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大間のマグロ漁師・山本秀勝さん父子の絆 その時二男は?

今回の番組のテーマは「絆」ということでしたが、若手漁師の南さん兄弟とともに最後に登場したのは番組の看板スターで、視聴者の方でも「今回はマグロが釣れた?」とつい気にしてしまう悲運の漁師・山本秀勝さんとその息子の山本剛史さんがお二人で協力してマグロを揚げたことが理由になっていると思われます。

毎回、番組の取材中にマグロは揚がるのだろうかとハラハラしながら見るのがこのドキュメンタリーの面白さだと思うのですが、何と今回は取材中に三匹ものまぐろを山本秀勝さんは獲りました。しかし、見ているこちらが期待していたマグロが揚がったのを祝うための「スーパーのお寿司」での夕食は今回もありませんでした。山本さんの気持ちとしては50キロ台、60キロ台、70キロ台と3匹トータルで100キロを超えても意味はなく、一匹で100キロ超えのマグロを獲らないとスーパーのお寿司でのお祝いは無しということのようでしたが、ちょっとそこで気になることがないわけではありません。

スーパーのお寿司なら、お惣菜とお刺身を合わせて買うより安く上がるのでは? とつい余計な事を考えてしまいますが、その辺は山本さんなりのこだわりということで、次回こそ自宅で一緒に暮らす二男といっしょにお寿司を頬張る姿というものを見たいという気になるから不思議ですが、この山本さんと二男との関係は良好なのか? ということも気になるのです。

まあこういうことは、山本さん一家からすると余計なお世話にしかなりませんが、漁師として着実に成長している長男の山本剛史さんとの「絆」は、番組の後半に親子で協力して(電気ショッカーが壊れた山本秀勝さんの元に助け船としてやってきた息子の剛史さんとの漁の様子が紹介され、さらにスーパーのお寿司は買って来ないのに、二人で協力してマグロを揚げた日の夜に近所の女の人のいるスナックには行き(^^;)、そこで長男の話をはにかみながらする姿というものが実に微笑ましく描かれていると思います。しかし、山本さんのもう一人の息子である二男については、同居しているにも関わらずほんのわずかの出演場面しかなく、一応廃品回収の仕事をしているものの、その際の親子の会話も紹介されず、その点がとても気になりました。

一般的なことで言うと、毎日が博打のようなマグロ漁師の世界に、すでに家庭がありお子さんもいる中で飛び込んだ長男の方が無謀で心配すべき存在ではあるのですが、全て自分の釣果ではないにしても今年も取材中に195キロのマグロを揚げた長男の剛史さんは、近い将来には漁師として一本立ちし、家族を養って行けるのではないかという気もしますが、陸の仕事に就いて生活も安定するはずなのに父との同居を続けている二男が今後どうなっていくのかというのが本当に気がかりになってしまうのです。

今回の山本秀勝さんの姿についても、船の中に潜って自分で船を修理している時についバールに頭をぶつけてしまうなど、テレビ的な面白さを滲み出しているという感じがするのですが、それは決して山本さんがテレビカメラを前にしても意識しないでその場その場で一生懸命に漁師の仕事を行なっているからこそ出る面白さであると思います。果たして二男はそうした父親の姿を見てどう思っているのでしょうか。年齢的なことから父親の事を軽蔑したり莫迦にするような事もあるかも知れませんが、このシリーズに最初に登場してから視聴者の話題を一気にさらい、現在も山本さんが出るからこの番組を見るという人がいるのは、一生懸命な生きざまの中からにじみ出てくる自然な面白さというものが不変で、今なおその輝きを失っていないことの表われでもあるのです。

山本さんの飼い猫の「ピコ太郎」についても、その生存を確認し、山本さんの不安な心を癒やす存在であるところに見ていて本当に微笑ましく思いました。テレビスタッフが、「もし今年になって猫を飼いだしていたら『ひょっこりはん』になっていた?」と聞いていましたが、山本さんは「ひょっこりはんなんて猫の名前じゃねえ」と至極まっとうに答えていて、そんなきちんと常識があり取材にも正面から応える人間としての素朴さがひどくなつかしく、また次回があるとこの番組を見てしまうんだろうなと思います。

テレビ局の方でもこれだけ山本秀勝さんにおんぶにだっこして番組の人気が出ているのですから、テレビに出しても恥ずかしくないようテレビ局がお金を出して山本さんの前歯をきちんと入れさせてほしいということを最後にお願いしておきたいと思います。

(番組データ)

マグロに賭けた男たち2019“絆” テレビ朝日
2019/03/16 18:56 ~ 2019/03/16 20:54 (118分)
【ナレーション】渡辺篤史

(番組内容)

青森・大間が「記録的な不漁」あの“悲運の漁師”山本秀勝さんは千載一遇のマグロとの格闘で体力が限界になり…電気ショッカーも故障で絶体絶命!その時…あの男が現れる!

