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99.9 ドラマと現実と

刑事事件を毎週一回無罪にしていくジャニーズ事務所所属の俳優・松本潤さんの出演するドラマの題名が「99.9」(TBS系)で、事前の番組告知についてもこのドラマの事を想像させるような感じだったり、番組内でも仲間の弁護士の方々と今村弁護士が飲みながら語っている場面では、ドラマを意識するような発言も出ていました。

ただドラマでの弁護士軍団は実にスマートに活動するさまが描かれていますが、現実の世界とはかなり違うことが改めてわかりました。番組内での同僚の方へのインタビューによると、ドラマのような弁護士の人数の事務所で刑事の冤罪事件をやり続けるのは、かなり財政的に厳しいのだそうです。今回の主役である今村弁護士は25人くらい弁護士がいる合同事務所の中の一人だから、何とかやっていけているということがあるのだそう。逮捕されて無実を主張する人の弁護を引き受ける場合でも、この今村弁護士が受けている事件は世間的に注目されるような事件でないことが多く、ほとんどが依頼人にお金がなく、裁判に勝たないと報酬を受けられない中で弁護活動をしていくので(その場合の報酬も比較的少ないと言うことです)、支援者からのカンパが頼りの仕事になることが多いという事でした。

そんな今村核弁護士がテレビの取材を受けられ、過去に無罪を勝ち取った一部の裁判の内容を紹介するのがこの番組の主な内容です。いかにもカメラを向けられ記者の質問に答えたくなさそうな今村弁護士は怖くてとっつきにくいという感じがするのですが、番組を通して見ていくうちに、記者とも打ち解けてきて、儲からない刑事事件を多く扱う事についても口を開いていきます。

その中で改めて語られるのが刑事事件の裁判においては、「疑わしきは罰せず」ではなく、被告人の方で無罪を証明する事ができないと有罪になってしまう現実です。こうしたえん罪を晴らすためには科学的な眼が必要で、そのため独学で科学についての本を読みながら相当勉強をしている跡が彼の書斎を見る限りは伝わってきました。裁判で検察が依頼した学識経験者に科学的根拠に基づいた鑑定書が提出され、弁護側はその意見を根本的に崩さなければいけないのですから、いかに科学的で雑学にも秀でる眼を持つことが大事かということが改めてわかります。

番組内で2件目の事件として紹介された痴漢冤罪事件については、その裁判を扱う裁判官によって正しい判決が歪められることもあるという世の中の理不尽さを示しています。というのも、意図的に今村弁護士によって提出された重要な資料を不採用にし、残りの証拠物件のわずかなスキを付くような形で誰もが予期しなかった有罪判決を下したことで、今村弁護士からこんな判決は聞いたことがないとまで言わしめています。そのレポートの中で大変興味深いのは、事件を取材したジャーナリストの方が改めてこのような判決を出す裁判官は一体どんな生き方をしてきたのかと調べたところ、実に興味深い過去の話に行き付いたというのです。

その裁判官の方は昔はリベラルな考えを持っていて、あまりに理不尽な警察の逮捕状要求にはあえて逮捕状を出さないということもしばしばあったとのこと。そんな人が検察や警察の意を汲むような判決を普通に出すようになるには、恐らく大きなリベラル派としての挫折があったのだろうと推測されますが、政治でもそうですがいわゆる「転向」した人というのはまるで過去に信じていた自分の考えと同じような考えを持つ人に対してはアレルギー反応のようにかたくなな拒否感を出すことがあります。紹介された裁判官の方にどのような事があったのかはわかりませんが、正しいことを正しいと通すことのできない社会があり、今村弁護士は青年から中高年に至っても未だその世界を信じて戦っているのに対し、裁判官の方にはもはや諦めの境地が感じられます。私たちも世の中こんなもんだと諦めるしかないのでしょうか。

一つの希望というところまで行かないかも知れませんが、私自身、こんな地味な番組を見ようと思ったのは、最初に紹介したTBSのドラマを知っていて、実際にそんな弁護士の方がいるのかと興味を持って見たからで、ドラマはドラマとして荒唐無稽な役者同士のやり取りとかがあって笑ったり怒ったりして見ていた人の中にも、この番組の事前告知を見て、本物のえん罪弁護士とはどういうものかという事に興味を持った方も少なくないと思えます。冤罪事件に関わらず、今社会で問題になっていることをドラマで取り上げることは、あながち人気の若手俳優を使って多くの人が楽しめる筋立てにしたドラマであっても捨てたものではないと思えるのです。ちなみに、上記の裁判直後にツイッターでこの判決の話が拡散し、多くの人の怒りの感情が今村弁護士が感じたものと同じような考えだったことから、控訴審に向けての力となり、ついには控訴審で無罪が確定しています。裁判の世界においても社会大衆の声は全く無視することもできない存在なのではないかと、この話を見て思いました。

