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番組タイトルと中味の違うことをやってそのまま放送する番組があった

教科書に出てくる偉人というと、普通の人でない超人的な能力を持っている人ではないかと思いがちですが、今の世界は人類が生殖を続けてここまで辿り着いているものに過ぎません。ですから、現在の社会でもテレビに向かって多くの人々が文句を言うような人が、後世の人から見ると、まれにみる偉人として取り扱う可能性だってあります。

今回の番組で紹介される数々の偉人と言われる人でも、生きている時には何をしでかすかわからない人間であり、決して聖人ではありません。しかし、有名になったのにはそれなりの理由があり、光り輝く経歴を持つに至った人間というのは、普通に生活していてはなかなか会うことが難しく、その人の事について書かれているものを読むと、中にはその人物を偉大に見せるために実際と違う創作部分が挿入されているのではないかと疑いの向く部分もあります。

その最も顕著な例が、独裁政権を権威付けるために書かれた伝記というか「伝説」の類の書です。君主の業績を余すことなく書き連ねようとするために、最高権力者の姿を、ある時は頭脳明晰、ある時はスポーツマンというような正義のヒーロー的な偶像化をしてしまう事は良くあることですが、そうでない現実の人物像を知りたいと思っている方は少なくないはずです。

今回紹介する「発見!偉人とホントに会った人」という番組のコンセプトとしては、そうした虚実相まって祭り上げられた偉人としての姿ではなく、現在生きている人が会ったことのある過去に栄光を極めた人物について、実際に会った人でなければわからないような事を聞き出し、そこから人物像を深く掘り下げることを目的としたと思うのですが、今回のオードリー・ヘップバーン、榎本健一、沢村栄治というジャンルの違う3人の実像に2時間で(実際はショップチャンネルのコマーシャルが間に挟まっていたのでトータルの時間は短いですが)迫るというのはかなり難しいと思わざるを得ません。

それでも、オードリー・ヘップバーンや榎本健一さんについては今でも出演している映画ソフトをいつでも見ることができますし、女優やお笑い芸人というジャンルは廃れることなく残っていますので、名前が出た時点でどんな人なのかという事を理解しやすいですが、問題は最後の沢村栄治さんです。

日本人と野球というのは、過去には切っても切り離せない関係がありました。昔の「野球は巨人」というような、テレビのプロ野球中継が全て読売巨人軍の試合を軸に回っていたということで、栄光の巨人軍を歴史作った伝説の選手であることに疑いの余地はありません。しかし、どれだけその偉業とともに「沢村栄治」という名前が現代社会においてそれほど知られているわけではないでしょう。

こうした番組を作るからには、どこまで取り上げた人物を後世まで語り継いで行こうかという覚悟を示すものとして、それなりの熱意が必要ではなかったかと思います。具体的には、3回も召集令状が来るほど戦争に駆り立てられ、それでもめげずに野球界に復帰した沢村選手の野球がやりたいと思ってもできないまま無念の戦死をしたということを、過去のテレビが伝えたくらいのメッセージ力をこの番組では発揮していたかということです。

日本のTVアニメは手塚治虫さんの「鉄腕アトム」が先陣を切りましたが、その後もSFアクション系のものが続き、食傷気味な部分があったのではないかと思います。そんな中、新たなジャンルとして小供だけでなく大人でも人気の野球を題材としてアニメが作られました。それがTVアニメの「巨人の星」です。

改めて放送データを見ると、巨人の星は1968年から1971年まで放送されていましたので、リアルタイムで司会をした立川志らく師匠が見ていたとしたら5才から8才と、さすがに細かい内容は覚えていないくらいの年代ではあるのですが、このアニメは何回も再放送されたことで、当時の日本の小学生から中学生の野球熱が高まる要因になったということもあります。今では差別用語(「日本一の日雇い人夫」の回など)の自主規制のため、小さい子に見せてはいけないような状況になっています。

今回沢村栄治さんについて語られた内容の多くは、実はアニメの「巨人の星」の第91回「栄光のピッチング 沢村栄治物語」の中でほとんど語られていたのです。当時の男の子は野球が好きとか嫌いとかいうことはなくて、毎回楽しみにアニメを見ていたと思うので、戦争に行って手榴弾の投げ過ぎで肩を壊し全盛期の上手投げでなく横や下から投げることもあったという話も見ていたはずです。まあ、そこまでアニメで語られた沢村栄治さんのエピソードを知らないということはあるかも知れませんが、それだけ当時のTVアニメを作っていた人にとっては、この沢村栄治という選手がいたことを当時の子供たちに伝えていきたいと思って、ストーリー展開からすると少々異色な、沢村栄治物語だけで一本の物語を作ってしまったのです。

