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ジャーナリズムを商業主義にかけるとドキュメンタリーは消える?

シリアに入ったまま行方不明になり、現地の武装集団の人質となったものの先日日本に帰国した国際ジャーナリストの安田純平氏について、本人がまだ記者会見をする前のインタビュー内容が明らかになるとともに、安田氏に対する一部のネットでのバッシングが始まりました。それを擁護するような形でテレビ番組内で発言したテレビ朝日の玉川徹氏の放った言葉の内容に、同じテレビ朝日系列でネット配信をしているAbemaTVで自らの冠番組を持っている元大阪市長で元大阪府知事の橋下徹氏が画面を通じて「徹底討論」をしたのですが、直接相対したのではなく、橋本氏は大阪のスタジオからの「中継による討論」となりました。

ここでの内容は他のメディアでも大いに語られていますので細かくは書きませんが、そこまで噛みつき合いになることはなく、お互いに言いたい事および釈明はきちんとしたような印象です。どちらにしても本人の発言がない状況で他人がとやかく言うことが大きなお世話であるわけですが、その「大きなお世話」をこれでもかと繰り返すのがテレビというものだと思いながら見ると、こうした討論も結構楽しいものです。

今回の討論を前にしてお二人はそれなりに考えが同じところもあったものの、決定的に違うという風に思ったのが、大企業のテレビ朝日社員という立場である玉川氏という立場からでは単なるポーズにしか過ぎないかも知れませんが、バッシングされるジャーナリストに比較的優しいのが玉川氏で、橋下氏の方は必ずしもそうではなく、ジャーナリストなら今までのニュースでは出て来ないような成果がなければ駄目だという、これもまた首長当時の考えに基づいた成果主義をフリージャーナリストである安田氏に求めている彼らしい言動でありました。

ただ、テレビの視聴率と番組のジャンルということで考えてみると、ジャーナリズムに成果主義をあてはめてしまうと、今回のような派手な議論は面白いので多くの人は見るでしょうが、長い時間かけて地味なテーマを追うようなドキュメンタリーというのは同じ時間に放送すれば視聴率が取れないのが当り前で、それは現在のテレビの番組表を見れば一目瞭然です。視聴率にとらわれない枠を持っているNHKこそ自由に多くの時間を費やせるところはありますが、そこにはフリージャーナリストの入る隙間はほとんどないでしょう。民放のドキュメンタリーが独立採算のような形で評価されれば今の深夜早朝の時間すら放送ができず、「テレビショッピンク」の方がテレビ局の売上を伸ばし収益に貢献する番組になることは明白です。

たとえ深夜や早朝でも現代の視聴者は録画で好きな時間に番組を見ることができますので、各テレビ局がドキュメンタリーを残しているのは一つの良心だと思っているのですが、常に普通のニュースでは報道されない特ダネを求められるようなドキュメンタリー製作の現場になってしまうようなら、それはもう、テレビの持つ一つのジャンルを放棄してしまうのではないかと私には思えます。

とどのつまりがフリーのジャーナリストの仕事の場が一つ無くなってしまうことになるわけです。橋下氏は番組の最後に「テレビ局はフリージャーナリストに高額の報酬を払うべきだ」との意見を述べておられましたが、橋下氏の理想が実現されればそもそも活動の場が無くなってしまうわけですから、テレビ局に臨時職員として雇われて海外に行くような形になるのかも知れません。確かにその方が現地での安全は確保されるでしょうが、「普通のニュースでは見られないようなスクープ」を取ることは難しくなるでしょう。

そうなると、今後は個人で活動する海外ジャーナリストは早めにテレビに見切りを付け、現地からのネット配信を有料で行なうとか、テレビとは違うところで取材費用を得るか、事前にアルバイトをして資金をためてから渡航するかという感じになり、今よりさらに状況は悪くなっていくでしょう。

ともあれ、現場を知らない人が意見を出してフリージャーナリストの存在そのものがおびやかされ、テレビのジャンルとしての「ドキュメンタリー」がこれ以上削られないように見ているこちらとしては祈るしかないのかも知れません。

