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テレビ脚本から生まれたヒーローに思いを馳せる

紹介する「伝七捕物帳」は、私にテレビ時代劇の面白さを教えてくれた作品です。中村梅之助さんはいい役者さんですが、絶世のスターというわけではなく主役に全ての魅力が詰まっているようなものでなく、あくまでも脇を固めた役者さんとの掛け合いが魅力です。当然本放送ではなく、当時の東京12チャンネルが全ての放送終了前に「夜の時代劇」として放送しているのをたまたま目にし、そのおかげでかなり宵っ張りになってしまいました。

当時はあまり気にしなかったのですが、役者さん以外にも後に別の方面で有名になったりする方が関わっておられるのを知るのも、昔の作品を改めて今見直す場合の楽しさで、ついつい時間がある時には見てしまいます。今回は水戸黄門では悪役の親玉としてすっかり名前が売れてしまった柳沢吉保役で有名な山形勲さんがゲストで登場したのが目を引きました。その役どころは老中になるために年貢を増やして取りたてたお殿様の土蔵から千両箱を盗み出し、最後には市中引き回しを受ける盗賊の役なのですが、伝七とやり取りをする中で、自分の命を投げ出す代わりに、その殿様の年貢取り立てによる圧政によって苦しんでいたお百姓衆に施しを行なう義賊として描かれています。

いつもの悪役を見慣れていても、山形さんの義賊としての演技は素晴らしく、さらにそれを受ける中村梅之助さんの微妙なやり取りも良く、いわゆる「莫逆の友」という感じを醸し出していました。単に毎週消費されるだけの連続ドラマに過ぎないのに、今にも通じるような社会の切なさと男の友情を描いていてすごいなと思っていたら、脚本のテロップに「池田一朗」とありなるほどと思いました。

この池田一朗とは本名で、長くテレビドラマの脚本家として活躍されましたが、多くの方にとってはペンネームの「隆慶一郎」の方が有名でしょう。週刊少年ジャンプに連載された異色の時代劇漫画「花の慶次」は多くの方はご存知でしょうし、前田慶次郎はもちろん、それこそ生涯の友として描かれている直江山城守兼続は、この漫画があって広く知られるようになったのではないかと思われます。今でも米沢市に行けば前田慶次郎関連ののぼりを見ることができますし、時代小説家としては活動期間が少なかった関係で寡作ながらも非常に印象深い作品を多く残した作家として、今後も読まれていく方だと思っています。もし、もう少し長く生きて「花の慶次」や「影武者徳川家康」の漫画原作や、もしそれらの作品がテレビドラマ化された際の脚本を書いていたら今の時代劇の体たらくはなかったのではと思うほどの才能が早くに無くなってしまったのは大変残念だと今でも思います。

最近のテレビは時代劇はお金がかかるとその数が少なくなったと思ったら、現代劇の2時間サスペンスさえも減らす傾向にあるようです。話題のドラマは数々あれど、主役に注目される俳優・女優を起用してその人気で見てもらおうとするものが多かったりして、たとえ時代の人気者が出なくても、脚本や演技で見せ、この作品のように40年以上前の作品であっても陳腐さを感じることもなくむしろその脚本の妙に唸るような作品を作っているということを考え合わせてみると、改めてこれからのテレビは何を発信していくのか? という所にたどり着きます。

生放送のニュース番組にコメンテーターを並べ、出演者のキャラクターに助けられて一通りの政権批判をするのもいいでしょうが、時間を掛けて作るドラマにこそテレビ局の主張が詰まっているとも思えるので、スポンサーを納得させるためには当代一流の俳優を主役に据えるドラマもいいでしょうが、逆にこの伝七捕物帳のようにレギュラーメンバーは地味でも毎回出演するゲストに当代注目を浴びる人物を出すという方法で、地味ではあるが後々の鑑賞にも耐えうるような中味の濃い脚本のドラマを作ることもできるのではないでしょうか。

個人的には「民自党」なんていう自民党だか民主党だかわからない政治家を悪役にして正義の味方が悪党をやっつけるというような現代劇よりも、封建主義で権力をかさにきて好き勝手している地方の小役人の中に現代の悪党を映し出せるような時代劇の方が時の権力者も文句を言えないでしょうし、スポンサーにも迷惑を掛けずに悪い奴を叩ける分、時代劇を今の時代にあえて作るのは無駄ではないように思います。もちろん、そんな意図を視聴者にわからせてくれる良質な脚本が必要になると思いますが、まだ世に出てこない才能はこの世界に埋もれていると思うので、テレビ局はそうした才能を発掘し世に出すという役割も担っていることも忘れないで欲しいですね。先に紹介した隆慶一郎さんの小説を私達が読めるのも、長い間テレビの脚本家として活動してきたからだと思いますし、ぜひ今後のテレビでは年齢性別にこだわらず、いい脚本を書く人を登用して欲しいものです。