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指導者の堕落は競技をも弱くすることを解説した番組

番組の題名は、とにかく今の日本の卓球がなぜ急に強くなったのか? と思っている人に番組を見てもらいたい一心で付けた印象ですが、約二時間を通して真面目に日本の卓球の歴史と東京オリンピック後の状況にも触れていて、かなり作り手の熱意が感じられました。さらに、卓球に限らず他のスポーツに関わっている人にも大きな教訓を与えてくれる番組になっていました。

テレビ的にわかりやすくするため、国際卓球連盟の会長という要職まで務めた元世界チャンピオンの荻村伊智朗氏をキーパーソンに据え、ドラマパートに荻村氏を登場させ、そこで自身の卓球への考えを語らせたことで、この番組のテーマが単に「日本卓球が強くなりさえすればいい」ということにとどまっていないのは素晴らしい事だと思いました。

荻村氏が最初に世界の舞台で戦ったのは1954年のイングランドで行なわれたウェンブリー世界選手権でした。まだ第二次世界大戦から日が経っておらず、ウェンブリーの観衆は露骨な反日感情があったので(映画「戦場にかける橋」で描かれたような理不尽な対応をされた人もいたのでしょう)、試合の際中にボールを取りに行ったら目の前でボールを潰されたり、観客から足を鳴らしてブーイングを受けたり、判定にも不審な点があるなどかなり厳しいアウェイの空気の中行なわれました。それでも勝って世界一になったことで、荻村氏のチームメイトがカバンに大事にしまっていた大きな日の丸を掲げようとしたところ、荻村氏がその動きを止めさせたことが番組では紹介されています。

もはや戦後から70年以上経った今ではそんなことはないとは思いますが、大会の少し前には直接戦ったり捕虜としてイギリス人を労務に使用していたりして、その時に見た日本の国旗日の丸には反日の象徴のような想いを持つ人もいたと思われます。荻村氏は優勝が決まった直後に大々的に日の丸を掲げることで観客の反日感情が爆発してしまうことを想像し、同僚が嬉しさの余りカバンの中から取り出した日の丸を会場で掲げることを押し留めたのです。

結果、この行動があえて国家主義にあらず政治や宗教の違いのある地域からも代表を出すことができる卓球連盟の考えに合致するものとなり、日本チームは改めて優勝を称賛されたというのです。アウェイの雰囲気に飲まれ感情的に対処するのではなく、あくまで冷静に、自分達はあくまで卓球のチームであるということを貫いたこの体験は、後の荻村氏の国家や宗教に関わらずに大会運営を行ない、当時オリンピックに出られなかった中華人民共和国にアメリカとの対話の懸け橋となる「ピンポン外交」を仕掛けたり、自ら中国大陸に出向いて日本の当時の技術を指導したり、南北朝鮮の統一チーム「コリア」での出場を実現させたりすることにつながったのではないでしょうか。

番組ではこうした荻村伊智朗氏の考えを紹介するとともに、この荻村氏を擁しても国際的な舞台で活躍できなかった日本チームの陥った「弱体化」の原因をしっかりと指摘しています。日本の世界を席巻した卓球は、それまでの守備的な卓球から方向転換し、右利きなら自分の右側に回り込んで全てフォアで打ちぬくというフットワークを駆使した角型ペンホルダーでの戦い方でした。もしバックに早く打たれてどんな素早いフットワークを持ってしても回り込めない場合は、主に当てるだけで返すショートやツッツキで対応するだけで、練習はほばフォアによる強打のみで対応する選手が称賛された時代が長く続いたのです。

その間に世界では物理的に足を使って回り込むのではなく、利き手と反対方向に打たれた場合はあえて足を使わずにバックハンドで強打するように返す卓球が主流になっていきます。当然中国はそうした流れをいち早く察知しましたが、体の大きいヨーロッパの選手はその力を最大限に利用してフォアでもバックでも威力が変わらない強打を打てるようになり、日本がとてもかなわないだけの存在になるとともに、中国のトップ選手でも勝てないというワルドナーというスウェーデンの選手を生むなど成果を上げていました。

