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テレビ局の有料コンテンツは本当に払うだけの価値あるものなのか

昨年から今年にかけてスポーツ中継を含んでずっとテレビを見ていたのですが、具体的にこの番組というようなものはそこまでなかった代わりに気付いたのは、それまでのDVDシフトから変わって、各テレビ局が過去に放送された番組を局の有料サイトに加入して見ようというキャンペーンの多さでした。
私自身、ネットによる番組の再配信については「TVer」や「You Tube」(あくまで公式チャンネルのものです(^^;))にお世話になっていますが、多くのキー局が行なっているサービス全てに入るというのはなかなかできませんし、そもそも各局の有料コンテンツに月々の利用料金を支払う価値があるのかということをまずは考えてしまいます。

テレビ局的には放送日から最大一週間までの見逃し配信は無料で認めるものの(NHKは除く)、過去の番組のまとめての視聴にはお金がかかるというスタンスのようです。ただこれは、ネット以前にもCS放送で過去の各局の伝説的な番組が放送されていますが、そこまで視聴者を獲得できていないのではないでしょうか。

過去に放送した番組については、個人の努力でも番組を録画したものを保存しておけばわざわざお金を出さなくてもいつでもお気に入りの番組を見られるわけですし、ここで改めて「有料チャンネル」である必要がどこまであるのか疑問に思います。

無料の番組は地域にもよりますが誰でも見られますが、私が毎月お金を払ってまで見たいということになると、すでにシーズンを終了したサッカーのJリーグの全試合をリアルタイムで見ることができるDAZNでした。テレビ放送では代表戦や一部の試合(ほとんどJ1の試合)しか地上波およびBSでは放送されません。今年のJ1リーグで言えば、来季J2リーグに降格してしまうチームの試合を今年も追い掛けたいと思ったら、DAZNへの加入は必要なものになるでしょう。これはテレビ局とは関係なくオリジナルコンテンツの配信を有料で行なっているサービス全般にも言える事だと思います。

しかし、テレビ局が行なっている有料コンテンツの多くは、オリジナルコンテンツの比率は少なく、好きな人ならその都度録画して楽しんでいる過去のバラエティやドラマを自由に見られるくらいでは有料のサイトになかなか登録しないという人がほとんどなのではないでしょうか。特にバラエティに対しての世間からの風当たりが強い現代、昔のバラエティの破天荒さを地上波バラエティに望むことは難しいという感じがあります。

その想いを強く持ったのが、TBS系で2019年12月30日深夜に放送された「クイズ正解は一年後」という毎年年末に放送されるバラエティ番組でした。2019年は主に吉本興業所属のお笑いタレントの不祥事的な行ないがワイドショーを賑わすことになり、それまで数々のバラエティ番組やこの「クイズ正解は一年後」に出演していたタレントも騒動の渦中に巻き込まれました。

例年、ワイドショーで盛り上がった話題や人物について徹底的にこき下ろすことが「クイズ正解は一年後」のキモであったため、主演者自らが渦中の人になった場合、現場ではどのような判断を下しどう伝えるのかということが昨年末の興味だったのですが、番組を見た方はおわかりかと思いますが、例年普通に放送される年末の事を予想する2019年1月収録のパートは、現在は芸能活動を自粛しているタレントが出演していたためかまさかの全部カットになっていました。

さすがにこれでは、あまりにも身内に甘いという状況を明らかにしたに過ぎず、本当はまだ問題が発覚する前の2019年1月に問題のタレントはどんな顔をしてどんな事を言っていたのかを見たいですし、VTRに一部モザイクを掛けてでも面白いやり取りのところは流してくれるだろうと思っていた人を落胆させる出来となってしまいました。

この点について制作サイドを批判するというよりも、それだけ地上波テレビバラエティについてのコンプライアンスがきつくなっているという分析ができるでしょう。大晦日恒例のダウンタウンの年越しバラエティでも、ギャグの一つが過去に黒人差別だというような事でかなり叩かれたことがあり、今の時代本当に現場が面白いバラエティを地上波で流すことは無理なのではないかと最近は思っているところもあります。

だからこそ、「有料チャンネル」や「有料サイト」限定のコンテンツとしてTBSは「クイズ正解は一年後」の一連の不祥事がなければ普通に流れるはずだった2019年1月収録のパートを最低限の画像処理で出すことで、一定の地上波のバラエティのぬるさに不満を持つ視聴者の受け皿になれるのではないかと思うのですが。

もちろん、制限がきびしい中でいかに面白いものを出していくのかというのが番組制作者の力量であるということも十分理解できますが、今年の「クイズ正解は一年後」はある意味交通事故のようなものであり、今後の謹慎しているお笑いタレントはどうなっていくのかということが世間の注目になっているという背景もあります。過去には地上波では全く出演することができなかった極楽とんぼの山本圭壱さんを出したのがアマゾンプライム会員限定のネット配信専用のプログラムであったことを考えると、ネットの有料配信の方向性をはっきりさせる意味でも、「地上波では流せないが、流すこと自体は悪いものではない」コンテンツを出すというやり方も十分あってもいいと思うのです。

逆に、有料サイトであるNetflixで配信されることで多くの人に認知されたドラマコンテンツ「全裸監督」は、その本編でなくオリジナルを面白がって真似するシチュエーションやお笑い芸人が地上波のバラエティで出てきています。そうなると本来はドラマのターゲットではない層の人たちの間にまで「あれは何だ?」ということでその内容と元ネタが広がってしまうことになり、それはオリジナルコンテンツの制作者からしても必ずしもいい事だとにはならないかも知れません。2020年は無料と有料コンテンツをごっちゃにせず、それぞれのテリトリーの中でそれぞれ楽しむようにしないと、どちらのメディアもネットによる批判にさらされるような状況が起こってくることも予想されます。少なくとも有料サイトをうたうなら、毎月の料金に見合うだけのコンテンツを用意した上でおすすめして欲しいものです。


