結局2019年大河ドラマの「主役」は誰だったのか

ネットではかなりの否定的な意見が飛びかい、視聴率の数字も思うように上がらず、さらに複数の出演俳優の不祥事による急な内容変更など、不運も重なったことが記憶に残ったものになってしまった今回の大河ドラマでしたが、何とか最終回までたどり着きました。ネット上では好評価も見受けられるものの、改めて歴史物とは言っても現代に近い内容を扱うことの難しさを感じてしまった気がします。

基本的には今回のシナリオを書き、役者としても最終回に出演した宮藤官九郎氏の頭の中にあるイメージとストーリーの進め方について、「落語」パートについてついて行けなかったという声も挙がっていますが、通しで視聴させていただき、最後まで主人公がマラソンランナーの金栗四三なのか、1965年の東京オリンピックを招聘した田畑政治なのか、それとも「東京オリンピック」という大会そのものなのかイマイチわかりにくかったという事はあると思います。

前半では何の事やらわからなかった内容について、物語が進むにつれてその伏線を回収した時点で、脚本の妙というものもわかってニヤッとするところはあるものの、やはり語り手として物語を先導する「志ん生」とその弟子「五りん」にスポットを当てることになってしまったことは確かです。宮藤官九郎氏は落語が大好きだと言っているので、こうした構成というのに文句を言っても仕方ないのですが、大河の主題はオリンピックを中心にしたスポーツの歴史です。限られた時間の中であれもこれもということは難しいので、結果的にオリンピックに関係する様々なエピソードを紹介しそびれてしまう部分があったのではないかと考える人がいたとしても仕方ないでしょう。

個人的には、やはりこの大河ドラマは2020年東京オリンピックがあってこそのものだと思うので、日本のスポーツの黎明期から今日までの先人の苦労とその栄光をもっと紹介して欲しかったです。マラソンでは当時日本から出場して金と銅メダルを取った孫基禎・南昇龍選手の扱いは大きくありませんでしたし、ロサンゼルスオリンピック馬術競技金メダルの西竹一選手はその存在すら出てきませんでした。ロサンゼルスオリンピックでは他にも、メダルには届きませんでしたが男子100メートルで決勝に進出した吉岡隆徳選手の最速への挑戦という、現在の日本選手にもつながる話もできたのではなかったとか。

最終回は1964年東京オリンピック開幕からの記録映像とセットで進行していったので、そのハイライトとして続々と出てくると思っていた東京オリンピックの競技の内容についても放送時間を伸ばした割にはバラエティに豊んではいなかったのも残念でした。過去の回で本人役をドラマに登場させ、ある程度の伏線を出していたマラソンの円谷幸吉選手と女子バレーボールの紹介がほとんどで、残りはやはりと思える落語パートに終始していました。通しでドラマを見てきた人にとってはマラソンはともかく、あれだけ中盤で紹介した「水泳日本」の東京オリンピックはどんな結果だったのかについては全く触れられなかったのは成績が低調だったとは言え、メダル至上主義にも程があるとつい思ってしまいました(ちなみに日本水泳チームは銅メダルをリレーで取っています)。

そして、番組スタートから出てきたキーパーソンの一人である嘉納治五郎が世界に広めた武道であり、東京オリンピックで種目採用された柔道についても、ドラマ内の東京オリンピックの中では全く出てこなかったのは何故でしょう? 無差別級で日本の神永選手が金メダルを取れなかったからという単純な事ではないにしろ、出した方が柔道が世界のスポーツとして認知されたという評価もある試合だったので、神永対ヘーシンクの試合ぐらいは嘉納治五郎の志が花開いた一つのエピソードとして出すのに意味があったのではないかと思えます。

そんな中、個人的に評価したいのはいつの世にもオリンピックを利用してお金もうけをしたり、政治的な駆け引きの道具としてオリンピックを使おうとする輩がうごめいているということを、過去の話の中ではあってもしっかり描いてくれたことです。大会が始まって盛り上がればそれでいいということだけではなく、2020年の大会前の今だからこそオリンピックを利用しようとする悪い奴らの存在についても考えて、冷静に次の東京オリンピックの評価を多くの人にしてほしいものだと思います。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(47)「時間よ止まれ」NHK総合
2019/12/15 20:00 ~ 2019/12/15 21:00 (60分)
【出演】阿部サダヲ,中村勘九郎,綾瀬はるか,松坂桃李,麻生久美子,安藤サクラ,斎藤工,林遣都,三浦貴大,大東駿介,角田晃広,黒田大輔,平原テツ,須藤蓮,川島海荷,吉川愛,森山未來,神木隆之介ほか
【作】宮藤官九郎

(番組内容)

1964年10月10日。念願の東京五輪開会式当日。田畑(阿部サダヲ)は国立競技場のスタンドに一人、感慨無量で立っていた。そこへ足袋を履いた金栗(中村勘九郎)が現れ、聖火リレーへの未練をにじませる。最終走者の坂井(井之脇海)はプレッシャーの大きさに耐え兼ねていた。ゲートが開き、日本のオリンピックの歩みを支えた懐かしい面々が集まってくる。そのころ志ん生(ビートたけし)は高座で「富久」を熱演していたー


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