月別アーカイブ: 2018年7月

指導者の堕落は競技をも弱くすることを解説した番組

番組の題名は、とにかく今の日本の卓球がなぜ急に強くなったのか? と思っている人に番組を見てもらいたい一心で付けた印象ですが、約二時間を通して真面目に日本の卓球の歴史と東京オリンピック後の状況にも触れていて、かなり作り手の熱意が感じられました。さらに、卓球に限らず他のスポーツに関わっている人にも大きな教訓を与えてくれる番組になっていました。

テレビ的にわかりやすくするため、国際卓球連盟の会長という要職まで務めた元世界チャンピオンの荻村伊智朗氏をキーパーソンに据え、ドラマパートに荻村氏を登場させ、そこで自身の卓球への考えを語らせたことで、この番組のテーマが単に「日本卓球が強くなりさえすればいい」ということにとどまっていないのは素晴らしい事だと思いました。

荻村氏が最初に世界の舞台で戦ったのは1954年のイングランドで行なわれたウェンブリー世界選手権でした。まだ第二次世界大戦から日が経っておらず、ウェンブリーの観衆は露骨な反日感情があったので(映画「戦場にかける橋」で描かれたような理不尽な対応をされた人もいたのでしょう)、試合の際中にボールを取りに行ったら目の前でボールを潰されたり、観客から足を鳴らしてブーイングを受けたり、判定にも不審な点があるなどかなり厳しいアウェイの空気の中行なわれました。それでも勝って世界一になったことで、荻村氏のチームメイトがカバンに大事にしまっていた大きな日の丸を掲げようとしたところ、荻村氏がその動きを止めさせたことが番組では紹介されています。

もはや戦後から70年以上経った今ではそんなことはないとは思いますが、大会の少し前には直接戦ったり捕虜としてイギリス人を労務に使用していたりして、その時に見た日本の国旗日の丸には反日の象徴のような想いを持つ人もいたと思われます。荻村氏は優勝が決まった直後に大々的に日の丸を掲げることで観客の反日感情が爆発してしまうことを想像し、同僚が嬉しさの余りカバンの中から取り出した日の丸を会場で掲げることを押し留めたのです。

結果、この行動があえて国家主義にあらず政治や宗教の違いのある地域からも代表を出すことができる卓球連盟の考えに合致するものとなり、日本チームは改めて優勝を称賛されたというのです。アウェイの雰囲気に飲まれ感情的に対処するのではなく、あくまで冷静に、自分達はあくまで卓球のチームであるということを貫いたこの体験は、後の荻村氏の国家や宗教に関わらずに大会運営を行ない、当時オリンピックに出られなかった中華人民共和国にアメリカとの対話の懸け橋となる「ピンポン外交」を仕掛けたり、自ら中国大陸に出向いて日本の当時の技術を指導したり、南北朝鮮の統一チーム「コリア」での出場を実現させたりすることにつながったのではないでしょうか。

番組ではこうした荻村伊智朗氏の考えを紹介するとともに、この荻村氏を擁しても国際的な舞台で活躍できなかった日本チームの陥った「弱体化」の原因をしっかりと指摘しています。日本の世界を席巻した卓球は、それまでの守備的な卓球から方向転換し、右利きなら自分の右側に回り込んで全てフォアで打ちぬくというフットワークを駆使した角型ペンホルダーでの戦い方でした。もしバックに早く打たれてどんな素早いフットワークを持ってしても回り込めない場合は、主に当てるだけで返すショートやツッツキで対応するだけで、練習はほばフォアによる強打のみで対応する選手が称賛された時代が長く続いたのです。

その間に世界では物理的に足を使って回り込むのではなく、利き手と反対方向に打たれた場合はあえて足を使わずにバックハンドで強打するように返す卓球が主流になっていきます。当然中国はそうした流れをいち早く察知しましたが、体の大きいヨーロッパの選手はその力を最大限に利用してフォアでもバックでも威力が変わらない強打を打てるようになり、日本がとてもかなわないだけの存在になるとともに、中国のトップ選手でも勝てないというワルドナーというスウェーデンの選手を生むなど成果を上げていました。

