盗作騒動に巻き込まれ、後に作詞作曲のクレジットを変えなくてはならなくなったシンガーソングライターもいるわけです。今回の樹木希林さんの遺言のような「朝日のあたる家」や、「コミック雑誌なんかいらない!」はどちらも内田さんのために最初から書かれた曲ではありませんが、ロックの魂を込めて様々な活動をくりひろげる中で自分の歌として成立してしまった紛れもない内田裕也さんの代表曲であると思います。

そんな楽曲がヒットしようとしなかろうと、それは問題ではないのです。番組にはありし日のジョー山中さんもインタビューされた様子が放送され、コンサートで曲を歌う場面が出てきましたが、それが「人間の証明のテーマ」であり、多くの人はジョー山中さんと言うと映画「人間の証明」から抜け出すことができなくなっていることも同時に感じるのです。実はそうでない活動の方が多いにも関わらず、ヒット曲の呪縛で身動きが取れなくなるような状況は内田裕也さんは望まなかったはずですし、逆にヒット曲がなかったからこそ、「ロックンロール」とともにある人生を今まで送って来られたのではないかと強く思いました。

今年は紅白は見なくても、「ニューイヤーズワールドロックフェスティバル」はぜひ見たいと番組を見て思いましたし、フジテレビでもBSフジでも紅白にぶつけて生放送してくれないかなあと思います。

(番組内容)

ザ・ノンフィクション 転がる魂 内田裕也 前編・後編
前編 2018/07/29 14:00 ~ 2018/07/29 14:55 (55分)
後編 2018/08/05 14:00 ~ 2018/08/05 14:55 (55分)
【出演者】内田裕也 樹木希林 崔洋一 竹中直人 仲野茂(アナーキー) 本木雅弘 PANTA(頭脳警察) 近田春夫 内田也哉子 鮎川誠(シーナ&ザ・ロケッツ) ビートたけし ジョー山中 山中ひかり(ジョー山中の長男) 山中マイ(ジョー山中の長女) 石間秀樹(フラワー・トラヴェリン・バンド) 篠原信彦(フラワー・トラヴェリン・バンド) 佐川満男 上条英男(芸能プロデューサー) 田川譲二 岸部一徳 滝田洋二郎(映画監督) トルーマン・カポーティ 秋元康 HIRO 中村獅童
【語り】 樹木希林
【チーフプロデューサー】 張江泰之
【プロデューサー】 石川剛
【監督】 崔洋一
【制作協力】 NEXTEP
【制作著作】 フジテレビ
【エンディング・テーマ曲】 〈曲名〉サンサーラ  〈作曲〉山口卓馬  〈編曲〉YANAGIMAN  〈歌〉宮田悟志

(番組内容)

【前編】主人公はお茶の間を賑わす内田裕也▽78歳で人生初密着▽脱水症状で入院それでも‥▽モックン家族が見守る中‥怒りあらわに何故?▽そして故郷へ‥語り始めた本音

主人公は、内田裕也、78歳。現役のロックンローラーである。 去年の暮れ、今もライフワークとしてステージに立ち続ける「ニューイヤーズワールドロックフェスティバル」が、記念すべき45回の節目を迎えた。番組では、最後の力を振り絞りながら、ロックフェスに取り組む内田裕也の1年間に密着しながら、波乱と矛盾に満ちた人生を振り返る。 去年は、脱水症状での入院など、78歳の内田は数々の逆境に襲われるも、バラエティ番組の収録やCM撮影などを精力的にこなしてきた。そんなある日、内田は、生い立ちを振り返る旅に出る。 大阪の資産家に生まれ育ちながらも没落し、高校を中退。エルヴィス・プレスリーに衝撃を受けてロカビリーに目覚めバンドデビュー。ウェスタンカーニバルに憧れて渡辺プロに所属するも、もめ事が絶えない反抗児だった。そして、そこから転がる魂の音楽人生が始まる。

内田の日常に迫るのは、40年来の親交がある映画監督・崔洋一。カメラは、内田の日常、リハーサルなどに密着。 取材時間は、実に300時間にも及んだ。 番組では、テレビ史上初、いまだにお茶の間を賑わす内田裕也という「異端のおじいさん」の人生に迫る。

【後編】

主人公はお茶の間を賑わす内田裕也▽78歳で人生初密着!▽渡辺プロを飛び出した本当の理由▽45年に及ぶ不思議な夫婦生活‥妻・樹木希林が初めて語る真実とは?

