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あくせく売らない事が魅力的な「通販番組」

この番組は2015年から始まっているそうですが、個人的には今回が初見で、実に興味深く拝見しました。番組の最初にはすでに「ジャパネットたかた」の社長を引退し、現在は出身地である長崎に貢献するためということで、新たにサッカーJリーグのV・ファーレン長崎の社長に就任し、今季J1で戦えるチームを作っている高田明氏(「高」の字は実際は「はしご高」)が登場しました。

今回のポイントはワールドカップで中断しているサッカーJリーグのV・ファーレン長崎の後半最初の試合が新たにバルセロナからイニエスタ選手が加入する神戸だということで、スタジアム周辺から散歩を開始し、地元の人達とふれあっていきます。

改めて考えてみると、番組に出演している高田明氏はタレントではないものの、他の「お散歩系紀行番組」と比べてはるかに周辺の人々の食い付きが良く、高田明氏の方も事前の仕込みは十分にあるにしろ、旅で出会った人達やスタッフへの配慮をにじませつつ、神戸に出掛けたら行ってみたい場所をことごとく訪問していきます。

面白かったのが、一泊1500円という二畳のテレビ付きの「ドヤ」とかつては呼ばれた簡易宿泊所の中を見たいと言い出し、本当に部屋を見せてもらっていたことです。看板に書かれている内容は、実際部屋がどのくらいの状態になっているのかということは、特に安く神戸で宿を探している人にとってはいい情報になったと思います。このように、街をぶらぶらしながらも、どこにテレビを見ている視聴者の興味があり、何を知りたいかを瞬時に察知して飛び込んでいくだけの行動力というものを感じます。そうした行動力が会社を大きくし、さらにはV・ファーレン長崎をJ1リーグまで昇り詰めたという感じもするわけです。

番組の後半では同じ兵庫県の中でも、神戸からは遠い日本海側の豊岡まで行くことになりましたが、ここでも街を高田明氏が歩く中、豊岡以外ではあまり見たことがない地場産品の「カバンの自動販売機」と遭遇し、「一つ1,500円のカバンを買うのに二千円を入れても買えず、千円札と500円玉を入れなければ買えない」というかなり細かいカバン自動販売機についての情報を入れつつ、豊岡でも選りすぐりの鞄メーカーを訪ね、そこで一押しのカバンの数々を紹介してもらうことになります。

ここで終了するのが普通の番組であるというところなのですが、ここまでの中であえてその場で値段を聞かないということがまた、単なる視聴者をお客様に変える手法なのかも知れません。私などは通販番組の司会としてテレビからラジオまであらゆる商品を売ってきた高田明氏の事を知っていながら、「なぜ高田明氏は単なるお散歩番組を手掛けているのか?」と思いながらこの番組を見ていたのですが、最後に来てこれらのカバンを番組放送時に合わせて限定数ありのジャパネットたかたでのテレビショッピングの商品として出してきたときには、これこそ究極のテレビショッピングの番組ではないかと唸りました。

丁寧にカバンが作られている行程を紹介することで、当然きちんとした仕事で作られているカバンは安くはないだろうなあと思いながら見ていて、それでも海外ブランド品のカバンより安いのにきちんとした技術に裏打ちされた素晴らしいカバンであるということは番組を見ていた人には十分わかるはずです。特にあるメーカーでは実際にテレビでは言えない海外ブランドのカバンを手がけているということだったのですが、そのブランド名が明かされなくてもあくまでカバンとしての性能や細かい手作業の内容を見て、純粋に欲しいと思った方は少なくないだろうと思います。

もちろん、番組を見て豊岡のカバンに興味を持って実際にこの夏現地へ出掛け、そこで直接自分の好みのカバンを購入するつもりで出掛けてもいいのですが、この番組の魅力は高田明氏が出掛ける先で見たものや興味を持ったものを疑似体験できるところにもあります。テレビの取材ということではあるもののとにかく関係者のトップに直接お会いしてある程度まとめて購入することによる価格を実勢価格と見てこの金額は妥当か否かというのは、今ではネットで検索すればだいたいのところはわかりますので、買おうと思った人は素直に買ってしまうのではないかと思います。