テレビのニュースにならないような小さな事件でも、それまで普通に生活していた人がいきなり刑事事件の犯人として拘束され、罰を受けざるを得なくなってしまう現実がある中、警察や検察の思い込みだけで逮捕から有罪までにされるような現状については、一人一人では伝わらなくても今の社会はネットで繋がっていくこともできるので、地道にお仕事をされている今村弁護士を含む全国の弁護士の活動を何らかの形で応援することの必要性を感じた今回の視聴でした。

(番組データ)

BS1スペシャル「ブレイブ 勇敢なる者“えん罪弁護士”完全版」NHK BS1
4/15 (日) 22:00 ~ 23:50 (110分)
【出演】弁護士…今村核,
【語り】本田貴子,
【声】若林正,相沢まさき,桐井大介,中野慎太郎,中尾衣里,下山吉光

(番組内容)

大反響を呼んだ「ブレイブ“えん罪弁護士”」の未放送映像を加え、再構成した100分完全版。有罪率99.9%に挑み、無罪14件という驚異的実績を誇る今村核に迫る。

「無罪14件」。その実績に他の弁護士は「異常な数字」と舌を巻く。“えん罪弁護士”の異名を持つ今村核(いまむら・かく)は、20年以上も刑事弁護の世界で闘ってきた。過去に取り組んだ事件では、通常裁判の何倍もの労力をかけ科学的事実を立証し、えん罪被害者を救ってきた。勝てる見込みも少なく、報酬もわずかな「えん罪弁護」。それなのになぜ、今村は続けるのか?自身の苦悩を乗り越え、苦難の道を歩み続ける男に迫る。


若い女性が大谷翔平選手を見る前に見る番組

表題のような思いを今回紹介する番組を見終えた後に感じざるを得ないということは、実際に番組を見た方にとっては何となくわかっていただけるのではないかと思います。

日本で野球が人気種目になり、太平洋戦争前でも甲子園大会や東京六大学野球は人気を呼び、日本でプロ野球ができたのは、1934年(昭和9年)アメリカのメジャーリーグから選抜チームを招聘した際、メジャーリーガーに対抗するために集められた全日本軍がそれで、当時ホームランでメジャーリーグ界を席巻していたベーブ・ルースが来日したことで多くの人の関心を呼び、その時の全日本軍が「大日本東京野球倶楽部」となり、このチームが今の読売ジャイアンツの前身であったのです。

今後、ロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が活躍する中でこの「ベーブ・ルース」という名前がクローズアップされてくると思いますが、日本ではこの日米野球でベーブ・ルースを抑えた伝説の投手・沢村栄治選手のいた当時の話であり、いかに古い時代のベースボールと比較されているかおわかりでしょう。そういう意味では正に百年に一人の選手といってもいいかも知れません。

日本において、こうしたスポーツの世界にとどまらない、社会現象になるかもしれない人物について、興味を持つのはコアな野球ファンだけではなくトレンドの動きに敏感な若い世代であると言えます。そんな中でさらに爆発的なブームを呼ぶか否かは、今までメジャーリーグどころか野球すら見たことのない人たちだったりすることは、日本のプロ野球における「カープ女子」のように、若い女性がどれだけ食いついてくれるかということにかかっているといっても過言ではありません。

なにせ、普通の「オヤジ」が楽しめることをやってもさっぱり話題にならないのに、そのオヤジがやっていることを若い女性が真似しただけで話題になるというのがこの世の中の流れです。なぜこんなことになるかというと、基本的に若い世代の方が年寄りより行動的であることだけでなく、その世代に引っ張られるように趣味に関する物品の販売が増える傾向があるからです。

テレビというのはスポンサーとつながっていますから、若い男性と比べてレジャーにお金を掛ける傾向があり、若い女性自体が他の世代の男女を巻き込んでブームの牽引車になっていく事例は私がここで挙げるまでもないでしょう。男女差別という観点で考えると若い女性ばかりがちやほやされる事に不快感を覚える方もいるかも知れませんが、景気を上げるためには何でもやらなくてはというところに今のテレビを含めた多くのものが毒されてしまっていることは確かですが、今の大谷翔平選手の活躍というのはマスコミによって作られた偽物のブームでないことは確かなので、大谷選手のニュースを見てその試合を生で見たいと思った野球未経験者のためのこんな番組もありではないでしょうか。

