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テレビがカバーしにくい「天体ショー」こそネットの独断場か

2019年12月26日の午後2時過ぎから、普段は全国の天気を伝え続けているウェザーニューズのYou Tubeチャンネルはライブの特別番組に切り替わりました。というのも、この日は日本で部分日食が見られる日で、さらにアジアの一部地域では金環日食が見られたのでした。

番組は日本国内の天気を紹介しつつ、国内での日食の画像を伝えようとしましたが、あいにく日本のほとんどの地域で曇りないし雨の天気で、北海道や東北、沖縄など限られた地域でしか部分日食は見られませんでした。

しかし、多くの会員を持つウェザーニューズの番組内では会員が雲の向こうがわでかろうじてその姿を見せている部分日食の様子が紹介されました。こうした事がリアルタイムで行なわれることは重要です。というのも、今回のような基本的に日本国内では見られないながらも、奇跡的に雲の切れ間から太陽が顔をのぞかせることはあるわけで、番組では会員からの写真や気象衛星からの雲の画像を紹介しつつ、番組を室内で見ている人であっても番組内の情報で自分の回りが晴れているのに気付けば、自ら外に出て部分日食の様子を直接見られるような可能性が出てくるわけです。こういうことは、今の日本のテレビではなかなか行なえない事で、今後のネット動画のあり方についての一つの方向性を見せてくれているようです。

番組の方はグアムにカメラを用意していて、たった数分間の金環日食の撮影のために用意したカメラが見事に金環日食の始めから終わりまでを克明に映し出してくれました。私の住んでいるところでは太陽の姿を拝むことはできませんでしたが、大画面のテレビにYou Tubeの動画を映していたので、それなりの迫力で安全に見ることができました。こうしたリアルタイムで天体ショーを生中継してくれるのは本当に有難いことです。

ウェザーニューズでは日食・月食だけでなく、有名な流星群の極大日には結構生中継をやってくれます。この中継も、全国各地にカメラを置いて多元中継を行なうので、全く流れ星が見られないということはなく、スタジオのキャスターの伝える楽しい中継に外で見るよりつい中継の方を見てしまうということも起こり得ます。

このような中継がない時代には、自分で天気を調べて場所を決め、もし到着時に曇っていたとしても一瞬の雲の切れ間を狙うか、さらに移動した方がいいかを自分で決める必要があったのですが、今ではネット中継の様子を見てどこに移動すればいいか判断しやすくなっています。

今後、ネットでの天体ショーの同時中継に期待していることは、一時間に数千個も流れることがあるという「しし座流星群」のリアルタイム観測につながるのではないかということです。しし座流星群は毎年11月というかなり寒い時期に出現するものの、普段は一時間に数個くらいしか流れないのですが、ごくまれにではありますが大出現を見せることがあります。

ちなみに前回の大出現は事前にある程度予測されていて、さらに日本より早く流星が見られるオーストラリアで異常と思えるほどの流星の動画かリアルタイムでウェザーニューズではありませんが配信されてきていたので、深夜から夜明けにかけて出現を確信して待ち、多くの流星を見ることができたのですが、これと同じ事が今後起こるかも知れません。

現代の流星予測の精度は上がっているとは言っても、地域によっては見えない事もあり、果たして日本で見えるのか、見えるとしたらどこへ行けばいいのか、さらに見える時間はいつまでかというような情報を逐一報告してくれるのも天体ショーの同時中継の役割になってくると思います。

ネットでの中継を見ながら暖かい部屋か車の中で待機し、出現し出したら一気に外に出て直に見るということもできますし、本当に大出現があったとしたら時間制限のあるテレビよりも、いくらでも放送延長が可能なネット動画の方が有利です。さらにスマホでどこにいても見られるような形で現在も放送しているので、本当に車で移動しながらいい条件で見られる場所を探すこともできるでしょう。

今回の部分日食は皆既日食や金環食よりはマイナーな天体ショーで、直接的には見られなかったことで世間からの注目は少ないと思われますが、風邪を引かないように自宅からでも動画で事前に確認して出現の確実性が増したところで満を持して外で見るというスタイルをおすすめしたいですね。


CBCテレビ「ゴゴスマ」問題の根底にあるもの

毎日の事件を報道し、番組に出演しているコメンテーターが私見を述べるというのがワイドショーの定番ですが、出演者同士のバトルが大きな騒動になることもままあります。お互いの主義主張が違う中で、放送時間が限られている中で討論するわけですから、時には声が大きくなり、相手を罵倒することもこれまでのテレビの歴史の中では何度も起こってきました。

そんな騒動を引き起こす原因の一つとして、実は主演者同士をまるで闘犬の犬のようにけしかけてハプニング的にバトルを大きくして番組を注目させたいという番組制作側の決して表面には出さない意図というものがあると思います。そうした意図を暗黙のうちに了承し、騒動にならない程度のバトルを繰り広げるある種の「安全なトラブルメーカー」がこうした番組では重宝される傾向があるのですね。それこそ、テレビ朝日の今も続く名物番組である「朝まで生テレビ」の創世記のメンバー、映画監督の大島渚氏などはそうしたテレビ制作側の意図を汲み取って視聴者が寝落ちするのを見計らうように「バカヤロー!」と叫んだりすることは、松尾貴史さんがギャグにしたりしていました。

いわゆる「ヘイトスピーチ」をテレビのコメンテーターが行なうことについてはここでは書きませんが、同じCBCテレビで平日お昼に放送されている「ゴゴスマ」の騒動の一つとなっている東海大学教授の金慶珠氏と、タレントの東国原英夫氏との番組内での言い争い以上の罵倒については、その言動を謝罪した東国原英夫氏の言い訳の中に、喜怒哀楽の激しいキャラクターを演じるタレントと、そうしたキャラクターを出演させることで番組の注目を集めたい番組制作側との蜜月さというのが謝罪の態度にも表われていたような気がしました。

というのは、東国原英夫氏は自身の発言について謝罪したものの、その中で一定の言い訳も付けてきたのです。あらかじめ共演者の顔ぶれがわかっていて、金慶珠氏と共演する予定であることがわかっていれば、決して出演しなかったと発言した点について、事前に番組スタッフから渡された資料に記された出演者一覧の文字が「小さすぎて読めない!」とハズキルーペのCMのような制作サイドへの責任転嫁のような主張をしてきたのです。

個人的にはこの言い訳については、東国原英夫氏の番組サイドへの不信感から出たものではないかと思えます。これは想像でしかありませんが、小さなトラブルを望んでいるところもあるかも知れない番組制作側が、騒動が大きくなり東国原氏およびCBCへの批判が大きくなってくると、手のひらを返すような対応を東国原英夫氏に行なってきたのではないかと考えると、ちくっと番組スタッフに対しての批判を入れながら謝罪を行なった東国原氏の気持ちも少しはわかる気がするのです。

