テレビドキュメンタリーがゴールデンタイムに放送される意義について

毎日放送される事件報道は多くの人が目にするものの、その後にどうなったかという事についてはかなりこまめにテレビや新聞を見ていても、ネットにその続報を求めてもなかなか新しい情報を入手することは難しいものです。

そんな中、一定の時間を置いてニュースのその後を追い掛ける特集がニュース番組の一つのコーナーとして放送されることはありますが、それ自体を一つの番組として放送する「テレビドキュメンタリー」は、今も昔も冷遇され続けてきました。

このブログではNHKの受信料についてはかなり厳しく書いているという自覚があるのですが(^^;)、それでもNHKの番組を多く取り上げるというのは、最近では再現ドラマなどを交えたオウム真理教の事件を取り扱った番組を放送したりと頑張っている印象があります。民放のドキュメンタリーというのは細々と作られてはいるものの、午前2時以降のド・深夜や日曜の番組のすき間に入ったりして多くの人の目に触れないような惨状です。

ただ、東京キー局でなく全国の系列局が製作したドキュメンタリーをもち回りで放送するようなケースも有り、東京の放送局が取材をするよりも地域に密着した深い内容が見られるので、本来はもっと様々な内容のドキュメンタリーが見たいと思ってはいるものの、告知も少なくいつ放送しているのかもわからない民放のドキュメンタリーを作っている人達はさぞ大変だろうと思っていました。

今回は、本年10月に2回に分けて関東ローカルでのみ放送されたフジテレビ制作のドキュメンタリーが多くの人から評価を受けた事で、関東ローカルで放送された内容に新たに取材を加えてさらに編集した内容を入れ、一回分にまとめられた2時間の番組に仕上がったということで、見ない理由はないということで見させていただきました。

まず、今回の番組がこれだけ反響を呼んだ一つの要因として考えられることは、両親が殺人罪で服役している中、物心が付かない中で世間から放り出されるようにして育った彼らの息子さんが単にインタビューに応じたということだけでなく、顔や素性は発表しないものの、声はそのままの形で出してきたということです。よくある声を変えて放送する事でよりプライバシーを保護することはできるわけですが、今回取材を受けた息子さんは自分の声をそのまま流すことに同意したことで、感情の浮き沈みなど細かいところまで見ている側に伝わってきやすいという事があります。実際の声に加工を加えてしまうというのは、実際に話を聞いている中では起こり得ない事であるので、伝わり方も違ったのではないでしょうか。

今回新たなインタビューで息子さんがテレビに出た後の反応について語ってくれたので、その内容についても書いておきます。テレビに出て地声で正体がわかってしまった人はいたとは思うものの、周りの人はきちんとした対応をしてくれていて、嫌な思いというのはしていないということでした。ドキュメンタリー番組を送り出す側としては、いくら注目されたとしても、番組に協力してくれた人を不幸にする番組であったとしたら、それは本当に悲しいことになってしまいます。その点では良かったと思うとともに、今回のテレビ出演によってさらに多くの、しかも全国の人達が見た事で現在の生活が壊されることなどないように祈っています。

インタビューの内容は両親が逮捕される前までと、逮捕された後との2部構成になっていました。陰惨な犯罪行為の渦中にいて、さらに両親から虐待を受けていたという内容はショックを感じましたが、やはり個人的には両親が逮捕された後の世間の冷たさというのが、いつ誰に降り掛かってもおかしくない時代に私達は生きていることも実感できるところです。

特に息子さんが進学した定時制の高校の職員が、里親の元から家出して働き始めた(もちろん学校には行っていなかった)息子さんを見付けた時に、学校へ戻すように尽力するのではなく、きちんと退学手続きをさせるためにのみ動いていたという話や、身内がいないので仕事をする場合の保証人も付けられない事で、劣悪な環境で賃金も安い職場を転々とせざるを得なくなった話など、これでは小さい頃から身寄りのない子はどうすればいいのだと改めて感じることになりました。

で、それから息子さんがどうなるかというと、初めて大人に優しくされたと思い、懇意にしていたおじさんがいたのですが、その人はヤクザ関係の手配師だったという事になってしまうのです。まさかとは思ったのですが、世間からはじき飛ばされた人たちが自然とヤクザな世界に集まってしまうという事が、暴力団対策法のある現代でも起こっているという事実に愕然としました。九州のヤクザと言えば、テレビのニュースでは工藤会の壊滅作戦に警察が躍起になっていることが全国ニュースでも報道されていますが、壊滅作戦が成功したとして、社会からはじき飛ばされるようにしてヤクザの庇護の元で暮らさざるを得なくなった人たちはその後一体どうなるのでしょうか。組はなくなったから後は好きにやってくれではまた同じような組織ができるだけでしょう。

警察が動くわけですから政府の方も、真剣にヤクザから足を洗いたい人について、ちゃんと就職まで面倒を見ているのか? という事が大いに気にかかります。この息子さんについても、ヤクザの組織に手入れが入った後に、とある会社の正社員になったということなのですが、それはどんな経緯でそうなったのかという大切な点については今回の番組では明かされなかったということが一つ心残りでした。

ただ、今回は前番組のサッカーが時間通りに終わったため、金曜の午後9時からというまだ多くの人がテレビを見ている時間にこうしたテレビドキュメンタリーが放送されたということだけでも民放テレビ界の快挙と言えるだろうと思います。今回のドキュメンタリーについては、過去の日本の大きな犯罪について多少興味本位な切り口でフジテレビが紹介した事件の中にこの息子さんの両親が起こした事件があり、興味本位で事件報道をすることは、関係者を苦しめるだけだと息子さんがテレビ局に抗議の電話をしたことが発端なのだそうです。少なくとも、こうした抗議に正面から向き合ってくれる番組制作者がいるというのは救いでもありますが、寝た子を起こすような「あの犯罪者・事件は今」というような企画を通して関係者に疎まれるのもまた同じテレビであるわけです。

今後はそんなテレビについて、テレビ制作者がどのように考えているのかという事も取材してドキュメンタリーとして発信していって欲しいと思います。

(番組データ)

ザ・ノンフィクションSP 人殺しの息子と呼ばれて・・・フジテレビ
12/15 (金) 21:00 ~ 22:52 (112分)
【ナレーション】近藤サト 下山吉光
【チーフプロデュース】 張江泰之
【制作】 フジテレビジョン

(番組内容)

『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜・午後2時~2時55分/関東ローカル)は、普段見ることが出来ない人間の一面や人間関係、生き方、ひとつの職業を深く掘り下げて見えてくる隠された本質、記憶に残る事件や出来事などを取材し、その事柄のありのままの姿、事実をお届けするドキュメンタリー番組。 フジテレビで10月15日(日)と22日(日)の2週にわたって放送した『ザ・ノンフィクション 人殺しの息子と呼ばれて…』

2002年に発覚した北九州連続監禁殺人事件の犯人である夫婦の元に生まれ、「人殺しの息子」と呼ばれながら生きてきた息子(24)が、初めてメディアのインタビューを受けたもので、自身の怒りや悲しみ、そして苦悩の日々などを激白した。その壮絶な証言の数々に大きな反響が集まった。番組放送後に全国の視聴者の方々から「是非全国放送でやってもらいたい」との声が多く寄せられたため、全国ネットで放送する。

今回は、10月に放送した内容だけでなく、放送後、再度息子に敢行したインタビュー、母・緒方純子受刑者による未公開の手紙などの内容を加えて、再編集した形でお送りする。

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