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卓球で中国に勝つ瞬間を全国で見られるようにするために

前回までの卓球の世界選手権は地上波のテレビ東京のみで放送され、BSジャパンではハイライトが放送されるだけでしたが、日本チームの実力が上がり注目度が上がってくるにつれて節目が変わり、テレビ東京系列の地上波放送局のない地方でもBSジャパンで生の試合が中継で見られるようになったのは実にうれしい事です。ただ、女子の準決勝はBSでは途中で中継打ち切り、男子の準々決勝は放送されずということで、改めて地上波とBSとの同時放送についての課題も出たのではないかと思える今回の世界選手権の中継だったように思います。

来年の世界選手権は個人戦なので、さらにテレビ中継をするには難しい編成の中で行なわれるようななるとは思いますが、ぜひ地上波との同時放送を行なっていただいて、今後あるかも知れない日本選手の快挙を生中継で見る機会を与えて欲しいと切に願っています。ただ、今回の決勝は地上波でもBSジャパンでも生中継の予定にはなっていなかったのを、結局試合を完全生中継し、翌日の0時半くらいまで放送し続けてくれたのは本当に感謝です。おかげで、日本女子と中国チームとの差がどのくらいになっているのかを理解することができました。

今回の出場選手、伊藤・石川・平野についてこの3人は中国以外には無双とも言えるような強さを発揮したものの、対中国に限ってはその能力の差というものを改めて感じるとともに、テレビ局や他マスコミの発する「過度な期待の大きさ」を出しすぎであるということも感じてしまいました。

今回の大会は冷静に見て優勝を本気で狙えるかというとそこまでの実力は付いていなかったと思います。唯一中国に対抗できていたのは伊藤美誠選手で、彼女には他の二人にはないパワーと、ボールを擦り上げて繋ぐドライブを決め球にするのではなく、バウンドした時の頂点を強くひっぱたくスマッシュを打ったり、逆チキータという従来のチキータとは回転の質を変えるレシーブを試合で普通に使えるだけの戦術の幅の広さがあり、十分に日本選手対策を行なってきた中国選手にも勝てるだけのポテンシャルを持っていたように思います。

対中国選手という面では伊藤選手より先に平野選手が中国選手を倒したことは記憶に新しいですが、昨日の試合ではすでに中国選手に対策をされて、為す術がなかったという状況でした。しかし希望はあります。というのも、早いピッチで打ち抜く平野選手の打球に対応するために、相手の丁寧選手は少し台から下がって余裕を作ってほぼ完璧に平野選手の攻撃を壁のように打ち返していました。

それは、過去の男子の水谷隼選手のように後ろからラリーに持ち込んで時には拾いながら逆襲をするプレイスタイルに近いような気がしますが、残念ながらそうした戦術は今は主流ではありません。今年男子の日本選手権で水谷選手が何もできずに張本選手に負けたのは、台から離れずに早いピッチで、さらに力強いボールを打つ張本選手が相手では後ろに下がって返す形の戦い方では勝負にならないからで、今では水谷選手も台から下がらないで打つ戦術に変更しつつあります。

つまり、平野選手がもう少しパワーを付け、今の高速卓球を維持したまま一発で打ち抜けるだけの威力のあるボールを出せるようにできれば、現在の中国の主力選手では対策をしても十分に戦うことができる存在になるでしょう。ただ、石川選手と中国選手とのパワーの差が大きいので、その点を克服するか新たに中国を粉砕できるパワーとスピードを兼ね備えた選手を育成するかというところが鍵になるでしょう。しかし、石川選手は現在世界ランク3位の選手であり、今回補欠として大会に参加した早田選手や長崎選手が石川選手に勝てるようになるには時間もかかるでしょう。そうした選手同士の切磋琢磨の中、時間の経過とともにさらに日本女子チームの実力は上がり、中国との差も縮まってくると思いますので、来年の世界選手権でどうなるか興味は尽きません。

このように考えると、次回の世界選手権は男子の巻き返しもあるでしょうし、女子も相当期待できるだけに、来年の放送はぜひ決定的な瞬間をせめてBSでも見られるように柔軟な編成をぜひお願いしたいです。

(番組データ)

世界卓球2018 団体戦 女子決勝 日本対中国 BSジャパン
2018/05/05 20:54 ~ 2018/05/05 22:48 (114分)
【解説】 宮崎義仁(前日本代表男子監督) 河野正和(前日本代表男子ジュニア監督) 平野早矢香(ロンドン五輪団体銀メダリスト)
【実況】 植草朋樹(テレビ東京アナウンサー) 中川聡(テレビ東京アナウンサー) 増田和也(テレビ東京アナウンサー)
【インタビュアー】 鷲見玲奈(テレビ東京アナウンサー)
【メインキャスター】 福澤朗
【キャスター】 福田典子(テレビ東京アナウンサー)
【ゲスト】 武井壮
【ゲスト解説】 森薗政崇(世界卓球2017男子ダブルス銀メダリスト)、藤井寛子(世界卓球2010団体銅メダリスト)
【日本女子チーム】 石川佳純(3位)、平野美宇(6位)、伊藤美誠(7位)、早田ひな(18位)、長崎美柚(81位)