ただ、そのような番組の裏の顔を垣間見せるような言動を、テレビに映っている中でしてしまう人というのは、テレビ制作の側からすると「使いずらい」というイメージが大きくなってしまいます。今後、東国原氏のタレントとしての活動がどうなるかはわかりませんが、今のようにテレビに毎日出てお金を稼ぎたいなら主義主張よりもしっかり反省した体を装った方がいいわけです。

逆に言うと、全く問題を起こさないで適度に言いたいことを言っているようなタレントや文化人というのは、ほとんどテレビ制作側の犬のように、まさに闘犬の犬のようにテレビ画面の中で動かされているという風に捉えた方がいいということでしょう。好き勝手をやっているようでいても決して暴言を吐かないあの人この人というのは多くの人の頭に浮かぶのではないかと思うのですが、そういった人の出演する番組というのは総じて内容が乏しいものだということを今回の騒動は教えてくれたように思います。


タレント事務所がテレビに与える影響の限界

テレビには芸能の部門においても「タブー」というものが存在していて、それが2019年の6月から7月にかけて、「ジャニーズ事務所」や「吉本興業」において、普通にテレビを見ている一般視聴者にまでその内容が知られることになってしまいました。

元々特定の事務所に所属していたタレントが、円満に退社することができなくなった場合、今回名前の出た事務所に限らず、元の事務所が目に見えない形で事務所を出たタレントに直接ではなくテレビ番組に出られないように「あの人を出すならうちの所属タレントをテレビに出さない」というような形でいやがらせをすることはまず間違いなくあったのではないかと思います。具体的な例については、今話題になっている島田紳助さんがプロデュースした「羞恥心」という男性3名のアイドルグループにおいて、一気の面では一番だった? とも思える野久保直樹さんだけを私たちはテレビで見ることはできないでいます。つるの剛士さんや上地雄輔さんは普通にテレビに出ているのにどうしてなのでしょう。

その理由は野久保直樹さんが勝手に自分のブログで渡辺プロダクションからの独立を一方的に宣言したことと関係があると言われていますが、それまでの芸能活動について、あまり所属プロダクションから良い待遇を受けられない中、なりふり構わず潜水の日本記録を作るなど体を張ってテレビに出ていく中で、あまり所属プロダクションからサポートを受けていなかったと感じていたからかも知れません。

何事も多くの人間の所属する所には派閥というものがあり、プロダクション上層部に可愛がられれば優先的にテレビに出してもらえることもあり、逆の立場にいる人間というのはそれこそ体を張ってでもチャンスを掴みたいと必死になるわけですが、その努力が報われた時にはきちんと面倒を見てあげるようにすれば、野久保直樹さんもいきなりの独立宣言など出すこともなかったのではないかと今になって考えたりするのです。

今回の吉本興業の騒動は、当然雑誌FRIDAYで指摘された反社会的勢力にいる人からお金をもらって飲み会に出たタレントに否があることに間違いはありません。しかし社長の会見を見ると、もし所属タレントの中でも上層部からあまり良く思われていない人にとっては、突然のタレントの契約解除という会社の発表には、明日は我が身であると思えてしまうような会社の勢力図というものを、これもまた一般の視聴者に広く伝えてしまったというところがあります。

ちなみに、私は吉本興業社長の会見を「AbemaTV」での生中継で見ていました。ネット中継では延長し放題なので、たとえ吉本興業がテレビ局に圧力を掛けて地上波での放送を差し止められたとしても、ネット中継や現場で会見の内容を録画してYou Tubeに流すというような事は止められません。

その後のワイドショーでも明らかに現吉本上層部寄りの論評をするメディアと、芸人側に立つメディアとの差が目立ちますが、これもいかに事務所が圧力を掛けたとしても、現場で起こった事が広くネットで見られるようになってくると、ごまかしというのはなかなか効きません。逆にそうした事をわかっている人が増えたことにより、本来もっと糾弾されるはずの宮迫博之・田村亮というタレントに対するバッシングが少なくなり(会見の内容が評価された部分はあるでしょう)、吉本興業および上層部と深い関係を持つタレントの方に関心が向くことになってしまいました。

今後はある程度は膠着状態が続く可能性もありますが、そもそもの吉本バッシングの原因である「反社会的勢力との交遊」という点がさらに白日の元にさらされる可能性もなくはありません。

現在の吉本興業は政府から事業をもらっている関係もあって、それまでの暴力団との関係を断ち切るために現会長・社長のような「師匠を持たないタレント」のはしりとなったダウンタウンのマネージャー出身の人物を登用し、それまでの会社としての暴力団との付き合いを断とうと努力してきたと思うのですが、逆に切られた方にしては、「この恨み晴らさでおくべきか」という気持ちを持ち続けている人がいるかも知れません。この辺については、吉本興業がどのように反社会的勢力との関係を断ってきたのかわからないのではっきりとしたことは言えませんが、今回FRIDAYに出たような写真はもっとあり、そこに写っている人物は、現在「男気」を見せている人であるかも知れません。

悪い奴がお金を目的にしないで脅すようなことがあれば、お金や圧力を掛けての解決というのは期待できませんし、少なくともそうした吉本興業が表ざたにしたくない写真があったとしても、近いうちに一般のメディアに向けて流される可能性もあると見ます。そうした事に心当たりがある場合は、タレントも事務所も、正直に話をしてきちんと釈明をするということを徹底しないと、さらにとんでもない事になる場合も出てきます。

ただ、そうした最悪のシナリオは政治家が介入して納めるという手段もあるのですが、それも必ずしも吉本興業が思う通りに解決できるかどうかはわかりません。そもそもイメージがそこまで良くない吉本興業のために動く政治家が出てきたとしても対応を誤れば、自分の政治生命にも影響が出るかも知れないわけですから。

今回の騒動は、古い体質の芸能事務所が今まで好きなようにタレントを使って設けてきたツケが出てきたと個人的には考えています。きちんとツケを払い、謝るべきところはきちんと謝った上で再生への道を進んで欲しいと思っています。


サブチャンネルを有効活用しないNHKの姿勢はデジタル化に反するか

2019年の陸上の大きな大会が地上波のテレビ中継とのからみで連続してトラブルになっているように私には思えます。今回は2019年の6月29日と翌日の30日に起きたNHKが放送権を持っていると思われる陸上の日本選手権について思うところを書いていこうと思います。

6月29日は大阪で開かれた各国の首脳が集うG20の会合がありました。その模様を伝えるニュースをNHKでは放送していたのですが、16時からの放送開始時にはトランプ大統領のスピーチをLIVEでずっと流していて、一時はネットを含むどのメディアでも中継がされない状況になってしまいました。

