月別アーカイブ: 2019年7月

タレント事務所がテレビに与える影響の限界

テレビには芸能の部門においても「タブー」というものが存在していて、それが2019年の6月から7月にかけて、「ジャニーズ事務所」や「吉本興業」において、普通にテレビを見ている一般視聴者にまでその内容が知られることになってしまいました。

元々特定の事務所に所属していたタレントが、円満に退社することができなくなった場合、今回名前の出た事務所に限らず、元の事務所が目に見えない形で事務所を出たタレントに直接ではなくテレビ番組に出られないように「あの人を出すならうちの所属タレントをテレビに出さない」というような形でいやがらせをすることはまず間違いなくあったのではないかと思います。具体的な例については、今話題になっている島田紳助さんがプロデュースした「羞恥心」という男性3名のアイドルグループにおいて、一気の面では一番だった? とも思える野久保直樹さんだけを私たちはテレビで見ることはできないでいます。つるの剛士さんや上地雄輔さんは普通にテレビに出ているのにどうしてなのでしょう。

その理由は野久保直樹さんが勝手に自分のブログで渡辺プロダクションからの独立を一方的に宣言したことと関係があると言われていますが、それまでの芸能活動について、あまり所属プロダクションから良い待遇を受けられない中、なりふり構わず潜水の日本記録を作るなど体を張ってテレビに出ていく中で、あまり所属プロダクションからサポートを受けていなかったと感じていたからかも知れません。

何事も多くの人間の所属する所には派閥というものがあり、プロダクション上層部に可愛がられれば優先的にテレビに出してもらえることもあり、逆の立場にいる人間というのはそれこそ体を張ってでもチャンスを掴みたいと必死になるわけですが、その努力が報われた時にはきちんと面倒を見てあげるようにすれば、野久保直樹さんもいきなりの独立宣言など出すこともなかったのではないかと今になって考えたりするのです。

今回の吉本興業の騒動は、当然雑誌FRIDAYで指摘された反社会的勢力にいる人からお金をもらって飲み会に出たタレントに否があることに間違いはありません。しかし社長の会見を見ると、もし所属タレントの中でも上層部からあまり良く思われていない人にとっては、突然のタレントの契約解除という会社の発表には、明日は我が身であると思えてしまうような会社の勢力図というものを、これもまた一般の視聴者に広く伝えてしまったというところがあります。

ちなみに、私は吉本興業社長の会見を「AbemaTV」での生中継で見ていました。ネット中継では延長し放題なので、たとえ吉本興業がテレビ局に圧力を掛けて地上波での放送を差し止められたとしても、ネット中継や現場で会見の内容を録画してYou Tubeに流すというような事は止められません。

その後のワイドショーでも明らかに現吉本上層部寄りの論評をするメディアと、芸人側に立つメディアとの差が目立ちますが、これもいかに事務所が圧力を掛けたとしても、現場で起こった事が広くネットで見られるようになってくると、ごまかしというのはなかなか効きません。逆にそうした事をわかっている人が増えたことにより、本来もっと糾弾されるはずの宮迫博之・田村亮というタレントに対するバッシングが少なくなり(会見の内容が評価された部分はあるでしょう)、吉本興業および上層部と深い関係を持つタレントの方に関心が向くことになってしまいました。

今後はある程度は膠着状態が続く可能性もありますが、そもそもの吉本バッシングの原因である「反社会的勢力との交遊」という点がさらに白日の元にさらされる可能性もなくはありません。

現在の吉本興業は政府から事業をもらっている関係もあって、それまでの暴力団との関係を断ち切るために現会長・社長のような「師匠を持たないタレント」のはしりとなったダウンタウンのマネージャー出身の人物を登用し、それまでの会社としての暴力団との付き合いを断とうと努力してきたと思うのですが、逆に切られた方にしては、「この恨み晴らさでおくべきか」という気持ちを持ち続けている人がいるかも知れません。この辺については、吉本興業がどのように反社会的勢力との関係を断ってきたのかわからないのではっきりとしたことは言えませんが、今回FRIDAYに出たような写真はもっとあり、そこに写っている人物は、現在「男気」を見せている人であるかも知れません。

悪い奴がお金を目的にしないで脅すようなことがあれば、お金や圧力を掛けての解決というのは期待できませんし、少なくともそうした吉本興業が表ざたにしたくない写真があったとしても、近いうちに一般のメディアに向けて流される可能性もあると見ます。そうした事に心当たりがある場合は、タレントも事務所も、正直に話をしてきちんと釈明をするということを徹底しないと、さらにとんでもない事になる場合も出てきます。

ただ、そうした最悪のシナリオは政治家が介入して納めるという手段もあるのですが、それも必ずしも吉本興業が思う通りに解決できるかどうかはわかりません。そもそもイメージがそこまで良くない吉本興業のために動く政治家が出てきたとしても対応を誤れば、自分の政治生命にも影響が出るかも知れないわけですから。

今回の騒動は、古い体質の芸能事務所が今まで好きなようにタレントを使って設けてきたツケが出てきたと個人的には考えています。きちんとツケを払い、謝るべきところはきちんと謝った上で再生への道を進んで欲しいと思っています。


