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美輪明宏さんはテレビの外で「一発屋」を脱した

お笑い芸人の小島よしおさんが、そろそろテレビでは飽きられてきた時の話から今回は始めさせていただきます。たまたま何かの番組内で小島よしおさんが美輪明宏さんとご一緒する時があり、小島さんが美輪さんに「一発屋にならないためにはどうしたらいいのですか?」ということを尋ねたのですが、小島さんの脳裏には美輪さんは芸能界の重鎮としての地位があり、自分とは全く違う雲の上の存在だと思ってそんな常人にはなかなか答えが見付からないような問いを発したのですが、その時に美輪さんが発した言葉というものを覚えています。

「あら、私だって一発屋だったのよ」

その時は私自身も美輪さんが言われるように「一発屋」という存在だったことを知りませんでした。この番組を見れば、それが真実であり、さらに苦労を重ねて歌い続けてきたからこそ今の美輪明宏という存在があることがわかります。

番組を見ていない方のために簡単に説明すると、東京に出て銀座の「銀巴里」の専属歌手になりフランスのシャンソンを自分で訳詞して歌ったのが評判になり、出したレコード「メケ・メケ」がヒットしたのですが、人気絶頂の時に同性愛者であることをカミングアウトしたことで芸能マスコミからの大バッシングを受けて全く仕事が無くなります。

無一文になった美輪さんが全国のキャバレー回りをする中で生まれたのが時代的にもシンガーソングライターのはしりのように自分で作詞作曲した曲で、多くの売れている時に擦り寄ってきた人々が手のひらを返すように去っていく中、当時「上を向いて歩こう」がヒットしていた作曲家の中村八大さんのところでした。このくだりを中村八大さんの息子さんが語るところは、やはり一流の仕事をしている人はホンモノを理解できるのだなあとしみじみ思いました。その結果、美輪さんは中村八大さんが音楽を担当するNHKのバラエティ「夢で逢いましょう」の「今月の歌」に登場。その姿は黒のセーターに黒のスラックスという、後に同じNHKの「SONGS」や「紅白歌合戦」に出演した時に見せた姿のようで、これが美輪さんの本気の姿なのかなと思ったりしました。

その後、番組のテーマである「ヨイトマケの唄」をNET(現テレビ朝日)「木島則夫モーニングショー」でノーカットで歌ったことが話題になったことでレコードが出て、40万枚の大ヒットになり、見事「一発屋」から脱したわけなのですが、この後、さらに理不尽な境遇に美輪さんも「ヨイトマケの唄」も晒され、美輪さんが「ヨイトマケの唄」をテレビで歌うことはしばらくできなくなってしまったのです。

それは、当時様々なメディアで起きていた「差別的な用語」についてのかなり強硬な抗議活動をする団体があったため、この「ヨイトマケの唄」の中にある「土方」という呼び方にクレームが付き、「放送禁止歌」という名前の「放送を自粛すべき歌」としてテレビ局にリストアップされたことで、曲および美輪さん自身もテレビに呼ばれなくなってしまったというわけです。

普通ならそこまでバッシングを受け、テレビの中からもはじき出された中で復活することは難しいと思うのですが、まさに不死鳥のように美輪明宏さんはテレビに復活し、史上最高齢での初の紅白歌合戦出場を「ヨイトマケの唄」で果たすことになるわけですが、そこに至るまでにもかなりの長い期間、テレビではない外の世界でどさ回りのように日本中を旅して回り、多くの人達と語り合い、そんな中でさらなる歌の説得力を持って行ったように思います。テレビというのはある種のショーウィンドウだとするならば、「一発屋」から抜け出すためにはテレビに固執することなく自分の実力をテレビでない所で磨くことが一番の近道のように思うのです。

冒頭で紹介した小島よしおさんも、今や小さな子どもたちのためにテレビでないステージをこなす中で「ごぼうのうた」を作り、今やデビュー当初とは違った顔を見せています。実際に小島よしおさんが美輪さんに受けたアドバイスからそうなったのかどうかはわかりませんが、恐らく今後も小島さんは「一発屋」というネタをうまく使いながらこれからも安定した芸能生活を行なってくれると思います。

最後に、私が考える「ヨイトマケの唄」の魅力について書いておきたいと思います。その歌詞において、たいがいの曲というのは時代とともに古びていきます。すでに現代の人にとって電話といえば「スマホ」のことで、ダイヤル式の電話など全くその存在も知らない人が存在する中、「電話のダイヤル回して」なんて歌詞があったら何の事かわからずに古びていくのが普通です。「ヨイトマケの唄」の歌詞の以下の部分が、この曲を今でも歌い継がれるものにしている素晴らしい歌詞だと思います。

「今じゃ機械の世の中で おまけに僕はエンジニア」

「機械」と「エンジニア」という言葉はレコードが出て50年以上経っても「死語」になって辞書の記述から消えるようなことにはなっていません。数ある言葉の中からこの二つの言葉を選んで歌詞にした美輪さんの才能というのはそれだけでも素晴しいと感心するしかありません。

(番組データ)

美輪明宏 ヨイトマケの唄 その愛と秘密 NHK BSプレミアム
2/3 (土) 19:30 ~ 21:00 (90分)
【出演】シャンソン歌手…美輪明宏,
【語り】石澤典夫,久保田祐佳

(番組内容)

美輪明宏の伝説の名曲「ヨイトマケの唄」。この歌が人々に愛されるまでには数々のドラマがあった。その謎をひもとく未公開テープが作曲家・中村八大の遺品に残されていた。そこには若き日の美輪の肉声が。美輪が自らの人生を投影し、底辺で精一杯生きる人々の姿に心を動かされ、書き上げたこの曲は数奇な運命をたどりながら時代を越えて歌い継がれていく。美輪本人や関係者の証言からこの歌が人々の心をとらえ続ける秘密に迫る。