今回紹介する「クローズアップ現代+」の再放送枠というのは、その週に放送された内容で反響が大きかったものが放送されるということですが、この内容についてはNHKの報道に感じることがある「しがらみ」がないせいなのか相当取材している感じがあり、テレビを見ている人が少しわかりずらいようなテーマの問題点を明確にしてくれたように感じます。
このサイトでも導入している「ネット広告」について、不正を行ない広告主から支払われるお金のうちの一部を手に入れている個人や組織を突き止めるための取材を軸に番組は進んでいきます。番組で紹介されているネット広告というのは、かなり具体的な話になりますが、事業者の「ヤフージャパン」が企画したネット広告について広告代理店の「電通」が「広告主」をとりまとめた上で契約を行ない、主にネットを見る人にピッタリと当てはまる種類の広告をウェブサイトに「ヤフージャパン」が表示することで、その広告が見られている回数に応じて掲載サイトの所有者に広告料の一部を支払うという流れになっています。取材したところ、広告主の多くは自らの広告が見られないまま広告料だけが「中抜き」されていること自体を全く知らないケースがほとんどでした。
実際、このサイトでも多くの人が見てくれればそれなりの広告料が入るはずですが、広く知られているサイトでは全くなく、個人的に努力する事にも限りがあります。その結果あまりにもサイトを見てくれる人が少なければ一切そうした広告料は入ってきませんし、サイトに広告を載せても利益など出せないサイトが大多数であるということ普通に言われています。しかし、不正をするような人は、ある巧妙な仕組みを使って多くの人のパソコンやスマホに自分のサイトを表示させるような仕組みを実行しているのです。
番組の説明によると、ターゲットは成人男性がほとんどだと思うのですが、その筋の人なら知っているアダルトコンテンツを扱う人気サイトにアクセスすると、表面上はそのアダルトサイトが表示されるのですが、実はその裏でブラウザが複数開くプログラムが実行されるように仕組まれていて、主サイトの後ろに回り込むような形で多くの広告が掲載されたサイトが利用者には見えないまま表示されるということなのです(番組では具体的には言っていませんでしたが、不正グループの本丸として「アダルトサイト」と「広告掲載サイト」、さらに「不正サイトを巧妙に隠すプログラムを開発する業者」を結ぶ業者の存在が示されていました)。
そして番組が取材した広告掲載サイトについて月のアクセスが3,000万ページビューにもなるところもあったそうで、単純に計算するとそのくらいのアクセスが有れば、サイトに支払われる広告料は条件によっては月に450万円くらいにもなる場合もあるという話です。実際にはそうしたアダルトコンテンツを隠れ蓑にした仕組みを提案し、連携する作業を行なっている元締めの業者にいくらかのフィードバックを行なう契約が行なわれていると思いますので、実際にどのくらいの利益を広告掲載サイトが得ているのかは不明ですが、サイト構築と維持にかかる費用はそこまで高くないので、一連の不正に参加している人たちは、かなりの金額を荒稼ぎしているだろうということが想像できます。
しかしここで考えていただきたいのは、普通の利用者はアダルトコンテンツを目的にサイトを訪れ、実際は自分が見ているサイトの裏で表示されているにも関わらず、その広告は一切見ないでコンテンツを見終ったらブラウザを閉じてしまいます。そうなると、広告主は本来ターゲットとすべき人に自社の広告を見てもらいたいためお金を払うのに、全体からすると9.1%もの広告費が不正な業者を通じて「多くのユーザーが広告を見たことにして」不正サイト管理者らに支払われてしまうという事実です。
ヤフージャパンの広告を利用している広告主の中には多くの人に知られた大企業や、さらに国や地方公共団体もいるということで、余分な広告費の支払いというのは企業が発売する商品の代金に跳ね返ってくるだけでなく、特に公の行政を行なっている団体の予算から広告費が出ていれば、回り回って国民が払う税金の中から不正業者にお金が流れてしまうことにもなります。
番組取材班は更にこうした広告料の不正取得を提案し、契約したユーザーとともに広告費を横取りするような不正の本丸にいる人達について、追加取材の予定も報告しています。今後こうした不正に対策をすることなくネット広告費を横取りする人たちを野放しにしておくようだと、ネットを見ても面白くなさそうなコンテンツが増えることで、今のようなネットへの興味が失せてしまう可能性があります。現代の子どもにとっての一番の人気職業と言われている「YouTuber」としてネットで生活しようといくら努力したとしても、中抜きされる広告費が多すぎて、広告主がネット広告を止めたり規模を縮小したりすると、これから初めたばかりの拙い内容のサイトまではお金は回って来ず、せっかく盛り上がったサイト構築への意欲をそいでしまうことにもなりかねません。
それはブログについてもまさにそうで、ドメインの維持手数料(年間数千円程度)ぐらいも年間に稼げないということになると、今まで有益な情報を提供してくれていた良サイトがいきなり閉鎖なんてことも起こってくるかも知れません。正直なところ、自分のサイトが多くの人に読まれるだけでなく、いくらかの収入を見込めるということになれば、自然と更新の意欲も高くなる方もいるでしょう。しかし多少の努力をしたとしても、不正にアクセスを稼ぐ不正サイトの陰に隠れてしまい、さらに広告料の儲けを持っていかれるということになると、今後面白いコンテンツを作る才能を持っている人がブログを書かなくなることも考えなければいけないでしょう。そうなるとインターネットの一つの魅力が無くなってしまうような感じにもなります。
せめてインターネット広告に関わる方々には、不正に多くのアクセス数を稼いで広告料をかすめとる中味のないサイトなのか、オリジナルのコンテンツで勝負しているサイトを分け、悪質なサイトへの広告配信を中止するなどネット自体の信頼性の構築にも協力していただきたいところです。不正利用者とは技術革新のたびにいたちごっこになるかも知れませんが、そこをきちんと分けないとネット広告にお金を出そうと思う人が減る可能性もあります。少なくとも今回の番組が本放送で評判になり、深夜ではありますが再放送されたことに希望を感じます。今後の取材でさらなる真実が明らかになるような続編が放送されることを期待したいですね。
(番組データ)
クローズアップ現代+選「追跡! ネット広告の”闇”」NHK総合
2018/09/08 01:40 ~ 2018/09/08 02:05 (25分)
出演者
中川淳一郎さん (ネットニュース編集者・元博報堂社員)
NHK記者
武田真一・田中泉 (キャスター)
(番組内容)
2018年9月4日の再放送。
急成長を遂げ、年間1兆5千億円を突破したネット広告市場。この巨大市場に不正の闇が広がっていることが分かってきた。4月に取り上げた海賊版サイト「漫画村」では、広告が実際には見られていないにも関わらず、大企業が広告費をだまし取られる“裏広告”の実態が明らかに。その後も取材を続けると、次から次へと新たな手法が浮き彫りになってきた。 被害は企業だけでなく、国や自治体にも広がり、税金がだまし取られていた可能性も浮上してきた。番組では、サイトに残された手がかりから、不正に関わると見られる業者を複数特定。個人か?それとも組織的な行為か?謎に包まれたネット広告の「闇」に迫る。