Twitterなどの情報では、直接NHKに抗議の電話を掛け、デジタル放送に切り替わる時にそのメリットとして言われていた「サブチャンネル」での放送についても出来ないという話のみだったということです。

この「サブチャンネル」というのは、同じNHKのBSで大リーグ中継を見ている方にはおなじみかと思いますが、画質は落ちるもののデジタルの特性を生かしてメインチャンネルからは外れるもののメインチャンネルで放送を延長するのではなく、通常の番組はメインチャンネルで行ない、試合終了まではサブチャンネルで伝えることで、大リーグを見たい人も株価が気になる人も(中継終了予定時刻からの番組はニュースや株価を知らせる番組が多い)どちらの人も見たいテレビ番組を見ることができるという、テレビがデジタル化されて良くなったと思える部分です。

よく、民放の地上波についてはサブチャンネルでの放送を嫌がるという向きがある傾向があることが知られています。というのも、民放の経営というのはスポンサーからの広告料金でまかなわれているというところがあるので、スポーツ中継を延長する場合、サブチャンネルになってしまうとメインチャンネルでドラマを放送した場合、広告はメインチャンネルで流れる契約だろうと思うので、多くの人がサブチャンネルに回してしまってメインチャンネルで流すコマーシャルを見てくれなくなる可能性があります。

やはりスポンサーあっての民放ということになると、ドラマとスポーツの両方を流したいからといって安易にサブチャンネルを使うと現状では広告の契約上ややこしいことになるのかも知れません。しかし、こうしたことはスポーツ番組の直後に予定されている番組に広告を出しているスポンサーにとっては、現状でも予定していた時間に広告を流せないことになってしまうので、こうした突発的な状況に備えた契約をしているのなら、改めてサブチャンネルを使うことを前提とした契約というのも作ってもいいのではないかと思います。それくらいサブチャンネルが活用されていないということを感じてしまう中、今回のNHKもサブチャンネルを活用してくれませんでした。

少なくともNHKにはスポンサーはなく、サブチャンネルについても大リーグ中継ではやり慣れているため技術的な問題もないと思えます。また、地域的な災害が起こった場合にも、タイムテーブル通りの放送を続けながらサブチャンネルでニュースを流すということも過去にはあったと思います。

しかしながら、翌日の30日にも、二日連続で16時から開始予定の陸上の日本選手権が時間通りに始まりませんでした。この日はまたアメリカのトランプ大統領が韓国と北朝鮮の国境の板門店を訪れ、北朝鮮の金正恩氏との会合の模様を流し続けたために起こりました。結局15分遅れの16時15分から中継は始まりましたが、それまではいつ始まるかわからず、さらに状況の変化によっては「動きがあり次第お伝えします」というテロップが流れ、もし本当に何かあったら再度中継が中断されるのかと思いながら見ていましたが、こういう時にこそサブチャンネルを使ってスポーツ中継や突発的なニュースを流すことは技術的にもできたでしょう。

その後の事についてもきちんとここで記録しておきます。16時54分頃に少しの間ニュース画面に切り替わり、さらに16時56分から17時15分までまたニュース画面に強制的に切り替わり競技を見られなくなりました。女子5000mのレース中継はテレビではカットされたことはその後の中継でも直後に触れていません。ただ、個人的には前日のテレビ中継が中断した時の情報でネットによるライブ配信が復活しているということがあったので、YouTubeから日本陸連のチャンネルを見ることもできましたが、ここまでできるというのはそれなりにわかっていないとだめなので、多くの人は結果を気にしながらニュースを見ていたのではないかと思います。

今後「臨機応変にサブチャンネルを活用した放送」がNHKに出来ないというなら、サブチャンネルとは違いますが複数のスポーツを並列して生中継することができるネットのスポーツチャンネルに放映権を潔く譲るべきです。ネット中継なら天候の悪化で見られなくなるようなBSでよくある事も無くなりますし、何よりスポーツチャンネルなら突発的なニュースが入っても中継を中断されることもありません。そうした事が無理そうな、東京オリンピックの中継については、NHK・民放が共同でテレビ以外にもネット同時放送のシステムを作り伝えるような事でもしないと、今回の事とは比べ物にならない騒動が起こるのではないでしょうか。ただそれは、鳴り物入りで切り替えたデジタル放送の利便性を放棄した結果でもあります。4K8K放送を大々的にアピールするよりもサブチャンネルの有効活用ができなければ、テレビはますますその信頼性を失うのではないでしょうか。


スポーツのライブ中継では何を伝えるべきなのか

2019年5月11日から12日の日程で行なわれた「世界リレー」を中継したのはTBSでしたが、TBSと陸上中継というとやはり俳優の織田裕二氏とフリーアナウンサーの中井美穂氏がメインキャスターとして伝えてきた「世界陸上」の恒例化があってこそのものだったでしょう。

今回の「世界リレー」とはその名前の通りリレーに特化した陸上の大会でありますが、日本チームも必ずしもベストメンバーを組んで出場していませんし(大会に出場していないサニブラウン・ハキーム選手は米国で100m9秒99を同時期に出してこちらの方が大きなニュースになりました)、今まで国際舞台の経験に乏しい若手に出場のチャンスを与えたり、男女混合種目など今までなかったような新しい種目を見せるということで色々と馴染みが薄い大会ではあったと思います。ただ、今回の大会が翌年の東京オリンピックを睨んでの日本開催だったということと、さらには男女二人ずつがそれぞれ400メートルを走るマイルリレーが東京オリンピックの新種目として採用されるということもあり、恐らく東京オリンピックの陸上競技と同じくらいの時刻に行なうこともあり、BSや地上波で生中継をするだけの意味を持つ大会とTBSが判断したであろうということは何となくわかったつもりになっていました。

しかし、それにしては今回の世界リレーの伝え方について、甚だ杜撰で結果が気になって見ている人からすると頭に来るような中継のやり方をしていたのです。実際に放送を見ていない方にもわかるように、私が見ていて気になった点を挙げてみます。

まず5月11日はBS-TBSで19時から20時50分まで大会前半部を放送し、その後地上波のTBS系列で20時50分から21時54分まで放送されました。恐らく大会のプログラムが予定時間より長引いてしまったのは、TBSにとっては大変な誤算だったでしょう。民放の場合はBS放送と地上波の移行にはコマーシャルやローカルニュースなど、番組の編成上、止めることのできない部分があるため、予定ではBSで中継できる種目がちゃんと終わってから日本期待の種目のある地上波放送へ移行するつもりだったことは想像に難くありません。

