実は、以前の半沢直樹シリーズは話題になっても全く見る気が起きませんでした。普通に大人気すぎるドラマというのは多くの事が語られすぎていて、あえてここで書くこともないし、自分が書く前に誰かが書くことが多すぎる気がして自ら見ることを避けていたということはあります。
ただ今回は、放送以前に前シリーズのあらすじ(いわゆるドラマの復習)番組から見たので、よりスムーズに本編に入っていくことができたのですが、今回新シリーズを追って行こうと思ったのは、このドラマ直前に面白がって見た「課長バカ一代」(TwellV)の存在があります。
半沢直樹シリーズは歌舞伎役者を多く起用することによってその「顔芸」に注目が集まりましたが「課長バカ一代」も負けず劣らず尾上松也、市川左團次、坂東彦三郎という豪華な面々が出演されています。こちらはあくまでも「下町ロケット」のような企業ドラマのパロディで、全編ギャグが入った半沢直樹とは比べられないほどくだけたドラマですが、新半沢直樹シリーズではその主役・課長補佐代理心得の八神和彦を演じた尾上松也さんが出演されると聞いて、八神という役柄の影響を残したまま出てくるのか? という単純な興味で見てみようという気になったわけです。
半沢直樹の方は当然、逆的な要素など全くなくストーリーが進んでいくわけですが、その中で単なる顔芸というところを超えた「大げさな確信犯的な演技」のオンパレードになっています。ご覧になった方はご存知ですが、ドラマを見ていなくても様々なモノマネ芸人が半沢直樹キャラクターの真似をするだけでなく、放送局の枠を超えて半沢直樹に出演した俳優がバラエティー番組上でドラマの名セリフをアレンジして披露し、ドラマの人気にも相乗効果を出しています。これだけ「ご本人」がテレビに出まくると、モノマネ芸人の影が薄くなるだけではなく、いわゆる「ドラマ・半沢直樹のパロディ」自体を作ったとしてもドラマ本編より面白くはならないだろうと思います。
翻って「課長バカ一代」は当時の池上遼一画のパロディであることとともに、真面目な企業ドラマを思いっ切りパロディにして笑いを取った漫画が原作です。しかし、この半沢直樹については、すでにパロディを作りようがないほど出演者のキャラが立ちまくり、これ以上のインパクトを見る人に与えることは極めて難しく、二次創作の楽しさという面から言うともはや完成されつくしてしまっていて、パロディが作りずらいドラマになってしまったように思います。
当然、このドラマにはシリアスな展開があり、それを楽しみにする人たちを満足させ、さらにキャラクターを中心に見て腹をかかえて笑う人たちもいて、さらに同局のかつての人気番組、「水戸黄門」を彷彿とさせるような勧善懲悪(主人公の半沢直樹が負けることはない)物でもあるので、お年寄りでも安心して見ることができるという、多くの種類の視聴者をまとめて面倒見て、さらにその後には何も残らないという視聴者総取りのドラマであると言えましょう。
歯がゆいのはこのドラマを放送できなかったNHKを含めた他民放局でしょうが、NHKすらニュースでいわゆる「半沢直樹チックな文字」を使ったニュースを報道したり、半沢直樹の出演者を他の番組に出すことで視聴者の興味をあおることで結局ウィンウィンになっていました。しかし、ドラマとしてはこうしたドラマを続けてはさすがに勢いが落ちてきますし、前シリーズから7年という間を空けたということは、やはり作り手の側もこの種のドラマは続けて企画しては飽きられることを見越していたのだと思われます。
今後のドラマについて、さすがにこのシリーズより多くの視聴者を引きつけ、なおかつ面白いものをというのは酷な話でしょう。ただ問題なのは、こうした勧善懲悪ドラマで与党の幹事長が千倍返しを受けるような内容に視聴者が拍手喝采しても、現実の世界ではこのドラマで「悪」とされるであろう多くの人や団体がぬくぬくと生き続けているということです。ドラマ・半沢直樹はそうした事も私たちに問い掛けているのかも知れません。
(番組データ)
日曜劇場「半沢直樹」最終回1000倍返しなるか!そしてまさかの辞表!?最終決戦
2020/09/27 21:00 ~ 2020/09/27 22:09 (69分)
【出演者】堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、筒井道隆、江口のりこ、西田尚美、石黒賢、入江甚儀、丸一太、山田純大、山本亨、粟島瑞丸、持田将史、児嶋一哉、浅野和之、夏目三久、井川遥、尾上松也、木場勝己、段田安則、柄本明、北大路欣也(特別出演)、香川照之など
【原 作】池井戸潤
【脚 本】丑尾健太郎、谷口純一郎
【音 楽】服部隆之
【ナレーション】山根基世
【プロデューサー】伊與田英徳 川嶋龍太郎 青山貴洋
【演出】福澤克雄
(番組内容)
中野渡(北大路欣也)から裏切られ失意の半沢(堺雅人)だったが、仲間たちからの恩返しを受け再び戦うことを決意。運命の最終決戦、待っているのはー倍返しか?辞表か?
箕部(柄本明)の不正の決定的証拠が、大和田(香川照之)と中野渡(北大路欣也)に握りつぶされてしまう。怒りに燃える半沢(堺雅人)は3人に1000倍返しを誓うも、最も信頼していた頭取にまで裏切られたことで茫然自失に。そんな半沢に手を差し伸べたのはかつての仲間・森山(賀来賢人)たちだった。再び戦うことを決意した半沢はついに紀本(段田安則)の居場所を突き止めある事実に行き着くが…タイムリミットが迫っていた