そんな状況になっても現在の日本のトップにいる水谷隼選手を指導する指導者も水谷選手がバックハンドの練習を行なおうとすると「楽をするな!」(足を使って回り込んで打つことがかつての日本の強さの象徴だったので、そこで思考が止まっていると思われる)と叱咤されたと言います。試合のアドバイスでも具体的な戦術の指示もしないで「強気だ!」と精神論しか言わないような人が日本のトップを教える指導者の中にもいたということが明らかになり、これでは日本の卓球は強くならないということが番組を見ている自分にもわかりました。

他の競技でも、とにかく精神論しか言わない指導者や、過去の栄光を事更に主張する言葉は悪いですが「老害」のような人がトップに立っていることで大きな問題になっている日大のアメフトやアマチュアボクシングのようなことが続いているところが他にもあるかも知れません。そうしたアスリート目線でないところから指導が行なわれる状況を変えるために日本の卓球連盟がどうしたかという事までこの番組は紹介しているのです。

日本の卓球が世間に注目されるきっかけになったのはまだ小学校に上がる前の福原愛選手の存在が大きいですが、彼女をはじめとする小学生以下の有望選手を強化していく中で、現在も日本チームの強化に取り組む宮崎義仁さんの証言によると、徹底的にバックハンドを強化した合宿を行なったというのです。「フォアでできることはバックでもやろう」が合言葉であったということですが、こうして日本ナショナルチームの指導を受けた子と受けない子との間で、露骨な実力の差ができてきたことが想像されます。

というのも、体力のない小学生が全てのボールを回り込んでフォアのみで打つというのは不可能です。しかしナショナルチームで指導を受けた子はいとも簡単にフォアとバックのコンビネーションを決め、実戦での技術の差を見せ付けることで「これは今までのようにバックをないがしろにしていては勝てない」という事実を試合の中で日本の多くの指導者に感じさせたのではないでしょうか。

現在の選手で言うと、伊藤美誠選手が試合でも使っている「美誠パンチ」や「逆チキータ」のような技術は、ちょっと昔の指導者なら「遊びで卓球をやるんじゃない!」と大目玉を食らうかもしれない行為から生まれたものだと思います。現在の世界の技術の主流である「チキータ」すら、日本の旧態依然とした指導体制では練習させてもらえなかったとすら思います。それを、とにかく試合に使えそうなものなら遊びの要素から出たものでもきちんとした技術に仕上げていくだけの柔軟性こそが日本の卓球を強くしたと言えるかも知れません。

番組ではタレントのタモリさんに「暗い」と揶揄された事についても紹介されていましたが、これも単にタモリさんに一喝を加えただけで「地味なユニフォームこそが日本の伝統だ」と突っぱねていたら今の日本チームの状況はなかったでしょう。柔道におけるカラー柔道着が出てきた時にも「白こそが柔の精神に合致するものである」とカラー柔道着に反発される方もいましたが、今ではカラー柔道着があればこそ、試合も見やすくなっている側面もあるわけですし、良いものはどんどん取り入れて世界の同志とともに競技としての向上を目指すということが大切だと思います。

実は卓球には「中国が強くなりすぎちゃった問題」というのがありまして、いつの大会でも全ての種目で中国が優勝して終わりというのでは見る側としても面白くなく、最悪のケースとしてオリンピック種目からの除外もあるのではないか? という観測もあるほどです。ですから日本が勝ってくれれば見ている私達にとって、それは嬉しい事ではあるものの、ヨーロッパの選手で中国を次々に打ち負かすような選手が出てきてもそれはそれで盛り上がるだろうと思います。ただ、個人的に中国の牙城を崩す可能性は日本の選手にも十分あると思いますので、今後も常識にとらわれず、何より指導者がアスリートファーストを貫いて今の若い選手達を順調に成長させてくれることを願わずにはいられません。

(番組データ)