「闇営業での反社会勢力との交友」をネタにしたバラエティがあった

吉本興業は所属タレント11人が闇営業で反社会勢力(振り込め詐欺のグループ?)から金銭をもらっていたことを理由にして活動を自粛させると発表しました。ちなみにワタナベエンターテインメント所属のタレント2人についても謹慎処分になったそうです。そうした事は過去に遡ると常態化していたのでは? と思われることもありますが、私が克明に覚えているのが、この件を題材にした「ドッキリ企画」を行なった番組があったことです。改めてその番組のデータを紹介しましょう。

(引用ここから)

(番組データ)
金曜★ロンドンハーツ 2時間スペシャル 予想外すぎ!涙と笑いの新作ドッキリSP テレビ朝日
2018/10/26 20:00 ~ 2018/10/26 21:48 (108分)
【出演者】ロンドンブーツ1号2号/志尊淳/カンニング竹山、くっきー(野性爆弾)、小宮浩信(三四郎)、コロコロチキチキペッパーズ、チョコレートプラネット、Niki、藤田ニコル、藤本敏史(FUJIWARA)、山崎弘也(アンタッチャブル)、渡辺直美、他 [50音順]

(番組内容)

ブレイク前から現在に至るまで渡辺直美を支えてきた、「ある男性」に感謝の気持ちを伝えるために、直美がサプライズドッキリ企画を。しかし、決行当日に思いもよらない展開に…。直美も涙してしまった波乱の結末とは!? そして、現代社会で重要視されるコンプライアンスをおとり捜査!! 闇営業、怪しい薬、反社会的勢力からどんなに甘い誘惑があっても断る事ができるか!?チョコプラやニコル、くっきーの新作ドッキリも!

(引用ここまで)

お笑いコンビのコロコロチキンペッパーズ(よしもとクリエイティブ・エージェンシー東京本部所属)の「ナダル」さんがドッキリのターゲットで、闇営業のお金につられてつい反社会勢力と思しき(これは番組の仕込んだもの)男性にとり入ってしまうナダルさんのモラルの無さを嘲笑気味に笑い飛ばした事を覚えています。

この頃からナダルさんは「人間性を疑われる」ようなキャラクターでブレイクした感があり、当時は笑って見ることもできたのですが、この番組の出演者の中には今回よしもとから発表があった謹慎処分を受けた人物が一人混ざっており、もし彼がこのドッキリのVTRを見て心から笑っていたとしたら、もはや自分のやっていることを棚に上げての人のダメさ加減を笑っていたことになります。

そもそもこんな「闇営業で反社会勢力の人間からお金を受け取るか」ということをドッキリのネタにするということは、もはや芸人たちは当り前にこうした誘惑を受け、今回処分を受けていない人であっても実は裏で同じような事をやっていると思われるような状況があるからなのではなかったのでしょうか。だからこそドッキリにもリアリティがあったと考えることもできるという風に考えが及んでいくと、当時のロンドンハーツのスタッフもちょっと暴走してしまったのでは? と思わざるを得ません。

テレビバラエティは多少暴走するくらいでないと面白くないという意見を持たれる方もいるのではないかと思います。ただ、今回の場合は具体的に「振り込め詐欺」を行ない善良な視聴者の懐からなけなしのお金をだまし取った人達からお金を受け取って自分の遊びや生活のために使っていたということになるわけなので、もはやタレント本人がどんなにお詫びしても許されない可能性があります。単に他人の悪口を言ったり放送禁止用語(実際は各放送局の定めた自粛すべき言葉のリストにある言葉)を連呼したり、全裸になったりする「暴走」の場合は時間とともにほとぼりが冷める事がありますが、詐欺被害者はそのタレントを見ただけで過去の過ちを思い出したりするかも知れないので、なかなか難しい部分があります。

今回の報道では主にタレント個人に対する処分ということだけですが、今回あえて過去に遡って特定の番組を紹介させていただくことで、番組の企画を考える中でも注意したいものが存在するということを紹介させていただきました。


生中継こそが「花」なのにその「花」を奪った奴らは誰だ?

お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さんと、女優の蒼井優さんが結婚したということが2019年6月5日の朝に唐突に発表され、山里さんが声の出演をしている日本テレビの「スッキリ」では「夜に記者会見をやるから詳細はそこで」と発言したことでその日の夜7時から行なわれるという記者会見にがぜん注目が集まることになりました。

山里さんはその会見の頭に、こうした場を作った理由というのは、FAXをマスコミに送り付けたり、唐突にブログやSNSで発表すると憶測を生むので、しっかりと伝えたいという事を言っていました。まさしく結婚したお二人にとってはこの場が晴れの舞台であり、今後披露宴を行なったとしてもそこまで注目されることはないだろうという中での会見は、当然リアルタイムで行なわれるだろうと思って、様々な会見を生中継することで定評があるAbemaTVを付けて待っていたところ、待てども待てども会見が中継されることはありませんでした。

7時からは地上波で流れた午後5時からのニュースの再放送をしていたと思ったら、しばらくして会見を伝えるAbemaTVのスタジオに切り替わったのですが、そこでもまだ会見の様子については一切伝えられず、いつから会見の様子を中継するのかも明らかにされませんでした。これはAbemaTVの失態か? と思ったらアナウンサーからここまで生中継がされない理由というのが発表されました。それは会見の一分前に発表された事だったそうですが、お二人の事務所のどちらの意向なのかはわかりませんが、会見開始から終了(お二人が会見場から姿を消すまで)の間は同時中継をしないようにだけではなく、会見で語られた内容を出すことも禁止されたという事でした。

そのため、AbemaTVの放送はしばらくアナウンサーの方々がどうでもいい話を数十分間もくどくどと垂れ流すことになり、中継を楽しみにしていた人を裏切るだけでなく、午後9時から放送される番組の出演者も黙って会見の中継録画映像を見ているだけだという、多くの人の予定を狂わせることになってしまったのでした。なぜこんな「報道管制」をおめでたい結婚報告の場で仕掛けるのでしょうか。

