月別アーカイブ: 2019年6月

サブチャンネルを有効活用しないNHKの姿勢はデジタル化に反するか

2019年の陸上の大きな大会が地上波のテレビ中継とのからみで連続してトラブルになっているように私には思えます。今回は2019年の6月29日と翌日の30日に起きたNHKが放送権を持っていると思われる陸上の日本選手権について思うところを書いていこうと思います。

6月29日は大阪で開かれた各国の首脳が集うG20の会合がありました。その模様を伝えるニュースをNHKでは放送していたのですが、16時からの放送開始時にはトランプ大統領のスピーチをLIVEでずっと流していて、一時はネットを含むどのメディアでも中継がされない状況になってしまいました。

Twitterなどの情報では、直接NHKに抗議の電話を掛け、デジタル放送に切り替わる時にそのメリットとして言われていた「サブチャンネル」での放送についても出来ないという話のみだったということです。

この「サブチャンネル」というのは、同じNHKのBSで大リーグ中継を見ている方にはおなじみかと思いますが、画質は落ちるもののデジタルの特性を生かしてメインチャンネルからは外れるもののメインチャンネルで放送を延長するのではなく、通常の番組はメインチャンネルで行ない、試合終了まではサブチャンネルで伝えることで、大リーグを見たい人も株価が気になる人も(中継終了予定時刻からの番組はニュースや株価を知らせる番組が多い)どちらの人も見たいテレビ番組を見ることができるという、テレビがデジタル化されて良くなったと思える部分です。

よく、民放の地上波についてはサブチャンネルでの放送を嫌がるという向きがある傾向があることが知られています。というのも、民放の経営というのはスポンサーからの広告料金でまかなわれているというところがあるので、スポーツ中継を延長する場合、サブチャンネルになってしまうとメインチャンネルでドラマを放送した場合、広告はメインチャンネルで流れる契約だろうと思うので、多くの人がサブチャンネルに回してしまってメインチャンネルで流すコマーシャルを見てくれなくなる可能性があります。

やはりスポンサーあっての民放ということになると、ドラマとスポーツの両方を流したいからといって安易にサブチャンネルを使うと現状では広告の契約上ややこしいことになるのかも知れません。しかし、こうしたことはスポーツ番組の直後に予定されている番組に広告を出しているスポンサーにとっては、現状でも予定していた時間に広告を流せないことになってしまうので、こうした突発的な状況に備えた契約をしているのなら、改めてサブチャンネルを使うことを前提とした契約というのも作ってもいいのではないかと思います。それくらいサブチャンネルが活用されていないということを感じてしまう中、今回のNHKもサブチャンネルを活用してくれませんでした。

少なくともNHKにはスポンサーはなく、サブチャンネルについても大リーグ中継ではやり慣れているため技術的な問題もないと思えます。また、地域的な災害が起こった場合にも、タイムテーブル通りの放送を続けながらサブチャンネルでニュースを流すということも過去にはあったと思います。

しかしながら、翌日の30日にも、二日連続で16時から開始予定の陸上の日本選手権が時間通りに始まりませんでした。この日はまたアメリカのトランプ大統領が韓国と北朝鮮の国境の板門店を訪れ、北朝鮮の金正恩氏との会合の模様を流し続けたために起こりました。結局15分遅れの16時15分から中継は始まりましたが、それまではいつ始まるかわからず、さらに状況の変化によっては「動きがあり次第お伝えします」というテロップが流れ、もし本当に何かあったら再度中継が中断されるのかと思いながら見ていましたが、こういう時にこそサブチャンネルを使ってスポーツ中継や突発的なニュースを流すことは技術的にもできたでしょう。

その後の事についてもきちんとここで記録しておきます。16時54分頃に少しの間ニュース画面に切り替わり、さらに16時56分から17時15分までまたニュース画面に強制的に切り替わり競技を見られなくなりました。女子5000mのレース中継はテレビではカットされたことはその後の中継でも直後に触れていません。ただ、個人的には前日のテレビ中継が中断した時の情報でネットによるライブ配信が復活しているということがあったので、YouTubeから日本陸連のチャンネルを見ることもできましたが、ここまでできるというのはそれなりにわかっていないとだめなので、多くの人は結果を気にしながらニュースを見ていたのではないかと思います。