Why?強くなった?卓球ニッポン NHK BS1
2018/07/29 22:00 ~ 2018/07/29 23:50 (110分)
【出演】
(ドラマ)でんでん,傳谷英里香,窪塚俊介,
(卓球選手)水谷隼,宮崎義仁,前原正浩,木村興治,長崎美柚,織部幸治,
【語り】ハリー杉山

(番組内容)

リオ五輪でのメダル獲得以降、若手の活躍で大人気の卓球。実は、日本はかつて世界最強を誇る時代もあった!?ドキュメンタリーとドラマを融合させ、強さの秘密をひも解く。

リオ五輪でのメダル獲得以降、若手の活躍で人気が高まる日本の卓球。しかし実は1950~60年代、日本は世界のトップを走る“卓球王国”で、それを築き上げたのが“ミスター卓球”と呼ばれた荻村伊智朗だ。日本はもちろん、中国やヨーロッパなども指導、強豪国を作り上げた。今の超攻撃卓球の原点も荻村さん?!日本の強さの秘密を時空を越えてたどる、ドラマとドキュメンタリーが融合した新感覚ハイブリッドスポーツ番組!!


99.9 ドラマと現実と

刑事事件を毎週一回無罪にしていくジャニーズ事務所所属の俳優・松本潤さんの出演するドラマの題名が「99.9」(TBS系)で、事前の番組告知についてもこのドラマの事を想像させるような感じだったり、番組内でも仲間の弁護士の方々と今村弁護士が飲みながら語っている場面では、ドラマを意識するような発言も出ていました。

ただドラマでの弁護士軍団は実にスマートに活動するさまが描かれていますが、現実の世界とはかなり違うことが改めてわかりました。番組内での同僚の方へのインタビューによると、ドラマのような弁護士の人数の事務所で刑事の冤罪事件をやり続けるのは、かなり財政的に厳しいのだそうです。今回の主役である今村弁護士は25人くらい弁護士がいる合同事務所の中の一人だから、何とかやっていけているということがあるのだそう。逮捕されて無実を主張する人の弁護を引き受ける場合でも、この今村弁護士が受けている事件は世間的に注目されるような事件でないことが多く、ほとんどが依頼人にお金がなく、裁判に勝たないと報酬を受けられない中で弁護活動をしていくので(その場合の報酬も比較的少ないと言うことです)、支援者からのカンパが頼りの仕事になることが多いという事でした。

そんな今村核弁護士がテレビの取材を受けられ、過去に無罪を勝ち取った一部の裁判の内容を紹介するのがこの番組の主な内容です。いかにもカメラを向けられ記者の質問に答えたくなさそうな今村弁護士は怖くてとっつきにくいという感じがするのですが、番組を通して見ていくうちに、記者とも打ち解けてきて、儲からない刑事事件を多く扱う事についても口を開いていきます。

その中で改めて語られるのが刑事事件の裁判においては、「疑わしきは罰せず」ではなく、被告人の方で無罪を証明する事ができないと有罪になってしまう現実です。こうしたえん罪を晴らすためには科学的な眼が必要で、そのため独学で科学についての本を読みながら相当勉強をしている跡が彼の書斎を見る限りは伝わってきました。裁判で検察が依頼した学識経験者に科学的根拠に基づいた鑑定書が提出され、弁護側はその意見を根本的に崩さなければいけないのですから、いかに科学的で雑学にも秀でる眼を持つことが大事かということが改めてわかります。

番組内で2件目の事件として紹介された痴漢冤罪事件については、その裁判を扱う裁判官によって正しい判決が歪められることもあるという世の中の理不尽さを示しています。というのも、意図的に今村弁護士によって提出された重要な資料を不採用にし、残りの証拠物件のわずかなスキを付くような形で誰もが予期しなかった有罪判決を下したことで、今村弁護士からこんな判決は聞いたことがないとまで言わしめています。そのレポートの中で大変興味深いのは、事件を取材したジャーナリストの方が改めてこのような判決を出す裁判官は一体どんな生き方をしてきたのかと調べたところ、実に興味深い過去の話に行き付いたというのです。