そうした熱意を無意識に感じた当時のお子さんの世代が立川志らくさんの年代であると言えるわけで、その割には番組上でのリアクションが薄かったと感じるとともに、このストーリーを今の子供たちに引き継いでいこうと思うなら、今回紹介されたくらいの話ではとうてい足りないのではないかとすら思えたりするのです。

先日紹介したばかりの昭和11年に立教大学登山部が未登頂のヒマラヤ山系ナンダ・コートに世界で初登頂した偉業もそうですが、多くの人に忘れられている過去の偉業を埋もれさせることがなくアピールしていくためには数人をまとめて取り上げるのではなく、少なくとも一人の偉人に2時間はかけないと、そもそも何がすごいのか(沢村栄治さんの事で言えば、なぜアメリカの大リーグ選抜チームを抑えることができたのか、大谷翔平選手と比べてどのくらいのインパクトが有ったのかなど)、それこそ今生きていて全盛期の沢村栄治さんの投球を見たというぐらいの人に、大リーグに行った他の日本人選手と比べて実際のところ沢村栄治さんの実力はどうだったのかという事を聴くでもしなければ、本当のところはわからないと言う結論になってしまいかねません。

さらに、個人的にこの番組が問題だと思ったのは、番組内で沢村栄治さんの事について集中してインタビューを受けていたのは、番組がご本人に実際に会った人から聞くという触れ込みなのにも関わらず、宇治山田から京都商業へ一緒に行った捕手の友人は既にお亡くなりになっていて聞くことができず、仕方がないからとその子孫の方に伝聞という形で喋ってもらっていましたし、最後に出てきた沢村さんと戦地で一緒だったという100才の男性の写真を出しておいて、直接お話は聞けませんでしたというのはまさに看板と中味が大違いという事になってしまいます。ですから、この番組における沢村栄治さんに関する内容は、全てが伝聞に基づいて作られているということで、この番組で取り上げるべきではなく、別のコンセプトで番組を作った方が良かったように思います。

次に同じような企画をされる時は、まず取材当時に生きている方にインタビューするのを鉄則にし、そのインタビューも大切な内容を聞く場合なはディレクターではなく司会をされる方が直接出向き、その臨場感を伝えられるようでないと、見ている方の中は「テレビって適当なんだな」と思う人が出てくると思います。

(番組データ)

発見!偉人とホントに会った人 BS-TBS
12/17 (日) 19:00 ~ 20:54 (114分)
出演:立川志らく(噺家)

(番組内容)

教科書にも伝記にも載らない『偉人』の話 オードリー・ヘプバーンが親友に送った最後の手紙とは!?喜劇王『エノケン』が娘を怒鳴ったただ1度の理由。伝説の投手沢村栄治

教科書にも伝記にも載っていない『偉人』に 会った人だけが知る貴重な話を立川志らくが聞く オードリー・ヘプバーンと親友だった日本人に語った理想の男性像「ストロングマン!?」スクリーンから遠ざかった9年間の真相 私の前世は日本人!?旅先で見せた大スター らしからぬ母親姿 直筆の最期の手紙 チャップリンも認めた『エノケン』の娘&貴重映像 小松政夫を救った心に染み入る言葉 伝説の投手沢村栄治の捕手

日本で一番有名なマンネリドラマは次世代への時代劇伝承の切り札

今回紹介するテレビ時代劇「水戸黄門」について感想を述べる前に思い出したのが、NHK BSが「大岡越前」をリメイクして放送したことでした。新しい配役でどんな感じになるかと期待していたのですが、見ていて違和感こそなかったものの、何かひっかかる点を感じていたのです。そのわけというのは、よく考えると新ドラマの脚本だけでなく音楽も同じで、唯一違うのが配役だけ違う形にしてドラマが作られていたことでした。そうなると、TBS版の大岡越前役・加藤剛さんと、リメイク版の東山紀之さんの直接的な比較をせざるを得ず、他にも同心のの源さん役(大坂志郎→高橋長英)、父親の大岡忠高役(片岡千恵蔵→津川雅彦)あたりをどうしても比較したくなります(この部分だけ敬称を略させていただきました)。どちらが好みかというのは様々な意見があるでしょうが、さすがに今の役者の方には厳しい部分も多いのかなとも思えたりします。