そんな状況になっても現在の日本のトップにいる水谷隼選手を指導する指導者も水谷選手がバックハンドの練習を行なおうとすると「楽をするな!」(足を使って回り込んで打つことがかつての日本の強さの象徴だったので、そこで思考が止まっていると思われる)と叱咤されたと言います。試合のアドバイスでも具体的な戦術の指示もしないで「強気だ!」と精神論しか言わないような人が日本のトップを教える指導者の中にもいたということが明らかになり、これでは日本の卓球は強くならないということが番組を見ている自分にもわかりました。

他の競技でも、とにかく精神論しか言わない指導者や、過去の栄光を事更に主張する言葉は悪いですが「老害」のような人がトップに立っていることで大きな問題になっている日大のアメフトやアマチュアボクシングのようなことが続いているところが他にもあるかも知れません。そうしたアスリート目線でないところから指導が行なわれる状況を変えるために日本の卓球連盟がどうしたかという事までこの番組は紹介しているのです。

日本の卓球が世間に注目されるきっかけになったのはまだ小学校に上がる前の福原愛選手の存在が大きいですが、彼女をはじめとする小学生以下の有望選手を強化していく中で、現在も日本チームの強化に取り組む宮崎義仁さんの証言によると、徹底的にバックハンドを強化した合宿を行なったというのです。「フォアでできることはバックでもやろう」が合言葉であったということですが、こうして日本ナショナルチームの指導を受けた子と受けない子との間で、露骨な実力の差ができてきたことが想像されます。

というのも、体力のない小学生が全てのボールを回り込んでフォアのみで打つというのは不可能です。しかしナショナルチームで指導を受けた子はいとも簡単にフォアとバックのコンビネーションを決め、実戦での技術の差を見せ付けることで「これは今までのようにバックをないがしろにしていては勝てない」という事実を試合の中で日本の多くの指導者に感じさせたのではないでしょうか。

現在の選手で言うと、伊藤美誠選手が試合でも使っている「美誠パンチ」や「逆チキータ」のような技術は、ちょっと昔の指導者なら「遊びで卓球をやるんじゃない!」と大目玉を食らうかもしれない行為から生まれたものだと思います。現在の世界の技術の主流である「チキータ」すら、日本の旧態依然とした指導体制では練習させてもらえなかったとすら思います。それを、とにかく試合に使えそうなものなら遊びの要素から出たものでもきちんとした技術に仕上げていくだけの柔軟性こそが日本の卓球を強くしたと言えるかも知れません。

番組ではタレントのタモリさんに「暗い」と揶揄された事についても紹介されていましたが、これも単にタモリさんに一喝を加えただけで「地味なユニフォームこそが日本の伝統だ」と突っぱねていたら今の日本チームの状況はなかったでしょう。柔道におけるカラー柔道着が出てきた時にも「白こそが柔の精神に合致するものである」とカラー柔道着に反発される方もいましたが、今ではカラー柔道着があればこそ、試合も見やすくなっている側面もあるわけですし、良いものはどんどん取り入れて世界の同志とともに競技としての向上を目指すということが大切だと思います。

実は卓球には「中国が強くなりすぎちゃった問題」というのがありまして、いつの大会でも全ての種目で中国が優勝して終わりというのでは見る側としても面白くなく、最悪のケースとしてオリンピック種目からの除外もあるのではないか? という観測もあるほどです。ですから日本が勝ってくれれば見ている私達にとって、それは嬉しい事ではあるものの、ヨーロッパの選手で中国を次々に打ち負かすような選手が出てきてもそれはそれで盛り上がるだろうと思います。ただ、個人的に中国の牙城を崩す可能性は日本の選手にも十分あると思いますので、今後も常識にとらわれず、何より指導者がアスリートファーストを貫いて今の若い選手達を順調に成長させてくれることを願わずにはいられません。

(番組データ)

Why?強くなった?卓球ニッポン NHK BS1
2018/07/29 22:00 ~ 2018/07/29 23:50 (110分)
【出演】
(ドラマ)でんでん,傳谷英里香,窪塚俊介,
(卓球選手)水谷隼,宮崎義仁,前原正浩,木村興治,長崎美柚,織部幸治,
【語り】ハリー杉山

(番組内容)