その裁判官の方は昔はリベラルな考えを持っていて、あまりに理不尽な警察の逮捕状要求にはあえて逮捕状を出さないということもしばしばあったとのこと。そんな人が検察や警察の意を汲むような判決を普通に出すようになるには、恐らく大きなリベラル派としての挫折があったのだろうと推測されますが、政治でもそうですがいわゆる「転向」した人というのはまるで過去に信じていた自分の考えと同じような考えを持つ人に対してはアレルギー反応のようにかたくなな拒否感を出すことがあります。紹介された裁判官の方にどのような事があったのかはわかりませんが、正しいことを正しいと通すことのできない社会があり、今村弁護士は青年から中高年に至っても未だその世界を信じて戦っているのに対し、裁判官の方にはもはや諦めの境地が感じられます。私たちも世の中こんなもんだと諦めるしかないのでしょうか。

一つの希望というところまで行かないかも知れませんが、私自身、こんな地味な番組を見ようと思ったのは、最初に紹介したTBSのドラマを知っていて、実際にそんな弁護士の方がいるのかと興味を持って見たからで、ドラマはドラマとして荒唐無稽な役者同士のやり取りとかがあって笑ったり怒ったりして見ていた人の中にも、この番組の事前告知を見て、本物のえん罪弁護士とはどういうものかという事に興味を持った方も少なくないと思えます。冤罪事件に関わらず、今社会で問題になっていることをドラマで取り上げることは、あながち人気の若手俳優を使って多くの人が楽しめる筋立てにしたドラマであっても捨てたものではないと思えるのです。ちなみに、上記の裁判直後にツイッターでこの判決の話が拡散し、多くの人の怒りの感情が今村弁護士が感じたものと同じような考えだったことから、控訴審に向けての力となり、ついには控訴審で無罪が確定しています。裁判の世界においても社会大衆の声は全く無視することもできない存在なのではないかと、この話を見て思いました。

テレビのニュースにならないような小さな事件でも、それまで普通に生活していた人がいきなり刑事事件の犯人として拘束され、罰を受けざるを得なくなってしまう現実がある中、警察や検察の思い込みだけで逮捕から有罪までにされるような現状については、一人一人では伝わらなくても今の社会はネットで繋がっていくこともできるので、地道にお仕事をされている今村弁護士を含む全国の弁護士の活動を何らかの形で応援することの必要性を感じた今回の視聴でした。

(番組データ)

BS1スペシャル「ブレイブ 勇敢なる者“えん罪弁護士”完全版」NHK BS1
4/15 (日) 22:00 ~ 23:50 (110分)
【出演】弁護士…今村核,
【語り】本田貴子,
【声】若林正,相沢まさき,桐井大介,中野慎太郎,中尾衣里,下山吉光

(番組内容)

大反響を呼んだ「ブレイブ“えん罪弁護士”」の未放送映像を加え、再構成した100分完全版。有罪率99.9%に挑み、無罪14件という驚異的実績を誇る今村核に迫る。

「無罪14件」。その実績に他の弁護士は「異常な数字」と舌を巻く。“えん罪弁護士”の異名を持つ今村核(いまむら・かく)は、20年以上も刑事弁護の世界で闘ってきた。過去に取り組んだ事件では、通常裁判の何倍もの労力をかけ科学的事実を立証し、えん罪被害者を救ってきた。勝てる見込みも少なく、報酬もわずかな「えん罪弁護」。それなのになぜ、今村は続けるのか?自身の苦悩を乗り越え、苦難の道を歩み続ける男に迫る。