番組自体は若い女の子がまだ片想い中の彼がいるグループでメジャーリーグのワールドシリーズをテレビ観戦するにあたり、メジャーリーグ通の同性の友人からメジャーリーグ観戦のための基礎的な知識をクイズ形式で教えてもらいながらメジャーリーグについての感心を深め、彼に好かれる女の子へと変わっていくというロールプレイングゲーム形式のストーリーが展開していきます。

この番組きっかけでメジャーリーグや日本のプロ野球に興味を持つ人が増えればそれはそれでいいと思いますが、それだけテレビはスマホ民を取り込まないとテレビの一つの醍醐味である生中継の試合ですらも興味を持って見てくれなくなるのではないかと思っているからこそ、こんな番組を作っているという風にも考えられます。あと、それと同時に大谷選手の活躍を「全米が熱狂」とあおっている日本のテレビ関係者がいると思いますが、アメリカにおけるベースボール自体がバスケットやアメリカンフットボールに対して人気で負けていますし、正確には「全米のコアなMLBファンが熱狂」というのが正しい状況分析ではないかと思います。

(番組データ)

our SPORTS!「5min.観戦マニュアル“恋するメジャーリーグ”」 NHK BS1
4/14 (土) 9:00 ~ 9:05 (5分)
【声】金本涼輔,金子有希,吉川未来

(番組内容)

スポーツの魅力を伝えるourSPORTS。今回はアニメゲーム感覚でメジャーリーグの観戦マナーやオモシロ情報などを紹介。


お金のかからない「トリビアの泉」は居酒屋トーク的クイズ

この「クイズ☆モノシリスト」という番組はいかにもBSらしい、お金を掛けずにアイデアだけでそれなりに成り立たせようと考えられた番組のように思えました。一応この番組のジャンルは「クイズ」になっていますが点数を競うわけでもなく、罰ゲームがあるわけでもなく、「モノシリスト」と呼ばれるパネラーがコースターに何らかのウンチクを含んだクイズを書き、そうしたクイズを出して全員で考えていくという、飲み屋ですぐ真似できそうな企画です。

恐らく地上波で同じようなウンチクを披露することになるとフジテレビの「トリビアの泉」のようになって、VTRを作るのにお金を掛けるようになり、別の意味で番組を続けることが大変になるようなことも出てくるのでしょうが、このシステムはゲストの人選をしっかりやっておけば、毎回違うジャンルの権威を連れてきて、翌日周りに話したいようなネタをクイズの形で提供してもらうことは可能でしょう。それはいつもテレビで見る有名な人である必要性はなく、お話好きな大学教授のような方や、マニアの中で有名な方をオファーして、まず視聴者が知らないような知識をクイズにして解説を他の出演者を巻き込んで行なえれば、さらに面白くなるのではないかと思います。

ただ、テレビを見過ぎている私にとっては、今回のBS朝日が満を持して放送した問題の中に、過去に別のテレビで放送した内容とかぶるものを見付けてしまいました。それは名字の「渡辺」さんに関わる問題で、NHKの「人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!」で放送されたものと全く内容がかぶってしまって興ざめしてしまいました。

この辺は盗作とは違いますが、番組のオリジナル性を出したいと思えば思うほど、番組担当者は他のクイズやバラエティで同じ内容を扱う企画がないかということを調べてから採用されるようにしないと、いかにBSとは言ってもちゃんと見ている人もいるわけですから、今後も内容が他番組とかぶらないように気を付けて欲しいと思います。

また、今回に限ってはスペシャルだからということもあるかも知れませんが、居酒屋のウンチクトークのような番組で2時間は見ていてかなりだれます(^^;)。出演者の方々は濃いメンツでお話される時には楽しいので、長い話も気にならないのかも知れませんが、テレビを見ている方としては、この種の番組の場合1時間が限度のような感じがします。ともあれ、今後のやり方によってはお金を掛けずに化ける可能性のある番組として今後チェックしていきたい番組ではあると思うのでこれから期待して見ます。

(番組データ)

[新]クイズ☆モノシリスト 初回スペシャル BS朝日
4/10 (火) 21:50 ~ 23:44 (114分)
【MC】いとうせいこう(クリエイター)
【モノシリスト】市川猿之助(歌舞伎俳優)、春風亭一之輔(落語家)、竹俣紅(女流棋士)、武井壮(タレント)、田中寅彦(棋士)、鈴木貴博(経済評論家)、原孝寿(KADOKAWA編集長)、能町みね子(コラムニスト)
【制作】BS朝日、イースト・エンタテインメント

(番組内容)

「寄席で一番最後に出る資格を持つ演者を表す、落語の真打ち、”真”って何?」「芝居が終わることを意味する、芝居がはねるの”はねる”とは?」など、歌舞伎界・落語界で使われる言葉に関するクイズが博識なモノシリストたちを唸らせる。他にも「動く歩道にスムーズに乗る方法とは?」「若者言葉”絶起”とは?」「142857という数字でしばらく楽しむ方法は?」など、すぐ試してみたい裏ワザ的クイズも!