リオ五輪でのメダル獲得以降、若手の活躍で大人気の卓球。実は、日本はかつて世界最強を誇る時代もあった!?ドキュメンタリーとドラマを融合させ、強さの秘密をひも解く。

リオ五輪でのメダル獲得以降、若手の活躍で人気が高まる日本の卓球。しかし実は1950~60年代、日本は世界のトップを走る“卓球王国”で、それを築き上げたのが“ミスター卓球”と呼ばれた荻村伊智朗だ。日本はもちろん、中国やヨーロッパなども指導、強豪国を作り上げた。今の超攻撃卓球の原点も荻村さん?!日本の強さの秘密を時空を越えてたどる、ドラマとドキュメンタリーが融合した新感覚ハイブリッドスポーツ番組!!


あくせく売らない事が魅力的な「通販番組」

この番組は2015年から始まっているそうですが、個人的には今回が初見で、実に興味深く拝見しました。番組の最初にはすでに「ジャパネットたかた」の社長を引退し、現在は出身地である長崎に貢献するためということで、新たにサッカーJリーグのV・ファーレン長崎の社長に就任し、今季J1で戦えるチームを作っている高田明氏(「高」の字は実際は「はしご高」)が登場しました。

今回のポイントはワールドカップで中断しているサッカーJリーグのV・ファーレン長崎の後半最初の試合が新たにバルセロナからイニエスタ選手が加入する神戸だということで、スタジアム周辺から散歩を開始し、地元の人達とふれあっていきます。

改めて考えてみると、番組に出演している高田明氏はタレントではないものの、他の「お散歩系紀行番組」と比べてはるかに周辺の人々の食い付きが良く、高田明氏の方も事前の仕込みは十分にあるにしろ、旅で出会った人達やスタッフへの配慮をにじませつつ、神戸に出掛けたら行ってみたい場所をことごとく訪問していきます。

面白かったのが、一泊1500円という二畳のテレビ付きの「ドヤ」とかつては呼ばれた簡易宿泊所の中を見たいと言い出し、本当に部屋を見せてもらっていたことです。看板に書かれている内容は、実際部屋がどのくらいの状態になっているのかということは、特に安く神戸で宿を探している人にとってはいい情報になったと思います。このように、街をぶらぶらしながらも、どこにテレビを見ている視聴者の興味があり、何を知りたいかを瞬時に察知して飛び込んでいくだけの行動力というものを感じます。そうした行動力が会社を大きくし、さらにはV・ファーレン長崎をJ1リーグまで昇り詰めたという感じもするわけです。

番組の後半では同じ兵庫県の中でも、神戸からは遠い日本海側の豊岡まで行くことになりましたが、ここでも街を高田明氏が歩く中、豊岡以外ではあまり見たことがない地場産品の「カバンの自動販売機」と遭遇し、「一つ1,500円のカバンを買うのに二千円を入れても買えず、千円札と500円玉を入れなければ買えない」というかなり細かいカバン自動販売機についての情報を入れつつ、豊岡でも選りすぐりの鞄メーカーを訪ね、そこで一押しのカバンの数々を紹介してもらうことになります。

ここで終了するのが普通の番組であるというところなのですが、ここまでの中であえてその場で値段を聞かないということがまた、単なる視聴者をお客様に変える手法なのかも知れません。私などは通販番組の司会としてテレビからラジオまであらゆる商品を売ってきた高田明氏の事を知っていながら、「なぜ高田明氏は単なるお散歩番組を手掛けているのか?」と思いながらこの番組を見ていたのですが、最後に来てこれらのカバンを番組放送時に合わせて限定数ありのジャパネットたかたでのテレビショッピングの商品として出してきたときには、これこそ究極のテレビショッピングの番組ではないかと唸りました。

丁寧にカバンが作られている行程を紹介することで、当然きちんとした仕事で作られているカバンは安くはないだろうなあと思いながら見ていて、それでも海外ブランド品のカバンより安いのにきちんとした技術に裏打ちされた素晴らしいカバンであるということは番組を見ていた人には十分わかるはずです。特にあるメーカーでは実際にテレビでは言えない海外ブランドのカバンを手がけているということだったのですが、そのブランド名が明かされなくてもあくまでカバンとしての性能や細かい手作業の内容を見て、純粋に欲しいと思った方は少なくないだろうと思います。