(番組内容)

五輪を超えるハイレベルな世界最強国決定戦!それが世界卓球。今年は国の誇りとチームの絆を賭けた団体戦!男女共に新時代の才能が集結し、史上最強メンバーで戦う初めての団体戦で卓球ニッポンは半世紀ぶりの世界一を狙う! ※延長の場合あり

日本卓球躍進の影に「テレビ東京」あり

日本のスポーツ中継というものは最近特に地上波ではスポンサーの理解と視聴者が見たいと思わせる競技でないとなかなか難しいものがあります。過去にうまく行っていたのはプロ野球で、シーズンのゴールデンタイムに常にメインを占めていたのはセントラルリーグの黄金カード「読売巨人 対 ○○」の試合を中継することが、スポンサー収入および視聴率が取れる優良プログラムでありました。その後、読売巨人軍が常勝ではなくなり、他のプロスポーツも一般化することによって、見事に地上波でのプロ野球中継は衰退しました。スポーツ中継の場合は予定時間内に終わらない可能性があるので、視聴率が上がらないスポーツからBS波・ネット中継へと見る方法が移りつつあります。

それでもサッカーの代表戦やオリンピックのような大きなイベントの時には通常の放送を中止してでも魅力的な世界の技を地上波で見せるだけのテレビの度量はあると思っていたのですが、個人的に何を考えているんだろうと思ったのは、2006年に日本で行なわれたバスケットボールの世界選手権について、地上波で放送されたのは決勝戦のみで、しかも生中継ではなく深夜の中継録画だったというTBSの仕打ちです。

普通に考えれば、早めに放映権を確保した上で事前の広報番組だけでなく、漫画の「SLAM DUNK」のように今でも人気のあるバスケットボールを題材にした物語を当時の人気絶頂の若手俳優らにより実写ドラマ化して、バスケ人気を盛り上げるような事もできたのではないかと思えます。しかし、地上波が生中継をせず、当時のCS放送(スカパー)のみで全試合生放送という状況では、相当バスケに思い入れのある人しかリアルタイムで見られなかったでしょうし、当時は日本でそんな大会が行なわれていたことすらも知らない人も多かったでしょう。そうなると、そもそもなぜ日本が世界選手権を誘致したのかすらよくわからないわけで、大会が大赤字だったと言われても、それは勝手に誘致して何の宣伝もしなからだとしか言いようがありません。

こんな事がもし2019年にあるラグビーのワールドカップでも起こらないか心配になるのですが、まず気になるのがテレビ中継は局を挙げてワールドカップをサポートし、ちゃんと地上波のゴールデン帯で注目の試合をやってくれるのかということです。ラグビーの場合はバスケとは違い、日本がそれなりに世界に対して戦えるなら地上波で見る人も多いでしょうが、その他の試合について、地上波での放送がなくスカパーかDAZNのみで全試合放送なんて形で放送されてしまうのか、改めて日本のスポーツイベントに対する力の入れ方が、今後どの局が試合の放送を行なうか発表された時点で問われると言えるでしょう。せめて予選リーグから全試合を無料で見られるBSで放送することのできる系列局に放映権を獲得して欲しいものです。

特にラグビーのワールドカップについては、国土交通省を巻き込んで、すでに自動車の記念ナンバープレートを発行するほどの力の入れようではあるのですが、サッカーのワールドカップのようにあそこまで盛り上がることは難しいだろうという話もあります。これはテレビとは関係のない話になってしまいますが、少なくともその開催について赤字が出たらその赤字を税金で補填なんてことは止めてほしいと思っています。

さて、今回紹介する卓球については、政府や協会だけの主導で盛り上がったのではないということは十分言えると思います。そもそもは中国どころか韓国・北朝鮮などアジアの国々にも簡単には勝てないくらいの実力に、かつての「卓球日本」とまで呼ばれたナショナルチームが落ち込んでいたこともあり実力だけでなく人気もていめいしていました。しかし、あの「福原愛」という一人の選手がたった一人で卓球のマスコミ人気を牽引して5才のころから民放のテレビバラエティに出演することで、変化が起きました。