東京オリンピックでも「メダル至上主義」放送は続くのか

今回のNHK大河ドラマは途中で主人公が変わり、注目される種目も変わるというなじみのない展開になり、今回が阿部サダヲ演じる田畑政治氏がメインになって2回目の放送になりますが、まだ金栗四三氏の出番もあります。

ちなみに金栗四三氏はオリンピックのマラソンでは全くメダルには手が届かなかった選手で、そういう選手にスポットライトを当てたことで、いわゆる「勝利至上主義」をストレートに押してこないこれまでのドラマ展開をそのつもりで見ていたのですが、けたたましい調子でまくしたてる田畑氏の勢いそのまま、第二部は一気に「オリンピックは参加することに意義がある」ではなく、「オリンピックはメダルを獲ってこそ」という「メダル至上主義」の匂いを感じてしまった今回の放送でした。

今回のメインキャストははからずもアムステルダムオリンピックに日本女子選手として初めて参加し、金メダルを狙っていた100m走の準決勝で敗れたことで、一度も走ったことのない800m出場を役員に直訴し、何とか銀メダルを獲得して面目を施した(当時の期待された状況からするとドラマのようにそこまで手離しで喜べなかったと思うのですが)人見絹枝選手でした。

もちろん、女性の陸上競技の歴史の中では人見絹枝という存在は注目に値するでしょうが、あれほど日本のマラソンのために尽力した金栗四三氏が人見絹枝氏の結果だけを見て喜ぶシーンだけしか出さず、マラソン競技について全く触れなかったのはどう考えてもおかしな事です。落語のシーンをカットしても40キロ付近までトップで通過し、結果四位入賞した山田兼松選手の名前とそのレースの再現は入れないと、何でいままで金栗四三氏をメインで出してきたのか? もしかしてドラマ制作側の意図としては金栗四三氏は「マラソンの先駆者」ではなく「女子陸上普及の立役者」として出したかったのか? という風にも思えてきてしまいます。

それにひきかえ、前回まで全くドラマ的には出てこなかった陸上の三段飛び金メダリストの織田幹雄氏、そして水泳でも唐突に「新人」として出現し、前回出た東大地下の温水プールでは全く練習していないような(前回の筋ではこのプールを作って練習したことで日本の水泳チームが力を付けたように描かれていました)200m平泳ぎの金メダリスト鶴田義行氏はちゃっかりと出番がありました。

まさに、「メダリストはこれまでのストーリーとは無関係でもしっかり役者を付け名前を出すがメダルを取れなければストーリーに関係があっても名前すら出さない」という感じになってくるのです。

その予感が増大するのが、当時まだ小学生だったと思われるベルリン・オリンピックの平泳ぎで金メダリストになる前畑秀子選手が人見絹枝選手に続く日本人女子アスリートの象徴として出てきたことです。前畑選手を出した以上、戦前のベルリン・オリンピックについて触れないわけにはいかないでしょうが、果たしてそこで、当時の日本陸上界にとって悲願であったマラソン金メダルと銅メダルを獲得した朝鮮半島半身のランナー孫基禎・南昇龍の両選手の事はどう扱うのか。また、後のオリンピックチャンピオンになるザトペック選手が陸上を始めるきっかけになったという5000mと10000mでフィンランドの3選手と互角に渡り合うも両方のレースで無念の四位となった村社講平選手は出てくるのか、次回に向けて大変に楽しみになってきました(^^;)。

個人的にはメダルだけに執着し、メダリストばかり注目する状況というのは良いとは思わず、逆に四位入賞者にシンパシーを感じてしまうことがあります。マラソンでは2大会連続四位に入った中山竹通選手の凄さが印象に残っていますし、同じく2大会連続四位ということでは冬季五輪スキーモーグルの上村愛子選手の頑張りはメダリストに全く引けを取りません。しかも上村選手の夫はトリノオリンピックスラロームで四位入賞を果たした皆川賢太郎選手であるというところにもぐっとくるものがあります。

今回の大河ドラマは多くの視聴者を東京オリンピックに向けて盛り上げるために企画されたものだということはわかって見ていますが、今回の内容はあまりにもメダル至上主義が過ぎているという印象でした。次回に向けていくらかの軌道修正があるのか、とにかく次回を楽しみにしておきます。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(26)NHK総合
7/7 (日) 20:00 ~ 20:45 (45分)
【出演】
阿部サダヲ,中村勘九郎,桐谷健太,斎藤工,三浦貴大,大東駿介,上白石萌歌,柄本佑,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,じろう,永山絢斗,菅原小春,根岸季衣,萩原健一ほか
【作】
宮藤官九郎

(番組内容)

アムステルダム五輪が迫り、体協が相変わらず資金難に苦しむ中、田畑政治(阿部サダヲ)は記者人脈を活かし、政界の大物、大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)に選手派遣のための資金援助を直談判。本大会では女子陸上が正式種目に。国内予選を席巻した人見絹枝(菅原小春)はプレッシャーに押しつぶされ、期待された100mで惨敗。このままでは日本の女子スポーツの未来が閉ざされるー。絹枝は未経験の800mへの挑戦を決意する。