【山本秀勝さん(65歳)~悲運の漁師!息子に見せる親父の意地~】

番組が17年追い続けているマグロ一本釣り漁師。2年前には、4年ぶりとなる100キロ超えの大物マグロを釣り上げた。だが今シーズンの大間は記録的な不漁!マグロは1日に1度現れるかどうか…。

それでも、こだわりのポイントでマグロ漁を続ける山本さんに、マグロのアタリが来た!しかし、千載一遇のマグロとの格闘の最中、なんと電気ショッカーが故障!さらに、体力も限界になり、絶体絶命の大ピンチ!その時…『あの男』が現れる!

【南芳和さん(34歳)~大間トップを争う男!若手ナンバーワン漁師~】

南芳和さんは『若手ナンバーワン漁師』として、大間でも名の知れた兄弟船の船頭。昨シーズンは、弟・竜平さん(25歳)と共に連日何本ものマグロを釣り上げてみせた!しかし今シーズンの大間は記録的な不漁。『若手ナンバーワン』でも例外ではない。

苦境を打開すべく、これまであまりやらなかった『苦手な漁法』に挑戦し、悪戦苦闘!弟・竜平さんも、尊敬してやまない兄の力になりたいと奮闘!巨大マグロを釣り上げる!

【泉健志さん(32歳)~船頭6年目のスゴ腕マグロ漁師!~】

山本さんの長男・剛史さんの心に火をつけた後輩、『もうひとりのタケシ』。 かつて1日に4本のマグロを釣り上げるなど、マグロ漁の実力はベテランをも凌ぐ勢い。5年前はサラサラの長髪だったが、今ではヒゲを蓄え漁師らしい風貌になり気合十分!しかし今シーズンは極度の不漁。健志さんは1カ月もマグロを釣り上げていない…。

2歳になった可愛い盛りの娘のため、プライドと意地をかけ巨大マグロを釣り上げる!


「悲運の漁師」山本秀勝さんはなぜテレビにフィットしたのか

この番組はブログを立ち上げた時に新作が放送されたら必ずこの番組について書こうと思ったほど、表題の山本さんの動向に個人的に注目しています。これほど全く自身とは関係のない本州最北端でマグロの一本釣りを行なう漁師の事が気になるのはなぜなのか、今回は世界最高の技術や感動の作りものでない人間ドラマも垣間見える、平昌冬季オリンピックの開催期間中に放送があったので、ちょっとオリンピック関連番組と比較しながら考えてみることにします。

今回の放送では、番組が始まった当時と比べると出演者の顔ぶれが変わっていることを実感させるように、30代でものすごい量のマグロを揚げる若い兄弟漁師と、彼らと同じ30代ながら大間最年少漁師として海に出ている方の2組に山本さんの近況、さらに見習いで別の師匠の元でマグロ一本釣りに挑戦する山本さんの長男の様子を見せる構成になっています(今回次男の現在については出てきませんでした)。確かに技術も根性も、創意工夫の姿も、漁を離れた時の表情もまさに地元の勝ち組(特に若手No.1の兄弟漁師の方々)なんだなあと思え、好成績を挙げると延々と紹介される日本の人気選手にその存在をだぶらせることができます。

ただ、そういう方がいくら釣果を誇ろうとも、テレビに映し出される映像というのは狙い通りにマグロを釣り上げた場面だけです。オリンピックの金メダリストの競技やそのメダルに至った物語さえ毎日見せられていると辟易してきてしまうので、今回だけでもうお腹いっぱいというのが正直なところなのです。
「悲運の漁師」山本秀勝さんはこれまでの番組出演で、何と一年間全くマグロが釣れない年が3年も続くなど、マグロを面白いように釣る人達と比べて何という悲運続きなんだと涙で枕を濡らしながら見る人がいる一方、半ば莫迦にするように笑いながら見るという人も少なからずいると思います。確かにそういった山本さんの悲運の数々をとらえて笑いにつなげようとする演出上の意図が感じられる作りにもなっているのですが、ここで考えていただきたいのが、山本さんご本人がある意味「無礼」な事もされる中で何故取材を受け入れ、漁船に取材クルーを受け入れる寛容さがあるのかということです。

それが地方の人特有の「人の良さ」であり、その人の好さに付け込んでテレビ局も取材に入ったのかも知れませんが、次第に自分の姿が単なる漁師としてではなく、自分が失敗する様子をクローズアップされて怒りたいことがあったり、さらにマグロ漁船で密着中に釣れないことを突っ込まれることに対して声を荒げたり問い掛けに答えなくなる様子まで画面に映し出されていたこともありました。

