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伝説の「牛肉のトマト煮」「塩むすび」を再びテレビで

先日、「テレビ体操」が放送開始から60周年という事を紹介しましたが、「きょうの料理」も今年が放送開始から60年ということで、今回の生放送での特番が実現したようです。個人的には「テレビ体操」の特番というものも見てみたい気もするのですが、興味が本来の体操でないところに行ってしまうことを恐れたNHKの対応が、「テレビ体操」は広報番組内の1コーナーでの紹介ということで落ち着かせたのだなあと思われます。

さて、「きょうの料理」特番の内容ですが、前半に平野レミさん、後半に土井善晴さんという料理講師を迎え、それぞれ生放送で料理を披露したのですが、まず前半の平野レミさんは、事前のアンケートで一番リクエストが多かったという彼女が初回に登場し、相当な物議を醸したといういわくつきのレシピ「レミ風トマト炒め」を再現したのでした。

平野レミさんの事を単にがさつでうるさいおばさんとしか思っていない人にとっては、受け入れがたい所もあるのかも知れませんが、お父さんがフランス文学者の平野威馬雄氏だということを考えつつこの料理を見ると、全く違った感情が出てくる方がいるかも知れません。平野威馬雄氏アメリカ人の父と日本人の母の子から生まれたハーフと言えば現代ではイケメンでということになるかも知れませんが、生まれが西歴1900年(明治33)ということで、かなりいじめられて孤独の中で育ったのだそうです。そんな中で、アメリカ人の父(平野レミさんから見ると祖父)が好んでよく食べていたのがこの「トマトと牛肉の炒め物」だと番組内で紹介し、100年の味だと言っていたのが個人的にはとても印象的でした。

つまり、トマトを茹でてから氷水に浸けた後、そこから包丁などを使わずにそのまま手で握りつぶすようにして(トマトの皮は握りつぶすときにうまく剥ける)使うことが「汚い」とか「がさつすぎる」と出演当時には非難の嵐になったわけですが、これは彼女のおじいさんの時代から同じ方法で作られており、なぜそんな作り方をするかと言うと、包丁で切るよりも手で潰した方が表面積が増え、味が良くしみるようになるというそれこそ100年の経験に基づいた正式な調理方法だったわけです。

また、今回の料理については全く関係ない話ですが、平野レミという名前(現在はイラストレーターの和田誠さんと結婚しているので本名は和田レミです)は本名で、お父さんが付けたと思われますが、お父さんの平野威馬雄さんはハーフということで孤独の中で育ったということで、父から『家なき子』の登場人物に因み、レミと呼ばれて育ったという話があります。その後、平野威馬雄氏が混血児の救済のために立ち上げた会の名前を「レミの会」としていることからも、この「レミ」という名に対する愛着というか執着が感じられます。そんな想いを持って付けられた名前が「レミ」で、後年平野威馬雄氏はおばけの研究などでも本を出されるほどの変わった人だったことを考えると、そんな遺伝子を受け継ぎ、親子ともその才能を認められて社会に広く認知された点で稀有な存在といえるでしょう。

親子とも世に出たという点で言えば、後半に出演した料理石研究家の土井善晴さんも、父親が「きょうの料理」に数多く出演した土井勝さんで、その遺伝子をしっかり受け継いでいるように感じます。番組では、小学校低学年の頃から土井善晴さんはお父さんに連れられてNHKのスタジオで見学をしていたという話を披露していて、料理で身を立てて有名になる道というものは「きょうの料理」があったからとも言えるかも知れません。

土井勝さんについても、番組では報道されませんでしたが、興味深い話があります。というのも、料理研究家としての土井勝さんというのはいわゆる「第二の人生」の努力によって料理の道に進まれた方であるのです。土井勝さんは陸上選手として18才の時に100メートル走で10秒8という記録を出し、1940年の東京オリンピックを本気で目指したものの、オリンピックそのものが太平洋戦争の拡大により中止に追い込まれたことで挫折をした経験を持っています。

その後、料理にはそれほど明るくない私でも「土井式」と呼ばれる画期的な黒豆の煮かたを開発するなど、家庭料理についての心使いに満ちあふれた、陸上という競技を極めた方ならではのきめ細やかな配慮に満ちたレシピの数々は土井善晴さんにも受け継がれています。

番組では限られた時間を使って、2014年に放送された土井善晴さんの「塩むすび」の作り方を生放送で再度解説してくれました。私自身は話には聞いていた「塩むすび」の作りかたを実際に見ることができたといううれしさと、出演者の方々が塩むすびを食べているのを見て、そのおいしさは画面を通しても十分伝わってきました。この「きょうの料理」における「塩むすび」の回というのは、他の民放でもこの回の様子が取り上げられるなど伝説の域に達しているのですが、今回の放送でも特に強調された点があります。

それは、手を丁寧に洗うことであったり、作った塩むすびはラップでくるまないというような事ですが、2014年の放送ではお米を炊く場合でも水に浸けたまま長時間放置しないようにザルに上げておくことの大切さなど、とにかく雑菌が繁殖する要素を極力減らることを考えた上でおいしくごはんを炊き、塩むすびを握ることについて説明されているのです。

料理の材料の中には最初から傷が付いているものがあり、多少ではありますがそこから雑菌が入ってしまうものもあります。大切なのは、いかに雑菌を繁殖させずに調理するかということで、「塩むすび」を作る回というのは、お米の炊き方から解説するということで単なる時間合わせだろうと思う方もいたかも知れませんが決してそうではありません。

料理に大切な基本を教えてくれるということでもあり、それが土井家に代々伝わっているものであったということで、親子2代でそうした事をテレビを通して教えていただけるというのは本当にありがたい事であると思います。

と、ここまで熱く書いてきた土井善晴さんの「塩むすび」ですが、残念ながらNHKの公式ページ(「みんなのきょうの料理」というサイトです)から検索できる塩むすびのレシピは、野崎洋光さんと小林カツ代さんのレシピのみしか「塩むすび」で検索しても出てきません。あれだけ反響があったのに、なぜちゃんと載せていないのか? と思って改めて調べてみたところ、番組では塩むすびを最終的に焼いていたということで「焼きみそおむすび」という名前で掲載していました。

お米をザルに上げる事についてもレシピの最後に説明があるので、放送を見ていない方でも十分納得の上で土井善晴さんの味を再現できるのではないかと思います。ただ、ネットと料理ということで言うと、クックパッドを始めとする公式アプリを利用して、スマホやタブレットをキッチンに持ち込んで料理をする方も少なくないこともあるので、テキストを売る商売として今までやってきたことではあるとは思いますが、60年を機にもう少しネットユーザーに寄せた形での展開も希望したいところです。

(番組データ)

祝60歳 きょうの料理伝説60
11/4 (土) 14:00 ~ 15:00 NHKEテレ
【出演】藤井隆,小倉優子,料理研究家…土井善晴,料理愛好家…平野レミ,
【司会】柘植恵水,後藤繁榮,
【語り】江原正士

(番組内容)

「きょうの料理」は今年で放送60周年!これまで紹介してきた神回レシピや講師などにまつわる60の伝説を生放送で紹介する。平野レミ&土井善晴があの料理を披露!