初回放送から毎回楽しみにして、裏番組を見ている時も録画までして全回を通して見終えたのがNHKの土曜ドラマ、原作にボードビリアンの小松政夫さんの自伝的長編小説を使った「植木等とのぼせもん」でした。
ドラマの前説には小松政夫さん本人が出演し、当時の「ハナ肇とクレイジーキャッツ」のメンバーに扮した役者さん達は全て自前の演奏ができるという、かなりリアルな形での小松政夫さんと植木等さんの関係を中心に物語が進んでいきます。
恐らく、クレージーキャッツや植木等さんの事をよく知らない人は何だと思うかも知れませんが、当時の事については渡辺プロダクションの渡辺美佐氏が一切出て来ないことをのぞけば、良く作られていたと思います。
最終回に出てきた中では、勝村政信さんが演じるクレージーキャッツの映画「無責任シリーズ」の監督をされた古澤憲吾さんが植木さんの出したCD「スーダラ伝説」に関してのインタビューを受けている時に突然登場し、放った言葉が印象的でした。
「映画は、残るね」
というのがそのセリフですが、圧倒的なドリフターズ世代であった人たちも、年を経るにしたがってその記憶も薄れていきます。特にバラエティ番組において、テレビ番組のアーカイブス化ということについてはあまりにも権利者が多すぎるため、現代でもなかなか難しいところがあるのに比べ、映画というのはその辺はしっかりしており、ソフト化されたものをレンタルして見たり、最近ではビデオオンデマンドでも見ることができます。
私がこのブログをテレビをテーマにしてオープンさせたというのも、せっかくいいドラマを作ってもテレビドラマというものはなかなか後世に残らないというような、テレビの特性が前提にあります。人気ドラマもそれほど人気ではなかったドラマでも、映画のように番組終了後にDVD化されることが当り前になりつつも、全て見終わるまでは何シーズンもあると長いですし、2時間前後で一つの物語が終わる映画とはちょっと違って、よっぽど好きな人でなければ全巻揃えて見ないですし、それがお子さん世代や孫の世代まで受け継がれるかというと疑問な点があります。
そういう「映画」と「テレビ」の違いについていち早く気が付いたのが、北野武氏だと言えるかも知れません。今から50年後くらいに北野武氏の事は知っている人が多かったとしても、明石家さんまさんはどうかと考えてみてみましょう。いわゆる、伝説のコメディアンと呼ばれた人たちを活字では知っていても、一体どんなことをしていて、何が面白かったかというのは、実際にその映像を見なければわかりません。
特に戦前に活躍していた人などは役として出演している映画を見て当時の活躍を空想するしかなく、テレビ創成期に大活躍した芸人さんやコメディアンであっても、さすがにおじいちゃんがよく知っている人でお孫さんまでよく知っているという例というのは僅かなものです。テレビの出演というのは断片的なもので、そうした断片をつなげてまとめてもらえるような人でない限り、今大人気の人であっても将来的に名前が広く知られ続けるということはテレビに出ているだけでは難しいと思われます。
そうしたテレビの特徴に気づき、テレビはあくまで映画の宣伝として出て、メインの活動は映画にシフトするような北野武氏の生き方の方が名は残せるかなとも思います。しかし、放送しては消えゆくテレビの方が、世の中の今というものを直接的に映していることは確かなので、このような形で記録を残すことで、テレビ放送直後の想いというものをブログという場でキープしておきたいという気持ちがあるのだとご理解いただければ幸いです。
さて、ドラマの本編は満足いくものだったことは述べましたが、唯一残念だったのが番組のエンディングがひどくあっさり「スーダラ節」が流れただけで終わってしまったことです。せっかくなら紅白歌合戦のステージセットを作り、植木等さんの声色を作って必死に役作りしていた山本耕史さんに1990年の紅白のステージの再現をしてもらっても良かったですし、まだ植木等さんの物凄さを感じられていないかも知れない人に向けて、当時の紅白の資料映像を時間の許す限り流して欲しかったという想いもあります。
その年の紅白歌合戦はステージ裏での話題にも事欠くことなく、当の植木等さんも予定の時間よりもかなり巻きが入っている中でかなりストレスがたまっていた出演者もいたようなのですが、植木等さんがステージに登場するやいなやそんなステージ裏の雰囲気は一瞬で消えたように盛り上がって、まだ第2部が始まったばかりなのに大トリのようなステージで見ている人を十分に楽しませてくれたまさに「伝説となった紅白出演」だったと思っています。NHKのアーカイブスは有料ですのでなかなかその様子を見ようと思っても難しいので、せめてドラマのエンディングとしてあのステージの一部でも流してくれたら、クレージーキャッツの黄金期を知らない世代にも植木等さんの凄さを感じられたでしょう。
ただ、この文章を書いている現在では、Googleで「紅白歌合戦 スーダラ伝説」と検索をかけると、その時の様子がYouTubeでしっかり出てきます。リアルタイムでこの書き込みを見ていない方が同じように検索をしても動画は消されてしまっているかも知れませんが、このドラマを一通り見て、植木等さんの事に興味が出てきた方はぜひその動画を視聴してみることをおすすめします。
(番組データ)
土曜ドラマ 植木等とのぼせもん NHK制作
2017年10月21日(土) 20時15分~20時45分
山本耕史,志尊淳,山内圭哉,浜野謙太,武田玲奈,でんでん,高橋和也,優香,伊東四朗,中島歩,坂井真紀,富田靖子,勝村政信
(番組内容)
(8)「スーダラ伝説」