元々福原愛さんがテレビに出た頃には、まだ「卓球=暗い」というイメージがタモリさんの発言に多くの人が同意するような形であった頃で、逆にそうしたタモリさんのネガティブイメージが浸透していたからこそ、卓球協会は福原愛さんをはじめとする小学生以下の子でもテレビに出したということもあるかも知れません。

卓球というスポーツは実はテレビのバラエティ番組と大変相性が良く、お金を掛けてコートを作らなくても、スタジオ内に卓球台を一台運んでくるだけで試合ができるので、番組の予算もほとんどかかりません。さらに、ちょっと運動神経の有りそうなタレントさんが卓球の試合を行なったとしても、恐らく今も当時も小学生の全国レベルにはとても歯が立たないだけの技術が必要なスポーツでもあります。つまりは体力的にはとてもかなわない大人と小学生が試合をしても、少しだけ卓球をかじってそうした技術を会得しさえすれば、子供が大人をこてんぱんに負かすことのできるスポーツで、視聴者はラケットを握ったタレントが「こんな子供には負けない」と大きな口を叩けば叩くほど、その負けっぷりがバラエティの絵となり、盛り上がるというわけです。

ただ、当時の福原愛さんは背が小さすぎて台上で2バウンドするようなサーブを出すことができれば(打ち返すことができないので)簡単に素人が対戦しても得点できました。しかしそんな大人のずるさを発揮して勝とうとするような事をする人はいないだろうと思われたのですが、あえてテレビの中でそんな大人気ない事を本番でやることによって当時5才の福原愛さんを泣かせるお笑い芸人がいたのです。そのため、全国の視聴者にその負けず嫌いで泣き虫の「愛ちゃん」の姿がより強く印象付けられることになりました。

その後、愛ちゃんの成長に合わせてその芸人さんとリベンジ・マッチを行なうなどシリーズ化することによって、テレビを見たお子さんの中には「愛ちゃんみたいになりたい」ということで、卓球を始めた子も少なくなかったと思います。その中の一人こそリオデジャネイロオリンピック男子シングルスで銅メダルを獲得した水谷隼選手であったりしたのです。同じようにテレビを見ながら卓球選手を志した現在日本の卓球界を背負っている多くの選手がいたであろうことを考えると、福原愛さんとえげつない勝負を繰り広げた明石家さんまさんお得意の素人いじりが日本の卓球界をも変えてしまったとも言えるかも知れません。日本卓球協会はタモリさんやとんねるずだけではなく、ぜひ明石家さんまさんにも何らかの謝意を示すことをお勧めする所以です。

しかし、愛ちゃんが人気でもなかなか卓球という競技について、本格的に試合の中継をする民放局というものはありませんでした。毎年1月に行なわれる全日本卓球選手権はNHKが地上波とBSで生中継していますが、オリンピックはともかく、隔年で行なわれる世界選手権というのはかつて日本選手が強かった頃にはNHKが放送したことはあったものの、民放が行なうことはありませんでした。しかしそんな中、地道に中継を始めたのがテレビ東京だったのです。

ちなみに、テレビ東京が見られない地域に住んでいる私としては、肝心な生中継が見られないという現実に、過去何度も煮え湯を飲まされました。仕方がないので中国のテレビが見られるサイトを探しだして日本選手が決勝に行ければ中国選手との試合は見られましたが、当然日本選手中心のプログラムにはならないわけで、テレビ東京の卓球中継における熱意には感服しながらも、どうせならBSでも同時にやってくれと思っていたのですが、今回は世界ジュニア選手権の様子について、リアルタイムでないのは残念ですが、何とかBSで放送してくれました。以前このブログで書いた池上彰さんの選挙番組もテレビ東京の地上波とBSジャパンの同時放送が実現していますので、この調子で次回の世界選手権も地上波との同時中継を行なってほしいです。

今回の放送では女子シングルス準決勝での加藤美優選手の活躍と、男子の団体決勝の様子を見ましたが、どちらも中国に敗れてしまい、改めて中国との力の差を感じることになりました。特に男子団体を見てびっくりしたのが、団体シングルスに出てきた中国人選手3人のうち2人が、日本には一人もいない中国式ではありますがペンホルダーのグリップを使っている選手だったということです。

今や世界の卓球界は超攻撃的な戦術になっていまして、昔にはちらほらいて世界選手権で活躍した選手も出た守備型の「カットマン」とともに絶滅危惧種な戦型がペンを握るようにラケットを持つ「ペンホルダーラケット」を使う選手です。

中国の卓球は日本の影響からか昔からペンホルダーが主流でしたが、そんな中でヨーロッパの進化したシェイクハンド(テニスのように持つグリップ)の攻撃型選手に対抗するために、中国ではそれまでの片側のラバーだけで左右のボールを打つ(右利きの場合左側に来たボールはブロックが主で、当時の日本でも同じように片側だけにラバーを貼って試合していました)というやり方を改め、ペンホルダーでも両面にラバーを貼って両面打ちをする技術に進化させたことにより、常にナショナルチームでもペンホルダーの選手はいますが、今は日本を含む他のアジア地域でもほとんどがシェイクハンドグリップが幅を利かせています。