(番組データ)

羽鳥慎一モーニングショー テレビ朝日
11/1 (木) 8:00 ~ 9:55 (115分)
【司会】 羽鳥慎一
【アシスタント】 宇賀なつみ(テレビ朝日アナウンサー)
【コメンテーター】 高木美保(タレント)、玉川徹(テレビ朝日コメンテーター)
【対談ゲスト】橋下徹(弁護士)

(番組内容)

橋下徹氏が生出演!「英雄視は違う」玉川徹と自己責任を議論
▼中国“パクリ”無印良品が「本家」を訴え…なんと勝訴
▼ハロウィーン渋谷で火災
▼「バズる」が辞典に

テレビは「枕詞」でイメージを植え付ける事もある

この文章を書いている2017年の年末は大相撲界が大荒れに荒れており、番組開始からずっと大相撲の話題になることは致し方ないと思うのですが、今回はその話題には全く関係ないネタです。漫才師の「ウーマンラッシュアワー」がフジテレビの「THE MANZAI」で披露した北朝鮮・原発・災害復興・沖縄基地問題・その他政治問題について全面的に展開した漫才について、番組内コーナーの「そもそも総研」で取り上げていました。

テレビ朝日の玉川徹さんがウーマンラッシュアワーの村本大輔さんにインタビューを取り、話題になっているその漫才の内容を新宿ルミネで披露されているテレビで披露したものと同じネタのVTRを流しながら、「THE MANZAI」を見ていない人にもわかるような形で解説していたのです。個人的にはこのコーナーを通して見て、「そもそも」他局ネタをわざわざ取り上げてまで、「反権力」的なものとして村本さんに斬り込む、極めてテレビ的な意図というものを感じてしまったのです。

私自身は「THE MANZAI」をリアルタイムで視聴しなかったので書くタイミングを逸していたのですが、当日の放送の様子がネットから消される前にネット経由で一通り見ることができ、その後の報道などから大体のあらましは理解した上でこの特集を見たのですが、これだけ話題になった背景にはやはりテレビで全国放送されたことで多くの人がこの漫才を見ることができたということがあったと思います。

このネタ自体、ウーマンラッシュアワーはテレビに関係なく全国を営業で回る中で、それこそ沖縄・熊本のような漫才のネタにしている地域でも何回もやっていたものです。テレビというのはある意味自主規制が求められるメディアなので、いわゆる普通のネタ見せ番組では出演したこと自体全てがカットされてしまう恐れを感じていたのでしょう。録画番組とは言え、有力な漫才コンビを大挙して出演させ、漫才ブームを作り出した歴史がある「THE MANZAI」という番組ならフジテレビも露骨に排除しないだろうという計算もあって、満を持してそのネタを掛けたことが大いなる反響を巻き起こしたわけです。

テレビ朝日が放送後そこそこの時間が経ったにも関わらず、後追いでこんな特集まで組んで紹介する背景として、単にネタの内容が面白かったというのではなく、ウーマンラッシュアワーがあくまで「反権力」をベースにしたネタをやっているから取り上げたと思うのですが、同時に放送された村本さんのインタビューに対しての受け応えを見る中で、私は村本さんの地元が福井でその土地に根ざした「土着」の面白さというものは感じたものの、どうしても「反権力の旗手」という形に印象付けたいとする番組の擦り寄り方には辟易してしまわざるを得ませんでした。

というのも、過去にRCサクセションのアルバム「カバーズ」が当時のレコード会社であった東芝EMIから発売中止になった時の騒動を思い出してしまったからです。時期的には東日本大震災よりはるか前のチェルノブイリ原発事故を受け、海外の有名曲のカバー集を作る中でその歌詞を相当に「意訳」した出したのが「カバーズ」というアルバムでした。発売前にしきりに有線放送やラジオで流れたのがエルビス・プレスリーの「ラブ・ミー・テンダー」のカバーで、「核」や「放射能」という直接的な言葉を散りばめて、ロックミュージシャンらしく音楽で自分の自由な叫びを表現しているのが印象に残っています。また、アルバムの中の「サマータイム・ブルース」ではコーラスに村本さんと同じ福井県出身で現在はあの秋元康さんの妻である高井麻巳子さんがコーラスで参加していたりして、さらにこの曲では直接的な歌詞を散りばめ(「原発はいらねえ」など)、レコード会社の親会社である原発製造もしている東芝にとっては我慢できない内容だったのでしょう。