今後「臨機応変にサブチャンネルを活用した放送」がNHKに出来ないというなら、サブチャンネルとは違いますが複数のスポーツを並列して生中継することができるネットのスポーツチャンネルに放映権を潔く譲るべきです。ネット中継なら天候の悪化で見られなくなるようなBSでよくある事も無くなりますし、何よりスポーツチャンネルなら突発的なニュースが入っても中継を中断されることもありません。そうした事が無理そうな、東京オリンピックの中継については、NHK・民放が共同でテレビ以外にもネット同時放送のシステムを作り伝えるような事でもしないと、今回の事とは比べ物にならない騒動が起こるのではないでしょうか。ただそれは、鳴り物入りで切り替えたデジタル放送の利便性を放棄した結果でもあります。4K8K放送を大々的にアピールするよりもサブチャンネルの有効活用ができなければ、テレビはますますその信頼性を失うのではないでしょうか。


「闇営業での反社会勢力との交友」をネタにしたバラエティがあった

吉本興業は所属タレント11人が闇営業で反社会勢力(振り込め詐欺のグループ?)から金銭をもらっていたことを理由にして活動を自粛させると発表しました。ちなみにワタナベエンターテインメント所属のタレント2人についても謹慎処分になったそうです。そうした事は過去に遡ると常態化していたのでは? と思われることもありますが、私が克明に覚えているのが、この件を題材にした「ドッキリ企画」を行なった番組があったことです。改めてその番組のデータを紹介しましょう。

(引用ここから)

(番組データ)
金曜★ロンドンハーツ 2時間スペシャル 予想外すぎ!涙と笑いの新作ドッキリSP テレビ朝日
2018/10/26 20:00 ~ 2018/10/26 21:48 (108分)
【出演者】ロンドンブーツ1号2号/志尊淳/カンニング竹山、くっきー(野性爆弾)、小宮浩信(三四郎)、コロコロチキチキペッパーズ、チョコレートプラネット、Niki、藤田ニコル、藤本敏史(FUJIWARA)、山崎弘也(アンタッチャブル)、渡辺直美、他 [50音順]

(番組内容)

ブレイク前から現在に至るまで渡辺直美を支えてきた、「ある男性」に感謝の気持ちを伝えるために、直美がサプライズドッキリ企画を。しかし、決行当日に思いもよらない展開に…。直美も涙してしまった波乱の結末とは!? そして、現代社会で重要視されるコンプライアンスをおとり捜査!! 闇営業、怪しい薬、反社会的勢力からどんなに甘い誘惑があっても断る事ができるか!?チョコプラやニコル、くっきーの新作ドッキリも!

(引用ここまで)

お笑いコンビのコロコロチキンペッパーズ(よしもとクリエイティブ・エージェンシー東京本部所属)の「ナダル」さんがドッキリのターゲットで、闇営業のお金につられてつい反社会勢力と思しき(これは番組の仕込んだもの)男性にとり入ってしまうナダルさんのモラルの無さを嘲笑気味に笑い飛ばした事を覚えています。

この頃からナダルさんは「人間性を疑われる」ようなキャラクターでブレイクした感があり、当時は笑って見ることもできたのですが、この番組の出演者の中には今回よしもとから発表があった謹慎処分を受けた人物が一人混ざっており、もし彼がこのドッキリのVTRを見て心から笑っていたとしたら、もはや自分のやっていることを棚に上げての人のダメさ加減を笑っていたことになります。

そもそもこんな「闇営業で反社会勢力の人間からお金を受け取るか」ということをドッキリのネタにするということは、もはや芸人たちは当り前にこうした誘惑を受け、今回処分を受けていない人であっても実は裏で同じような事をやっていると思われるような状況があるからなのではなかったのでしょうか。だからこそドッキリにもリアリティがあったと考えることもできるという風に考えが及んでいくと、当時のロンドンハーツのスタッフもちょっと暴走してしまったのでは? と思わざるを得ません。

