テレビは「枕詞」でイメージを植え付ける事もある

この文章を書いている2017年の年末は大相撲界が大荒れに荒れており、番組開始からずっと大相撲の話題になることは致し方ないと思うのですが、今回はその話題には全く関係ないネタです。漫才師の「ウーマンラッシュアワー」がフジテレビの「THE MANZAI」で披露した北朝鮮・原発・災害復興・沖縄基地問題・その他政治問題について全面的に展開した漫才について、番組内コーナーの「そもそも総研」で取り上げていました。

テレビ朝日の玉川徹さんがウーマンラッシュアワーの村本大輔さんにインタビューを取り、話題になっているその漫才の内容を新宿ルミネで披露されているテレビで披露したものと同じネタのVTRを流しながら、「THE MANZAI」を見ていない人にもわかるような形で解説していたのです。個人的にはこのコーナーを通して見て、「そもそも」他局ネタをわざわざ取り上げてまで、「反権力」的なものとして村本さんに斬り込む、極めてテレビ的な意図というものを感じてしまったのです。

私自身は「THE MANZAI」をリアルタイムで視聴しなかったので書くタイミングを逸していたのですが、当日の放送の様子がネットから消される前にネット経由で一通り見ることができ、その後の報道などから大体のあらましは理解した上でこの特集を見たのですが、これだけ話題になった背景にはやはりテレビで全国放送されたことで多くの人がこの漫才を見ることができたということがあったと思います。

このネタ自体、ウーマンラッシュアワーはテレビに関係なく全国を営業で回る中で、それこそ沖縄・熊本のような漫才のネタにしている地域でも何回もやっていたものです。テレビというのはある意味自主規制が求められるメディアなので、いわゆる普通のネタ見せ番組では出演したこと自体全てがカットされてしまう恐れを感じていたのでしょう。録画番組とは言え、有力な漫才コンビを大挙して出演させ、漫才ブームを作り出した歴史がある「THE MANZAI」という番組ならフジテレビも露骨に排除しないだろうという計算もあって、満を持してそのネタを掛けたことが大いなる反響を巻き起こしたわけです。

テレビ朝日が放送後そこそこの時間が経ったにも関わらず、後追いでこんな特集まで組んで紹介する背景として、単にネタの内容が面白かったというのではなく、ウーマンラッシュアワーがあくまで「反権力」をベースにしたネタをやっているから取り上げたと思うのですが、同時に放送された村本さんのインタビューに対しての受け応えを見る中で、私は村本さんの地元が福井でその土地に根ざした「土着」の面白さというものは感じたものの、どうしても「反権力の旗手」という形に印象付けたいとする番組の擦り寄り方には辟易してしまわざるを得ませんでした。

というのも、過去にRCサクセションのアルバム「カバーズ」が当時のレコード会社であった東芝EMIから発売中止になった時の騒動を思い出してしまったからです。時期的には東日本大震災よりはるか前のチェルノブイリ原発事故を受け、海外の有名曲のカバー集を作る中でその歌詞を相当に「意訳」した出したのが「カバーズ」というアルバムでした。発売前にしきりに有線放送やラジオで流れたのがエルビス・プレスリーの「ラブ・ミー・テンダー」のカバーで、「核」や「放射能」という直接的な言葉を散りばめて、ロックミュージシャンらしく音楽で自分の自由な叫びを表現しているのが印象に残っています。また、アルバムの中の「サマータイム・ブルース」ではコーラスに村本さんと同じ福井県出身で現在はあの秋元康さんの妻である高井麻巳子さんがコーラスで参加していたりして、さらにこの曲では直接的な歌詞を散りばめ(「原発はいらねえ」など)、レコード会社の親会社である原発製造もしている東芝にとっては我慢できない内容だったのでしょう。

結局、「このアルバムは素晴しすぎで発売できません」というコピーとともに東芝は「カバーズ」を発売中止にし、RCサクセションは「カバーズ」をレコード会社を移籍して出すことになりました。さらにこの騒動には続きがあって、RCサクセションとは別に、忌野清志郎という個人が主導する「タイマーズ」という覆面バンドを作り、思い切り左翼チックな風貌で反政府・反大企業・反原発という内容の曲を発表、さらに各地のライブにゲリラ出演するなどして大きな話題となりました。さらにはテレビの生放送(フジテレビの「夜のヒットスタジオ」)に出演して歌うことになった時、当時ラジオで自分達の曲を放送禁止にしたFM東京に対しての文句をそのまま歌詞にして一曲披露しました。その時の司会は古舘伊知郎さんでしたが、当時のスタッフも含めあえてその演奏を止めなかったことで、今も私たちはその時の様子をネット動画で見ることができます。

タイマーズが出てきた時にも一部のマスコミや左翼系の反原発活動を行なっている団体などが彼らに擦り寄るような動きを見せ「反原発ロック」などと言う枕詞を付けて紹介していた事はよく覚えています。しかし決してタイマーズのメンバーは反原発のために歌っていたのではなく、自分の好きな事を好きなように歌わせてくれない社会に対してのその場の怒りを表現したに過ぎないのです。そうしたロック歌手の気まぐれを、自分達の運動や政治活動に利用しようとする体制側でない社会の中に別の権力があるのだということを、私に気付かせてくれたという点では彼らに感謝しています。

その上であえて今述べておきたいことは、ウーマンラッシュアワーの村本さんがこうした左翼系の誘いに乗って政治家になって世の中を変えたいと思うならそれでも別にいいと思うのですが、本人にその気がないのに一介の漫才師を「反権力の権化」として祭り上げようとする勢力がいるとしたら、そういう姑息な事をやる前に自分達の力で国民に支持されるような活動をして民衆の支持を得たらどうかということです。少なくとも自分たちでできないことを人にやってもらって、その上で文句を言うような事だけは今後言わないでいただきたいと思います。

テレビというのは、人々を扇動しようと思えば何回も何回も同じ事を放送しているだけで人の心を変えられてしまう影響力を持っています。その事を肝に銘じて、テレビを見る側も安易にそうした思惑に乗らないで一歩下がってテレビを見ることも大切なのではないかと思います。

(番組データ)

羽鳥慎一モーニングショー テレビ朝日
12/28 (木) 8:00 ~ 9:55 (115分)
【司会】 羽鳥慎一
【アシスタント】 宇賀なつみ(テレビ朝日アナウンサー)
【コメンテーター】 高木美保(タレント)、玉川徹(テレビ朝日コメンテーター)

(番組内容)

羽鳥慎一が毎日の様々なニュースを、自分なりの言葉で伝えます。暮らしをよりよくする情報はもちろん、固いこと、難しいことも、何が問題なのか、分かりやすく紹介します。


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