しかし、何が起こるかわからないのが生中継の醍醐味でもあり恐さでもあります。あろうことか、11日にあったリレーの決勝種目で、世界リレーならではの種目である男女2人が400mを2回ずつ走る男女混合2x2x400mリレーにおいて、日本チームはメダルを狙える好位置に付けてアンカーにリレーした時点でBSの放送時間が終了してしまったのでした。

普通に考えるとNHKの高校野球中継のようにザッピングしているうちにすぐに続きの中継が見られるように何故できないのかと思ってしまう方もいるかも知れませんが、TBSに限らず民放はスポンサーとの関係もありますし、ニュースも定時に伝えなければならないのでそんなにすぐに切り替えて中継はできないのです。ただ、TBS側が色気を出して世界リレーの中継を全てBS-TBSだけでなく地上波でも行なおうとしたことは裏目に出てしまったと言えます。もし11日の全てのレースをBSで中継していたら、ここから書くようなひどい事にはならず、この稿を書くこともなかったはずです。

地上波でのTBSは、放送が進まってもBSを今まで見ていて早くリレーの結果が知りたい人は全く関係ないとばかり、放送後しばらくして始まる日本陸上チームにとって一番メダル獲得に近い種目である男子100m×4リレーについてのVTR煽りと、織田・中井両氏の男子400mリレーについての期待のコメントを流すだけで、それまでのレースについて全くコメントも字幕伝達もありませんでした。

結局、その後もBSで中断したレースの結果は全く伝えないまま中継が進んでしまったのですが、地上波を見ている人にはそれで良くても、BSから地上波に追ってきた視聴者の事を無視する姿勢を露骨に感じざるを得ませんでした。実際に中継を途中で打ち切られたリレーに出たクレイアーロン竜浪(男子)、塩見綾乃(女子)の両選手からしたら、必死になって走り(わずかなインターバルで400mを2回走る大変さがあります)、しかも他チーム失格によって銅メダルを獲得したにも関わらず全く織田・中井の両名が伝えず、インタビューも取らないと言うのは、スタッフ及びキャスター二人が無名選手は相手にしないような事をしているのではないか? という視聴者側の疑念を生じさせるには十分な状況でした。

実際にメインキャスターのお二人はテレビの中でしか見ていないので断定することはできませんし、スタッフの責任をキャスターがかぶってしまっているかも知れません。しかしこうした事実の積み重ねが「TBS陸上中継のスタッフとキャスター陣との間に不協和音が?」というような憶測を生んだりするのです。テレビを生中継するなら少しでも見ている側に疑念を生じさせないようなフォローをするために、何らかの対応を中継現場にいたスタッフがするべきだったのではないかと個人的には思うのですか。

世界リレー第一日の11日の中継は、さらに放送時間内で最後のレース結果を伝えることができず、次番組の「新・情報7DAYS ニュースキャスター」内で結果を伝えるということでしたが、同じTBSの番組なのになかなかレースのVTRが届かず、10分あまり司会の安住紳一郎アナウンサーと出演のビートたけしさんのフリートークで繋ぐのみでした。直前レースの結果だけでも字幕で出してくれたらいいのに(野球中継ではよく使われる方法です)と思いつつも、たけしさんがバトンがうまく受け取れずに予選敗退した男子400mリレーについて愚痴のようなコメントを発するなど、「世界リレー」中継のネット炎上に一役買う始末でした。当然先の男女混合2x2x400mリレーのVTRも流さず結果も報告せず、これでは情報番組としての存在価値を発揮できていないので、今後は単なるお笑いバラエティとして(例えばフジテレビの「全力!脱力タイムス」のような)見た方がいいのではないか? とすら思えてしまいます。

中継のトラブルはこれだけだと思っていたのですが、何と翌日にもスタッフとキャスターとの連絡が付かずにみっともない状況になってしまった所がありました。それは、普段の大会ではこれもなかなか見ることができない200mを4人の走者がリレーする女子4×200mリレーにおいて、きちんと画面表示ではアメリカが失格したことで4位入賞になったのですが(ジャマイカはバトンの受け渡しでもたついたものの失格にはならず3位)、どうやらその情報がメインキャスターの織田氏、中井氏の元には伝わっていなかったようで、「日本は5位」だとか「ジャマイカは失格ではないか?」とかいうコメントを発するに至り、すでに画面で最終結果を知っていて中継を見ている私としては、「この人たちはまさかギャグで言っているのか?」と思ってしまったくらいです

もしこれらのやり取りが単なる伝達ミスだったとしたら、視聴者に情報を見せる前にキャスターにしっかりと結果を伝達すべきではないか? と思えるような不手際ということになるでしょう。この様子を裏読みすると、もはや織田・中井両氏からするとスタッフに恥をかかされたと思っても可怪しくなく、本当に「TBSスタッフとメインキャスターとの間には不協和音が生じているのではないか」と思わせてしまう中継となってしまいました。

少なくともライブでスポーツをテレビ中継する場合には、きちんと結果を伝えることが大事で、そのためには裏方とキャスターの息がぴったりと合っていないといけませんし、レース後の感動の瞬間を捉えるためには、レース直後に選手の元に駆けつけ、興奮が冷めない中でコメントを生で伝える努力が大切になるのではないでしょうか。この点で言えば先述の女子4×200mリレーせっかく日本新記録を出したのに、生中継の中で全くインタビューも取らず、これも期待種目・期待選手以外はどうでもいいと思っていて、早く次の番組である福山雅治主演の「集団左遷!」に繋ぐことばかり現場のスタッフは考えていたのではないかと下衆の勘繰りをしたくなってしまうのです。

たとえ人気のない種目・選手の出る競技であってもきちんと伝え続けることで、今やそのソフトが大化けして多くの視聴者を引き付ける「卓球」を長年手掛けてきた「テレビ東京」とTBSとの違いを感じるとともに、今まではテレビ中継を有難がっていた競技団体も、「延長中継あり受ち切りなし」のネットによるライブ配信サービスの方に鞍替えした方がコアなファンを繋ぎ止められるのではないかという気すらしてきました。例えばこのままDAZNが今より多くの日本国内で注目のスポーツ中継を扱いだしたら、正直テレビ自体の危機につながると思われますが、今だに今回のような不手際の多い内容の中継を行なっているテレビ局には全く危機感はないのでしょうか。


タレント頼みの地域創生は危険

過去には様々な芸能界・スポーツ界の薬物依存による麻薬使用による逮捕劇がありましたが、今回音楽ユニット「電気グルーヴ」の構成員で、俳優・タレントとして幅広く活躍していたピエール瀧こと瀧正則容疑者の逮捕というのは、私自身が現在も静岡市在住だったこともあり、かなりびっくりしました。