テレビバラエティは多少暴走するくらいでないと面白くないという意見を持たれる方もいるのではないかと思います。ただ、今回の場合は具体的に「振り込め詐欺」を行ない善良な視聴者の懐からなけなしのお金をだまし取った人達からお金を受け取って自分の遊びや生活のために使っていたということになるわけなので、もはやタレント本人がどんなにお詫びしても許されない可能性があります。単に他人の悪口を言ったり放送禁止用語(実際は各放送局の定めた自粛すべき言葉のリストにある言葉)を連呼したり、全裸になったりする「暴走」の場合は時間とともにほとぼりが冷める事がありますが、詐欺被害者はそのタレントを見ただけで過去の過ちを思い出したりするかも知れないので、なかなか難しい部分があります。

今回の報道では主にタレント個人に対する処分ということだけですが、今回あえて過去に遡って特定の番組を紹介させていただくことで、番組の企画を考える中でも注意したいものが存在するということを紹介させていただきました。


「山谷」をバラエティで簡単に扱う人の根底にあるもの

現代の日本のテレビは様々な「コンプライアンス」にがんじがらめになっていて、昔のテレビと比べると明らかにテレビ制作者がやりたいことができないようになってきているということは当然あります。だからこそ、そんな制約の中で面白い番組を作っている人や番組は応援したいという風に思っているのですが、流石に今回の「山谷」に行くというのは反則ではないかと、見ていて違和感を覚えました。

ただ、このような「地域の有名人」に取材しその人の様子を笑うという番組はあり、最近は複数の番組でそうした事を毎回やっているような番組も存在します。昔の「天才たけしの元気が出るテレビ」(日本テレビ)や「さんまのからくりテレビ」(TBS系)では番組の方からの演出もあったのかも知れませんが、最近の番組ではそうした強烈なキャラクターをそのままカメラの前に出し、強烈な個性を持つ人を取り合っているような感じもあります。「月曜から夜ふかし」(日本テレビ)で注目されたキャラクターがなぜか「町のご意見番」として「バイキング」(フジテレビ)に出ていたりしているのも、そこまでテレビはキャラクター不足でなさそうなのにとも思ったりします。

今回、山谷にいる人の「あだ名」について調査するということで山谷の町や飲み屋に取材カメラが入ったわけですが、当然ながらまともにカメラの前に顔を出せるような人は少なく、露天市である「ドロボウ市」にいたってはそこに集まる人の顔を出すことはもちろん、場所の特定すらもコンプライアンスの関係でしませんでした。山谷に生きる人の事を楽しく番組出演者は見ていたような感じではあるのですが、そもそも山谷とはどんな街で、そこで生きる人はなぜ集まってきたのか? というような予備知識なしに単にその人個人のキャラクターを面白がるというのは、それこそ山谷地域に住んでいる小学生と同じレベルの興味の持ち方ではないかと思えます。

現在の山谷はもはや単なる日雇い労働者の街ではなく、生活保護を受けて生きる人の方が多くなっている「貧困」「高齢化」という正に未来の日本の一部はこうなってしまうのではないかと思われる様々な問題が渦巻いている街です。そうした街の歴史や内情を知っている人がテレビ視聴者に多くいるなら説明不要で一気に現場報告でもいいとは思うのですが、「山谷」という場所で取材するなら今回は「銀座のあだ名」は別の回に回して一回分濃密に山谷を紹介するような形でも良かったのかなと思いますね。

今後、単なる興味本位なだけで今後山谷や釜ヶ崎、寿町のようなところでロケをするような企画があったとして、番組を見た人にとっては残るのは大きな違和感と偏見だけで、それがまた街のイメージを悪くし、ひいてはそこに住む人の居住環境を悪くすることにテレビが一役買ってしまう事も十分に有りえます。全く山谷を知らない人にとっては、単に面白がって作ってしまったテレビの企画によってその人の考えが形作られてしまうわけで、その辺は十分考えてこうした対象と向き合っていただければと思います。

(番組データ)

