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NHKは「阿波おどり」を広く見てもらう気がないらしい?

ちょっとテレビの番組表を見ていて気になったのですが、2018年の徳島市で8月のお盆に行なわれた「阿波おどり」ですが、同じNHKBSでは生中継があったような気がしていたのですが、今年は何と月曜日の午後4時前に録画編集したものを放送しました。2018年は「総踊り」が中止になったり市長や徳島新聞が批判の矢面に立たされた報道によるところもあったのでしょうが、過去最低の人出と言われ、もし生中継をしたら何が起こるかわからないと思って録画中継にするのは理解できるにしても、放送する時間は一体どうなの? と思ったのは私だけではないはずです。

中継の演舞場の席は最初の連の時には埋まっていて、そうした事も編集された結果だということを感じていました。阿波おどり開催中の観覧席はかなり売れ残って空いていたという報道もあり、実際にガラガラの観客席の写真をこの夏に何枚も見ました。これは、テレビの画面というものがそこで起こっている状況を全て映しているというわけではなく、あくまでカメラで撮られた部分のみしか映らないということもあります。

自分も写真を撮る時にはそれほど盛り上がっていない状況でも画面を切り取ることで大盛況のような写真をあえて撮ることもありますが、恐らく今回の阿波おどりについてもそんな感じで人がいる時間帯や、人が集まっている場所を狙って撮影したのではないかという風にも思えます。例年なら多少席が埋まっていなくても全くその事には関心はなく、あくまで踊りのクオリティや迫力だけを見て楽しむだけなのですが、2018年という年は阿波おどりにとって難儀な年だったと思ってしまいます。

ただ、今年は逆に踊り以外にも、観客席の上にある看板にはどんな企業が入っているのだとか、どのお客が招待券を利用して、どのお客がお金を出してチケットを買って見ているのか、その踊りへの声援の掛け方でわからないかと思ったりとか(^^;)、そんな事も気になってしまいました。

しかし、番組を見続けていく中で、私はその瞬間を見てしまいました。番組の半ばに今回の騒動の概要は伝えたものの、あくまで徳島市が準備をしっかりやって開催にこぎつけたというニュアンスの説明だけで、市長が禁止した「総踊り」についての言及もありませんでした。ただ、その直後に踊りの様子が紹介された「阿呆連」の踊りの最初の部分では、多分踊りのスタート地点付近だと思うのですが、見事にガラガラの観客席が一瞬映し出されていました。さすがに、テレビで踊りの全てを流す中では、一部の客席がガラガラなのを隠すことはできなかったという印象です。

阿波おどりの魅力を伝える番組ということで、あくまで前向きに、騒動については極力伝えずに現場は盛り上がっているよ! という事を伝えたいというのが番組の目的なのかも知れませんが、だったら見る人の限られる(わざわざ録画して見る人を含めて)月曜のまだ夕方前の時間帯にぶつけて放送することの意味というものは何なのか? と改めて考えてしまいます。

結局、毎年阿波おどりについて番組を作ることは決まっていて、今年は騒動の影響で生中継できず、どんなに隠そうとしてもガラガラの客席を映さざるを得ない事がわかった時、これは放送時間をずらして放送してやれという風にしか私には感じられませんでした。

私はたまたまその前に見ていた深作欣二監督の忠臣蔵の映画を見た流れで見ることができましたが、これも月曜日の昼間に休みだったからという事があって、そうでなければ全く見ることのできない時間帯でした。毎年、この中継やVTRの取材を受けたちびっ子を含めた踊り手さんもさぞや残念だろうと思います。なぜ同じウィークデーでも多くの人が仕事終わりで見ることのできる夜に編成できなかったのか。それがテレビだと言われればそれまでですが、やはりこうした日本の祭りというのはそこで行なわれているものをリアルタイムで見たり、参加した人たちが家族そろって見られる時間に放送することに意義があるのではないかと思うのですが。

さらに言うと、今年だったらテレビ中継される演舞場でも当日券が余っていたのではないかと思われるので、本当に阿波おどりを間近で急に見たくなったら近くにいる人がテレビを見て現場に押しかけることもできます。これもテレビの即時性の一つです。

いつのころからかこうした日本の祭りや花火大会を生中継する番組がBSを中心に全国放送されることが多くなりました。私はもっぱらテレビで見てその魅力を感じるだけではありますが、テレビで見て大きな魅力を感じたものについてはいつか直接出掛けて見に行きたいものもあります。しかし、今年の阿波おどりの録画中継は、あらゆる意味で不満が残ることになったことだけは確かではないでしょうか。

ちなみに、再放送予定はすでにあるのですが、同じ9月ですが27日(木)深夜(28日(金)) 午前2時50分からというまたとんでもない時間でした(^^;)。再放送についてはこんなものかなという気もしますが、来年はきっちりと生中継にして、現場の良いところも悪いところもしっかりと伝えて欲しいものです。

(番組データ)

徳島 阿波おどり2018 NHKBSプレミアム
9/3 (月) 15:45 ~ 16:58 (73分)
【ゲスト】瀧本美織,
【解説】阿波おどり情報誌編集長…南和秀,
【アナウンサー】高山大吾

(番組内容)