ただこの番組は、いわゆるコマーシャルのない通販番組というジャンルのもので、今回ジャパネットたかたでは「BSフジ」「BS日テレ」「BS JAPAN」の3つのBS放送で違う日に放送されました。今回出てきた商品はホームページからでも購入することができます。ただしテレビで用意している個数を上回る注文が入った場合は、納期が伸びる可能性があるということも番組で語られていました。テレビを見ていてすぐ注文することによる「即納」というメリットを強調し、その土地の名産品を売りまくるというのは、単なるテレビショッピングの枠を超えた可能性というものを感じます。

もし番組の主役が元社長の高田明氏でなくタレントを使っての演出だったらここまでインパクトはないでしょうし、まさに、高田氏が元気でいるうちにだけ見られる貴重な番組ではないかと秘かに思っています。番組の再放送というのも番組自体で商品を売るということがあるのでなかなか再放送も難しいと思いますが、次のシリーズではどこへ行って何に興味を持って何を売ろうとするのか? という興味を持って見てみたいと本気で思っています。

(番組データ)

高田明のいいモノさんぽ 兵庫篇 BS日テレ
7/14 (土) 14:00 ~ 14:55 (55分)
出演 高田明

(番組内容)

高田明が全国の素晴らしいモノを探す旅「いいモノさんぽ」 舞台は兵庫県。港町で知られる神戸の「下町」を中心におさんぽ。 老舗居酒屋の名物女将や地下鉄にある意外な施設など知られざる神戸の魅力を発見! 最後はご当地の素敵な逸品にも出会います。


テレビ脚本から生まれたヒーローに思いを馳せる

紹介する「伝七捕物帳」は、私にテレビ時代劇の面白さを教えてくれた作品です。中村梅之助さんはいい役者さんですが、絶世のスターというわけではなく主役に全ての魅力が詰まっているようなものでなく、あくまでも脇を固めた役者さんとの掛け合いが魅力です。当然本放送ではなく、当時の東京12チャンネルが全ての放送終了前に「夜の時代劇」として放送しているのをたまたま目にし、そのおかげでかなり宵っ張りになってしまいました。

当時はあまり気にしなかったのですが、役者さん以外にも後に別の方面で有名になったりする方が関わっておられるのを知るのも、昔の作品を改めて今見直す場合の楽しさで、ついつい時間がある時には見てしまいます。今回は水戸黄門では悪役の親玉としてすっかり名前が売れてしまった柳沢吉保役で有名な山形勲さんがゲストで登場したのが目を引きました。その役どころは老中になるために年貢を増やして取りたてたお殿様の土蔵から千両箱を盗み出し、最後には市中引き回しを受ける盗賊の役なのですが、伝七とやり取りをする中で、自分の命を投げ出す代わりに、その殿様の年貢取り立てによる圧政によって苦しんでいたお百姓衆に施しを行なう義賊として描かれています。

いつもの悪役を見慣れていても、山形さんの義賊としての演技は素晴らしく、さらにそれを受ける中村梅之助さんの微妙なやり取りも良く、いわゆる「莫逆の友」という感じを醸し出していました。単に毎週消費されるだけの連続ドラマに過ぎないのに、今にも通じるような社会の切なさと男の友情を描いていてすごいなと思っていたら、脚本のテロップに「池田一朗」とありなるほどと思いました。

この池田一朗とは本名で、長くテレビドラマの脚本家として活躍されましたが、多くの方にとってはペンネームの「隆慶一郎」の方が有名でしょう。週刊少年ジャンプに連載された異色の時代劇漫画「花の慶次」は多くの方はご存知でしょうし、前田慶次郎はもちろん、それこそ生涯の友として描かれている直江山城守兼続は、この漫画があって広く知られるようになったのではないかと思われます。今でも米沢市に行けば前田慶次郎関連ののぼりを見ることができますし、時代小説家としては活動期間が少なかった関係で寡作ながらも非常に印象深い作品を多く残した作家として、今後も読まれていく方だと思っています。もし、もう少し長く生きて「花の慶次」や「影武者徳川家康」の漫画原作や、もしそれらの作品がテレビドラマ化された際の脚本を書いていたら今の時代劇の体たらくはなかったのではと思うほどの才能が早くに無くなってしまったのは大変残念だと今でも思います。

最近のテレビは時代劇はお金がかかるとその数が少なくなったと思ったら、現代劇の2時間サスペンスさえも減らす傾向にあるようです。話題のドラマは数々あれど、主役に注目される俳優・女優を起用してその人気で見てもらおうとするものが多かったりして、たとえ時代の人気者が出なくても、脚本や演技で見せ、この作品のように40年以上前の作品であっても陳腐さを感じることもなくむしろその脚本の妙に唸るような作品を作っているということを考え合わせてみると、改めてこれからのテレビは何を発信していくのか? という所にたどり着きます。

