高校野球の注目度を下げるためには相当な覚悟が必要

高校野球の全国選手権が甲子園球場で行なわれていますが、今年の大会は第一回から数えて百回目ということで、事前にNHKだけでなくテレビ朝日でも様々な特別番組が放送され、かなり多くの方か見られたと思います。改めてテレビソフトとして高校野球には魅力があるということを示したわけですが、元大阪府知事の橋下徹さんをはじめとして、その裏側は必ずしも清く正しいわけでもないのにテレビ的な演出でその内幕を隠し、実際にはレスリングや日大アメフト、アマチュアボクシングのような体質を生む一番の根源であるとして、いわゆる「高校野球否定論」を言う人達がいます。

確かに未成年の高校生が一夜にして注目され、芸能人のようにもてはやされる人気になるくらいテレビを始めとしたメディアが取り上げるものですから、そうしたマスコミの行為によって浮かれてしまい、選手や監督だけでなく地域自体が盛り上がってしまっているので、指導方法が間違った方向に向かってしまったり、大きな不祥事の温床になってしまう恐れが出てきても、なかなかその勢いを止めることができないということは過去にも現在にもあると思います。

そもそも、過去には旧制中学の中等野球と言いましたが10代の学生の部活動の全国大会をするのは、他のスポーツと比べると極めて早く、さらに全国の都道府県から予選を勝ち上がったチームが出てくるため郷土愛を刺激するのか(戦前は台湾や中国、朝鮮半島の代表も出場しています)、戦前のうちから人気がうなぎのぼりになり、ラジオ放送による中継が始まった時点で恐らく現在と同じような盛り上がりであったことは過去の資料などを読むと明らかです。

このラジオ放送による甲子園からの中継が始まった顛末というのも、人気の試合になるとあの大きな甲子園球場にも人が入り切れず、大会の試合の様子を知りたいという人があまりにも多かったからそうした大会人気を狙って当時の唯一のラジオ放送だったNHKが始めたものだと思います。そんな感じで恐らくラジオ中継もあらゆるスポーツの中で最も早い時期から行なわれたので、テレビで大会を中継するのも自然な流れで行なわれたことと思われます。

テレビ中継は当初総合テレビでのみ行なわれ、NHKでは午後7時を過ぎた場合、ニュースと他の番組との関係から最大6時54分で放送が打ち切りになる決まりでした(その後、天気予報→ニュース→通常番組)。しかし、1974年(第56回大会)の夏の甲子園で、延長戦に持ち込まれた神奈川代表の東海大相模と、鹿児島代表の鹿児島実業との死闘がそれまでのテレビの常識を変えることになります。ちなみに、当時の東海大相模には後に読売巨人で活躍する原辰徳選手、鹿児島実業には同じく読売に入団した定岡正二投手がいて、その対決も注目されました。

さすがに神奈川県の属する関東地方ではテレビ放送終了後はラジオで熱戦の行方を聞くしかなかったのですが(当時のVTRではアナウンサーはラジオへの切り替えを促していました)、鹿児島県の高校野球ファンはラジオでは我慢ができず、猛烈な抗議電話をNHKに集中させることで、当時のNHK鹿児島局の放送部長が野球中継を再開することを決定し、おかげでその試合で鹿児島県及び一部の九州地方の人たちには鹿児島実業の勝利の瞬間を届けることができたのでした。

こうした熱狂的な高校野球ファンが全国に存在するという「事実」もあり、翌年からNHKでは総合テレビだけでなく教育テレビを使ってリレー中継をする現在の方式を開始します。ちなみに、それから5年後の第61回大会ではあの延長18回の熱戦である星稜対箕島の試合が行なわれたのですが、もしあの試合が途中でテレビ中継が打ち切られてしまったらどうなったかと考えると、結果的にNHKが高校野球の完全中継をしたことで人気と注目がさらに集まり、今に至る高校野球の人気を後押ししているように思います。

高校スポーツの中でもなぜ野球だけ特別なのか? という点については100回を数える大会の歴史の中で、またお盆休みには人々が故郷に帰りそこで地元愛に溢れた人達と試合を見るようなこともあるので、紹介したようにどうしても地元のチームの試合を中心に見たいという人が相当多くおり、実際にプロ野球より高い注目度と視聴率を叩き出すからだとしか言えないので、いきなり「高校野球をテレビ中継すること自体がおかしい」と言われる方は、それも日本のスポーツ中継の歴史であることを考えた上で強権的ではなく高校野球を魅力的なコンテンツから追い落とすことをまずは考えるべきでしょう。

サッカーの場合、Jリーグの発足とともに各地方にできたプロチームの下部組織としてユース年代のチームを作り、現在はそちらの方が高校のチームより力が上がっていていることから、以前は甲子園並みに注目されていた冬の全国選手権の注目度が下がってきました。橋下徹氏の言う軍隊式の訓練から始まったのが高校野球ということなら、まずプロ野球を今のような地域性についてあまり考えられていないセ・パリーグを一から再編し、サッカーのように地域密着型のチームにしてチームの数も増やし、軍隊訓練のような練習をしなくてもうまくなってプロ野球からアメリカのメジャーリーグにステップアップできる環境について真剣に考えてみてもいいのではないでしょうか。

そこまで実現できれば、ユースのクラブチームのリーグ戦をテレビ中継したり、サッカーのように高校選手権とは別にユースチームと高校チームの両方が参加するリーグを作って活性化していけば、甲子園をあくまで目標としない人はクラブチームの方にも集まってくるのではないでしょうか。

ただそうして有望選手を分散させることになると、よほどクラブチームに行く場合のメリットを揃えないとなかなかまだ甲子園というブランドに勝てるかはわかりません。テレビ中継をしても甲子園ほど注目されず視聴率も上がらないことも考えられます。このように個人の発言だけではなかなか状況をひっくり返せないのが伝統の重みだとも言えます。ただ、もしも全国一の規模と実力を誇る大阪の高校生世代の有力選手があの有名校の監督ごと引き抜いて、クラブチームに行くというのなら話は別でしょう。真の実力日本一のチームがが甲子園にいないとなると、プロを目指す意識の高い高校生が甲子園とは違う形での野球をする可能性も出てきます。本気で高校野球をつぶしたいならそこまで考えて実行しないと、それこそ野球ファンの応援は得られないのではないでしょうか。


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