これは、情報をあくまでもコントロールし、ネットテレビには好きなようにはさせたくないという事務所側の意向なのかもしれません。そうとでも考えなければ、技術的にも、恐らく会見したお二人についても、会見の様子を生中継することについては大きな問題があるようには思えませんでした。なぜ強制的に「中継録画」を見させられなければならないのかという点において、ネット放送を含めたテレビが、その即時性を放棄した例として、後々にもその記録を残しておくべきだと思いました。

今回の事をおかしいと思わない人もいるかも知れませんが、こうした例はどうでしょう。もし、東京オリンピックのある競技において、一つの競技団体が「自分達の競技の中継は生中継はまかりならん」と一方的に宣言し、試合開始から試合が終わり、選手が会場から完全に退場するまで(つまり試合後のインタビューも含む)中継どころか試合内容の紹介や試合結果を一切報道することはまかりならんとマスコミに圧力を掛けたら、テレビで生中継を楽しみにしていた視聴者はどう思うでしょうか。今回の会見は正にそんな感じで行なわれ、後追い中継録画を見ながら決してスッキリしていなかった視聴者が多くいたのではないかと思います。

会見についての報道規制はお二人の罪ではないと信じたいですが、もしこうした事が事務所の独断で決められたのだとしたら、今後お二人の会見の裏で様々な憶測が流れることにもつながるかも知れず、この事が原因で騒動になった場合にどうするのかと本気で心配するところです。そんな憶測を生みたくないと思ってお二人は今回の会見を開いたのに、そこから何か変な流れになってしまったらと思うと、「人の幸せをダシに使って金もうけの種にしようとする奴」が一枚かんでいるのか? という風にも思えてしまいます。

こんな事が続けば、もはや芸能人は独自にネット中継をするなどしなければ生で気持ちを伝えることすらできなくなってしまいます。それは、もはやテレビではなくなってしまうので、テレビ業界についての危機にもつながるのではないかと本気で心配してしまった今回の会見録画中継でした。


2018年の記憶に残るテレビ番組

2018年の最後の日ということで、まだ紅白歌合戦もダウンタウンの年またぎも、格闘技など色々な特番が目白押しな中、ここまでで私の印象に残った番組や場面について書かせていただきたいと思います。

まず、テレビを見ていて興奮するのはやはり録画放送ではなく生中継にこそあると思っていて、それはスポーツ中継を除き限られた放送時間内にいかにして決定的な瞬間を捉えるかという運も左右するところがあるにしても、2018年に放送された衝撃中継の中でも私が一押ししたいのは読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」で福岡県の貯水のための谷にイノシシ2匹が入り込んでしまい、その救出活動として遠隔操作で閉めることのできる檻を設置して、今2匹のイノシシが檻の中に入ろうとした時に少し檻の扉を閉めるタイミングが遅れたことで、1匹は入ったものの2匹目はその気配を際して逃げてしまったという痛恨の瞬間を生中継で見たことです。

来年がいのしし年ということもありますが、その時の状況は殺処分ではなくその場から山に逃してほしいという電話が地元の役所には殺到したそうで、そうした人たちも固唾をのんで見つめていたに違いありません。

たまたまその時は、奇跡的にも番組放送中に檻を遠隔操作で閉める瞬間が生中継できたのですが、その操作で1匹を取り逃がしたことで「もしもう少し早く閉ていたら……」という感想戦のようなやり取りまであったのがバカバカしいと言われればそれまでですが、くだらないかも知れない題材をそこまで突き詰めて報道し、それに関してどうでもいい話を続けるというのは実にテレビ的であり、これぞテレビと思った一場面でありました(ちなみに、取り逃がした残りのイノシシも無事に捕獲した上で山に帰されました)。

そして、具体的な番組ということで言えば、今までの旅番組の枠を超えてドキュメンタリーの要素も含んだ連続物の番組として評価したいのが、TwellV(BS12)という民放としては最後発の局が送り出した「小島よしお&狩野英孝のチャリお遍路」を挙げないわけにはいきません。

4月8日から始まった番組は、単に芸人の二人が自転車に乗って四国八十八か所を巡るというだけの番組なのですが、回るお寺紹介と沿線の風景と名物・お店などを紹介するような通り一遍の番組とは違い、自転車で回るには過酷なロードを、テレビ上ではかなりいい加減な人間性が垣間見えてしまう狩野英孝さんが途中ギブアップせずに全うできるのか? というのが春から夏にかけての番組を見ていての関心事になりました。

私は車で回ったことがあるので、どのお寺がどこにあるかわかっている部分があります。したがって自転車で回るにはどこが大変かといういわゆる種明かしを知った上で見ているのでまた違った印象を持っているかも知れませんが、案の上一番札所から十一番札所までは問題なかったのですが、十二番札所の焼山寺への「遍路ころがし」と呼ばれる急坂を登れるか、もし登れたとしてもその後の行程を続けるだけの精神力が残っているのか、この辺は本当にドキュメンタリーという感じで狩野英孝さんの様子に注目しながら見ていました。

一方の小島よしおさんは、一見して真面目な人柄であることがわかるので、ストイックに体作りをし、番組のロケに万全の体制で参加しているのはわかるので、彼一人だけだったら最後まで回れるでしょうが、それではこの番組の面白さというものが半減してしまいます。この番組の面白さは、スキを見てサボったりやめようとする狩野英孝さんを、どのように小島よしおさんが説得しつつ旅を続けるかというところにこそあり、それが年内最後の放送であるこれも遍路ころがしの二十七番札所「神峯寺」では、番組を見てくれるファンの存在がロケを続けさせてくれるということを狩野英孝さん自身が明かし、ここまで12日間の区切り打ち(一度に回らずに出直したりして回ること)だけで8ヶ月も放送を続けています。

