「悲運の漁師」山本秀勝さんはなぜテレビにフィットしたのか

この番組はブログを立ち上げた時に新作が放送されたら必ずこの番組について書こうと思ったほど、表題の山本さんの動向に個人的に注目しています。これほど全く自身とは関係のない本州最北端でマグロの一本釣りを行なう漁師の事が気になるのはなぜなのか、今回は世界最高の技術や感動の作りものでない人間ドラマも垣間見える、平昌冬季オリンピックの開催期間中に放送があったので、ちょっとオリンピック関連番組と比較しながら考えてみることにします。

今回の放送では、番組が始まった当時と比べると出演者の顔ぶれが変わっていることを実感させるように、30代でものすごい量のマグロを揚げる若い兄弟漁師と、彼らと同じ30代ながら大間最年少漁師として海に出ている方の2組に山本さんの近況、さらに見習いで別の師匠の元でマグロ一本釣りに挑戦する山本さんの長男の様子を見せる構成になっています(今回次男の現在については出てきませんでした)。確かに技術も根性も、創意工夫の姿も、漁を離れた時の表情もまさに地元の勝ち組(特に若手No.1の兄弟漁師の方々)なんだなあと思え、好成績を挙げると延々と紹介される日本の人気選手にその存在をだぶらせることができます。

ただ、そういう方がいくら釣果を誇ろうとも、テレビに映し出される映像というのは狙い通りにマグロを釣り上げた場面だけです。オリンピックの金メダリストの競技やそのメダルに至った物語さえ毎日見せられていると辟易してきてしまうので、今回だけでもうお腹いっぱいというのが正直なところなのです。
「悲運の漁師」山本秀勝さんはこれまでの番組出演で、何と一年間全くマグロが釣れない年が3年も続くなど、マグロを面白いように釣る人達と比べて何という悲運続きなんだと涙で枕を濡らしながら見る人がいる一方、半ば莫迦にするように笑いながら見るという人も少なからずいると思います。確かにそういった山本さんの悲運の数々をとらえて笑いにつなげようとする演出上の意図が感じられる作りにもなっているのですが、ここで考えていただきたいのが、山本さんご本人がある意味「無礼」な事もされる中で何故取材を受け入れ、漁船に取材クルーを受け入れる寛容さがあるのかということです。

それが地方の人特有の「人の良さ」であり、その人の好さに付け込んでテレビ局も取材に入ったのかも知れませんが、次第に自分の姿が単なる漁師としてではなく、自分が失敗する様子をクローズアップされて怒りたいことがあったり、さらにマグロ漁船で密着中に釣れないことを突っ込まれることに対して声を荒げたり問い掛けに答えなくなる様子まで画面に映し出されていたこともありました。

ただ、この番組の最初は山本さん個人へ集中した取材をしていたわけではなく、元々は夫婦舟でマグロを釣っていた奥さんを亡くし形見のスカーフを巻いて漁に出る、山本さんの先輩の渡辺さんに密着取材をしている中で、渡辺さんに「助け舟」を出す山本さんにも取材し、その素朴な人柄となかなかやることと釣果が噛み合わない「悲運」をそのまま画面で見せられることで視聴者の興味がどんどん山本さんに集まる中、山本さんの事情としてもお二人のお子さんの結婚や就職という人生のイベントをひかえる中でテレビの存在は大事であることに思い至ったことは考えられます。

今回の密着では、最初から冬の漁に山本さんは出遅れてしまいます。それは、漁船同士の衝突事故を起こし、船体に穴が開いてしまったからで、修理が済むまでの間は漁に出られなかったのです。個人的にはスピードが出ていて衝突したのではなかったので決して「悲運」ということではなく、逆に漁船の穴を塞いで復帰をすぐに果たせたのは「幸運」だったのではないかとも思います。
さらに、若手の漁師が100キロ以上の大間まぐろを水揚げする様子を映し出す中、山本さんも3年振りにマグロを釣り上げたのですが、その大きさは40キロ台という、釣り上げた当の山本さんも手放しで喜べず、番組を継続してご覧になっている方ならおわかりのご自身へのご褒美としての儀式「スーパーのお寿司で夕食」という事もせず、最近買いだしたネコの「ピコ太郎」へのご褒美もなしということで本年は終了でした。

二人の息子が家を出て、その寂しさをまぎらわすために譲り受けたネコのピコ太郎と戯れる山本さんの姿は実に人柄の良いおじさんという感じで見ているだけでもなごんでしまいます。私自身がこの番組にはまる一番の要因は、こうしたどこにでもいそうな、決してずばぬけた能力があるわけではない地方の漁師さんが、一人で乗り続けるには経費がかかるわりに必ずもうかるわけでもなく、冬の荒海に乗り出すため常に命の危険もあるマグロの一本釣りを諦めずに続けているという生き様に励まされるからに他なりません。

オリンピックは勝つことより参加することに意義があるという言葉がありますが、今の世の中はメダルを取るか取らないかでその注目度に大きな差が出て、そもそもオリンピックに出られる事というのはその競技のスペシャリストであることの証で、特に冬の競技はマイナーな種目が多いのでメダリスト偏重でなく、オリンピック終了後でもサポートが少ない中で頑張っている様子を報道して欲しいと思いますが、そんなテレビ界の注目の付け方からすると、この番組の山本秀勝さんの扱いは破格で、それこそ中高年の星のような感じを受けるのは私だけでしょうか。

山本さんは他の出演漁師と比べても使っている装備が古く、要領も一人で船を操縦しながら漁をしている関係もあり必ずしも良いとは言えないのですが、大間に行く観光客も山本さんの船を目指したり、漁協のネットショップでも「山本さんグッズ」を大々的に売り出すくらい私だけでなく多くの人から注目を集めるだけの存在になっています。これはひとえに山本さんの素朴な人柄と、人から「悲運の漁師」と言われてもめげず、今日よりも朝日の希望に向かって出港する生きざまに多くの人がシンパシーを感じていると私には思えます。くれぐれも体調には気を付けて、ゆくゆくは長男の方との親子船で漁をする姿も見てみたいものですが、ドキュメンタリーに予断は禁物です。今後もこの番組が続くということがあるなら、多くの普通の視聴者が生きていくための力が生まれるような山本さんの姿を映していって欲しいですね。

(番組データ)

マグロに賭けた男たち2018 ~あの悲運の漁師は?極寒の死闘スペシャル~ テレビ朝日
2018/02/18 18:00 ~ 2018/02/18 20:00 (120分)
【ナレーション】渡辺篤史

(番組内容)

命とプライドを賭けて、“海のダイヤモンド”=本マグロに真剣勝負を挑む青森・大間のマグロ漁師たちに密着取材。 今シーズンは、番組史上最高の“爆釣”!かつてない大漁を激撮! さらに、あの“悲運の漁師”山本秀勝さんにも密着。昨シーズン4年ぶりに100kg超えの巨大マグロを釣り上げ、男の意地を見せつけてくれた山本さんだが、今シーズンは…? 若手ナンバー1の凄腕漁師や大間最年少の一本釣り漁師も登場!

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