若い女性が大谷翔平選手を見る前に見る番組

表題のような思いを今回紹介する番組を見終えた後に感じざるを得ないということは、実際に番組を見た方にとっては何となくわかっていただけるのではないかと思います。

日本で野球が人気種目になり、太平洋戦争前でも甲子園大会や東京六大学野球は人気を呼び、日本でプロ野球ができたのは、1934年(昭和9年)アメリカのメジャーリーグから選抜チームを招聘した際、メジャーリーガーに対抗するために集められた全日本軍がそれで、当時ホームランでメジャーリーグ界を席巻していたベーブ・ルースが来日したことで多くの人の関心を呼び、その時の全日本軍が「大日本東京野球倶楽部」となり、このチームが今の読売ジャイアンツの前身であったのです。

今後、ロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が活躍する中でこの「ベーブ・ルース」という名前がクローズアップされてくると思いますが、日本ではこの日米野球でベーブ・ルースを抑えた伝説の投手・沢村栄治選手のいた当時の話であり、いかに古い時代のベースボールと比較されているかおわかりでしょう。そういう意味では正に百年に一人の選手といってもいいかも知れません。

日本において、こうしたスポーツの世界にとどまらない、社会現象になるかもしれない人物について、興味を持つのはコアな野球ファンだけではなくトレンドの動きに敏感な若い世代であると言えます。そんな中でさらに爆発的なブームを呼ぶか否かは、今までメジャーリーグどころか野球すら見たことのない人たちだったりすることは、日本のプロ野球における「カープ女子」のように、若い女性がどれだけ食いついてくれるかということにかかっているといっても過言ではありません。

なにせ、普通の「オヤジ」が楽しめることをやってもさっぱり話題にならないのに、そのオヤジがやっていることを若い女性が真似しただけで話題になるというのがこの世の中の流れです。なぜこんなことになるかというと、基本的に若い世代の方が年寄りより行動的であることだけでなく、その世代に引っ張られるように趣味に関する物品の販売が増える傾向があるからです。

テレビというのはスポンサーとつながっていますから、若い男性と比べてレジャーにお金を掛ける傾向があり、若い女性自体が他の世代の男女を巻き込んでブームの牽引車になっていく事例は私がここで挙げるまでもないでしょう。男女差別という観点で考えると若い女性ばかりがちやほやされる事に不快感を覚える方もいるかも知れませんが、景気を上げるためには何でもやらなくてはというところに今のテレビを含めた多くのものが毒されてしまっていることは確かですが、今の大谷翔平選手の活躍というのはマスコミによって作られた偽物のブームでないことは確かなので、大谷選手のニュースを見てその試合を生で見たいと思った野球未経験者のためのこんな番組もありではないでしょうか。

番組自体は若い女の子がまだ片想い中の彼がいるグループでメジャーリーグのワールドシリーズをテレビ観戦するにあたり、メジャーリーグ通の同性の友人からメジャーリーグ観戦のための基礎的な知識をクイズ形式で教えてもらいながらメジャーリーグについての感心を深め、彼に好かれる女の子へと変わっていくというロールプレイングゲーム形式のストーリーが展開していきます。

この番組きっかけでメジャーリーグや日本のプロ野球に興味を持つ人が増えればそれはそれでいいと思いますが、それだけテレビはスマホ民を取り込まないとテレビの一つの醍醐味である生中継の試合ですらも興味を持って見てくれなくなるのではないかと思っているからこそ、こんな番組を作っているという風にも考えられます。あと、それと同時に大谷選手の活躍を「全米が熱狂」とあおっている日本のテレビ関係者がいると思いますが、アメリカにおけるベースボール自体がバスケットやアメリカンフットボールに対して人気で負けていますし、正確には「全米のコアなMLBファンが熱狂」というのが正しい状況分析ではないかと思います。

(番組データ)

our SPORTS!「5min.観戦マニュアル“恋するメジャーリーグ”」 NHK BS1
4/14 (土) 9:00 ~ 9:05 (5分)
【声】金本涼輔,金子有希,吉川未来

(番組内容)