親愛なる、あだな様【噂のあだ名を大調査~銀座高級クラブの世界~】テレビ東京
2019/06/18 00:12 ~ 2019/06/18 01:00 (48分)
【出演者】
山崎弘也(アンタッチャブル)
大久保佳代子(オアシズ)
向井康二(Snow Man/ジャニーズJr.)
福田典子(テレビ東京アナウンサー)
あだな調査隊

(番組内容)

【銀座の高級クラブ】 座っただけで3万5000円以上もかかる銀座の高級クラブ。それを支えるのが「ドンペリママ」「銀座の女王蜂」など強烈なあだなを持つママ達!さらに、そんな高級な場所に来るお客さんにもあだな調査をすると…「イヤホンマン」「銀座の先生」などクセが強すぎるキャラが続々!さらに伝説のスカウトマン「銀座の黒服王」にも密着調査。
【日本3大ドヤ街 山谷】 日雇い労働者の街として知られる山谷には、「キャッチボールおじさん」「お上手さん」「ニタリ」など、不可思議でワケありのあだな様だらけ!さらに「ドロボウ市」と呼ばれるディープスポットにも潜入。


生中継こそが「花」なのにその「花」を奪った奴らは誰だ?

お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さんと、女優の蒼井優さんが結婚したということが2019年6月5日の朝に唐突に発表され、山里さんが声の出演をしている日本テレビの「スッキリ」では「夜に記者会見をやるから詳細はそこで」と発言したことでその日の夜7時から行なわれるという記者会見にがぜん注目が集まることになりました。

山里さんはその会見の頭に、こうした場を作った理由というのは、FAXをマスコミに送り付けたり、唐突にブログやSNSで発表すると憶測を生むので、しっかりと伝えたいという事を言っていました。まさしく結婚したお二人にとってはこの場が晴れの舞台であり、今後披露宴を行なったとしてもそこまで注目されることはないだろうという中での会見は、当然リアルタイムで行なわれるだろうと思って、様々な会見を生中継することで定評があるAbemaTVを付けて待っていたところ、待てども待てども会見が中継されることはありませんでした。

7時からは地上波で流れた午後5時からのニュースの再放送をしていたと思ったら、しばらくして会見を伝えるAbemaTVのスタジオに切り替わったのですが、そこでもまだ会見の様子については一切伝えられず、いつから会見の様子を中継するのかも明らかにされませんでした。これはAbemaTVの失態か? と思ったらアナウンサーからここまで生中継がされない理由というのが発表されました。それは会見の一分前に発表された事だったそうですが、お二人の事務所のどちらの意向なのかはわかりませんが、会見開始から終了(お二人が会見場から姿を消すまで)の間は同時中継をしないようにだけではなく、会見で語られた内容を出すことも禁止されたという事でした。

そのため、AbemaTVの放送はしばらくアナウンサーの方々がどうでもいい話を数十分間もくどくどと垂れ流すことになり、中継を楽しみにしていた人を裏切るだけでなく、午後9時から放送される番組の出演者も黙って会見の中継録画映像を見ているだけだという、多くの人の予定を狂わせることになってしまったのでした。なぜこんな「報道管制」をおめでたい結婚報告の場で仕掛けるのでしょうか。

これは、情報をあくまでもコントロールし、ネットテレビには好きなようにはさせたくないという事務所側の意向なのかもしれません。そうとでも考えなければ、技術的にも、恐らく会見したお二人についても、会見の様子を生中継することについては大きな問題があるようには思えませんでした。なぜ強制的に「中継録画」を見させられなければならないのかという点において、ネット放送を含めたテレビが、その即時性を放棄した例として、後々にもその記録を残しておくべきだと思いました。

今回の事をおかしいと思わない人もいるかも知れませんが、こうした例はどうでしょう。もし、東京オリンピックのある競技において、一つの競技団体が「自分達の競技の中継は生中継はまかりならん」と一方的に宣言し、試合開始から試合が終わり、選手が会場から完全に退場するまで(つまり試合後のインタビューも含む)中継どころか試合内容の紹介や試合結果を一切報道することはまかりならんとマスコミに圧力を掛けたら、テレビで生中継を楽しみにしていた視聴者はどう思うでしょうか。今回の会見は正にそんな感じで行なわれ、後追い中継録画を見ながら決してスッキリしていなかった視聴者が多くいたのではないかと思います。

