番組放送前から、金曜日のお昼の「バイキング」に告知名目でこの番組出演の船越英一郎さんが出演し、すぐNHKの自らが司会を務める番組にそれこそ「レコード大賞→紅白歌合戦」ばりの移動をしたことが話題になりました。恐らく、本人役で出演する船越英一郎さんが冤罪疑惑を掛けられるというストーリーだけに、世の中で一番船越英一郎さんに対しての屈折した感情を持つと思われる松居一代さんが何らかの形で出てくるのではないかと期待を持たせたことは確かでしょう。
しかし、ドラマの内容というのはいわゆる「2時間サスペンスあるある」を散りばめ、ついでに船越英一郎さんの離婚というところでお相手の名前は出さずにストーリーは進行していきます。正直言って、犯人が木下ほうかさんだったことは意外ではありませんでしたが、なぜそこまで船越英一郎さんを殺人者としてハメる必要があったのか、その動機についてはかなりの説明不足だったと思います。
結局の所、今回の制作を担当したホリプロは、最近の船越英一郎さんに対するかなりなスキャンダラスな報道を利用して、内容的には通常の2時間サスペンスとしては相当内容のないドラマを見せようとしたと考えることもできると思います。
しかし、こうした手法は今の世の中ではあまり通用しません。江戸時代には「珍獣イタチ」の興業と称して「普通の板っぺらに朱をぬったもの」を「板血」だとする看板と内容の違いが甚だしい見世物小屋でも、全国を渡り歩く中でそのカラクリを知っている者というのはそれほどいません。都市部でなく地方の村だけを回るような興業なら、かなり稼げたのではないかと思いますが、今はネットでそのカラクリは簡単に全国に伝わります。
そして、もう一つ思う事には、もしこの番組が船越英一郎さんではなく渡瀬恒彦さんの芸能生活○○周年の特別企画という風な形だったら、もし渡瀬さんにスキャンダルが発生していたとしても、このような半分ふざけたような内容にできるのかということも問いたいです。それほど番組の内容に文句を言わないで粛々とその仕事を遂行する船越さんだからこそこの企画が成り立ったのだとしたら、逆に船越さんが可愛そうにも思えてきます。
それこそ、後日ドキュメンタリーで今回のプロデューサーと船越さん本人が2時間サスペンスについて真面目に激論するような番組が出てくればそれはそれで、討論の土台としての作品として価値は出てくるとは思いますが、そんな風にサスペンスドラマについて考えていない人たちが多いからこそ、あのような番組が成り立ったのでしょう。
しかし、ドラマとしては時代劇がほぼ終了し、2時間サスペンスも昔のように制作できないとなると、今後のテレビドラマはどうなってしまうのか、本気で心配になってしまいます。バラエティや若年層を主なターゲットにしたドラマで十分というならそれでもいいでしょうが、そうなると他の民放とは毛色が違ってきて、ドラマ視聴者の棲み分けが起こるような感じもあります。今後、船越英一郎さんが主演のきちんとしたサスペンスドラマがフジテレビで作られるのかどうか、それにも今後注目したいと思います。
(番組データ)
金曜プレミアム・芸能生活35周年特別企画 船越英一郎殺人事件 フジテレビ
2018/08/24 19:57 ~ 2018/08/24 21:55 (118分)
【配役】
船越英一郎…船越英一郎(本人役)
桜庭彩乃…夏菜
柳万奈美…内山理名
源田孝介…木下ほうか
花巻裕也…桐山漣
山村紅葉…山村紅葉(本人役)
萬田久子…萬田久子(本人役)
吉田鋼太郎…吉田鋼太郎(本人役)
内藤剛志…内藤剛志(本人役)
北大路欣也…北大路欣也(ナビゲーター)
【脚本】 波多野都
【編成企画】 加藤達也(フジテレビ編成部)
【プロデューサー】 平部隆明、大健裕介、白石裕菜、鈴木俊明(ホリプロ)
【監督】 猪原達三
【制作】 フジテレビ
【制作著作】 ホリプロ
(番組内容)
これまでの2時間サスペンス主演作は100本以上!“サスペンスの帝王”船越英一郎が芸能生活35周年を記念し、初めて本人役で主演に挑みます! 殺人事件に巻き込まれた俳優・船越英一郎は、2時間サスペンスで得た知識と経験を駆使して推理に挑みますが、次々と予想もできない危機に襲われ、船越自身が殺人事件の容疑者に!?本当に船越が犯人なのか!?事件の真相は!?フィクションの中にリアルが織り込まれる2時間サスペンス。船越英一郎芸能生活35周年を記念し、豪華俳優陣も本人役で集結です!
〈あらすじ〉
船越英一郎(船越英一郎)芸能生活35周年記念企画の2時間サスペンス『独身貴族探偵・桜小路優』の撮影が世田谷撮影所で行われていた。撮影現場セットでは、桜小路役の船越が事件のあったカラクリ屋敷について推理をしている。すると開かないはずの扉が開き、そこからテレビプロデューサーの遺体が倒れ込んできた。
悲鳴が飛び交う撮影現場。スタジオは一般人が出入りできない密室であることから、容疑者は撮影関係者・スタッフ・出演者と考えられ、船越自身も容疑者の一人となっていく。ドラマの撮影は中止に、ネットには殺人事件のあらましが詳細に報じられ、船越が殺人犯なのではという憶測が広まっていく。まさしく崖っぷちに立たされた船越は、長年経験した2時間サスペンスで得た膨大な知識を総動員し、難事件に立ち向かう。