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改めて人間の差別的言動について考える

番組はこの後に第二部もあり、紅白歌合戦の裏で行なわれた今は無き新宿コマ劇場での美空ひばりコンサートの様子を伝えるのですが、今回は美空ひばりさんの曲の中でも、放送でそのまま流せるのかと思っていた曲がこの「第一部」で流れたので改めてこの項目を起こしました。

ちなみに、その曲とはテレビ番組サイトが提供するデータの中には入っていませんが、昭和49年の「ひばりワンマンショー」の中の一曲「波止場だよ、お父つぁん」です。この曲は番組が収録された昭和49年には普通に放送で流れていたのですが、ネットで「放送禁止歌」で検索を掛けるとこの曲名が出てくるページがあります。

今回紹介する番組はBSなので地上波だとまた違うのかも知れませんが、今回は「不適切な語句がありますが当時のまま放送します」というようなテロップは入ったものの「ピー音」が入ることもなくそのまま問題の歌詞である「年はとっても盲でも」という部分がそのまま放送されていました。

以前、アニメの「妖怪人間ベム」を再放送したBS11のセリフ処理について紹介したような気がしますが、この辺はあくまで現場の判断に委ねられているような気がしました。ということは、この曲を始めとする「放送禁止歌」というのは言葉の通り放送では絶対に流せないものではないという事も改めてわかったわけです。

美空ひばりさんの「波止場だよ、お父つぁん」は、今の考え方でいくと視覚障害者に対する配慮を欠いた表現を作詞家の先生がしていたということなのですが、それは作詞家の先生の個人的問題だけとは言い切ることはできません。当時の日本の社会全体に、この歌詞に問題があると思う人がいなかったということでもあり、それが様々な議論がされる中で人々の意識が徐々に変わっていったという事として考えた方がいいでしょう。

日本の歴史の中で、体に障がいがある人というのは、現代の人権の考え方からすると不適当と思われるところがあったり、小さなコミュニティの中ではお互いに共生しているようなところもありましたが、基本的には異形の者として見ていたところは確かにあります。今回の放送で歌詞の字幕も付いた状態で「波止場だよ、お父つぁん」を流せたということからここまで考えられ、さらに40年以上前とはいってもそんなに今と変わらないだろうと思われても、やっぱりそこに生きる人の意識というのは今と違うし、社会もそんな感じだったということを現代を生きる人にも知らせることができたということでもあるでしょう。

これは、近代史や近代の風俗を調べたり、当時の社会的状況を知るという意味において大変に重要なところだと思います。ひばりさんの歌が最初から卑猥な表現を使ったり、過激な言葉を使ったりして「放送禁止」を狙うような歌ではなく、この歌がヒットした当時にはそのような差別的な意図がない中で歌われた曲に過ぎないからこそ、現場の判断でそのまま歌も字幕もカットされることなく流されたという事の意味を多くの方に考えていただければと思います。

この年末から年始にかけて、「テレビにおける差別的な表現」について、主にネットにおいてかなりの議論が出ています。ダウンタウンの年越し番組で出演者の浜田雅功さんがエディー・マーフィーさんの真似をするために顔を黒く塗った「ブラックフェイス」について「黒人差別である」と思う人が多くいるという事実をネットに書き込んだ人がいたことから騒ぎになりましたが、この事についても、改めて視聴者やテレビの制作者がこうした指摘を受け止めて、差別されたと感じた方々との相互理解を目指した話し合いが大切になることは言うまでもありません。

日本人が黄色人種として露骨な差別をされたことがあるという体験を持っている方は、海外へ渡った方を中心にしてその数は少なくないと思われますが、そうした事実や海外メディアのステレオタイプ的な日本人像についても議論の中で指摘することも必要ではないかと思う方もいるでしょう。

今回の場合は、アフリカ大陸から有無を言わさず連れて行かれ、奴隷という人間扱いされない扱いを受けたという負の歴史を背負っている国で暮らしている人達からすれば、ダウンタウンの番組は見るからにおぞましいと思う方もいるでしょう。そうした歴史がない中で日本人との交流を持ってきた国の人では肌の色が黒いということだけでは顔を黒く塗っただけでは差別だと思わない人もいることも確かです。今の世の中は日本の国内だけで発するものであってもネットにアップされるとすぐに広まってしまうため、やはりこうした状況になったらどうするかは考えておくべきでしょうし、今後同じような批判が出た時に、作り手の側から主張したいことについても考えておくべきかと思います。

ただ、こうした批判を受ける形でダウンタウンの番組が今年は作られなくなってしまうとしたら、私達はこうした議論の結末を迎えないまま中途半端な形で今後に同じ問題を残してしまうかも知れません。その点だけは避けて新たな問題提起というものを日本のテレビ制作の方々にもお願いしたいところです。例えばの話ですが、今年のダウンタウンの番組が続くとして、今回顔を黒く塗った浜田さんがあえて二年連続でエディー・マーフィーの扮装をすることにして、その際には顔の黒塗りはせず、収録前の何ヶ月か日焼けサロンに通い、松崎しげるさんやたいめいけんの茂出木シェフのような肌の色に焼いた状態でエディー・マーフィーさんの扮装をしたら今回の事で批判した方々はどのような反応をするのかちょっと興味があります。さらに直近でブラックフェイスをした人がテレビに出た例としては、ダウンタウン以前に昨年のテレビ朝日の名物ディレクター友寄氏のちょっと考えられない黒さについて(アマゾンの中で入れ墨に使う染料を顔や体に塗ったため黒くなった)、差別的だと批判を浴びるべき事例になるのかなど、議論をする余地は多く残されているように感じます。

そうした議論を封殺してまで白黒付けようとする人たちが今回の番組の構成に関わっていたとしたら、見ている側からすると不自然な形で「波止場だよ、お父つぁん」をカットしてしれっと放送してしまっていたかも知れません。日本人特色の曖昧さというものはしばしば批判の対象になることがありますが、そこから人間の本質に至る議論に持って行ける方法というものはないものかと、しみじみ感じるところです。

(番組データ)

美空ひばり 特別企画 大晦日・紅白と大勝負!伝説の“新宿コマ劇場ライブ”第一弾 BS朝日
1/8 (月) 16:57 ~ 18:54 (117分)
【ナビゲーター】下平さやか(テレビ朝日アナウンサー)

(番組内容)

紅白歌合戦の真裏でひばりが行った、公開生放送の貴重映像をたっぷりお届け!パート1では、昭和48年のワンマンショーと昭和49年の新宿コマ劇場でのライブをお送りする。

昭和48年から5年間、「紅白歌合戦」の真裏で生出演した、ひばり涙のワンマンライブ。ファンの間でも“極めて希少価値が高い”とされる貴重映像より、圧巻のステージをお届け!パート1となる今回は、昭和48年のスタジオでのワンマンショーと、昭和49年の新宿コマ劇場での大みそかライブをお送りする。

(主な曲名データ)

リンゴ追分、悲しい酒、ひばりのマドロスさん、三味線マドロス、港町十三番地、哀愁波止場、柔、悲しき口笛、東京キッド、私は街の子、ひばりの花売娘、花笠道中、あの丘越えて、真赤な太陽、ある女の詩、影を慕いて、リンゴの唄、星の流れに、王将