日曜7時のレギュラー放送でも再放送が連続し、さらに年明け第一回の放送はこれまでの内容の総集編になるという地上波では考えられない進展の遅さなのですが、それも何かとテレビ番組のスタジオ収録で忙しいお2人ということもあり、さらに適度に間隔を開けることで何とか狩野英孝さんのモチベーションを保っていることもあると思うので、多分放送的には来年中にも全てのお寺を回れず、全て回り終えるのは3年後になるだろうと思いながら穏やかな目で見るのがいいと思います。

ただ、この旅を無事に終えたとして、その後にまた狩野英孝さんが何らかの不祥事を起こして多くの人に謝罪をしなければならないような状況になった時には、TwellVでは「チャリお遍路2」として狩野英孝さんが八十八番から「逆打ち」でもう一周という番組企画を実行に移せると思いますので、番組外の狩野英孝さんの行動についてもこの番組のおかげで注目することができる「一番組で2度おいしい」番組になる可能性も持っています。狩野さんとしては決してそんな事はしたくないでしょうが(^^;)、来年も一年間この番組が続くかどうかということにも注目しながら、まずは結願目指してお二人はロケを頑張って欲しいと願いつつ、2018年最後の更新とさせていただきます。


ポイントは「無料」「深夜」「休み期間中」

TBSテレビの「水曜日のダウンタウン」で事前告知された安田大サーカスのクロちゃんが檻の中に収監されている様子を見に行こうと遊園地の「としまえん」に押しかけた人があまりに多く、テレビ局が用意した警備の範疇を超えていたのか、渋谷のハロウィン並みの馬鹿騒ぎを画策した人物がいたからなのかわかりませんが、深夜の大騒ぎに警察が出動しイベントは中止され、TBSは警察から厳重注意を受ける羽目になりました。

今回の事件は、今年立教大学の学園祭でアイドルの橋本環奈さんが来るというデマが流れて人が殺到するような事はありましたが、そこまで熱狂的なファンがいるとは思えない、お笑い芸人のクロちゃんを見るためだけになぜそれだけの人が集まったのかという点を見ていかないと、今後も同じようなトラブルが起こる可能性があります。

今回の騒動は、何かとインターネットがあればテレビは要らないと言われることも多い中、さらにデータ上の視聴率もそれほど上がらない中でも見ている人は人気番組をリアルタイムで見ているし、さらにそこから自分の意志で動いてイベントにも向かうという能動性を合わせ持つ、テレビに扇動されやすい人がこれでもかというほどいることを関係者にも認識させてくれる結果となりました。

私は直接現地に行ったわけではないので直接はわかりませんが、現地へ行ったり近くに住んでいる人がTwitterに上げたコメントを見ていると、きちんと警備員をTBSでは配置していたようですが改めて日本人は「無料」という言葉に弱いなということを感じてしまいました。

東京近郊に住んでいても深夜には公共交通機関は止まってしまうので、車を使ってガソリン代をかけてまでお笑い芸人一人を見に行こうと思うというのはちょっと普通では考えられません。しかし、時期は小中高生の冬休みの時期でもあるし、深夜にお出掛けしてテレビの続きの光景が見られるとすればある種の「一大イベント」になります。さらに、今回も多くの人が現場の檻に入ったクロちゃんの写真を投稿しているように、とにかくSNS映えのするネタの原場に行きたいというニーズも持っていました。

さらに、あまりの人の多さに開催元がイベントの中止を発表しましたが、こうした情報が拡散する中で、現地にやってきた人の中には、もしかしたら「もうワンチャン」があるかもと期待したり、この騒動自体を楽しんだり、あえて中止しているとしまえんの中に入ろうと強引に押し入る人がいたりと、まさにこの年に渋谷で起きたハロウィンの騒動を連想させるような状況になってしまいました。

今回の批判の矢面には当然TBSおよび、「水曜日のダウンタウン」制作スタッフが立つことになるかとは思うのですが、今回のようなケースだけでなく深夜に人が集まって騒ぐようなイベントに掛けつけて、騒ぐことを目的にする日本のフーリガンとおぼしき限られた人がきっかけになっている面も拭えません。この点については今後日本の警察やイベントを開く主催者で情報を共有してそうした人物を見付けたら排除するというまさに海外のフーリガン対策が必要になると思いますが、もしこのイベントは深夜はライブカメラからのネット配信にとどめ、翌朝からスタートし有料での入場がクロちゃんを見る条件にしたら、いわゆる騒動狙いや面白そうだからと思うだけで来る人は減り、ここまでの騒動にはならなかったでしょう。

また、場所をとしまえんにしたのも失敗だったと思います。無料で深夜の開催になるにしても、ちょっとやそっとでは行けないような場所にするとか、まともに視聴者がすぐに行こうかと思わせるような条件から外すという配慮も必要になってくるでしょう。改めて地上波のゴールデンタイムに小中学生も見ている中で、視聴者との距離をどのように広げたり縮めたりできるか、そのバランスを取るのが難しいことは十分にわかります。

逆にそう思えばこそ、今回のようなトラブルで番組が打ち切りになるようなことにはなって欲しくないですし、こうしたテレビ局の仕掛けたイベントを利用して人暴れしようと企む人達をイベント参加に躊躇させつつも、番組のファンに思恵を与えられるような方法を来年は考えていただきたいところです。


テレビは携帯電話の通信障害をどう伝えたか

2018年12月6日の午後から夕方にわたり、全国のソフトバンクの携帯電話を利用している人は、いきなり電波の状態を示すアンテナマークが消えて「圏外」の表示になったことでびっくりするだけでなく、仕事や待ち合わせというような行動自体にも支障が出た方が少なくなかったでしょう。しかし、外出先でこの障害を受けた人は、自分のスマホの調子が悪いのか、それともソフトバンクのシステムの不調なのか判断が付かなかったのではないかと思います。