電気グルーヴの活動で海外公演をしていた時に使用していたという第一報がありましたが、テレビ中心のタレント業だけでなく、音楽関係の仕事など幅広くこなしていただけに、薬物の誘惑はかなり多かったのだろうと推測します。ただそれにしても、これで現在放送中の大河ドラマの撮り直しになるでしょうし、地方番組としては異例とも言える人気のあった静岡朝日テレビ(テレビ朝日系列)の冠番組「ピエール瀧のしょんないTV」も打ち切りで、将来的にも復活の見込みは消えたと言えます。

日本のテレビというのは現在ほとんど東京や大阪という大都市圏のテレビ局の製作した番組を地方でも流すようになっています。視聴者の方もキー局制作の番組と比べてつまらないと見られがちな地方制作の番組よりも、東京のテレビ局の作った番組の方を見たいという声が挙がるほどです。それがNHKを含む東京キー局のテレビ放送をインターネットでそのまま再配信すると、地方局を見る人がいなくなる事が問題だとして、今だにインターネットによるテレビ放送というものは実現していません。

そんな中で、地方のテレビ局において、現状に危機感を覚えた地方局が、東京の局が作る番組よりも面白い番組を作りたいという目的であの手この手で地方独自の番組が作られていますが、正直言ってその多くはおせじにも好んで毎回見ようとは思えないものです。そんな中で、多くの地方局が行なっているのが、全国区のタレントやお笑い芸人を出演させて地元のお店のPRをさせようという番組の多さです。これは、地元のテレビ局の収益がその土地の小さな企業やお店の払ってくれる広告料によって一部成り立っているということから、しょうがない所もあるのですが、「お店や企業の紹介」というコンテンツを動かせない分、その番組は全国区にはなり得ないというジレンマも抱えることになります。地元の視聴者に見てもらうために、出演者を自局のアナウンサー以外に求め、全国区で知名度がある人に出演してもらうことで興味を引き付けるという、まるで東京発の東京ローカルの番組をなぞるような番組が大量に発生する傾向にあるものの、それらの番組はあくまで地方限定の番組になることが歯がゆくもあるでしょう。

そこで、地元限定の番組からもう一つ抜け出すための方法として、全国区で知名度のあるタレントという条件に加えて、地元出身の人を起用し、地元の話題を全国に拡散させる効果を狙った番組作りをするという方法があります。
しかし、まさに今回容疑者となったピエール瀧の冠番組「ピエール瀧のしょんないTV」がそのやり方で作られた番組と言うことで、これまで静岡発の全国に売れる番組という評価もあったのに、まさにバブルで消えた泡のようにテレビ局も番組のホームページの存在を消すなど、一気に状況は変わってしまいました。

このように、カリスマ的な人物ありきということで作られた番組というのは、ここまでのトラブルでなくても、メインの出演者が体調を崩して長期離脱なんていうことにでもなったらすぐに行き詰まってしまうことになりかねません。番組がうまく回っているうちは番組も作りやすく、人気も出ていいことずくめのようですが、今回のケースでもこれで静岡発の全国に向けたバラエティ番組が無くなってしまうことによる関係者の落胆は相当のものでしょう。

現在のテレビはたとえ東京キー局であっても有名なタレントを出してお店めぐりとか観光地のレポートをするような変わりばえのしないものばかりで、逆に有名なタレントを出すことのできないテレビ東京の番組に評価が与えられるような状況も一方ではあります。今後、地方局が全国に向けた番組を作るような場合、やはり安易に外から有名タレントを連れて来てその人の魅力による番組作りをするよりも、地方の何を全国に発信したいのかという、コンテンツについてじっくりと考えて出演者も全国的には知名度のない地元の人をスターに押し上げるくらいの心意気が欲しいものです。

地方局の全国区になった番組ということで言うと北海道HTBの「水曜どうでしょう」がありますが、この番組は大泉洋さんだけに依存しているわけではなく、TEAM NACSという劇団で活動しているメンバーが道内のTVバラエティに出演したことで徐々に北海道から全国に向けて浸透していきました。誰かにカリスマ的な影響力があるのではなく、メンバー一人一人の実力もあるので、たとえ一人が長期離脱したとしても番組自体が消えることもないでしょうし、お互いに協力し合っていくこともできます。さらに、道内から新たな人気者を生み出すような形での進化も期待することができます。

地元の視聴者としては、「ピエール瀧のしょんないTV」が休止することで木曜深夜の楽しみが減るのは寂しいですが、そういった状況を含めて受け取め、新たな展開を待ちたいと思います。このままでは東京のテレビ局と比べて地域のテレビ局発の情報は埋もれ、なかなか全国に浸透しなくなってしまうと思いますので、関係者の方には全国に向けた面白いバラエティを作る心意気をぜひ見せていただきたいと切に思います。


テレビドラマが全て再放送になるかも知れない話

2019年3月いっぱいでTBS系の2時間ドラマ枠である「月曜名作劇場」が終了するという事を発表しました。月曜の夜といえばかつては夜7時「東京フレンドパーク」、8時「水戸黄門」ときて、9時からのサスペンス2時間ドラマというのが定番の流れだった時もありました。

しかし「東京フレンドパーク」が月曜から移動したところから状況が変わりました。それまではフレンドパークからの勢いで見られていた8時台ドラマの視聴率まで低迷し、さらにはレギュラー時代劇の「水戸黄門」終了もあり、そうしたテレビ視聴の流れが崩れてきたことの影響がここに来て出てきたのかと思わせるような展開です。

そもそも、水戸黄門が終わった時には、時代劇にはお金がかかるので、現代劇中心にドラマをシフトすることで少ない制作費でもそれなりの番組を作れるようにということだったのですが、やはり今でも再放送が繰り返されて人気のある水戸黄門の力は絶大で、長いことスポンサーを務めていたパナソニック(昔の松下電器・ナショナル劇場)が月曜8時からのドラマ枠のスポンサーから撤退したことで現代劇にも影響が出てしまったのかとも思えます。

さらに、ここにきて思うのは、ドラマ班はとりあえず確実に視聴率が取れるベテラン俳優に依存して、若手の育成を怠ってきた感じもあります。TBSのドラマで言うと「西村京太郎トラベルミステリー 十津川警部シリーズ」では渡瀬恒彦さんあってのものでしたし、最近の「税務調査官・窓際太郎の事件簿」での小林稔侍さんも、さすがに最近のドラマでは晩年の寅さん映画のような状況になっており、早く終わらせるためにドラマ枠自体を撤廃するのかという風にも考えてみたくなるのです。

