日本の「ものづくり」を守るには口うるさい国内の消費者も一役?

日本のメーカーの不祥事が相次いでいます。自動車メーカーでは三菱自動車やスズキ、日産、自動車部品メーカーのタカタ(エアバック)、さらに最近ではそんな自動車などの製品の材料となる神戸製鋼でも不正が発生したことにより、日本のものづくりに大きな危機が訪れているとも言われています。

今回の「クローズアップ現代+」は、上記のメーカー以外にも、すでに日本のメーカーの出す製品で起こっている「サイレントチェンジ」という事にスポットを当ててその恐ろしさを紹介したのですが、この話はたった25分で語り切れることではありませんが、放送された内容をかみくだいて問題を明らかにするような事をこのブログでやってみることにします。

まず、「サイレントチェンジ」とは何か? ということになるかと思いますが、これは日本のメーカーが製品を作る際、昔なら設計から生産まで全て自社でやっていたのが、コストの問題から製造や部品調達を海外の下請けに出すことで生じるリスクと言えるでしょう。

番組で紹介していたのは主に東南アジアや台湾・中国の下請け・孫受け工場で行なわれることが多いというのですが、メーカーの方ではきちんと部品の種類や組み立て方法や工程を細かく指定するのですが、下請けや孫受けの方で、請け負った金額でより高い利益を上げようと発注元から指定された条件を勝手に変更し、わざと耐久性のない部品を使ったりすることで、見た目には不良でない製品であっても、耐久性が低い製品を完成させてしまうことになります。しかもその不具合は、あくまで部品の劣化によって起こるので、プロでも簡単には見分けが付かず、不具合自体もいつ起こるかはなかなか判断できないのです。劣悪な部品の「静かなる劣化」が起こす番組で紹介された事故例としては以下のようなものがあります。

・突然火をふいたビデオプロジェクター

・ユニットを天板に止めていたネジが破損して落ちたため火事の原因になったこたつユニット

・平坦な道を歩いていても極端に転ぶ回数の多くなった滑りやすい靴底素材を使った紳士用の革靴

・パイプをつないでいるネジが壊れ、座ろうとした人が大怪我をしたパイプ椅子

・電気コードやプラグを安全に使うための難燃剤として使われる「赤リン」をコーティングする指示を無視して使ったため絶縁性が劣化して発火事故が起こったACアダプター

この他、パソコンや除湿器でもメーカーの想定する経年劣化の期間を待たずに事故が起きるケースがあり、日本のメーカーはその対応にいちいち追われることになります。こうした事故というのはメーカーが想定した部品と違うものを使ったことによって起こったことがわかれば、自然故障とは言えませんし、もちろんユーザーの使い方の問題で事故が起こったわけでもないので、多くのメーカーの責任として製品の無償交換(リコール)という形での決着が図られることが多く、その費用はメーカーが全て負担しなければなりません。

では、一体どこの下請けや孫請けがそんないいかげんな事をやっているかというと、その背景には産業のグローバル化が暗い影を落としていました。というのも、とある日本のメーカーが台湾のメーカーに生産を委託していた製品で「サイレントチェンジ」と思われる不具合が出た際、直接下請け業者を呼んで業務の改善を求めたところ、実は不正をしていたのは台湾の下請けではなく、さらにその作業の中の一部の工程を請け負わせた孫請けの企業が中国本土にあったことがわかり、その企業が勝手に指示に沿わない方法で部品を調達していたことがわかったのでした。

この種の不正については、海外の工場で生産を委託する日本のメーカーや企業にとっては大変大きな問題になっています。過去に大きなリコールを経験した家具メーカーのニトリでは、自社ブランドの製品のうち海外で生産をしている比率が90%で、下請けや孫請けの会社が約600社もあるそうです。そんな状態で自社ブランドの品質を守るために、製品や使われている部品の検査を行なうための機材を1億円かけて導入し、職員も100人ほどとかなり力を入れてやっているものの、そうした検査だけでは全ての不正を見付けることはできないので、こまめに海外に視察に出向いたり、一部の下請け企業に自社の品質管理マニュアルを渡し、孫請けに対する指導を求めていくなど色々行なっているようです。