徳島を代表する夏の祭り、阿波おどり。熱演の数々をたっぷりご紹介します。ゲストは、俳優の瀧本美織さん。なんと瀧本さんも、阿波おどりに初挑戦!見事、観客の前で踊りきれるのか?さらに、クイズ形式で阿波おどりのディープな世界をご紹介。これを見れば、あなたも阿波おどり通になれるかも。


山田風太郎の日記は学ぶべきか捨て去るべきか

三國連太郎さんが朗読する作家・山田風太郎さんの戦後から1993年まで43年間の未公開日記を時代別に辿りながら(『戦中派不戦日記』など、戦争時の日記は既に刊行されていました)、彼の残した言葉の意味を考えさせるような感じで番組は淡々と進んでいきます。三國連太郎さんが語る山田風太郎さんの言葉は、今の基準に照らすといわゆる「リベラル」的な考えのようで、中にはこのような番組など見るだけ無駄だと思っている方もいるのではないかと思います。

しかし、山田風太郎さんは戦前は自らの病弱に起因し、戦争に行けなかったことがあったからなのか筋金入りの皇国青年として育ち、昭和20年8月15日の太平洋戦争終結の日には仲間ともども降伏に反対し決起を考えたほど、思想的には右に寄った考えを持っていました。しかし、戦後のあまりの日本人の心の変化に(特に戦前から戦中の期間に軍国主義をうたっていた人たちの戦後になっての変化がすさまじかったので)、その後の日本政府や日本人の行動などを日記の中で憂うような考えを示すことになっていきます。経済的なメリットでアメリカ的なものにひれ伏すような感じではなく、あくまで地に足を付けて様々な日々通り過ぎていく事件などを日記に記していく中で、赤裸々な自身の考えを日記の中で表現しているように感じます。

作家の書く日記なので、もしかしたら書きながらある程度公開することも考えて書いているところもあったのかも知れません。現代にあてはめてみると、感じとしてはブログを使って今の自身の心況を自分のためだけでなく世間にも公表するような感じで書いていたのかも知れませんが、出版するにしてもまずは読んでくれる人がいるのかという問題もあり、実際に今まで出版されないところからも当時は必ず世間に公開されるという確信があって書かれていたのではないでしょう。今回の特集も「未公開日記」ということでの紹介なので、あざとい計算で書かれたものではないということは言えると思います。あえてあざといと言うなら、番組として強烈なインパクトを残すために三國連太郎さんを効果的に画面に出しつつ、さらに資料映像とからめて日記の一部分を抜き出して紹介する作り手としてのあざとさというのはあるかも知れませんが。

残念ながらこの番組で紹介された膨大な量の日記は未だ世に出てはいません。もしきちんと読めればこの番組の内容もきちんと検証することができるのかも知れませんが、研究者でもない限りは通しで読むことは難しいかも知れません。番組ゲストの五木寛之氏が番組を一緒に見た後でおっしゃっているように、山田風太郎の戦後の出来事を斜めから看ているようなネガティブさというものをたどる事は、豊かさがあふれる戦後の中で、現代にまで続くどんな問題が巣食っていったのかということを一部明らかにし、将来の自分たちが同じ失敗をしないようなヒントが隠されているような気がしないでもありません。

五木氏の言葉の力とはすごいもので、山田風太郎さんの未公開日記は司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」でなく「坂の下の霧」だと言えば、わかる人はどんなニュアンスの日記であるかがだいたいわかってしまいます。さらに登山でたとえると、一生懸命登って頂上まで至る登りも大切ではあるものの、安全に麓まで降りる下山というものも大切でどう実現するかということが大事だと思って書いたようなものだという話は、なるほどなと思います。日本はこれから単に下リ坂を転がり落ちていくのではなく、「収穫の時期」の楽しみもあると言い、これからの日本の「豊かさ」を楽しみに過ごすのも良いと締めくくられました。恐らく番組を見た方の年代によって感じるものが違ってくるのではないかと思います。

そう考えると、あんまり若い人がこの番組を見て老境に入ってしまうのも困りますし(^^;)、そんなネガティブな考えに凝り固まってしまうなら現状ではこんな番組を見たことなど忘れて自分の好きな事をやり通せばいいと思います。ただ、自分の信じた考え方でつき進んでいる若い方々に相手にされないまま、通り過ぎられてしまうというのでは悲し過ぎるので、こういった番組は定期的に放送していただくか、実際の山田風太郎さんの戦後の日記をどこかの出版社が出してくれると有難いものです。それこそ司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」に対比される書物として読まれ継がれていくのではないかというところもあるわけですし、関係各位のご英断を望みたいものです。

(番組データ)

プレミアムカフェ選 山田風太郎が見た日本~未公開日記が語る戦後60年~ NHK BS プレミアム
11/8 (水) 9:00 ~ 11:01
【朗読】三國連太郎,
【スタジオゲスト】作家…五木寛之,
【スタジオキャスター】渡邊あゆみ

(番組内容)

ハイビジョン特集 山田風太郎が見た日本~未公開日記が語る戦後60年~(初回放送:2005年)作家・山田風太郎晩年の未公開日記から、戦後60年の日本社会、経済の起伏を見つめる。朗読:三國連太郎