結局、「このアルバムは素晴しすぎで発売できません」というコピーとともに東芝は「カバーズ」を発売中止にし、RCサクセションは「カバーズ」をレコード会社を移籍して出すことになりました。さらにこの騒動には続きがあって、RCサクセションとは別に、忌野清志郎という個人が主導する「タイマーズ」という覆面バンドを作り、思い切り左翼チックな風貌で反政府・反大企業・反原発という内容の曲を発表、さらに各地のライブにゲリラ出演するなどして大きな話題となりました。さらにはテレビの生放送(フジテレビの「夜のヒットスタジオ」)に出演して歌うことになった時、当時ラジオで自分達の曲を放送禁止にしたFM東京に対しての文句をそのまま歌詞にして一曲披露しました。その時の司会は古舘伊知郎さんでしたが、当時のスタッフも含めあえてその演奏を止めなかったことで、今も私たちはその時の様子をネット動画で見ることができます。

タイマーズが出てきた時にも一部のマスコミや左翼系の反原発活動を行なっている団体などが彼らに擦り寄るような動きを見せ「反原発ロック」などと言う枕詞を付けて紹介していた事はよく覚えています。しかし決してタイマーズのメンバーは反原発のために歌っていたのではなく、自分の好きな事を好きなように歌わせてくれない社会に対してのその場の怒りを表現したに過ぎないのです。そうしたロック歌手の気まぐれを、自分達の運動や政治活動に利用しようとする体制側でない社会の中に別の権力があるのだということを、私に気付かせてくれたという点では彼らに感謝しています。

その上であえて今述べておきたいことは、ウーマンラッシュアワーの村本さんがこうした左翼系の誘いに乗って政治家になって世の中を変えたいと思うならそれでも別にいいと思うのですが、本人にその気がないのに一介の漫才師を「反権力の権化」として祭り上げようとする勢力がいるとしたら、そういう姑息な事をやる前に自分達の力で国民に支持されるような活動をして民衆の支持を得たらどうかということです。少なくとも自分たちでできないことを人にやってもらって、その上で文句を言うような事だけは今後言わないでいただきたいと思います。

テレビというのは、人々を扇動しようと思えば何回も何回も同じ事を放送しているだけで人の心を変えられてしまう影響力を持っています。その事を肝に銘じて、テレビを見る側も安易にそうした思惑に乗らないで一歩下がってテレビを見ることも大切なのではないかと思います。

(番組データ)

羽鳥慎一モーニングショー テレビ朝日
12/28 (木) 8:00 ~ 9:55 (115分)
【司会】 羽鳥慎一
【アシスタント】 宇賀なつみ(テレビ朝日アナウンサー)
【コメンテーター】 高木美保(タレント)、玉川徹(テレビ朝日コメンテーター)

(番組内容)

羽鳥慎一が毎日の様々なニュースを、自分なりの言葉で伝えます。暮らしをよりよくする情報はもちろん、固いこと、難しいことも、何が問題なのか、分かりやすく紹介します。

ワイドショーの扱う話題とコマーシャルのタイミング

今回の放送の中で、「楽天カード装うウイルスメール!!ボタン押すと…」という項目で楽天カードが出したと偽装してカードのパスワードを盗むメールが広がっているという、インターネット上の「フィッシングメール」の全容について報道していたのですが、こうしたものは従来情報弱者と言われる高齢者や若年層だけでなく、この番組のスタッフも引っかかってしまったという事で、顔は出さないでそのスタッフにインタビューする形で、パソコンやインターネットでのメールには気を付けましょうという啓蒙のために紹介した話題を放送していたのですが、その項目を放送中に流れたコマーシャルは、さすがに自分が番組の構成をしていたらスポンサーに遠慮してこの項目の順番を入れ替えるような事をすると強く思いました。