今の日本のテレビドラマは、多くが若い人に人気の俳優が主役を張るケースが多く、もしそうした人たちがサスペンスドラマに出たとしたら、一気に落ちぶれたのではないかと疑われてしまうかのような感じもあります。ただそんな状況では一人の俳優さんが年を経るにしたがって味が出るということは考えにくいわけです。最近でもありませんが、お金があり安定してドラマを作ることのできる環境にあるNHKのドラマでは、本職の俳優ではなくお笑い芸人やミュージシャンといったテレビで顔が売れている人物をキャスティングして人気を博していますが、本来はきちんと俳優としての修行をした人が出てくるようでないと、今後のテレビドラマは一定の世代にだけ特化し、そこから外れた人達はますますテレビを見なくなるか、古い再放送のドラマを見るようになることが考えられます。

現在、民放BSでは再放送ドラマであふれています。相変わらず中国・韓国のドラマを安く購入して流すケースが多いですが、今後の政治の流れもあり中国や韓国に対する国民感情に変化があった場合、その穴を何で埋めるかということになると、改めて新しくドラマを作るよりも過去の日本のドラマの再放送の方がはるかに楽なので、そのような番組が増えていくことも予想されます。

TBSの「月曜名作劇場」の後番組にはバラエティが予定されているようですが、もしその番組の視聴率が上がらなかった場合、もはやその後に何を持ってくるのか考えることは難しいでしょう。同時刻に民放BSで再放送ドラマをやっている場合、視聴者のいくらかが地上波から流れてくる可能性もあるのですが、再放送は決しておばけ番組にはなりません。やはり人気のある番組を作るためには新たなチャレンジが必要なのです。

テレビにはNHKを除いてスポンサーが付かなければ番組にはなりません。スポンサーの意向は大切ではありますが、昨年ヒットした映画「カメラを止めるな!」に見られるように、無名の俳優だけのドラマで、制作費を極力抑えたドラマであっても、知恵といい脚本があれば見る人は見ているのです。さらにドラマきっかけでバラエティに登場し、人気者になる人材を発掘することができれば、徐々にドラマ自体の価値も上がっていく可能性もあります。今回の「月曜名作劇場」の終了が決してテレビドラマの衰退を招くような事ではなく、心ある人たちが今までのマンネリ化を打破するようなドラマを作るための大ナタだったと後から言われるように、テレビドラマには頑張っていただきたいものです。


「ショッキングな映像」と意見の誘導の裏を読む

今も昔も、世論というのはちょっとしたきっかけで変わるもので、テレビに関連する事で言えば何らかの映像が世論を一つの方向に誘導する手段となり得ます。「映像は嘘を付かない」という考えがあって、テレビは巧みに映像を流し続けることによってある人物へのイメージを作り上げるようなところがあります。

この文章を書いている2018年9月現在、そうした一つの事例として出ていることがありました。オリンピックの女子体操候補選手がコーチによる自身への暴力によりコーチ資格無期限停止という裁定が重すぎるから、オリンピックまでにコーチが復帰できるようにして欲しいという訴えを出しました。さらにパワハラで特定の体操協会の理事夫妻の自分に対して行なわれた言動を告発したことで、当初のテレビでは理事夫妻へのバッシングという流れになったものの、ある一通の映像で筋目が変わってしまったという事がありました。

それは問題が起こった3年前に撮られたと思われる、コーチによる記者会見を行なった選手に対する壮絶な「ビンタ」の動画です。テレビのコメンテーターは「暴力は絶対ダメだ」という思考回路により、それ以上の思考がストップされたかのように、態度を180度近くまで変えてしまうフジテレビの「バイキング」のような番組も出てきました。

私自身も実際の暴力的指導の現状を見せられるのはあまりいい気分ではないのですが、関係者が出してきた動画一つで騒動の論調が変わってしまう現状を見ていると、いかにテレビ局が、連日騒動の報道していながら、さらに競技自体の取材も行なっていながら肝心のトラブルの内幕に関する取材能力がないのかということを示してしまっているように思われます。「バイキング」の場合でも事前にフジテレビ側でしっかり取材をし、そこで得た核心を突く取材内容が番組司会者である坂上忍さんに伝えられていれば、この問題が報じられた早い段階から坂上さんもそうした番組の調べてきた事実関係も念頭に置いた上で議論がされていたでしょう。

今回の報道については、出てきたタイミングを考えてみるとむしろ映像を流す側の意図というものも感じられるところがあります。既に協会から無期限の活動停止処分を受けているコーチは、改めて映像を流されることで3年前の事と現在の事が分けられることなくバッシングを受けています。どれだけ謝っても過去に起こした罪は消えないというなら、日本の刑罰においてもそうした考えが適用されるべきですがそんなことはなく、それこそ死刑に値する罪を犯していない限りは「罪を償い反省する」というプロセスの中で更生の道は残されています。

ただ、テレビでの討論で関係者への対応を決めることはできませんし、この問題については当事者不在の中で言いたい事を色々喋って世論を誘導するよりも、客観的な証言を基にした取材結果の報道をしながら、第三者委員会の報告が出るまで待つのがテレビができることではないでしょうか。もっとも、テレビ局と今回の問題における特定の関係者がつながっていて、真実とは違う内容へ世論を一定の方向に誘導しようとしているようなことがあれば、その件についてはテレビ局自体が批判を受けることもあると思います。こんなことをわざわざ書くのは、ここで挙げたフジテレビだけではなく、テレビがそれこそ今回問題になった女子選手と同じように将来ある若いアスリートについて、極めて悪意あるイメージを植え付けた報道をした「前科」があるからです。

かつて日本のプロ野球において、読売巨人軍への入団を希望し「空白の1日」という当時の仕組みの裏を突いて突然に読売巨人軍への入団を発表した江川卓選手の記者会見でテレビ放送された江川卓選手の放った「そう興奮しないで下さい」という発言のシーンは繰り返し報道され、多くの野球ファンだけでなく一般の視聴者をも「江川=悪役」というイメージを主にテレビが植え付けました。

この一件は今のドラフト制度が変化していく一つの契機になっています。というのも元々ドラフト制度はお金のある球団がアマチュアの有望選手を買い漁ってチーム戦力の不均衡がひどくならないように契約金の上限を決め、さらに指名が競合したらくじ引きで交渉権を決めるものとして始まりました。ただ考えてみると、この制度では全てのプロ野球に入りたいと思う人間は全て「プロ野球機構」に属し、そこで入団する就職先が決められる(特定の球団による単独指名とくじによる交渉権獲得がそれにあたる)ような形になっています。それにしては江川選手の活躍した時代というのはプロ野球と言えば「読売巨人軍」というように、あからさまに「パ・リーグ」より「セ・リーグ」、「セ・リーグ」の中でも一番注目を浴びるのが「読売巨人軍」というような露骨なマスコミ報道全般に関わる贔屓があり、関東地区だけでなく地元に球団がない地域のテレビではプロ野球中継といえば「巨人対○○」というカードばかりでした。