先週に引き続き主人公は、内田裕也、78歳。現役のロックンローラーである。 去年の暮れ、今もライフワークとしてステージに立ち続ける「ニューイヤーズワールドロックフェスティバル」が、記念すべき45回の節目を迎えた。番組では、最後の力を振り絞りながら、ロックフェスに取り組む内田裕也の1年間に密着。波乱と矛盾に満ちた人生を振り返る内田の人生初の密着ドキュメンタリー。

1950年代のロカビリーブームに乗って上京した内田は、渡辺プロに所属。ザ・ビートルズの前座を務めたり、ザ・タイガースを発掘した。番組では、北野武、秋元康など縁の深い人たちも内田に関する証言者となり、その波乱万丈なエピソードが明らかになる。 内田の人生に迫るのは、40年来の親交がある映画監督・崔洋一。カメラは、内田の日常、リハーサルなどに密着。取材時間は、実に300時間にも及んだ。

そして、妻・樹木希林から初めて語られる二人の出会いから結婚生活の真実、そしてこれから…。 45年間に及ぶ「不思議な夫婦生活」の末、二人が選んだ人生の行方を見つめる。


テレビドキュメンタリーがゴールデンタイムに放送される意義について

毎日放送される事件報道は多くの人が目にするものの、その後にどうなったかという事についてはかなりこまめにテレビや新聞を見ていても、ネットにその続報を求めてもなかなか新しい情報を入手することは難しいものです。

そんな中、一定の時間を置いてニュースのその後を追い掛ける特集がニュース番組の一つのコーナーとして放送されることはありますが、それ自体を一つの番組として放送する「テレビドキュメンタリー」は、今も昔も冷遇され続けてきました。

このブログではNHKの受信料についてはかなり厳しく書いているという自覚があるのですが(^^;)、それでもNHKの番組を多く取り上げるというのは、最近では再現ドラマなどを交えたオウム真理教の事件を取り扱った番組を放送したりと頑張っている印象があります。民放のドキュメンタリーというのは細々と作られてはいるものの、午前2時以降のド・深夜や日曜の番組のすき間に入ったりして多くの人の目に触れないような惨状です。

ただ、東京キー局でなく全国の系列局が製作したドキュメンタリーをもち回りで放送するようなケースも有り、東京の放送局が取材をするよりも地域に密着した深い内容が見られるので、本来はもっと様々な内容のドキュメンタリーが見たいと思ってはいるものの、告知も少なくいつ放送しているのかもわからない民放のドキュメンタリーを作っている人達はさぞ大変だろうと思っていました。

今回は、本年10月に2回に分けて関東ローカルでのみ放送されたフジテレビ制作のドキュメンタリーが多くの人から評価を受けた事で、関東ローカルで放送された内容に新たに取材を加えてさらに編集した内容を入れ、一回分にまとめられた2時間の番組に仕上がったということで、見ない理由はないということで見させていただきました。

まず、今回の番組がこれだけ反響を呼んだ一つの要因として考えられることは、両親が殺人罪で服役している中、物心が付かない中で世間から放り出されるようにして育った彼らの息子さんが単にインタビューに応じたということだけでなく、顔や素性は発表しないものの、声はそのままの形で出してきたということです。よくある声を変えて放送する事でよりプライバシーを保護することはできるわけですが、今回取材を受けた息子さんは自分の声をそのまま流すことに同意したことで、感情の浮き沈みなど細かいところまで見ている側に伝わってきやすいという事があります。実際の声に加工を加えてしまうというのは、実際に話を聞いている中では起こり得ない事であるので、伝わり方も違ったのではないでしょうか。

今回新たなインタビューで息子さんがテレビに出た後の反応について語ってくれたので、その内容についても書いておきます。テレビに出て地声で正体がわかってしまった人はいたとは思うものの、周りの人はきちんとした対応をしてくれていて、嫌な思いというのはしていないということでした。ドキュメンタリー番組を送り出す側としては、いくら注目されたとしても、番組に協力してくれた人を不幸にする番組であったとしたら、それは本当に悲しいことになってしまいます。その点では良かったと思うとともに、今回のテレビ出演によってさらに多くの、しかも全国の人達が見た事で現在の生活が壊されることなどないように祈っています。