会見についての報道規制はお二人の罪ではないと信じたいですが、もしこうした事が事務所の独断で決められたのだとしたら、今後お二人の会見の裏で様々な憶測が流れることにもつながるかも知れず、この事が原因で騒動になった場合にどうするのかと本気で心配するところです。そんな憶測を生みたくないと思ってお二人は今回の会見を開いたのに、そこから何か変な流れになってしまったらと思うと、「人の幸せをダシに使って金もうけの種にしようとする奴」が一枚かんでいるのか? という風にも思えてしまいます。

こんな事が続けば、もはや芸能人は独自にネット中継をするなどしなければ生で気持ちを伝えることすらできなくなってしまいます。それは、もはやテレビではなくなってしまうので、テレビ業界についての危機にもつながるのではないかと本気で心配してしまった今回の会見録画中継でした。


震災<人災という現実を垣間見せてくれた2つの番組

テレビ局の編成が力を持つのは、まさに今回のNHKの夜の番組の並びを実現できるような選択ができるからだとしみじみ思いました。昨日、2019年6月3日の午後10時から放送された「逆転人生」から「事件の涙」という2つのドキュメンタリーをノンストップで続けられたことで、チャンネルを変えるタイミングを逸してそのまま見てしまったのですが、こういった意見の伝え方があるのかと感じることになったので、ここで改めてその内容について紹介させていただきたいと思います。

まず、「事件の涙」という番組は再放送で、本放送は2018年の5月に初回放送があったもので、初回放送を見た方からすると、単体で見た番組について消化不良な所もあったのではないかと考えられるような番組の構成だったように思います。

最初に「事件の涙」の方の番組内容を紹介すると、この番組自体は大きな事件のその後の関係者の「涙」に焦点を当てて取材する切ないドキュメンタリーなのですが、今回は雪印の食肉偽装(オーストラリア産の肉を和肉として出荷しようとした)を告発した「西宮冷蔵」の社長とその家族のその後にカメラを向けています。

この番組で改めて知った事に、社長の娘さんは衝動的にマンションの14階から飛び降りて命は取り留めたものの下半身不随になってしまっていたということがあります。正義の告発のはずが利用客には契約を打ち切られ、さらに当時の政府には告発をしたのに不正をしばらく黙認していたのではというイジメのような難癖を付けられ、倉庫への強制捜査を入れられるなど、内部告発について告発した側を守るどころか、何の配慮もない行政の理不尽さなどを前にして家族の事までケアできなかったと社長は自分を責め、取材当時には生活のほとんどを娘さんの介護にあてています。

会社を切りもりしていたのは父の想いを受けた息子さんで、必死の努力で何とか売上を最盛期の7割くらいまで回復させたものの、再び当時の大口の顧客から商品の偽装を持ちかけられ、その申し出を断ったところ他の得意先も契約を止めるという、正に日本の企業の底意地の悪さというのか、事無かれ主義というものの犠牲になり、倒産寸前のところまで追い込まれていることが紹介され、まさに倒産寸前の状況を紹介して番組は幕となりました。西宮冷蔵の今後には全く展望が見えないところまで追いこまれているわけですが、これが世の中の現実であることも確かです。

最近のドラマでは「半沢直樹」の大ヒットによる影響もあるのかも知れませんが、中小企業が大企業に対して真っ向から戦いを挑んで勝利する「下町ロケット」や、銀行員が会社の内部で行なわれる理不尽な動きに対して、その妨害にもめげずに自らの行動で状況を変えていくという「集団左遷!」などのドラマが人気になっています。そうしたスカッとするドラマを現実の世界でも行なわれているような形で紹介する番組が、直前に放送された「逆転人生」のようにも思うのですが、今回もやはり最後にはスカッとした結論を導き出すようないわゆるベタな展開になっていました。