テレビは、すでに多くの携帯電話が復旧した夜のニュースからこのシステム障害のニュースについて報道し、翌日の朝のワイドショーではソフトバンクの対応を糾弾するがごとくの報道をしている局もありましたが、こうした報道姿勢にちょっとどころか大きな違和感を持ったのは私だけではないはずです。

ソフトバンクから回線を借りている格安SIMでも同様に通信および通話ができない状態になりましたが、本来はそうした事を含めて「現在、ソフトバンク系の通話・通話が何らかの原因でできない状態になっています」というようなアナウンスがなぜ早いうちにできなかったのか、疑問に思います。

すでに日本では携帯電話・スマホを一人一台が持ってかなりの依存をしている状況からすれば、同日起きた東京の地下鉄都営浅草線がストップしているニュースと比べても、トラブルが及ぼす範囲においてははるかに重大で、番組時間内に字幕のニュース速報を出してもおかしくないくらいの情報だと思います。

都営浅草線は東京近郊の方だけに向けられた情報ですが、ソフトバンクの回線不具合は北海道から沖縄にまで影響が及んでいるので、誰かがたまたまテレビでその情報を目にすれば、今回のケースはソフトバンクユーザーがショップに駆け込む前にそれなりに周知されていたのではないかとも思えます。テレビのニュース速報で流される経済関係や芸能・スポーツ関係のニュースを見ていても、内容によってはそこまで速報を出して知らせる意味があるのかと思うこともあります。そうしたニユースよりも生活に直接関わるライフライン切断のニュースの方が告知すべき価値はあると思いますので、もし通信関係を含むライフライン不通の事実があった場合に、今後はしっかりとニュース速報を出せるように、必要であれば規約の変更をお願いするなどして、多くの人に知らせる必要があると個人的には思います。

改めていろんなサイトを検索してテレビのニュース速報の基準について調べてみたところ、絶対的な基準というものはないという事が現実らしいことがわかってきました。今回のケースは、単にソフトバンクの携帯電話がつながらないといっても本家のソフトバンクから何の発表もない時点では発表できないとは思いますが、ソフトバンクをはじめとする携帯電話会社については、トラブルが発生したことを認識した時点で、速やかにテレビ・ラジオ・新聞社などに連絡をし、その状況について報告した上で早く契約者に不具合のある情報を流すように連携する必要があることももちろん大切になるでしょう。

ただ、そうして情報を流しても、双方がソフトバンクのスマホ持ちという中で連絡を取り合うのは無理です。そのための手段としては、各携帯電話会社が災害時にサービスを開始する「災害用伝言ダイヤル」の開設以外方法はないと思います。そして、テレビはその使い方を連絡が付かなくて困っている契約者に向けて、利用方法をレクチャーするにはうってつけのメディアであることも確かなのです。今後、単なる事故ではないサイバーテロでの通信網断絶というシナリオも予想される中、スマホ・携帯電話が使えなくなったら速やかに伝言ダイヤルを使っての連絡方法を多くの人がすぐに使えるようにすることは、今後のテレビに課された宿題であるという気がするのです。


樹木希林追悼で全く出て来なかった「美空ひばり物語」

2018年9月の芸能ニュースで、予定された盛り上がりがあり、そのニュースバリューもすさまじかった歌手の安室奈美恵さん引退報道を押しのけてここ数日のトップニュースになっているのが女優の樹木希林さんの訃報だったことは、それだけ突然だったということと、喪失感が関係者には強いことの裏返しだったように思います。

そうして、多くの方は今後公開される映画の宣伝も含めた樹木希林さんの仕事や私生活について学習するように多くの情報を知らされるわけですが、テレビドラマの代表作としては「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」「ムー一族」という久世光彦氏のドラマについての印象が強いですが、BSのTwellVで「寺内貫太郎一家」がリバイバル放送が最近までされていたこともあり、そのコミカルな演技の魅力を改めて見られたのはラッキーだったかなと思います。

今後、樹木希林さんを偲んで、様々な番組が放送されると思うのですが、すぐに「徹子の部屋」での出演回が再放送されるなど、トーク番組を追悼番組として流すのが簡単ですし、樹木希林さんは普通の女優さんが言わないような事を言うので、安易に多くのトーク番組が流れそうです。しかし、それはあくまで女優ではない「内田啓子(樹木希林さんの本名)」としての発言であるので、しっかりと樹木希林さんの女優としての仕事を追体験してその凄さを感じるなら、やはり単発のドラマで熱演されている作品を放送するべきではないかと思います。

映画は映画でどれが代表作かというところに議論の余地はあると思いますが、単発ドラマでインパクトがあって、誰が見てもわかるという意味では、TBSで1989年の年末に放送された特別企画のドラマ「美空ひばり物語」が個人的な一押しです。何故かはわかりませんが、過去の女優人生をワイドショーで振り返る中で、このドラマの存在はほとんど紹介されませんでした。樹木希林さんが演じた、美空ひばりさんの母親でステージママとして有名だった加藤喜美枝さん役の演技について語ることがタブーになっているのかも知れませんが、あくまで樹木希林さんの追悼のために流すなら問題ないのではないかとも思えるのですが。

確かに過去のテレビドラマというのは制作したテレビ局にも録画したアーカイブスが存在しないものもあるなど、一度流したらそれっきりという割り切りのもとで作られたものが多かったように思います。しかし、最近のテレビドラマでは最終回のエンディングの後にすぐ「DVD化決定!」や「オンデマンド配信決定」なんて宣伝文句が出てくるほど、二次使用を見越して作られているものがあるというのが現状です。「美空ひばり物語」についても一度VHSビデオ化はされている作品でもあるので、ぜひ再放送の方向で関係者の方々が考えてくれればと思います。


