ドラマのリアリズムは現実にどこまで歩み寄るべきか

NHKの朝の連続テレビ小説の99作目「まんぷく」が終わりました。ここのところNHKでは大手企業やその関連する人物を主人公にした作品を多く作っていますが、この作品も日清食品グループの創始者夫婦と思しき人物を主人公にしたもので、今回の番組終了を機に日清食品グループがどのようなアプローチをするのか、そもそも一切ドラマ便乗の商法を行なわないのか、これを書いているうちはわからないので興味があります。

かつての朝ドラ「マッサン」の時は、日本全国でウィスキーブームが起き、そのためずっとウィスキーを好んで飲んできたような人にとっては特定の銘柄のウィスキーが入手が難しくなり、オークションで価格が上がるなど個人レベルでまでNHKがドラマで「ニッカウヰスキー」を取り上げたことによる影響が出ましたが、そういう状況が生まれるからこそ、どのような「事実に基いたフィクション」を作るかということが大事になってくるような気がするのです。

今回の「まんぷく」は日清食品が「カップヌードル」を作り、さらにそれが大成功して大団円ということになるのですが、ドラマのように歩行者天国での試食イベントだけで全国に広まったわけではありません。それこそ当時でも東京の歩行者天国というのは遠い存在で、一大プロモーションで「カップヌードル」という製品があり、自動販売機で売られているというところまでは知られたとしても、全国津々浦々のスーパーマーケットで売られるようになるには、歩行者天国でのキャンペーン後に起こったもう一つの大きな「事件」の産物で、結果的にカップヌードルには幸いしました。

実はこれにはドラマを制作したNHKも十分関わっているところなので、なぜ今回の脚本にその場面が出て来ないまま終わってしまったのか、かなり消化不良の印象があります。おばあちゃんの生前葬をやる時間があるなら、歩行者天国のくだりは前半に行なってしまい、最終回の一つ手前に「あの事件」を持ってきても良かったのではないかと思います。

ちなみに、歩行者天国でのキャンペーンは1971年11月で、その事件「あさま山荘事件」が起こったのが1972年の2月です。過激派が立てこもった「浅間山荘」の周辺は2月の気温がマイナス15度というとんでもない寒さで、差し入れのあらゆる食品がカチンコチンに凍ってしまい、作りおきしたおにぎりやお弁当という携帯食料では、酷寒の中ではまともに食べられないということが事件を生中継し続けたNHKのテレビを食い入るように見ていた全国の人々が知ることになったのでした。

そこで登場したのが「カップヌードル」でした。これなら犯人と対峙する機動隊も交代時間に食べられました。沸騰したお湯を注いで3分待ってすぐ食べるという、自分で調理し、自分で食べるタイミングを決定できる食品の有効性がきちんと伝わったことになります。本来コマーシャルは流せないはずのNHKで、カップヌードルを食べる姿が大写しになって流れたことで国民は商品の存在とセールスポイントを知り、大きな購入動機が生まれました。当時のテレビにとっては民放・NHKを合わせると現場中継を9割の人が見ていたというデータも残る中、広告費を出していない日清食品の一人勝ちで、実にNHKや他の食品メーカーからすると皮肉な結果になったという、テレビの歴史からするとかなり稀有な事件の主役がカップヌードルだったわけです。

実は最終週は、ナレーションだけでも事実として紹介されるのかなと思って見ていたものの、全く触れられずに、「チキンラーメン」や「カップヌードル」が売れるようになったのは今回の朝ドラヒロインのおかげですというような何か変な結論で終わらせるというのは、いくらフィクションとは言え無理がありすぎです。本当に日本の中でもわずかな地域で行なったキャンペーンだけで大ヒットになった? なんてことが本当なのかはちょっと考えればわかることでしょう。

たかがドラマにそこまでのリアリズムは必要ないと思う方もいると思いますが、それなら実在の人物で、さらに現在もテレビコマーシャルを民放局で放送している企業について利益を誘導するようなドラマ制作自体について、もう少し考えるべきでしょう。

(番組データ)

連続テレビ小説 まんぷく(151)[終]「いきましょう!二人で!」NHK総合
3/30 (土) 8:00 ~ 8:15 (15分)
【出演】安藤サクラ,長谷川博己,内田有紀,松下奈緒,要潤,大谷亮平,桐谷健太,瀬戸康史,岸井ゆきの,松井玲奈,呉城久美,中尾明慶,深川麻衣,牧瀬里穂,加藤雅也,松坂慶子,
【語り】芦田愛菜
【作】福田靖

(番組内容)

「まんぷくヌードルの価値が理解できるのは頭の柔らかい若者たちではないか」という福ちゃんの気づきをきっかけに、大勢の若者が集まる「歩行者天国」で、社運をかけてヌードルの大試食販売会をすることになりました。いよいよ勝負の日。誰もが成功を願う中、行き交う人々の反応は…。そして福ちゃんと萬平さんは、ある大きな決断をするのです。


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