かつてはアジアの選手が多く採用していたペンホルダーが、かつてヨーロッパで主流のシェイクハンドグリップにとって変わられたというのは、合理的な理由はあるものの、今後を考えると日本のチームがどう中国に対抗していくかということで、改めてペンホルダーを使った選手の育成についても考えて欲しいのです。

というのも、両面を使って打つシェイクグリップが今の日本の卓球では主流で、トップ選手にペンホルダーグリップを採用している選手がいないので、もし今回男子団体で優勝したメンバーがそのまま世界のシニア大会でも活躍するようになったら、彼らへの対策ができなくなるということです。日本でペンホルダーがすたれたのは、昔には右利きの場合体の右側で打つ「フォア」の威力は素晴らしいもの、反対の「バック」側が弱いということで集中して狙われると、特にシェイクハンドのバック対バックの打ち合いになった場合どうしても劣勢になってしまうということがあります。

しかし、今回見た中国のペンホルダーの選手は裏面にもラバーを貼って台上のボールをこすり上げるようにして回転を掛け強烈に打ち込む「チキータ」をシェイクと同じように自分のものにしています。そうなると、バックでもそこそこの対応が可能で、「フォア」対「フォア」での打ち合いならペンホルダーの方がボールに力を乗せやすく、打ち合いの中で圧倒できます。さらに台上でのボールの扱い方はペンの方がやりやすいということから、今回の日本との試合でも常に先手を取って攻撃をしているという印象がありました。

現代の卓球が超攻撃的卓球であることは紹介しましたが、昔は台上のボールをこすり上げて打つチキータの技術だけで相手を打ち抜くことができましたが、今はあえて相手にチキータで打たせて返ってきたボールをさらに強打するような戦法も見られるようになりました。それと同時に増々重要になるのがボールを台上で短く簡単に打てないような場所に返す技術であり、チキータで強打する事が難しいほどの短いボールを叩くように強打したり、払うようにして打つフリックという技術になるでしょう。これらの台上での技術について、ペンホルダーとシェイクハンドのどちらが上手にできるかという事で、現在の中国のナショナルチームが出した答えが中国式ペンホルダーを使いこなす選手もシェイク選手とともに育成し、その結果として主戦の2人がペンホルダーということになったと思われます。

となると、中国のペンホルダー選手に勝つためには、日本でもそうした戦術を使いこなせるペンホルダーの選手養成が必要になるのではないかと思うのですが。現実的には近づいた東京オリンピックに備え、中国式のペンホルダーを使いこなす仮想中国のコピー選手としてペンホルダー選手を育成するということも必要になるのではないでしょうか。すでに中国では日本人の選手を自国リーグに参加させないなど、日本選手に中国対策をさせずに中国が金メダルを取るための道筋を作りつつあります。

今回の男子団体戦でも中国のペンホルダー選手に手も足も出ずに負けてしまったことを考えると、日本としても中国のコピー選手を育成する中で世界で戦えるペンホルダーの強豪を作って欲しいですし、日本のペンホルダーの強さというのを改めて世界に向けて発信していってくれれば見ている卓球ファンの多くは溜飲が下がるのではないかと思えるのですが。

(番組データ)

卓球世界ジュニア選手権 BSジャパン
2017/12/10 13:30 ~ 2017/12/10 16:00 (150分)
MC 中川聡(テレビ東京アナウンサー)
解説 福澤朗 三原孝博(日本ペイントホールディングス女子卓球部監督/元日本代表コーチ)

(番組内容)

18歳以下の世界一を決める戦い!世界ジュニア選手権!昨年、団体戦で男女W優勝を飾るなど歴史的な活躍を見せた卓球NIPPON!果たして連覇なるか!?
【大会日程】 2017年11月26日(日)~12月3日(日)
【開催場所】 イタリア リヴァ・デル・ガルダ
【種目】 男女団体戦、男女シングルス、男女ダブルス、ミックスダブルス
昨年大会で日本は団体戦男女W優勝、さらに張本智和が史上最年少で男子シングルスを制するなど、若い世代でも世界で戦える強さを存分に見せつけた。特に張本はこの後、世界卓球やワールドツアーなどシニアの戦いで大活躍。世界ジュニアが飛躍への足掛かりとなった。いわばこの大会は世界的スターへの登竜門。若き新星が続々と誕生している卓球ニッポン、果たしてこの大会から次なるスター候補は現れるのか!?