高校野球についての新たな流れ

今回の夏の甲子園は100回の記念大会で、さらに秋田県代表の金足農業高校が秋田県勢としては第1回大会以来、103年振りに決勝へ進出したということで、もはや優勝した大阪代表の大阪桐蔭高校の存在が霞んでしまうほどテレビニュースでの後追い報道がテレビでされましたが、改めて思うことは高校野球に限らずアマチュアのスポーツは人のためではなくあくまでプレーする本人達のものであるということです。確かに甲子園大会は他のあらゆるスポーツに先んじて日本国民の娯楽としても扱われてきて、ここまで存在が大きくなるにあたってはテレビの影響を考えないわけにはいきません。ここでは、今大会を通じてマスコミやネットで出てきている様々な批判や意見について、考えることを残しておきたいと思います。

まず、なぜ優勝した大阪桐蔭高校の存在が薄くなったかというと、決勝で対戦した金足農業高校の存在があまりにも試合を見ている人の心象に訴えるところがあったからでしょう。100回目となる夏の大会で、まだ優勝していない県というのは多くありますが、地域的に見ると、青森・岩手・秋田・山形・宮城・福島という東北地方の代表がまだ春夏通じて一回も優勝していません。かつては雪深い地域性がその原因と言われ、実際に新潟・富山・石川・福井(春優勝有)・鳥取・島根のように、冬に雪が降るような所では確かに優勝していない県が多いのですが、かつては東北以上に優勝とは縁遠かった北海道が駒大苫小牧高校の出現によって2連覇し、決して雪国のチームであっても優勝できないということはなくなったと思います。

さらに今回の金足農業高校は、ピッチャーの吉田選手を中心に、全て秋田県出身の3年生9人で地方予選から全国大会決勝まで戦い続けてきた「絆」というものもあり、試合で勝ち進むごとに、もしかしたらこのまま東北地方最初の優勝にまで行ってしまうのではないかという期待を多くの人が持つに至りました。決勝こそ大差で敗退となりましたが、かつての福島・磐城高校や青森・三沢高校のように優勝した高校よりも今なお語られるような伝説的な足跡を甲子園に残したと言えるのではないでしょうか。ここでのポイントは、優勝した大阪桐蔭高校とは違う金足農業高校のチームコンセプトです。

・スカウティングなしのオール地元(大阪桐蔭は全国規模で選手を見ている)

・投手一人体制(大阪桐蔭は複数投手でローテーション回し)

・公立の農業高校(大阪桐蔭はスポーツも文化系クラブも大学進学もトップクラス)

まだあるかも知れませんが、これだけ状況が違う高校が決勝で相まみえるということになると、日本の高校野球ファンの中にはあえて劣勢の方を応援したくなるという海外の基準から見ると理解しがたい状況になり、それに新聞やテレビなどのマスコミが味付けをして大きなうねりになってしまったということになります。

個人的にはスカウトをするのも、県外から越境入学をさせるのも、公立でなく私立であっても全く問題ないと思っているのですが、今回の報道の中にはそれらのことが悪とは言わないものの、高校野球の理念とは合わないというような事で批判する声もあったように思います。

個人的には大阪桐蔭高校の考え方というのは大変良く理解でき、有望な中学生が集まるのも当然なことだと思っています。それは、越境入学でも中学オールスターをかき集めることでもなく、徹底した相手チームの研究とその対応を考える「データ班」の存在にあると思っています。これは、例えばオリンピックで金メダルを取るために戦うようなもので、万が一の失敗も許されない地方大会からのトーナメントで一度も負けずに戦い抜くためには、どんな力の差のある高校との対戦でもきっちりデータを取って、何が起こっても慌てずにデータを確認して対策を取ることができる情報網にあると思います。

よく、甲子園に出場するチームの目標が「全国制覇」と宣言する所は多いと思いますが、全国の高校チームの中で一番その目標に向かって努力し、常に全国制覇を見据えている高校こそが大阪桐蔭高校だと思うのです。その目標のために努力をするわけなので、どんなに大変な練習でも我慢するわけなのですが、そのためには相当力のある選手であってもレギュラーになることは難しく、状況によっては単なるデータ班に振り分けられグラウンドで活躍できなくなることがわかっていても入学したいという生徒もいることでしょう。それだけ、「全国制覇」ということに特化した高校野球を大阪桐蔭高校がしているということで、それはそれで立派なことだと思います。

しかし、全ての高校生は全国制覇を目的に野球をしているわけではないと思います。金足農業高校のように、地元の仲間と甲子園に出ることが目的の高校もあるでしょうし(今回はそんな状況で確変を起こしてしまったと考えることもできます)、たとえ地元でなくても甲子園の土を踏みたいと思って越境入学するような生徒もいます。

今までは、そのような高校球児がほとんどだろうと思っていたのですが、今回、朝日新聞の講評を見ていたら、ちょっと面白い記事を見付けました。それは静岡県代表の常葉大菊川高校について書かれていた記事でした。大会中から「フルスイング打線」とか「ノーサイン野球」というような言われ方をしていたのですが、チームを取材していた記者の眼には今までの高校野球と違う流れを常葉大菊川というチームに見出しているような印象を受けました。

それは、練習では恐らくきめ細やかな指導があるからこそ堅い守備や見事な走塁があると思うのですが、試合の段階では監督はただ置物のように見ているだけで、攻撃も守備も全て出場している選手が考えて行なうという形にしているそうです。それこそ勝利をするためには高校生の判断では足りないと思う指導者がいたら、試合のポイントでサインを出して監督の判断で選手が動くことが普通ですが、過去には投手の投球内容についてもキャッチャーからではなくベンチの監督が球種のサインまで出すというチームもあるほどです。しかし、それで勝てればいいですが、監督の判断で高校生活最後の試合で負けてしまったとしたら、選手の中にはその事がトラウマとして残ってしまう事もあるでしょう。

常葉大菊川高校の高橋監督がまさにそのような経験を選手時代にしていたそうで、常に送りバンドでなく、打てそうな予感があった時にもし自由に打てていたらという後悔があったそうで、教え子にそのような経験をして欲しくないということで、ノーサインで好きにやらせるという戦い方をするようになったとのことです。