それでもなお江川選手の読売巨人軍贔屓を批判するなら、それまでのテレビ・新聞の読売巨人軍偏重についても自己批判しなければならない部分もあるのではないかと私は考えます。とにかくそんな社会状況の中で江川選手の「空白の一日」が発生しました。ちなみに、この事件についての詳細はネットでも見られると思いますが、江川選手本人が当時の政権与党である自民党の代議士に相談して巨人への入団を何とか強行しようと事を進めたわけではありません。本人が大学を卒業した後アメリカへ留学するまでの行動を行なったことでもわかる通り、本人は自分の意思を示すことで、ドラフトの単独指名を願っていたと思います。しかしドラフト会議では必ず指名が重複すると考えた大人達は、あくまで江川さん本人がプロ野球界に入るなら巨人入りを希望しているということと、その投手としての類まれなる才能を知っている大人達が、様々な思惑を持って本人を説得し安心させるような説明をする中で起こした事であるという見方が普通です。空白の一日を使って巨人入団を発表したものの、それが関係者が思っている以上に世の中が騒ぎ出したことで、当時の大人たちは本人をテレビカメラの前に出して記者会見しないと収まらないということで、記者会見が開かれました。

普通、全国紙やキー局の記者をされている方なら、江川選手本人がこの法の網をくぐり抜けるような契約を一人で画策して行なったわけではないことは十分わかっていたでしょう。しかしその記者会見直前の状況というのは、まさにまだプロ野球に入る前の若い選手に向けて多くの記者が敵意を剥き出しにして殺伐な雰囲気を醸し出していたというのです。

そこで、記者からの怒号のような発言が飛びかう中、江川選手が冒頭に言った一言が「そう興奮しないで下さい」だったわけですが、当時のテレビはその前に記者が怒りの調子で詰め寄る場面はカットして江川選手が冷静さを失なった記者達をなだめた場面からの映像を繰り返し流しました。当然視聴者は記者会見前の状況がわからず江川選手の若い選手にあるにも関わらずかなり「ふてぶてしい態度を取る奴だ」となってしまい、バッシングへとつながっていくのです。

この事例においては当時の政界ともからみ、単なるスポーツ選手を利用して、様々なイデオロギーを持つマスメディアが自分達の主張を押し付けようとしたり、経済界にからむ人達がお金を儲けようとしたりと、そんな大人達に江川卓さんは利用され、その悪いイメージはまだ一部の人にとって払拭されていないわけで、重ね重ね当時のマスコミ、特に編集で都合の悪い部分を切って放送したテレビの罪について考えなければいけないところだと思います。

もちろん、視聴者の興味を引き付けたいというのがテレビ制作者の本音であるわけですが、視聴率を上げたいからそこまでの罪もないスポーツ選手のその後の人生を左右しかねない映像を繰り返し流し、世論の誘導まで図ることが本当にいいのでしょうか。女子体操のトラブルがテレビで語られる中では盛んに「アスリートファースト」という言葉が出てきます。そしてオリンピックになると必ず言われるのが、「メダリストは神様でも4位以下は虫ケラ扱い」とは言いすぎかも知れませんが、メダリストでなければあまり詳しく報道しないのもまたテレビなのです。

日本のテレビが今後も「メダリスト偏重報道」を続けるなら、まずは東京オリンピックを目指す有望な選手をいかにして能力を伸ばせるような環境を整えることが大事なのですが、そこでのテレビの役割は綿密な取材によって体操に関係する人々の中にくすぶっている大きな膿をあぶり出し、今もって女子の体操がオリンピックでメダルを取れない原因を追求することではないでしょうか。

ですから、いきなりショッキングな映像が出てきたり、番組コメンテーターがいきなり意見を変えたりするような時には、冷静にその裏に何があるのか? という風に考えたり、報道がアスリートの今までの努力を葬り去るようなものではないかとも考えてみましょう。素直にテレビ制作者の好む方向に世論を誘導されないようなテレビの見方ができれば、テレビの作り手側も考え方を変えざるを得ないでしょう。


午前3時8分発生の地震はどう伝えられたか

北海道の内陸部を震源にし、最大震度7(厚真町)という激しい揺れがあり大きな被害となった9月6日の地震は、発生した時刻がテレビ放送がクロージングするのとオープニングになる時間の狭間で起こりました。さすがに私も地震前後にどのような形で各局が特番を始めたかというところまでは寝ていて見ていませんでした。

たまたま、夜中トイレに起きたのが午前3時半くらいだったので、時刻の確認のためにテレビを付けたらこの地震の報道をやっていたので一気に目が覚めてしまったのですが、BSの数局では特番に行かずに通常の番組を流していました。個人的な考えを言わせていただければ、今回地震特番を流さなかった局にもしニュースを流すネットワークがないのなら、ウェザーニュース社あたりと緊急時だけでも提携してYoutubeと同じものでも公共の電波で流してもらえば、これから書く各局の報道の中でもかなり利用価値のある放送になるのではないかと期待しているのですが。

ともあれ、地上波およびBSでは地震発生後しばらくして全て地震に関する報道になりましたが、ざっとこちらで見られるチャンネルを見た限りでは、地震が起きた時間に首都圏の地上波(東京ローカルを除く)ではニュースを流しているところはほぼなかったのですが、地元静岡のローカル局ではBSと同じように日本テレビ系の「静岡第一テレビ」がインターネットの「日テレNEWS24」をオープニングの前に同時放送していたので、そこからすぐに地震のニュースを流すことができ、機動力は高かったように見えました。

その「日テレNEWS24」ですが、私が見出してすぐに地震の起こった北海道を放送エリアにしている日本テレビ系の系列局「STV札幌テレビ放送」が主導する放送に切り替えていました。これは、まず現地はどうなっているのかと思って見る立場で言うと、東京と札幌、そして現場というような形でのやり取りがない分、かなりスムーズに現場の様子が伝わってきたような感じがします。この点は全国にキー局が少ないテレビ東京や、独立系のBS局には厳しいかも知れませんが、それこそ先に提案させていただいたようにウェザーニュースとの提携など地元提携以外にも災害の様子を伝える手段はあると思いますので、その点は各局で考えながらいかに早く正確に今起こっている状況を伝えるかということを考えていただけると幸いです。

今回のように深夜に災害が起こった場合、とるものも取りあえずまずスマホを持って逃げる人が少なくないと思います。被災した場所によってはネットが通じない場所というものもあると思いますので、ワンセグ付きのスマホなら電波が届かなくてもテレビのワンセグ電波を受信して災害の状況を知ることができます。ただ逆に、ワンセグの付いていないいわゆる格安SIM系のスマホを使っている場合、テレビ放送は見られないわけでもあります。もしネットに繋ぐことが可能であるなら、以下の事を今後試してみて下さい。格安SIMの場合一定の高速クーポンが付いた契約がほとんどだと思いますが、もし高速クーポンを使わない「低速通信」にアプリなどで切り替えて使えるような場合は、まずはいざという時のために高速クーポンを使わない設定にし低速通信でネットを使うようにするのをおすすめします。

