山下洋輔の出てこない赤塚不二夫物語になるのか?

今回、第一回目の本放送を見逃したので再放送を録画で見たのですが、ドラマのスタッフ欄には音楽に大友良英氏の名前があり、赤塚氏が夜な夜なクラブで飲んでいる時にちょっと流れかけたジャズっぽい音楽が大友氏の手によるものなのかと思いながら、このドラマの「家族」というテーマにはちょっと違う観点から見ていました。

残念ながら赤塚氏が第一回目の中で遊んでいるのは主にフジオ・プロダクション内のアシスタントや漫画製作のためのブレーン、そして編集者に限られているようでした。実際私は直接赤塚氏とお会いしたことがないので本当のところはわからないものの、あらゆるジャンルで自身の表現を模索している人たちが赤塚氏と飲み、交流をし、その中から新たな展開が生まれてきたという側面もあり、私は赤塚氏の漫画とともにそうした赤塚氏のエッセンスを得て大きくなったクリエーターの方々も大好きです。

そんな中でも感謝しているのが、少年時代にリアルタイムで赤塚氏の漫画を読み、そろそろ自分も漫画からは卒業かと思った時に出会ったのが山下洋輔トリオ(ビアノ山下洋輔、アルトサックス坂田明、ドラムス森山威男)のフリージャズだったのですが、何とこのお三人は国内ツアーの時に移動手段がないので、懇意にしている赤塚氏のベンツを借りて全国を回っていたというお話を山下氏のエッセイで読み、改めて赤塚氏の懐の広さを感じられたことです。

ちなみに、赤塚氏のお葬式で「私もあなたの作品でした」と言ったタレントのタモリさんも、もともと赤塚氏と知り合いだったわけではなく、山下トリオが博多でライブを行なった時にその打ち上げで絶妙な密室芸を披露したことで山下さんらが赤塚氏にタモリさんを紹介し、タモリさんが赤塚氏のお宅に居候をしながらテレビに出してもらい、それがタレントとしてのタモリさんの活動の始まりということがあるのです。ネット上にはタモリさんはなぜ出てこないのか? という書き込みを多く見付けましたが、私としては山下洋輔さんをはじめとする多くの「非漫画家集団」がドラマで出てこないところが、今一つ赤塚氏の魅力を伝え切れないのではないかと不安に思うところです。

ドラマの中での赤塚氏のセリフの一つだったと思うのですが、「常識人でなければ面白い漫画を描くことができない」というのはドラマの中では実に皮肉に聞こえますが、それこそが漫画家の赤塚不二夫氏が抱えていた葛藤だったのではないかと思います。デビューまでは線の細い内気な美少年として仲間うちから描かれることが多い赤塚氏ですが、いわゆるギャグ漫画を心の中に秘めたように構想しており、それがギャグ漫画としてのデビュー作「ナマちゃん」に凝縮されています。

その後、赤塚氏は自分のギャグ漫画の原点としてその面白さを当時の子供たちにも伝えようと、彼が愛してやまなかった杉浦茂氏の漫画の登場人物の決めセリフ「レレッ?」をいつも使う「レレレのおじさん」というキャラクターを作ります。当時は杉浦茂氏の盗作ではないか? という話も聞かれたそうですが、私はあくまで杉浦氏の漫画をリスペクトする中での行動だと思いますし、杉浦氏自身が漫画一筋の真面目な方だったという話を聞き、ギャグ漫画家の理想として話に出したのではないかと思われます。

現代でも多くの漫画家は真面目でマスコミにはほとんど登場せず、かろうじて赤塚イズムを継承しているのはみうらじゅん氏が目立つくらいなのではないでしょうか。ただ、赤塚氏と比べてしまうと、時代のせいもあるとは思うのですがスケールが大きく、今後このドラマがどこまでそんな赤塚氏の事を描いていけるのか楽しみではあります。

ただ、最初に書いたように、できれば山下洋輔氏のような人もドラマでは出てきてほしいですし、漫画だけでなくあらゆるメディアやジャンルを巻き込みながら自身の表現もしてきた赤塚氏の全貌を特に当時の事を知らない人にもわかるように伝えて欲しいと切に思います。

(番組データ)

土曜ドラマ バカボンのパパよりバカなパパ(1)全5回「わしは天才なのだ」NHK総合
2018/07/02 02:35 ~ 2018/07/02 03:50 (75分)
【出演】玉山鉄二,比嘉愛未,長谷川京子,森川葵,馬場徹,駿河太郎,マギー,浅香航大,井藤瞬,千代將太,駒木根隆介,押元奈緒子,草笛光子,住田萌乃,
【語り】松尾スズキ
【原作】赤塚りえ子,
【脚本】小松江里子
【音楽】大友良英,Sachiko M,江藤直子

(番組内容)

破天荒な日々を送っていた不二夫(玉山鉄二)を元嫁の登茂子(長谷川京子)と、娘・りえ子(森川葵)は心配し、眞知子(比嘉愛未)を気に入り、結婚させようと画策する。

天才ギャグ漫画家・赤塚不二夫(玉山鉄二)は、アシスタントや編集者と遊ぶように漫画を描き、奥さんである登茂子(長谷川京子)、娘・りえ子と別れ、夜は飲み屋でバカ騒ぎするという破天荒な日々を送っていた。時は流れて、成長したりえ子(森川葵)は不二夫に再会する。そして、登茂子とりえ子は、大きな愛情で不二夫を包む眞知子(比嘉愛未)を気に入る。二人は、眞知子と不二夫を結婚させようと作戦を立てるが…。


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