インタビューの内容は両親が逮捕される前までと、逮捕された後との2部構成になっていました。陰惨な犯罪行為の渦中にいて、さらに両親から虐待を受けていたという内容はショックを感じましたが、やはり個人的には両親が逮捕された後の世間の冷たさというのが、いつ誰に降り掛かってもおかしくない時代に私達は生きていることも実感できるところです。

特に息子さんが進学した定時制の高校の職員が、里親の元から家出して働き始めた(もちろん学校には行っていなかった)息子さんを見付けた時に、学校へ戻すように尽力するのではなく、きちんと退学手続きをさせるためにのみ動いていたという話や、身内がいないので仕事をする場合の保証人も付けられない事で、劣悪な環境で賃金も安い職場を転々とせざるを得なくなった話など、これでは小さい頃から身寄りのない子はどうすればいいのだと改めて感じることになりました。

で、それから息子さんがどうなるかというと、初めて大人に優しくされたと思い、懇意にしていたおじさんがいたのですが、その人はヤクザ関係の手配師だったという事になってしまうのです。まさかとは思ったのですが、世間からはじき飛ばされた人たちが自然とヤクザな世界に集まってしまうという事が、暴力団対策法のある現代でも起こっているという事実に愕然としました。九州のヤクザと言えば、テレビのニュースでは工藤会の壊滅作戦に警察が躍起になっていることが全国ニュースでも報道されていますが、壊滅作戦が成功したとして、社会からはじき飛ばされるようにしてヤクザの庇護の元で暮らさざるを得なくなった人たちはその後一体どうなるのでしょうか。組はなくなったから後は好きにやってくれではまた同じような組織ができるだけでしょう。

警察が動くわけですから政府の方も、真剣にヤクザから足を洗いたい人について、ちゃんと就職まで面倒を見ているのか? という事が大いに気にかかります。この息子さんについても、ヤクザの組織に手入れが入った後に、とある会社の正社員になったということなのですが、それはどんな経緯でそうなったのかという大切な点については今回の番組では明かされなかったということが一つ心残りでした。

ただ、今回は前番組のサッカーが時間通りに終わったため、金曜の午後9時からというまだ多くの人がテレビを見ている時間にこうしたテレビドキュメンタリーが放送されたということだけでも民放テレビ界の快挙と言えるだろうと思います。今回のドキュメンタリーについては、過去の日本の大きな犯罪について多少興味本位な切り口でフジテレビが紹介した事件の中にこの息子さんの両親が起こした事件があり、興味本位で事件報道をすることは、関係者を苦しめるだけだと息子さんがテレビ局に抗議の電話をしたことが発端なのだそうです。少なくとも、こうした抗議に正面から向き合ってくれる番組制作者がいるというのは救いでもありますが、寝た子を起こすような「あの犯罪者・事件は今」というような企画を通して関係者に疎まれるのもまた同じテレビであるわけです。

今後はそんなテレビについて、テレビ制作者がどのように考えているのかという事も取材してドキュメンタリーとして発信していって欲しいと思います。

(番組データ)

ザ・ノンフィクションSP 人殺しの息子と呼ばれて・・・フジテレビ
12/15 (金) 21:00 ~ 22:52 (112分)
【ナレーション】近藤サト 下山吉光
【チーフプロデュース】 張江泰之
【制作】 フジテレビジョン

(番組内容)

『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜・午後2時~2時55分/関東ローカル)は、普段見ることが出来ない人間の一面や人間関係、生き方、ひとつの職業を深く掘り下げて見えてくる隠された本質、記憶に残る事件や出来事などを取材し、その事柄のありのままの姿、事実をお届けするドキュメンタリー番組。 フジテレビで10月15日(日)と22日(日)の2週にわたって放送した『ザ・ノンフィクション 人殺しの息子と呼ばれて…』

2002年に発覚した北九州連続監禁殺人事件の犯人である夫婦の元に生まれ、「人殺しの息子」と呼ばれながら生きてきた息子(24)が、初めてメディアのインタビューを受けたもので、自身の怒りや悲しみ、そして苦悩の日々などを激白した。その壮絶な証言の数々に大きな反響が集まった。番組放送後に全国の視聴者の方々から「是非全国放送でやってもらいたい」との声が多く寄せられたため、全国ネットで放送する。

今回は、10月に放送した内容だけでなく、放送後、再度息子に敢行したインタビュー、母・緒方純子受刑者による未公開の手紙などの内容を加えて、再編集した形でお送りする。