しかし、そうした事をいくらやってもいたちごっこのようにコストの問題から不正が生まれることを完全に無くすことはできないとのこと。それはつまり、技術だけをうまく真似たとしても、ものづくりにかける心意気がないといいますか、ものづくりに対する熱い思想の違いというものが海外と日本のかつてのメーカーにはあり、その着を埋めるのがなかなか難しいということです。それなら、いっそのことコスト高になることは承知の上で日本国内で下請けにやってもらうようにするか、品質を向上させた場合に報奨金を払うなどの対策で高品質な製品を作るためにコストを掛けるかというような解決への糸口のような方法が示された時点で番組は終了しました。

最後にゲストコメンテーターが言っていた「安全にはお金がかかることを理解する」という言葉が印象に残りました。とにかく安いものを買うような消費活動に終始していると、どうしても作りの甘いまがい物をつかまされる可能性は高まります。ただ、名の通った日本の一流メーカーの品を信頼して購入しても、全て日本で作っているのか、一部の部品が海外製だったりするともう追跡は個人レベルでは困難で、いつ「サイレントチェンジ」が起こっても不思議ではない事には変わりありません。

番組でもう一つ言われていた事は、主に消費者側が「サイレントチェンジ」を減らすための心構えのようなもので、それは明らに部品の不良があった場合はきっちりとメーカーに苦情を言うということです。多くの苦情が集まることで、生産出荷後どのくらいで不具合が出ているかがわかり、リコールの資料になりますし、メーカーの社内でコスト偏重に陥っていた場合、そのためにクレームが出まくったことがわかれば、方針の転換に向く可能性もあります。

直接言っても何のリアクションもなかった場合には、ネットで報告するような形で多くの人と情報を共有し、同じような不具合で困っている人がいないかもネットで探すことによって、メーカーも把握していない部品の不良による問題が明らかになることもこれから十分考えられます。

そうした情報の蓄積にはネットというものはやはり便利で、あらゆるものを購入する前に、その型番で検索をかけてみて不具合の報告がネットに上がっていた場合は、単なる初期不良の結果なのか、製造段階での下請け・孫請け企業の不正による「サイレントチェンジ」によるものなのか自分なりに考えた上で購入するかどうか決めるというのがいいだろうと思います。なお、番組の中で少しだけ紹介されていたのですが、「製品評価技術基盤機構(NITE)」の事故・リコール情報のページにリンクを張っておきますので、これから買おうと思っている製品や、今使っているものが以下のリンクにないことを確認しておきましょう。

http://www.nite.go.jp/jiko/jikojohou/index.html

このようなことを書くと、いちいち口うるさい消費者として疎んじられるような気もするのですが、日本のものづくりを支えてきたもののうちの一つが、メーカーに厳しい意見を言う世界一細かい消費者の意見であることもまた事実ではないかと思います。最初に紹介した日本企業の不正の様子がショックだったのは、これからは海外での下請けメーカーが関わった製品だけでなく、メイドインジャパンの製品にも不具合が出るかどうか心配しながら使わなければならないという事にもなるかも知れないことです。ただ、恐くて使えないようなメーカーの製品はあえて使わないことで消説者としての意志表示をし、政治に頼らずとも消費者の力で大企業のあり方を変える試みがあってもいいと、今回の番組を見終ってしみじみ感じた次第です。

(番組データ)

クローズアップ現代+ NHK制作
2017年 10/24 (火) 22:00 ~ 22:25
【ゲスト】明治大学名誉教授…向殿政男,品質管理コンサルタント…根本隆吉,
【キャスター】武田真一,鎌倉千秋(NHKアナウンサー)

(番組内容)

▽家電が突然発火する!?~知られざる“サイレントチェンジ”
相次ぐ製品事故。その原因の一つとしていま、メーカーが知らない間に下請けが部品を変えてしまう「サイレントチェンジ」に注目が集まっている。その危うい実態に迫る。

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