さらに大会中でびっくりしたのは、対戦相手が決まっても十分にデータ分析をするわけでもなく、あくまで自分達がやりたいような形での試合を進めることを優先させるような事が現地のレポートの中にあったので、このチームはそこまで「勝利至上主義」ではなく、とにかく野球を楽しんでやる事を優先的に考えているような感じなのです。小さい頃に野球を始める理由というのは様々だと思いますが、単純にボールを投げて空振りを取ったり、逆に大きな当たりをかっとばす事自体が楽しいからというのがほとんどではないかと思います。好きで楽しいから上達しようと思って一生懸命練習し、その結果が試合で出ると、さらに熱中するというような形で野球がうまくなれるのなら、その方がいいという風に考えるのが常葉大菊川の野球であるというような感じでした。

今回の菊川のメンバーは大阪出身のレギュラーが一人いたものの、全国選抜に選ばれた二人はどちらも高校の近くで幼少期から過ごした地元の子で、他のメンバーもほぼ地元といったような選手構成になっていました。別に全国からうまい子を集めなくても、練習を辛く苦しいとは思わずに楽しんでやることによってここまで伸びるなら、人によっては常に勝つことを意識せざるを得ない大阪桐蔭コースでなく、たとえ甲子園に出られなくても常葉大菊川コースを選んだ方が自分の実力を伸ばして行けるのではないかと思う子が出てきても不思議ではありません。

今回の大阪桐蔭高校の盤石の春夏連覇に、高校野球は面白くなくなるのでは? と考える方もいるかと思いますが、今回紹介した大阪桐蔭高校とは違うアプローチで野球がうまくなりたいと考える球児も少なくないと思われますので、個人的にはそこまで心配はしていません。ただ、常葉大菊川のやり方ではなかなか全国制覇は難しいと思いますが、優勝するのも全国で一校だけなので、自分の思い通りにならずに悔いを残すなら、自由にできるところで思い切りやってみたいと思う生徒も今後増えるような気もします。今回はそうした新しい高校野球の流れを感じられたという意味でも面白い大会になったのではないかという気がします。


高校野球の注目度を下げるためには相当な覚悟が必要

高校野球の全国選手権が甲子園球場で行なわれていますが、今年の大会は第一回から数えて百回目ということで、事前にNHKだけでなくテレビ朝日でも様々な特別番組が放送され、かなり多くの方か見られたと思います。改めてテレビソフトとして高校野球には魅力があるということを示したわけですが、元大阪府知事の橋下徹さんをはじめとして、その裏側は必ずしも清く正しいわけでもないのにテレビ的な演出でその内幕を隠し、実際にはレスリングや日大アメフト、アマチュアボクシングのような体質を生む一番の根源であるとして、いわゆる「高校野球否定論」を言う人達がいます。

確かに未成年の高校生が一夜にして注目され、芸能人のようにもてはやされる人気になるくらいテレビを始めとしたメディアが取り上げるものですから、そうしたマスコミの行為によって浮かれてしまい、選手や監督だけでなく地域自体が盛り上がってしまっているので、指導方法が間違った方向に向かってしまったり、大きな不祥事の温床になってしまう恐れが出てきても、なかなかその勢いを止めることができないということは過去にも現在にもあると思います。

そもそも、過去には旧制中学の中等野球と言いましたが10代の学生の部活動の全国大会をするのは、他のスポーツと比べると極めて早く、さらに全国の都道府県から予選を勝ち上がったチームが出てくるため郷土愛を刺激するのか(戦前は台湾や中国、朝鮮半島の代表も出場しています)、戦前のうちから人気がうなぎのぼりになり、ラジオ放送による中継が始まった時点で恐らく現在と同じような盛り上がりであったことは過去の資料などを読むと明らかです。

このラジオ放送による甲子園からの中継が始まった顛末というのも、人気の試合になるとあの大きな甲子園球場にも人が入り切れず、大会の試合の様子を知りたいという人があまりにも多かったからそうした大会人気を狙って当時の唯一のラジオ放送だったNHKが始めたものだと思います。そんな感じで恐らくラジオ中継もあらゆるスポーツの中で最も早い時期から行なわれたので、テレビで大会を中継するのも自然な流れで行なわれたことと思われます。

テレビ中継は当初総合テレビでのみ行なわれ、NHKでは午後7時を過ぎた場合、ニュースと他の番組との関係から最大6時54分で放送が打ち切りになる決まりでした(その後、天気予報→ニュース→通常番組)。しかし、1974年(第56回大会)の夏の甲子園で、延長戦に持ち込まれた神奈川代表の東海大相模と、鹿児島代表の鹿児島実業との死闘がそれまでのテレビの常識を変えることになります。ちなみに、当時の東海大相模には後に読売巨人で活躍する原辰徳選手、鹿児島実業には同じく読売に入団した定岡正二投手がいて、その対決も注目されました。

さすがに神奈川県の属する関東地方ではテレビ放送終了後はラジオで熱戦の行方を聞くしかなかったのですが(当時のVTRではアナウンサーはラジオへの切り替えを促していました)、鹿児島県の高校野球ファンはラジオでは我慢ができず、猛烈な抗議電話をNHKに集中させることで、当時のNHK鹿児島局の放送部長が野球中継を再開することを決定し、おかげでその試合で鹿児島県及び一部の九州地方の人たちには鹿児島実業の勝利の瞬間を届けることができたのでした。

こうした熱狂的な高校野球ファンが全国に存在するという「事実」もあり、翌年からNHKでは総合テレビだけでなく教育テレビを使ってリレー中継をする現在の方式を開始します。ちなみに、それから5年後の第61回大会ではあの延長18回の熱戦である星稜対箕島の試合が行なわれたのですが、もしあの試合が途中でテレビ中継が打ち切られてしまったらどうなったかと考えると、結果的にNHKが高校野球の完全中継をしたことで人気と注目がさらに集まり、今に至る高校野球の人気を後押ししているように思います。