低速通信ではウェブサイトからの文字情報を見るくらいしかできないと思いがちですが、実はそうでもありません。アプリを利用してラジオ放送の同時放送を聞く場合(NHKの「らじる★らじる」や民放の「radiko」)、低速でも十分に聞くことができます。さらに、動画による放送についてもテレビ朝日系列の「AbemaTV」のアプリの設定で「通信節約モード」のところにチェックを入れ、画質の「モバイル回線時」の設定で「通信節約モード(1GBあたり約10時間)」にチェックを入れると、低速でもそれほどストレスなくAbemaTVを見られます。

これは、低速専用回線ということで個人的に導入した「ロケットモバイル」の神プランのSIMを利用して車での移動中にもAbemaTVが見られたという実体験に基づいた情報です(ちなみにロケットモバイルの低速専用「神プラン」のスピードは120kbps程度と相当遅いです)。被災地では多くの人がネットに接続しようとするので同じようにはいかないかも知れませんが、AbemaTVのニュースでも地上波と同等の情報をリアルタイムで流してくれますし、今持っているスマホが格安SIM契約と同時に購入した安い海外製のワンセグの付かないタイプの場合、今後の事を考えて「らじる★らじる」「radiko」「AbemaTV」という3つのアプリは入れておいて、いざという時に使えるようにしておくだけでも状況は変わってくるのではないかと思います。

北海道ではまだ大きな余震が来る可能性も言われていますので、口コミではなくこうした公共の電波やネットで流れる情報を入手して今後の避難などにお役立ていただければ幸いです。


全国放送の首都圏偏向と「ちびまる子ちゃん」

2018年8月28日の朝のワイドショーで報じられた大きなニュースは2本ありました。一つは漫画・アニメで人気の「ちびまる子ちゃん」などの作品で大いに知名度があったさくらももこさんが同年8月15日でお亡くなりになっていたことが前日発表されたことによる追悼報道と、もう一つか首都圏を襲ったゲリラ豪雨についての長いレポートでした。

まさにこの内容というのは、過去から現代まで続くテレビの現状とその根底にある精神を表わすような状況だったので、その内容を記録しておきたくあえてこれらの2つの事象を見ていきたいと思います。

日本のテレビは、主に東京にあるNHK・民放の制作した番組を全国に放送していて、中には大阪や名古屋の放送局が作る帯番組やドラマもあるものの、基本的には東京が日本の中心であるという意識に基づいているのか、東京中心の情報番組やニュースも全国放送されるということが普通になっています。

逆に、地方で起こった同じクラスのゲリラ豪雨くらいでは、情報番組ではわずかしか取り上げてくれないような事も起こります。東京というのは全国から人が集まるということもあり、地方在住の人にも誰か知り合いが首都圏にいるからという理屈は立ちますが、本来は首都圏のローカルニュースで扱うべきというクラスのソースでも、取材に行きやすかったり多くの視聴者からのスクープ映像が取りやすいということもあるので、今回もまた同じように長時間の放送になってしまっているということはあるでしょう。

こうした事がわかっていて見ているならいいのですが、まだそうした事がわからない年代の人たちが、テレビの情報番組を見るなどしてただただ東京へのあこがれだけが募り、自分の故郷をないがしろにして東京へ行ってしまうと、ではその人は東京で何をよりどころにして生きていくのか? と心配になります。ここで改めて紹介したいのが漫画「ちびまる子ちゃん」の世界であるのです。

元々さくらももこさんは高校を出て短大まで自宅のある静岡県清水市(現在は平成の大合併によって静岡県静岡市清水区となっています)で生活していました。短大時代にデビューが決まったので出版社のある東京に出ることになりましたが、その作風は多くの人がご存知の通り、生まれてからずっと過ごしていた小学校の学区を中心にした物語になっています。

今回の訃報報道で改めてびっくりしたのは、アニメが放送されているという中国や台湾からのその早すぎる死を悼む声が聞こえてくることです。作品の内容については普遍的な内容がほとんどではあるのですが、先日お亡くなりになった西城秀樹さんと登場人物の「まる子」との関係は極めて地域的なもので、なぜ西城秀樹なの? という疑問を持つ方も少なくないでしょう。しかし、そうした細かいディテールを詳細に漫画に描くことで、たとえそれが自分の知らない地方都市での物語であっても、まるで自分の事のようなリアリティを感じることができるのが、「ちびまる子ちゃん」の魅力であると思います。

こうした「自分の根付いた土地に自分の個性を求める」創作活動というのは、一見すると「楽屋オチ」で「ひとりよがり」のようなものになってしまうような気もするのですが、実はそうではないどころか日本を飛び込えて世界からも認められるオリジナリティーを持つということもあるのです。

同じアニメで言えば、「ドラえもん」がそうですし、クラシックの世界で言うと、ヨーロッパの音楽に近づこうとした勢力の一方で、生まれ故郷の北海道のアイヌの自然をそのまま曲にしたことが海外で評価され、その後「ゴジラ」シリーズの作曲を担当した伊福部昭さんの例もあります。ポピュラー音楽でも、かつては何を言っているかわからないと日本ではあまり評価されなかった沖縄周辺の音楽は、今では日本の世界に誇ることができる音楽として認識されているように思います。

話は戻りますが、そんな中であくまで首都圏中心で地方のニュースを軽んじる今の東京のキー局というのは、日本の全てを代表するものではないということは、ここではっきりと明言しておきたいと思います。最近になって地方発の人気番組が首都圏で放送されたりネット配信の形で多くの人に見られるようになってきましたが、まだまだ認知度は足りないような気もします。

ですから、特に地方出身の若年層の方々については、東京にあこがれ故郷から東京に出ていくこと自体は全く問題ないと思うものの、故郷を出るまでには自分がそれまで暮らしてきた土地が自分の考えのいくらかを作っているということも認識して欲しいと切に願うのです。多くの地方出身者が集まる首都圏では、やはり自分の出身である場所で何をやってきたかということが、自分をアピールするポイントになり得るということを、ぜひ「ちびまる子ちゃん」から学んでいただきたいなと思います。

さくらももこさんの作品は、単に自分の地元に根ざした物語ということだけでなく、ほぼ自在の人物を「キャラクター化」し、その人たちを怒らせることなく「笑える」物語として成立させることのできる「客観性」および「バランス感覚」を持った現代の語り部のような存在ではなかったかと思います。ご冥福を心からお祈りいたします。