スポーツの魅力を伝えるourSPORTS。今回はアニメゲーム感覚でメジャーリーグの観戦マナーやオモシロ情報などを紹介。


なぜMLBのポストシーズンの試合は最後までもつれるのか

ワールドシリーズの第2戦は約50分の延長になり、両チームホームランを中心に得点を重ね、延長に入ってからも試合の流れはもつれにもつれました。終盤までドジャースが2点リードしていてこのまま行くかと思ったところ、ホームラン2本でアストロズが追い付き、延長戦に入るとすぐにアストロズが2点勝ち越し、さすがにこれで終わったと思ったところ、その裏のドジャーズの攻撃はいきなりトップバッターがホームランで1点差になったものの、普通ならここで終わるパターンでした。

しかしフォアボールから再度チャンスを掴んだドジャースは二塁にランナーを進めて適時打が出て同点になり、延長戦は続きます。その後、また2点をアストロズが勝ち越したので、これでその裏のドジャースの攻撃も力なく終わるかなと思ったら、またソロホームランが出て1点差となり、これはまた同点になるかと思ったところさすがにそこまでの奇跡は起きず、アストロズが勝って対戦成績は一勝一敗のタイになったという試合でした。

日本でアメリカのMLBが生で見られるようになり、特にポストシーズンの試合はなかなか目が離せない試合が多いです。レギュラーシーズンが終わってすぐにポストシーズンに移ることもあり、さらに地区一位になってもそれがリーグ優勝ではないことをチーム全員がわかっているためか、レギュラーシーズンそのままのモチベーションを保てるのではないでしょうか。10月に入るとそれまでのレギュラーシーズンをリセットして、0からのスタートになるために相手がどこでも一切選手は手を抜かず最後まで競った試合になるのではないかと思うのですが。そうして最後の最後まで試合を諦めることなく全力を尽くすため、思いも掛けないドラマが演出されることが多いです。これは、比較する対象が全く違うという批判をあえて承知で言うと、一戦ごとで負ければそれで終わりという高校野球の甲子園と似たドラマ性があるのではないかとも思います。

同じような仕組みで勝ち上がれる日本のポストシーズンと比較してもその違いは明らかなように思います。その想いを個人的に強くしたのは、読売の不動の四番として惜しまれつつMLBのニューヨークヤンキーズに行き、ワールドシリーズのMVPまで獲得した松井秀喜選手のプレーを見てからでした。

後から調べると、その試合というのはワールドシリーズではなく2003年のアメリカンリーグ優勝決定戦(勝ち抜けたチームがワールドシリーズに行ける試合)で、しかも対戦成績が3勝3敗のタイで、勝った方がワールドシリーズ出場となる試合の8回裏、5対2とリードされたヤンキーズが当時の不動のエース・ペドロ・マルチネスを攻略し松井選手が同点となるホームインをした際のガッツポーズは日本のプロ野球では決して見せることのない歓喜の表情だったのです。

本日の試合もそうですが、まずMLBには引き分けという概念がないので日本のクライマックスシリーズのように、リーグ戦上位のチームが全試合引き分け狙いで戦っても勝ち抜けられるのと違い、状況によっては投手を使い果たして野手が投げるということも考えつつ試合に臨まなければなりません。

さらに、MLBのポストシーズンに出場するためには3つある各地区で1位になるか、2位以下のチームの中で勝率が2位までに入らなければいけません。各地区での1位のチームのうち勝率が2位と3位のチームがリーグ優勝決定戦の準決勝を戦い、勝率1位のチームは2位以下で勝率の高い2チーム(ワイルドカード)の1試合だけの代表決定戦を勝ち抜いてきたチームと準決勝を行ないます。そうしてリーグ優勝した後にワールドシリーズが待っているということで、今回ワールドシリーズに出場してきた2チームというのは、そこに至る数々の苦しい試合を勝ってきたというわけです。

