一つのアイデアで状況は変わるのか

世の中の全てが数学の計算問題のようにはっきりした答えが出れば簡単でいいのですが、なかなかそうはいかないところに、社会の中で生きて行く面白さがあると紋切り型の感想を述べてしまいそうですが、今回紹介する「正解の出ない問題」という番組はまさに何が正解かわからない中、現状をアイデアだけで変えていく事を目指し、当代一流のクリエイターや映画監督、アーティストが1週間という期限の中で知恵をしぼって出したアイデアを実地検証していく番組です。

今回プレゼンをした方々のアイデアはどれも凡人には思い付かないものでしたが、特に関心したのが先日東京オリンピック・パラリンピックの開会式と閉会式の演出を依頼したことでニュースになっていた映画監督の山崎貴さんのアイデアでした。普段花を買ったことがない人に向けて、花に目を付けて極端に指向性のあるスピーカーから女性の声で「私を買って」と情に訴えることで花を買ってもらうというアイデアだったのですが、このようにアイデアを文字に起こしていても、こんな事で都会に暮らす人々が足を止めてくれるのか(検証は新橋駅構内のお花屋さんで行なわれました)とちょっと莫迦にしていたのですが(^^;)、何とCMプランナーの方々の普通にプレゼンを受けて素晴らしいと思ったアイデアよりも多くの売上を叩き出したのが山崎さんの「喋る花」だったのです。

実際に検証のVTRを見たところ、声を出す役の人はお客さんから見えないように隠れていて、お店の人もあえてこの「喋る花」には触れず、お花屋さんの前を歩いている人にピンポイントに呼び掛けるだけで、この売上げには喋りかける人の力量もあるとは思うのですが、見ていてはたと気付いたのが、言ってしまうと「喋る花」と会話している人は日常生活を普通に送っている中に突然ファンタジーな世界に迷い込んでしまった錯覚を覚えたのではないでしょうか。
花が喋るという仕掛けがわかったとしても、花自体はそこにあるわけで、そこで改めて自分の想いを花に託して伝えようという風に考えることによって花が売れていく様子というのはちょっと凡人には考えられない状況でした。と、同時に花屋さんの前でこんな素敵なファンタジーを生み出す山崎さんの力量にも感心しました。もちろん、このアイデアを継続して普通のお花屋さんで行なうことは難しいですが、今後世界に向けて日本をアピールする場で、果たしてどんなアイデアを出すのか、今から楽しみになっただけでもこの番組を見た価値はあったと思います。

他のアイデアにも本当に感心することが多かったですが、今回のアイデアを出した人選がいかにもアイデアを出しそうという人に依頼することで意外性が出なかったのが残念といえば残念でした。というか、この番組を見ながら私はある番組の事を思い出していたのです。アイデアをどんな人に出させるかをプロデュースすることで、単に番組の内容が良くなるだけでなくその後に続く大きな状況の変化を生み出す可能性もあることを覚えていたのです。

その番組とは今はやっていませんがNHK総合で放送されていた「仕事ハッケン伝」という番組です。この番組は基本的にアルバイト程度にしか働いたことがないだろうと思われるお笑い芸人さんにきちんとした企業に研修に行ってもらい、普通に働くことの尊さを芸人さんが感じたり、働くことに対する認識の甘さを企業担当者から指摘されて涙を流す芸人さんがいたり、反対に企業側の人が単にテレビではふざけているとしか思わなかった芸人さんの思わぬ能力に驚いたりするなど、見ている方も様々な「ハッケン」がある番組でした。

そんな中で、この番組に出たことで新たな才能を多くの人に知らしめた芸人さんがいます。それがお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが出演した回だったのです。当時のピースは相方の綾部さんの方が目立っていたように思え、又吉さんはサッカーが上手で北陽高校在学中にインターハイに出た経歴は知っていましたが、まさか企業の中でも十分やっていけるアイデアをひねり出す才能を持っているとはこの番組を見るまで全く意識していませんでした。

彼はローソンで働くことになり、何と「販売促進部」に配属されます。恐しいことに企画会議でアイデアを出すことを要求され、又吉さんはかなり追いつめられるのですが、会議に参加している社員もうなるような素晴しいアイデアを出し、そのアイデアは店頭のディスプレイに採用されることになります。テレビを見ている時には、これだけのアイデアを出せる才能があればお笑い芸人として煮詰まってもすぐにローソンが社員として迎えてくれるだろうと思っていましたが、お笑い芸人として煮詰まってしまったのは相方の綾部さんの方でした(^^;)。その時には執筆した小説が芥川賞を取るとは思いませんでしたが、その才能というのは業界では知っている人は多かったとは思うのですが、単にテレビのネタ番組を見ている人にとっては、この番組発で広く認知されたのではないかと思っています。

そんなこともあり、できれば当初はアイデアの「オチ担当」というようなポジションであっても、この人にアイデアが出せるのか? と思うような人にもオファーをして新たな才能を発掘するような方向でも面白いものになるのではと思いました。今回の番組を見ていると売上げが伸びるなら現実離れした人件費がかかっても面白ければいいという感じなので、職業として企業のためにアイデアを出している人でない人が出すようにした方が個人的には期待が持てます。

それにしても、アイデアを出すだけならお金もかかりませんし、そのアイデアで多くの人が幸せになるようなものが自分でもできるといいのですが。

(番組データ)

正解のない問題 日本テレビ
12/28 (木) 23:00 ~ 23:59 (59分)
【MC】劇団ひとり、佐藤栞里
【ゲスト】伊藤萌々香、小峠英二(バイきんぐ)、高田延彦、滝沢カレン
【キレモノ様】佐藤ねじ、たじまなおこ、松尾卓哉、山崎貴 ※50音順

(番組内容)

『何でもない日に花を買いたくなるアイデアを考えて下さい』世の問題に対し山崎貴監督CMクリエーター、各界の一流達が1週間考えたアイデアをガチプレゼン&実際に検証!

映画監督山崎貴、超有名CMの演出家、各界のキレモノ達に正解のない問題を出題!1週間考えに考え抜いたアイデアをスタジオでガチプレゼン!『何でもない日に花を買いたくなるアイデア』検証してみると心温まる意外な展開に!『バッティングセンターの新サービス』かつてないサービスにお客さんのテンション爆上がりでスタジオ爆笑!さらに!超大物歌手から持ち込まれた意外すぎる問題とは!?アイデア世界を救う…正解のない問題


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