生放送のニュース番組にコメンテーターを並べ、出演者のキャラクターに助けられて一通りの政権批判をするのもいいでしょうが、時間を掛けて作るドラマにこそテレビ局の主張が詰まっているとも思えるので、スポンサーを納得させるためには当代一流の俳優を主役に据えるドラマもいいでしょうが、逆にこの伝七捕物帳のようにレギュラーメンバーは地味でも毎回出演するゲストに当代注目を浴びる人物を出すという方法で、地味ではあるが後々の鑑賞にも耐えうるような中味の濃い脚本のドラマを作ることもできるのではないでしょうか。

個人的には「民自党」なんていう自民党だか民主党だかわからない政治家を悪役にして正義の味方が悪党をやっつけるというような現代劇よりも、封建主義で権力をかさにきて好き勝手している地方の小役人の中に現代の悪党を映し出せるような時代劇の方が時の権力者も文句を言えないでしょうし、スポンサーにも迷惑を掛けずに悪い奴を叩ける分、時代劇を今の時代にあえて作るのは無駄ではないように思います。もちろん、そんな意図を視聴者にわからせてくれる良質な脚本が必要になると思いますが、まだ世に出てこない才能はこの世界に埋もれていると思うので、テレビ局はそうした才能を発掘し世に出すという役割も担っていることも忘れないで欲しいですね。先に紹介した隆慶一郎さんの小説を私達が読めるのも、長い間テレビの脚本家として活動してきたからだと思いますし、ぜひ今後のテレビでは年齢性別にこだわらず、いい脚本を書く人を登用して欲しいものです。


良質な番組素材「箱根駅伝」だが感動だけでいいのか?

実はこの番組は後編で、春と夏の有力校・有力選手を追ったドキュメンタリーは11月22日に同じBS日テレで放送されました。有力校の合宿の様子に取材するなど、本大会が翌年の1月2日~3日なのでかなり前から箱根駅伝で引っぱっているという印象があります。また、本来は単なる関東での記録会に過ぎない箱根駅伝予選会の生中継もさらにその前の10月14日に地上波の日本テレビや、私の住んでいる静岡第一テレビでも地上波中継されました(BS日テレは録画放送)。改めて「箱根駅伝」というブランド力の強さを感じます。

ただ、日テレで地上波、ラジオでもNHK(関東ローカルの文化放送も)が生中継するという全国的なイベントになっているにも関わらず、大学生の駅伝の中で出雲駅伝と全日本大学駅伝を抑えて一番の知名度を誇っているのは、やはりその歴史によるところが大きいと思われます。

今でこそプロ野球でも全国各地にプロチームや学生の強豪がひしめいていますが、過去にはそこまで競技人口がなかったこともあり、とにかく競技普及のために大きな大会やリーグを東京周辺に集めてしまうことにより選手の強化を図ったという時代背景があったように思います。高校野球の甲子園は関西ですが、甲子園で活躍したスターの受け皿としては東京六大学のリーグ戦があり、今では必ずしも東京六大学リーグが日本最強ではなくなっているにも関わらず、さらにリーグ戦の順位に関係なくても必ず最後の早慶戦をNHK教育で中継するという慣例があるように、駅伝の世界においてもそうした伝統が引き継がれていて、実は全国大会ではないのに国民的行事になってしまったのが箱根駅伝だと言えるでしょう。

元々はアムステルダムオリンピックに日本人選手として初めて出場したマラソンの当時の世界記録保持者、金栗四三氏によって始められた箱根駅伝ですが、マラソンでオリンピックを狙う人材がそのために東京周辺の大学に集まってきたことは確かで、その状況は今でも続いています。全国から関東の大学に有力選手が集まってしまうことから、箱根へ向けてのトレーニングをする中で選手自身も能力が開花するなど、オリンピック選手を育成するための一定の役割を今も担っていることは確かです。ただ、テレビで今回紹介するような選手やチームに対する取材のもとで、スター選手が生まれる中、そうしたスター選手が思ったほど世界的には活躍できないというジレンマも生んでいます。