なお、MLBではプレーオフからワールドシリーズを10月に行なうので、レギュラーシーズンは9月で終わります。ワイルドカードの試合で相手の決まる勝率一位チームは一試合待たされるものの、日本のクライマックスシリーズのように長く待つことはなく、ファンも選手もモチベーションを維持したままポストシーズンに入って行けることが、プレーオフやワールドシリーズでの名勝負や大逆転の試合が多い原因かも知れませんが、この点において、日本のプロ野球はもっとクライマックスシリーズのあり方だけでなくプロ野球という今までの仕組みも合わせて変えていかないと、プロスポーツとしての野球の将来は明るくならないのではないかと思ってしまうわけです。

一部の野球ファンの中で、今までの2リーク6球団ごとの12チームという編成を新たに地区別にした上でプロ野球球団を増やし、現行12チームを3地区各4チームに再分配するという案があります。基本的に地区別のリーグ戦を争い、地区優勝チームの3チームと地区優勝以外の2位以下のチームの中で勝率5割以上の2チームが(勝率5割を切った場合は次に進めないようにする)ワイルドカードで雌雄を決し全手のリーグの中の勝率1位との日本シリーズ行きをかけたポストシーズンを戦うようにすれば、アメリカと同じように10月を全てポストシーズンにすることで、日本中が野球で盛り上がることもできるでしょうし、この場合の代表というのは国内の地区の代表となるので、高校野球のように地域ごとの盛り上がりも期待できます。

地区分けには色々な方法がありますが、2017年現在の地区別のチームと言えば、
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・北海道 日本ハム
・宮城 楽天
・千葉 ロッテ
・埼玉 西武
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・東京 巨人 ヤクルト
・神奈川 DeNA
・愛知 中日
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・大阪 阪神
・兵庫 オリックス
・広島
・福岡 ソフトバンク
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このように関東に集まってはいるものの東京に2チームあるのが目立つくらいで、うまく全国にばらけていますので東・中・西という3つの地域リーグになります。もし地域的にもう少し球団が欲しいなら、各地区2チームずつ増やして(1チームだけだと15チームになり、1球団があぶれるため)18チームにするとかいろいろ案は出てくるでしょう。新しく参入するチームと既存のチームとの戦力の差を心配される方もいるかも知れませんが、あの楽天だって最初は全然勝てませんでしたし、本日のワールドシリーズで記念すべき1勝目を挙げたアストロズも、球団創設2年目以降6年連続で90敗以上を記録するほどのチームで、さらにそれまでのナショナルリーグからアメリカン・リーグに移った当初は100敗するのが当り前であったほど弱い時代があったにも関わらず、ここまで強くなってきたわけですから、あながち荒唐無稽な提案でもないような気がするのですが。

上記12チームの数を守りたい場合、もっと面白い案もあります。現在日本全国で行なわれている野球リーグを2部リーグとして再編し、リーグ1位のチームと現12チームの最低勝率のチームが入れ替え戦を行ない、負ければ2部に落ちるというものです。地区別のチーム割りについての意見もあるでしょうが、微妙な位置にあるチームが地区移動することで対応は可能なのではないかと思います。そうなれば、万年最下位にいるようなチームだってうかうかしてはいられません。今の経済だけ自由競争をうたっていながら下に落ちる心配もなくのうのうと戦っているチームを無くすという意味でもこうした2部リーグ制というものは地区分けより前に実際してくれれば確実に盛り上がる事は間違いありません。

こんな風にでも考えないと、たとえドラフト会議でスター選手が入るにしてもなかなか日本のプロ野球への注目は今後も集まることがなく、ドラフト対象選手がアメリカの大学に行くなど、本格的なプロ野球離れが起こってくるのではないかと、本日の死力を尽くしたワールドシリーズの試合を見て感じてしまったわけです。少なくとも、これから始まる日本シリーズでは両チームの選手に、最後まで諦めないひたむきなプレーをお願いしたいところです。

(番組データ)

MLB・アメリカ大リーグ ワールドシリーズ 第2戦「アストロズ×ドジャース」
10/26 (木) 8:50 ~ 12:49(試合終了まで放送 延長有)
【解説】斎藤隆,【アナウンサー】高瀬登志彦

(番組内容)
~ドジャースタジアムから中継~