もちろん、番組を見て豊岡のカバンに興味を持って実際にこの夏現地へ出掛け、そこで直接自分の好みのカバンを購入するつもりで出掛けてもいいのですが、この番組の魅力は高田明氏が出掛ける先で見たものや興味を持ったものを疑似体験できるところにもあります。テレビの取材ということではあるもののとにかく関係者のトップに直接お会いしてある程度まとめて購入することによる価格を実勢価格と見てこの金額は妥当か否かというのは、今ではネットで検索すればだいたいのところはわかりますので、買おうと思った人は素直に買ってしまうのではないかと思います。

ただこの番組は、いわゆるコマーシャルのない通販番組というジャンルのもので、今回ジャパネットたかたでは「BSフジ」「BS日テレ」「BS JAPAN」の3つのBS放送で違う日に放送されました。今回出てきた商品はホームページからでも購入することができます。ただしテレビで用意している個数を上回る注文が入った場合は、納期が伸びる可能性があるということも番組で語られていました。テレビを見ていてすぐ注文することによる「即納」というメリットを強調し、その土地の名産品を売りまくるというのは、単なるテレビショッピングの枠を超えた可能性というものを感じます。

もし番組の主役が元社長の高田明氏でなくタレントを使っての演出だったらここまでインパクトはないでしょうし、まさに、高田氏が元気でいるうちにだけ見られる貴重な番組ではないかと秘かに思っています。番組の再放送というのも番組自体で商品を売るということがあるのでなかなか再放送も難しいと思いますが、次のシリーズではどこへ行って何に興味を持って何を売ろうとするのか? という興味を持って見てみたいと本気で思っています。

(番組データ)

高田明のいいモノさんぽ 兵庫篇 BS日テレ
7/14 (土) 14:00 ~ 14:55 (55分)
出演 高田明

(番組内容)

高田明が全国の素晴らしいモノを探す旅「いいモノさんぽ」 舞台は兵庫県。港町で知られる神戸の「下町」を中心におさんぽ。 老舗居酒屋の名物女将や地下鉄にある意外な施設など知られざる神戸の魅力を発見! 最後はご当地の素敵な逸品にも出会います。


幕末初心者への配慮なのか単なる現場の「手抜き」なのか

まず、番組データの中に出演者や司会として紹介されている人たちの顔ぶれを見ていただければおわかりかと思いますが、NHKの大河ドラマについての紹介番組なのにNHKアナウンサーを一切絡ませていないというのがこの番組のコンセプトを象徴しているように思えます。

番組の最初に司会の後藤輝基さんが台本通りのセリフなのか自身の想いなのか、幕末には詳しくないというようなことを言ってしまっていることからもわかる通り、今回番組で紹介することになる「坂本龍馬」「勝海舟」「岩倉具視」「桂小五郎」という、番組後半にキーとなる4人の歴史上の人物を細かく、知らない人に対して解説し、どうか後半のドラマの急展開に付いてきてね(^^;)。という番組であることは明らかです。

しかしながら、NHKが一番見て欲しいと思っている若年層の視聴者層はテレビそのものを見ないか「世界の果てまでイッテQ!」を見ていることでしょう。個人的にはこの種のPR番組を通常のドラマ枠でやるよりも、裏にそれほど強力な人気番組のない時に流すもので、ドラマ自体は複雑な幕末を扱うものだけにしっかりと今回も話を進めて欲しいと思っていたのですが、ドラマがあることを信じてテレビの前で待っていた人たちを大いにがっかりさせた番組であったと思います。

特に今回の番組のタイトルに「西郷どんスペシャル(2)」とあるように、通常のドラマを中断してまでドラマに関する別番組を流したのは今回が2回目であるということも見逃せません。ちなみに第一回目は4月1日に「鈴木亮平×渡辺謙の120日」 という題で撮影裏のお二人の姿を中心に放送されたのですが、この時もなぜ通常ドラマ枠を潰して放送に挟んだのかという疑問は出ていたと思います。

