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樹木希林追悼で全く出て来なかった「美空ひばり物語」

2018年9月の芸能ニュースで、予定された盛り上がりがあり、そのニュースバリューもすさまじかった歌手の安室奈美恵さん引退報道を押しのけてここ数日のトップニュースになっているのが女優の樹木希林さんの訃報だったことは、それだけ突然だったということと、喪失感が関係者には強いことの裏返しだったように思います。

そうして、多くの方は今後公開される映画の宣伝も含めた樹木希林さんの仕事や私生活について学習するように多くの情報を知らされるわけですが、テレビドラマの代表作としては「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」「ムー一族」という久世光彦氏のドラマについての印象が強いですが、BSのTwellVで「寺内貫太郎一家」がリバイバル放送が最近までされていたこともあり、そのコミカルな演技の魅力を改めて見られたのはラッキーだったかなと思います。

今後、樹木希林さんを偲んで、様々な番組が放送されると思うのですが、すぐに「徹子の部屋」での出演回が再放送されるなど、トーク番組を追悼番組として流すのが簡単ですし、樹木希林さんは普通の女優さんが言わないような事を言うので、安易に多くのトーク番組が流れそうです。しかし、それはあくまで女優ではない「内田啓子(樹木希林さんの本名)」としての発言であるので、しっかりと樹木希林さんの女優としての仕事を追体験してその凄さを感じるなら、やはり単発のドラマで熱演されている作品を放送するべきではないかと思います。

映画は映画でどれが代表作かというところに議論の余地はあると思いますが、単発ドラマでインパクトがあって、誰が見てもわかるという意味では、TBSで1989年の年末に放送された特別企画のドラマ「美空ひばり物語」が個人的な一押しです。何故かはわかりませんが、過去の女優人生をワイドショーで振り返る中で、このドラマの存在はほとんど紹介されませんでした。樹木希林さんが演じた、美空ひばりさんの母親でステージママとして有名だった加藤喜美枝さん役の演技について語ることがタブーになっているのかも知れませんが、あくまで樹木希林さんの追悼のために流すなら問題ないのではないかとも思えるのですが。

確かに過去のテレビドラマというのは制作したテレビ局にも録画したアーカイブスが存在しないものもあるなど、一度流したらそれっきりという割り切りのもとで作られたものが多かったように思います。しかし、最近のテレビドラマでは最終回のエンディングの後にすぐ「DVD化決定!」や「オンデマンド配信決定」なんて宣伝文句が出てくるほど、二次使用を見越して作られているものがあるというのが現状です。「美空ひばり物語」についても一度VHSビデオ化はされている作品でもあるので、ぜひ再放送の方向で関係者の方々が考えてくれればと思います。

半年毎日受信料で宣伝ドラマは止めませんか?

コシノ三姉妹、ニッカウヰスキー、大同生命保険、暮しの手帖、ファミリア、吉本興業、これらの企業(事業)に共通する事は何でしょうか? それは「カーネーション」、「マッサン」、「あさが来た」、「とと姉ちゃん」、「べっぴんさん」、「わろてんか」というNHKの朝の連続テレビ小説の題材となった企業(事業)だということです。

先日発表された2018年秋に大阪放送局で作られる朝ドラは「まんぷく」で、日清食品創業者の安藤百福氏夫妻の伝記になるそうですが、今回の発表は二重の意味で優遇されていると感じます。

まず、安藤百福氏をモデルとした朝ドラとしてはすでに作詞家のなかにし礼氏の本を参考にしたミュージカル仕立ての朝ドラで、石原さとみさんや上野樹里さんの人気を不動のものにした「てるてる家族」にも、登場人物の秋子さんが出入りする先の研究者として中村梅雀さんが演じて登場しています。これは、戦後を代表する食品としてのアクセントという感じでしたが、今回日清食品を大々的にNHKがPRすることについて、二度目ということもありこの題材で本当に良かったのかという声はこれからどんどん大きくなっていくのではないでしょうか。

上に挙げさせていただいた企業の中で、今まではそれほどドラマを宣伝活動に利用したのはニッカウヰスキーや大同生命保険が目立つくらいでした(メディアの方から取材に行っていたと私自身が思っていたものは省いてありますが、当該企業の宣伝活動の全てを把握していないところもあるため、他のケースでも同じようなことがあったら自分の不明を詫びるしかありませんので、ご存知の宣伝活動があればご指摘下さい)。現在放送されている「わろてんか」をどのように吉本興業が扱うかはわからないものの、やりようによっては顧客訪問の際の話題作りとしても相当の「営業ツール」をNHKが提供していると言えると思います。そんな感じで来年の秋から日清食品がもし新製品を出してきたり、既存製品の大キャンペーンをするということになると、競合する同業他社の損出というものも生む可能性もあるわけです。

これが、民放のドラマで安定してスポンサー料を払う企業についてやるというのならそれだけお金を掛けているという事にもなるので、うまい宣伝だくらいにしか思わないのですが、もしドラマ連動した露骨なタイアップ販売が行なわれたとすれば、改めてNHKの存在意義というものを感じざるを得なくなってしまいます。

伝記系のドラマというのは、ある意味成功が約束されているということもあり、どんなにヒロインが厳しい目に遭わされていたとしても結局はその苦労は成功のための苦労だったという風に美化されてしまうのですが、そうは言っても、あの橋田壽賀子氏か書いたフィクション「おしん」が嫁ぎ先の佐賀で受けたほどの苦労までは描くことはできていないように思います。ある意味ぬるい苦労で成功が得られるのではという誤解を与えかねない事でもあるので、実在の人物には配慮しつつも、その苦労やいけずに対抗するために取った実際の話に近いことなどは、当然今放送中の「わろてんか」でも描いてこそ説得力を持つと思われます。そうした点は来年の「まんぷく」ではどうなるのか、やはりそれなりに厳しい目で視聴者は見ていかなければならないでしょうし、決してドラマで見たからと日清食品の製品を買うような短絡的な行動を取らないことが、今後の朝ドラのあり方を考える場合の見る側の対応ではないかと思います。

そもそも、今それほど大きくない会社であるものの、創業者に魅力があるところをたまに主人公にして朝ドラをやるならそう変にも思わないとは思うのですが、ここ最近の朝ドラはほとんど実在しそれなりに大きな商いをやっている企業の創業者をヒロインとして扱っているものが多いと思います。それこそ、企業からの働きかけがあって忖度したのか? というような疑惑が出てきても不思議ではないわけで、そんな疑惑が出てこないうちに、今のような朝ドラの作り方をNHKは止めるべきだと思うのは私だけではないはずです。