高校スポーツの中でもなぜ野球だけ特別なのか? という点については100回を数える大会の歴史の中で、またお盆休みには人々が故郷に帰りそこで地元愛に溢れた人達と試合を見るようなこともあるので、紹介したようにどうしても地元のチームの試合を中心に見たいという人が相当多くおり、実際にプロ野球より高い注目度と視聴率を叩き出すからだとしか言えないので、いきなり「高校野球をテレビ中継すること自体がおかしい」と言われる方は、それも日本のスポーツ中継の歴史であることを考えた上で強権的ではなく高校野球を魅力的なコンテンツから追い落とすことをまずは考えるべきでしょう。

サッカーの場合、Jリーグの発足とともに各地方にできたプロチームの下部組織としてユース年代のチームを作り、現在はそちらの方が高校のチームより力が上がっていていることから、以前は甲子園並みに注目されていた冬の全国選手権の注目度が下がってきました。橋下徹氏の言う軍隊式の訓練から始まったのが高校野球ということなら、まずプロ野球を今のような地域性についてあまり考えられていないセ・パリーグを一から再編し、サッカーのように地域密着型のチームにしてチームの数も増やし、軍隊訓練のような練習をしなくてもうまくなってプロ野球からアメリカのメジャーリーグにステップアップできる環境について真剣に考えてみてもいいのではないでしょうか。

そこまで実現できれば、ユースのクラブチームのリーグ戦をテレビ中継したり、サッカーのように高校選手権とは別にユースチームと高校チームの両方が参加するリーグを作って活性化していけば、甲子園をあくまで目標としない人はクラブチームの方にも集まってくるのではないでしょうか。

ただそうして有望選手を分散させることになると、よほどクラブチームに行く場合のメリットを揃えないとなかなかまだ甲子園というブランドに勝てるかはわかりません。テレビ中継をしても甲子園ほど注目されず視聴率も上がらないことも考えられます。このように個人の発言だけではなかなか状況をひっくり返せないのが伝統の重みだとも言えます。ただ、もしも全国一の規模と実力を誇る大阪の高校生世代の有力選手があの有名校の監督ごと引き抜いて、クラブチームに行くというのなら話は別でしょう。真の実力日本一のチームがが甲子園にいないとなると、プロを目指す意識の高い高校生が甲子園とは違う形での野球をする可能性も出てきます。本気で高校野球をつぶしたいならそこまで考えて実行しないと、それこそ野球ファンの応援は得られないのではないでしょうか。


東京中心なのは新聞のテレビ欄にも

地方住まいの身としては、例えば地元で災害が起こった場合になかなか地元の事なのに報道されないような事も起こるのを常々何とかして欲しいと思うのですが、今回指摘したいのはメディアをまたいだ一つの東京偏重の報道のパターンとして記録しておこうと思ったからです。

新聞には「全国紙」と「地方紙」があり、全国紙ではどうしても地方の情報が少なくなり、逆に地方紙では東京を中心とした情報が得られないという状況があります。それはそれで仕方のない事ではあるのですが、さらにそこにテレビがからむとさらなる首都圏と地方との格差が感じられることがあります。

今回取り上げたい番組は、フジテレビのみで日曜日の午後に放送されている「ザ・ノンフィクション」という番組で、2018年7月29日と2018年8月5日の日程で2回に分けて放送される「転がる魂 内田裕也」と題する崔洋一氏が監督している内田裕也氏の人生に迫るドキュメントなのですが、後編の放送の前に大手全国紙のテレビ欄にこの番組のコラムが載りました。

どうせなら前編の放送がある前に紹介した方が良かったのではないかと思うのですが、かく言う私もこのコラムを見てこんな面白そうなプログラムが放送されているのを知ったので、せめて後編だけでも見てみたいと思うのですが、残念ながら地方ではこの番組は見られないのです。

もしやと思って民放テレビ局が共同で運営している「TVer」でこの番組が見られないかとも思ったのですが、残念ながら番組のラインナップに「ザ・ノンフィクション」はありませんでした。さらに、有料の「FODプレミアム」でも探したのですが、全ての放送が見られるわけでなく人気のあるシリーズのみ配信という感じで、前回の放送が対象作品には入っていませんでした。

こういう状況があるので、YouTubeに不法にテレビ番組がアップされることにつながるのではないかと思うのですが、地方で生活している身としてはそんな違法アップローダーに頼ることになるというのはやはり本筋から外れています。

そもそも、全国で一律に見られない番組を「おすすめ番組」として新聞で紹介するというのは、やはり新聞社の思慮が足りないと言うしかありません。コラムニストが紹介する紙面が東京だけでなく全国で見られるなら、合法な手段でネットから見ることができるということをきちんと確認してから載せるというのが当り前のやり方ではないかという気がするのです。まさに地方の人達がテレビ視聴においてどれだけの格差を感じて悔しい想いをしているかは、コラムを書いた人にはわからないでしょう。

かくして、こうして番組に興味を持ったものの、いつ見られるのかもわからないまま生殺しのようにされる地方在住者の恨みだけが溜まっていくわけです。せめて今後NHKがインターネットによる常時中継放送を実現するのなら、画質を落とすことは全く厭わないのでテレビ東京を含む東京エリアの民放テレビも同時に中継することを実現しないのなら、新聞のテレビ欄では地方のテレビ放送に即した内容に編集して出すべきです。ただこうしたことが一般化されれば、同じ日本に住んでいる人における露骨な差別主義をテレビ局と新聞社が後押しすることにもなります。地上波で見るのは電波を使った地元のネット局が中心になっても、ネット局が揃わない地方だったり微妙に放送している番組が違ったりしている場合に補填的にネット中継からカバーできたり、それこそ「TVer」で扱う番組を多くしたりとかいくらでも方法があると思うので、関係される方にはぜひとも考えて欲しいところです。