NHKの方では大河ドラマを4章に分け、場面が変わるところで通常放送枠でこのようなスペシャル版を入れる予定で本数を減らすということのようです。NHKでは否定していますが、いわゆる「働き方改革」にのっとってドラマ製作の仕事量を軽減させたという説まで出てきました。もちろんそのような説をNHKは肯定するわけはないでしょうが、貴重なドラマ一回分を民放のバラエティーのような形にして、さらにスタジオでのトークの内容も45分という時間の関係からかなり編集で切っていたのもわかったので、スタジオ出演者の話もあまり深く入ってこなかったことも事実です。

個人的には、このようにスタッフが結果的にでも楽をするような番組を入れるようになった現場はかなり疲弊していることが推測されるのですが、このまま行くと日本のテレビ時代劇にとってさらなる展開になるのではないかと危惧することもあります。

というのも、民放の時代劇であの水戸黄門さえ「大岡越前」「江戸を斬る」のような出演者が休めるような別の企画物が放送されなくなり、現代劇とワンクールごとの放送になったと思ったら長くスポンサーを務めてきた松下電器(現パナソニック)が撤退し、ついに連続ドラマとしての水戸黄門の放送は終了してしまいました。このような、最初は小さな変化だったものが最終的に大きくなってしまう事が大河ドラマでも起こるのではないかという危惧は笑い話で済ますことはできないでしょう。ドラマスタッフとしても多くのドラマの中でも時代考証の大変さや小道具や衣装の準備が大変な時代劇を今まで作った人の経験をいかに後世に伝えていくかというところで問題をかかえています。

いつになるかわかりませんが、大河ドラマの枠で時代劇が放送されなくなり、大河ドラマそのものが終焉を迎える未来というものも十分有り得ると思っています。そのきっかけとなるのが今年から始まった「西郷どんスペシャル」だと言われかねないような番組だなとここでは指摘するだけに留めますが、ドラマの番宣を本放送にもってくるということはそれだけ見る側にとっては重大なことだということをもっと多くの人に理解して欲しいと思います。今まで毎週楽しみに見ている大河ドラマファンをがっかりさせない番組作りを望みたいということです。

(番組データ)

西郷どんスペシャル(2)「いざ革命へ!西郷と4人の男たち」NHK総合
7/8 (日) 20:00 ~ 20:45 (45分)
【出演】鈴木亮平,近藤春菜(ハリセンボン),山崎怜奈(乃木坂46),厚切りジェイソン,江川達也,
【司会】後藤輝基(フットボールアワー),横山裕(関ジャニ∞),磯田道史

(番組内容)

いよいよ西郷どんは革命の表舞台へ。島流しで命さえ危うい“どん底状態”だった西郷が、なぜわずか3年で“日本一の大物”になれたのか?その鍵は4人の男たちとの出会いにあった。勝海舟(遠藤憲一)坂本龍馬(小栗旬)岩倉具視(笑福亭鶴瓶)、そして桂小五郎(玉山鉄二)。歴史家・磯田道史さんを中心に多彩なゲストが、西郷と出会う英傑たちの魅力とその「金言」を探る歴史バラエティー特番。出演:後藤輝基、横山裕ほか


山下洋輔の出てこない赤塚不二夫物語になるのか?

今回、第一回目の本放送を見逃したので再放送を録画で見たのですが、ドラマのスタッフ欄には音楽に大友良英氏の名前があり、赤塚氏が夜な夜なクラブで飲んでいる時にちょっと流れかけたジャズっぽい音楽が大友氏の手によるものなのかと思いながら、このドラマの「家族」というテーマにはちょっと違う観点から見ていました。

残念ながら赤塚氏が第一回目の中で遊んでいるのは主にフジオ・プロダクション内のアシスタントや漫画製作のためのブレーン、そして編集者に限られているようでした。実際私は直接赤塚氏とお会いしたことがないので本当のところはわからないものの、あらゆるジャンルで自身の表現を模索している人たちが赤塚氏と飲み、交流をし、その中から新たな展開が生まれてきたという側面もあり、私は赤塚氏の漫画とともにそうした赤塚氏のエッセンスを得て大きくなったクリエーターの方々も大好きです。

そんな中でも感謝しているのが、少年時代にリアルタイムで赤塚氏の漫画を読み、そろそろ自分も漫画からは卒業かと思った時に出会ったのが山下洋輔トリオ(ビアノ山下洋輔、アルトサックス坂田明、ドラムス森山威男)のフリージャズだったのですが、何とこのお三人は国内ツアーの時に移動手段がないので、懇意にしている赤塚氏のベンツを借りて全国を回っていたというお話を山下氏のエッセイで読み、改めて赤塚氏の懐の広さを感じられたことです。