ただ、この形でのリメイクは好評なようで、現在は何と第4シーズンの撮影が始まっているそうです。そんな「大岡越前」と比べると今回紹介する「水戸黄門」というのはあまりにドラマの知名度および存在感がありすぎ、演じてきた人たちも多岐にわたるので演じる方も更に大変だと思います。

水戸光圀役の武田鉄矢さんは同じTBSのドラマ、「3年B組金八先生」の坂本金八役で当たりを取りましたが、第一話では早速、ドラマで金八先生の息子役だった佐野泰臣さんが旅のきっかけを作る武者役で出てくるなど、武田黄門のキャラクターはもしかしたら坂本金八色を付けてくるのかという気もしますが、これは継続視聴をしながら確かめるしかなさそうです。

今後のレギュラー出演者としては、すでに第6話からご老公一団を付け狙うくノ一役として元AKB48の篠田麻里子さんが出演決定とのことで、現在はオーディションで決まった助さん角さんに、風車の弥七役に津田寛治さんの4人で色気なく旅をしているだけなのですが、今後は画面も多少は華やかになっていくことが予想されます。BSでの放送ということでまだ水戸黄門がリメイクされたことを知らない方もいるかも知れませんが、今後さらに魅力的なキャスト投入で景気づけが行なわれるのかどうかというのも楽しみです。

ドラマの内容については今さら語ることもないかも知れませんが、ご老公の旅の目的地こそ違いますが、ドラマの構成と配役は過去のTVシリーズの第一部のあらすじを忠実に再現しているとの印象があり、水戸黄門好きな高齢者がまず「安心して見られる」事を最優先にし、その後で徐々に若手俳優目あての世代を取り込もうとする内容です。もちろん印籠も第一回目から出てきます(旧テレビシリーズの第一部では最初から印籠は出てきませんでした)。まさに一分のスキもない内容を、地上波ではなくBS-TBSでやろうとするとは、何としてもこのシリーズだけは無事に終えようと思って始めているのではないかというようにも思えたりするのです。

個人的には「水戸黄門」のTVシリーズというのは、あまりにも有名で若年層にも知名度があることから、民放においては高齢者対象とはうたいつつも、あくまで次世代に時代劇のフォーマットを受け継がせるための「つなぎ」の役割も担っているのではないかと思っています。見る方もそうですが出演者たちも、このドラマをステップにして新しい時代劇が生まれ、新たな時代劇のステージで活躍するような形になって行くことも目指しているような気もするのですが、それははっきり言ってこのシリーズの続編が望まれ、地上波でもそれなりに新作の時代劇としての水戸黄門が復活するというところにまで到達できるかどうか、そこまで温かく見守っていきたいというのが正直なところです。今回の出演俳優で言えば、出演者のテロップにも載っていなませんが、悪役の親玉で出ていた内田勝正さんや同じく悪役で、用心棒の棟梁として出ていた福本清三さんなどは昔のTVシリーズでも活躍しており、今回も主役たちを引き立てる形でしっかりと脇を固めているのが昔から時代劇を見ている側としては大変嬉しいところでした。

逆に言うと、それだけ日本の時代劇をとりまく環境というものは厳しく、役者の層も薄いということです。このまま何も対策をしないで放っておくと伝統が途切れてしまい、再度同じものを作るためには相当の人材育成とお金がかかります。将来時代劇の傑作を作りたいと思っている方がいるなら、水戸黄門なんて時代劇じゃなくホームドラマだなんて言って無視しないで、温かく応援してあげてほしいと心からお願いしたいです。

(番組データ)

水戸黄門 BS-TBS
2017年10月25日(水) 19時00分~19時55分
【出演】武田鉄矢(水戸光圀)、財木琢磨(佐々木助三郎)、荒井敦史(渥美格之進)、津田寛治(風車の弥七)、袴田吉彦(柳沢吉保)、長谷川純(柘植九郎太)ほか
【ゲスト出演】大塚千弘(菊江)、葛山信吾(桜田雄次郎)、田中壮太郎(夏川太十郎)、生島翔(山西数馬)、星由里子(とね)
【語り】生島ヒロシ

(番組内容)

第4話「悪を糺した弥治郎こけし(白石)」