ただ、この番組の最初は山本さん個人へ集中した取材をしていたわけではなく、元々は夫婦舟でマグロを釣っていた奥さんを亡くし形見のスカーフを巻いて漁に出る、山本さんの先輩の渡辺さんに密着取材をしている中で、渡辺さんに「助け舟」を出す山本さんにも取材し、その素朴な人柄となかなかやることと釣果が噛み合わない「悲運」をそのまま画面で見せられることで視聴者の興味がどんどん山本さんに集まる中、山本さんの事情としてもお二人のお子さんの結婚や就職という人生のイベントをひかえる中でテレビの存在は大事であることに思い至ったことは考えられます。

今回の密着では、最初から冬の漁に山本さんは出遅れてしまいます。それは、漁船同士の衝突事故を起こし、船体に穴が開いてしまったからで、修理が済むまでの間は漁に出られなかったのです。個人的にはスピードが出ていて衝突したのではなかったので決して「悲運」ということではなく、逆に漁船の穴を塞いで復帰をすぐに果たせたのは「幸運」だったのではないかとも思います。
さらに、若手の漁師が100キロ以上の大間まぐろを水揚げする様子を映し出す中、山本さんも3年振りにマグロを釣り上げたのですが、その大きさは40キロ台という、釣り上げた当の山本さんも手放しで喜べず、番組を継続してご覧になっている方ならおわかりのご自身へのご褒美としての儀式「スーパーのお寿司で夕食」という事もせず、最近買いだしたネコの「ピコ太郎」へのご褒美もなしということで本年は終了でした。

二人の息子が家を出て、その寂しさをまぎらわすために譲り受けたネコのピコ太郎と戯れる山本さんの姿は実に人柄の良いおじさんという感じで見ているだけでもなごんでしまいます。私自身がこの番組にはまる一番の要因は、こうしたどこにでもいそうな、決してずばぬけた能力があるわけではない地方の漁師さんが、一人で乗り続けるには経費がかかるわりに必ずもうかるわけでもなく、冬の荒海に乗り出すため常に命の危険もあるマグロの一本釣りを諦めずに続けているという生き様に励まされるからに他なりません。

オリンピックは勝つことより参加することに意義があるという言葉がありますが、今の世の中はメダルを取るか取らないかでその注目度に大きな差が出て、そもそもオリンピックに出られる事というのはその競技のスペシャリストであることの証で、特に冬の競技はマイナーな種目が多いのでメダリスト偏重でなく、オリンピック終了後でもサポートが少ない中で頑張っている様子を報道して欲しいと思いますが、そんなテレビ界の注目の付け方からすると、この番組の山本秀勝さんの扱いは破格で、それこそ中高年の星のような感じを受けるのは私だけでしょうか。

山本さんは他の出演漁師と比べても使っている装備が古く、要領も一人で船を操縦しながら漁をしている関係もあり必ずしも良いとは言えないのですが、大間に行く観光客も山本さんの船を目指したり、漁協のネットショップでも「山本さんグッズ」を大々的に売り出すくらい私だけでなく多くの人から注目を集めるだけの存在になっています。これはひとえに山本さんの素朴な人柄と、人から「悲運の漁師」と言われてもめげず、今日よりも朝日の希望に向かって出港する生きざまに多くの人がシンパシーを感じていると私には思えます。くれぐれも体調には気を付けて、ゆくゆくは長男の方との親子船で漁をする姿も見てみたいものですが、ドキュメンタリーに予断は禁物です。今後もこの番組が続くということがあるなら、多くの普通の視聴者が生きていくための力が生まれるような山本さんの姿を映していって欲しいですね。

(番組データ)

マグロに賭けた男たち2018 ~あの悲運の漁師は?極寒の死闘スペシャル~ テレビ朝日
2018/02/18 18:00 ~ 2018/02/18 20:00 (120分)
【ナレーション】渡辺篤史

(番組内容)

命とプライドを賭けて、“海のダイヤモンド”=本マグロに真剣勝負を挑む青森・大間のマグロ漁師たちに密着取材。 今シーズンは、番組史上最高の“爆釣”!かつてない大漁を激撮! さらに、あの“悲運の漁師”山本秀勝さんにも密着。昨シーズン4年ぶりに100kg超えの巨大マグロを釣り上げ、男の意地を見せつけてくれた山本さんだが、今シーズンは…? 若手ナンバー1の凄腕漁師や大間最年少の一本釣り漁師も登場!

【“悲運の漁師”山本秀勝さん】 16年追いかけてきた“悲運の漁師”は、今シーズンも悲運が襲い続けていた!今シーズン、長男・剛史さんも一本釣りに初挑戦!巨大マグロに賭ける山本親子の行方は…

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