ちなみに、赤塚氏のお葬式で「私もあなたの作品でした」と言ったタレントのタモリさんも、もともと赤塚氏と知り合いだったわけではなく、山下トリオが博多でライブを行なった時にその打ち上げで絶妙な密室芸を披露したことで山下さんらが赤塚氏にタモリさんを紹介し、タモリさんが赤塚氏のお宅に居候をしながらテレビに出してもらい、それがタレントとしてのタモリさんの活動の始まりということがあるのです。ネット上にはタモリさんはなぜ出てこないのか? という書き込みを多く見付けましたが、私としては山下洋輔さんをはじめとする多くの「非漫画家集団」がドラマで出てこないところが、今一つ赤塚氏の魅力を伝え切れないのではないかと不安に思うところです。

ドラマの中での赤塚氏のセリフの一つだったと思うのですが、「常識人でなければ面白い漫画を描くことができない」というのはドラマの中では実に皮肉に聞こえますが、それこそが漫画家の赤塚不二夫氏が抱えていた葛藤だったのではないかと思います。デビューまでは線の細い内気な美少年として仲間うちから描かれることが多い赤塚氏ですが、いわゆるギャグ漫画を心の中に秘めたように構想しており、それがギャグ漫画としてのデビュー作「ナマちゃん」に凝縮されています。

その後、赤塚氏は自分のギャグ漫画の原点としてその面白さを当時の子供たちにも伝えようと、彼が愛してやまなかった杉浦茂氏の漫画の登場人物の決めセリフ「レレッ?」をいつも使う「レレレのおじさん」というキャラクターを作ります。当時は杉浦茂氏の盗作ではないか? という話も聞かれたそうですが、私はあくまで杉浦氏の漫画をリスペクトする中での行動だと思いますし、杉浦氏自身が漫画一筋の真面目な方だったという話を聞き、ギャグ漫画家の理想として話に出したのではないかと思われます。

現代でも多くの漫画家は真面目でマスコミにはほとんど登場せず、かろうじて赤塚イズムを継承しているのはみうらじゅん氏が目立つくらいなのではないでしょうか。ただ、赤塚氏と比べてしまうと、時代のせいもあるとは思うのですがスケールが大きく、今後このドラマがどこまでそんな赤塚氏の事を描いていけるのか楽しみではあります。

ただ、最初に書いたように、できれば山下洋輔氏のような人もドラマでは出てきてほしいですし、漫画だけでなくあらゆるメディアやジャンルを巻き込みながら自身の表現もしてきた赤塚氏の全貌を特に当時の事を知らない人にもわかるように伝えて欲しいと切に思います。

(番組データ)

土曜ドラマ バカボンのパパよりバカなパパ(1)全5回「わしは天才なのだ」NHK総合
2018/07/02 02:35 ~ 2018/07/02 03:50 (75分)
【出演】玉山鉄二,比嘉愛未,長谷川京子,森川葵,馬場徹,駿河太郎,マギー,浅香航大,井藤瞬,千代將太,駒木根隆介,押元奈緒子,草笛光子,住田萌乃,
【語り】松尾スズキ
【原作】赤塚りえ子,
【脚本】小松江里子
【音楽】大友良英,Sachiko M,江藤直子

(番組内容)

破天荒な日々を送っていた不二夫(玉山鉄二)を元嫁の登茂子(長谷川京子)と、娘・りえ子(森川葵)は心配し、眞知子(比嘉愛未)を気に入り、結婚させようと画策する。

天才ギャグ漫画家・赤塚不二夫(玉山鉄二)は、アシスタントや編集者と遊ぶように漫画を描き、奥さんである登茂子(長谷川京子)、娘・りえ子と別れ、夜は飲み屋でバカ騒ぎするという破天荒な日々を送っていた。時は流れて、成長したりえ子(森川葵)は不二夫に再会する。そして、登茂子とりえ子は、大きな愛情で不二夫を包む眞知子(比嘉愛未)を気に入る。二人は、眞知子と不二夫を結婚させようと作戦を立てるが…。