もし東京オリンピックに「駅伝」という新種目をオープン競技として大手町~箱根間往復で行なったとしたら、十分メダル圏内に入るとは思いますが、オリンピックの種目には残念ながら「山登り」や「山下り」を競う陸上競技はなく、いくらテレビで「山の神」と持てはやしたとしても、トラックやロードで世界の強豪と競えるだけの結果が出ていないことも確かです。もっとも過酷で急な山登り山下りのある競争がオリンピック競技として公認されるかというと、安全性の面から難しいでしょうが。

さらに、走る人数が多くなれば当日の体調によってブレーキとなってしまう可能性もあるのですが、そこで完全に脱水症状になって足が止まっているのにチームとしてタスキを繋ぐことを最優先にするなんてことになってしまうと大変なことになります。例えば、山梨学院大学の大エースで、前の年には世界選手権のマラソンの日本代表になった中村祐二選手が1996年の「花の2区」で足の痛みをおして走ったものの1キロ過ぎから痛みで走れなくなった時の事を思い出します。

普通は走れなくなればコースアウトするなり指導者が掛け寄る形で棄権させるのが選手生命を考えれば最良の選択だと思うのですが、その時は応援していた山梨学院大の選手達は、レースを止めさせるのではなく、とにかくタスキをつなげて欲しいと思ったのか、中村選手の伴走をしだしたのでした。これはお涙頂戴の根性論からすると実に美しい光景かも知れませんが、選手によっては伴走している選手達に義理立てをして無理をして走ることでその後の選手生命が絶たれる場合もある危うい行為です。そのまましばらく中村選手を走らせた上田監督の判断も本当に適切だったのかどうか、私自身は陸上の専門家ではないのでわかりませんが、単に精神論で押し切って美談にしてはいけないのではないかと、その時には思いました。

昨今の箱根駅伝を見ていてもテレビアナウンサーの勇み足だと思うのが「無念の繰り上げスタート」というフレーズです。もし体に変調をきたすほどのトラブルがあってタスキ渡しが遅れるのなら、体調がいい時に「その一秒を絞り出す」のはいいとしても、痛めた足をかばってまで頑張らせる必要はありませんし、さらに脱水症状によってフラフラになっている場合には頭を打つようにして倒れればそれだけで命の危険もあります。その場合には有無を言わさずに棄権させるようでないと、たとえ才能のある前途有望な選手だったとしても、調整不足から脱水症状を起こしたら、走るどころかフラフラ歩くようになり、ついには頭から崩れるように転倒して再起不能どころかその後の生活もおぼつかない事故が出る恐れもあります。

翻って考えると、1984年ロサンゼルスオリンピックの女子マラソンで印象的な姿をテレビに映し出したスイスのガブリエラ・アンデルセン選手の様子をテレビが最後まで映し出した事が、どんな状態になっても死力を尽くしてゴールするということが美しく素晴らしいという価値感を生み出し、それが箱根駅伝にも伝染してしまったのではないかと考えることもできます。テレビがフラフラになったアンデルセン選手をアップで映し出す前に、大会関係者やスイスの陸上スタッフが早めに彼女の安全を考えて棄権させるべきだったと思います。

種目は違いますが、この文章を書いている2017年12月現在、話題の大相撲の貴乃花親方も当時の小泉首相による「痛みに耐えてよく頑張った、感動した!」というフレーズで賞賛された優勝決定戦への強行出場が力士としての寿命を縮めたということもあります。やはり本当に世界で戦える人材を箱根駅伝が育成するというなら、選手の健康や生命を危うくするような無理を強要させて「悲劇のヒーロー」を作ったり、世界レベルでそれほどのタイムが出ていないのに安易にスターに祭り上げるような事は避けて欲しいと思います。しかしテレビは来たる1月2日からの箱根駅伝本大会ではまた新たなスターを祭り上げてしまいそうな気がします。そんな中で思うことは、今回のような取材が訪れたとしても、あくまで選手の方々は冷静に対応していただいて、本気でオリンピックのメダルを狙っている選手はここをゴールにしないで欲しいと言うことだけですね。

(番組データ)

密着!箱根駅伝 春夏秋冬 後編(秋・冬)BS日テレ
12/20 (水) 19:00 ~ 20:54 (114分)

(番組内容)

1月4日早朝。ひとつの戦いが終わった翌日、次の戦いはすでに始まっていた!箱根駅伝に挑む学生ランナーたちの1年間に独自密着、その後編。
前哨戦では東海大、神奈川大が王者・青山学院を撃破。時代は変わるのか?王者が輝きを取り戻すのか?箱根を目指す学生ランナーたちの1年に密着。