別にこの番組で取り上げた岩手県陸前高田市の醤油を作る「株式会社八木澤商店」に罪があるわけではありません。むしろ、東日本大震災の影響で工場にあったもろみと微生物を全て津波で流されてしまったことで会社としてもう二度と震災前と同じ製品を作ることができないということを感じつつも会社を再建しようとする中で奇跡的に4kgだけ残ったもろみから過去と同じクオリティを持つ製品を作ることができた過程は十分感動的でした。

今回、なぜこの番組の後に西宮冷蔵の現在をレポートしたドキュメンタリーを直後にもってきたかということを考えると、あまりにも大きな二つの企業の襲われた災難の「差」というものが浮かび上がってくるのです。

八木澤商店が受けた試練である大きな地震と、それにともなった津波の被害というのは今さら言うまでもなく悲惨な結果を生み出し、多くの人命を奪っただけでなく原子力発電所を壊滅させ、今なおその影響で苦しんでいる人を生み出しています。その被害については大なり小なり違いはあれ、被害を受けた地域では全ての人や企業が同じように受けた災難でありました。それに対して西宮冷蔵が受けた災難というのは自然的な災害では全くなく、西宮冷蔵だけがピンポイントに受けてしまったその全てが「人災」とでも呼ぶべきものでした。顧客の大企業にとって都合の悪いことをしたものの、そのおかげで一般消費者が受ける影響を考えると、誰かがこうした告発者を守ってあげないといけない事例だったのではないでしょうか。

現在西宮冷蔵と同じように営業している同業他社がなぜ問題も起こさず営業を続けているのかということを考えると「決して内部告発などをせず、大人しく産地偽装を黙認していればいい」と考えて社会悪をそのままにしているところが生き残っているという風に少々いじわるに考えてしまうこともできると思います。もしかしたら現在日本の産業全体が低迷しているのは、こうした「正直者が馬鹿を見る」ような状況にあるのではないかという風にも考えられるので、この件についてはまずは西宮冷蔵を貶めた本当の悪はどこにあったかという検証をテレビは行なうべきでしょう。

あの悲惨な東日本大震災よりもひどく、長きにわたって絶望しか生み出さないものが「人災」だというのは本当に悲しいことですし、日本を再生するというのならこの象徴的な事件について、事件の被害者親族を執拗に追い詰めたり、芸能人の不倫事件で関係者のところにしつこく取材するよりも力を注いでいただきたいと思うのですが。

(番組データ その1)

逆転人生「復活!奇跡のしょうゆ 被災地の逆転劇」NHK総合
2019/06/03 22:00 ~ 2019/06/03 22:50 (50分)
【司会】山里亮太,杉浦友紀,
【ゲスト】しょうゆ会社社長…河野通洋,
【出演】村上弘明,秋元才加,しょうゆに詳しい専門家…高橋万太郎

(番組内容 その1)

東日本大震災で壊滅的被害を受けた陸前高田の老舗しょうゆ工場。200年受け継がれてきた“もろみ”を使って醸すしょうゆは全国のファンに愛されていたが、その“もろみ”が津波で全て流され、元の味のしょうゆの製造は絶望的状況となる。しかしたった4キロ、研究用に保管されていた“もろみ”が発見された。しょうゆ会社社長の河野通洋さん(45)は、4億円を借金して工場再建を決意。元の味のしょうゆ復活に挑む。

(番組データ その2)

事件の涙 Human Crossroads選▽正義の告発 雪印食品牛肉偽装事件 NHK総合
2019/06/03 22:50 ~ 2019/06/03 23:16 (26分)
【語り】吉田羊

(番組内容 その2)

2002年、大手食品会社の背信として、社会に衝撃を与えた「雪印食品牛肉偽装事件」。発覚のきっかけは「輸入牛肉を国内産と偽っている」と暴露した、「西宮冷蔵」社長・水谷洋一さんの内部告発だった。しかし、取り引き先は次々と去り、国からも処分を受け、経営危機に。経済的理由で高校進学をあきらめた娘は、心を病み、重い障害を負う。それでも水谷さんは、息子とともに会社を死守、「正義」を社会に問う。