というのも、何の因果かとすら見ているこちらが思ってしまうほど、この「羽鳥慎一モーニングショー」の放送を支える大スポンサー「ジャパネットたかた」さんが、いつもは掃除機とか羽毛布団を売っているのに、このインターネット詐欺の話題に合わせるかのように「100円パソコン」を大々的に売り出していたのはちょっと本放送の内容とかぶる部分があったためです。

ちなみに、「100円パソコン」という売り方というのは他の業者さんもやっていますが、基本的にはモバイルルータとデータ通信契約とセットで加入させるということがポイントで、ジャパネットたかたさんの場合は「Y!mobile」の3年契約で購入ルータも指定されていて、さらに月額料金は4,760円(税抜価格)となっていて、直接Y!mobileに行って同じルータを購入する場合と比べて月額1,000円くらい支払い金額が高くなっています。

単純に1,000円を3年払い続けると36,000円になるのですが、この金額はジャパネットたかたさんでのパソコンの販売価格である39,800円(税抜価格)に近いということもあり、もしかしてこれは「100円パソコン」ではなく頭金が100円で、金利手数料および多少の値引きをした上で36分割でモバイルインターネット回線とのセット購入をおすすめするパターン契約に過ぎないのではないかと思っていますし、コマーシャルを作るならパソコンは分割販売で、支払いはネット回線使用料と合わせて請求という風にきちんと説明するのが筋ではないかと思っています。

そのように業者側が説明してくれれば「パソコンが100円で買える」という誤解を情報弱者の方がすることもありません。ただ、さらに言うと3年縛りでインターネットのデータ通信回線を月4千円弱で加入するよりも(これは、モバイルルーターの代金を含めたY!mobileで契約した場合の回線料金です)、もっと安く月額千円以内でいつでも解約可能な条件で別の通信業者からモバイルルーターでもスマホでもタブレットでもセットで加入することも可能ですし、回線とパソコンを別々に安く買うこともできます。

案の上、ジャパネットたかたさんのコマーシャルを見ていたであろう司会・アシスタント・コメンテーターの方々は、「100円パソコン」というモバイル回線やモバイルパソコンについての情報弱者にとっては、売り言葉に乗ってつい注文してしまうかも知れないという問題について一切語ることなく、そのままインターネットは恐いねという感じの当たり障りのないコメントでコーナーが終了したのですが、やはりこうした内容はしっかりと記録しておくべきだと思い書かせていただいています。

今回の件では出演者やスポンサーのために番組を構成する側としての配慮が全くなく、ただただこの時間にこのスポンサーの広告が入るということで(恐らくコマーシャルが入る時間は決まっていると思われます)番組内容との配合性を考えないのは、特にスポンサーについて失礼極まりません。

せめて、ネットの話題は先に済ませてしまい、後から100円パソコンのコマーシャルを流しても出演者の方々がわざわざ話題にする必要のない話題の中に入れるだけの配慮がなければ、今回ここで挙げさせていただいた以上の非難が番組にもスポンサーにも来てしまう可能性があります。それがテレビだと居直るのならそれでいいかも知れませんが、一方ではネットの情報弱者用の情報を流しておいて、その内容を報道している途中で、極めてグレーな感じのするネット回線とパソコンのセット販売のコマーシャルをわざと流して視聴者を混乱させているという事があった事はここで明らかにさせていただきたいと思います。

(番組データ)

羽鳥慎一モーニングショー テレビ朝日
10/31 (火) 8:00 ~ 9:55
【司会】 羽鳥慎一
【アシスタント】 宇賀なつみ(テレビ朝日アナウンサー)
【コメンテーター】 青木理(ジャーナリスト)、菅野朋子(弁護士)、玉川徹(テレビ朝日コメンテーター)

(番組内容)

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