主宰・いとうせいこう進行の下、各界を代表する知識人=“モノシリスト”たちが、無尽蔵の“とっておきモノシリ知識”をクイズ形式で出し合う、全く新しいクイズ番組!全員が出題者・解答者となって知識合戦を繰り広げる!さらに、問題をきっかけにモノシリストたちの雑学知識が次々連鎖。ここでしか聞けないオールジャンルの雑学クイズ満載で、貴方の知的好奇心をくすぐります。


思い出の品はどう処分する?

前回の番組も面白かったですが、今回の断捨離シリーズ第3弾もいろいろ考えさせられる番組でした。今回の番組ではそれぞれの「思い出の品」をどう処分するか(処分しないで残すかというケースを含めて)についての話が心に残りました。

出演者として登場した俳優の鈴木正幸さん家族は引っ越しにともなって部屋数が少なくなる関係から断捨離を決断したのですが、その際に捨てようか残そうか悩んだものが、ドラマ「3年B組金八先生」出演時の台本とテレビ放送を録画したテープでした。

鈴木さんにとってはこのドラマに出演したからこそ俳優への夢をあきらめないで今回の取材を含めてテレビの仕事もある「思い出のつまった品」なので、普段見なければいらない品であることには変わらないのですが、捨てるのか残すのかで悩む中で一つの考え方として示されたのは「昔を懐かしんで気分が沈むものは捨てる」ということでした。

いわゆる「過去の栄光にすがる材料」になっているのなら置いていても今後の人生にとっては良くないので捨て、時々そうした品を見て、自分らしく生きて行くための糧になっているなら捨てずにとっておくのもいいという考えでした。

この考えは後に出てきた3家族にもあてはまることがあり、自分の今までの人生や肉親との思い出とともに捨てられないで溜まってしまっているものを捨てるべきか残すべきか選択を迫られます。エステで儲かっている時に飲食店に手を出し失敗した女性の方は、高いお金を出して買ったレストラン用の器具を捨てられなかったのですが、それは捨てるとまだ残っている借金を返すモチベーションが落ちると考えで残しておいたことが仇となり、エステの事業からもお客さんが逃げるという状況になっていたのですが、本来エステに通う人というのは日常の生活感を極力感じたくないものなのに、依頼者のサロンのあちこちに飲食店にあった道具などが散乱しているのを目にすれば、別のサロンに行きたくなってしまうのは仕方のないことでしょう。しかしこの依頼者も番組の力添えで何とか過去の忌まわしい思い出を断ち切り、今後のサロンの復活に期待が持てそうな感じでした。

親族の思い出が詰まった品々というのは魂がこもっていると考えてしまうとなかなか捨てづらいものです。しかし、その魂というものは人間の心の中にあるものでもあるので、番組では出てきませんでしたが、例えば自分の場合なら思い出のものの写真を撮り、それをクラウド上に保管していつでも見られる状況を作っておくことで、本体を捨てられるということもあるかも知れません。そうした「分身」ではダメだと思ったらその分は残せばいいのです。前回の番組もそうでしたが、自分で納得して自分で行動することが断捨離では大切で、決して肉親であっても「人のものを勝手に捨てる」というのはルール違反です。

特に今回の依頼者はそれぞれ断ち難い思い出を持ち、単に捨てたり残したりするのではなく実際に親の所に会いに行って話をする中で何を残し何を捨てるかということを自分で決めた上で断捨離を実行した女性の場合は、母親にずっと反発してきたのは、実は愛情の裏返しだったことにだんだん気付いていく様子というのはテレビを見ている多くの人にとって共感できるところだったのではないでしょうか。

そして、最初に紹介した鈴木正幸さんの大切な台本とビデオテープについては、捨てるというよりも地元の図書館への寄贈ということも考えたみたいですが、結局は自分の俳優人生を作ってくれたものとして台本の梱包の紐を解き、改めてビデオテープと一緒に自分の生活とともに今後も残すということに鈴木さんがご自身で決められていました。今後新生活をスタートするのを機に、いらないものを捨てたいと思っている方は多いと思います。この番組は捨てるための方法というよりも、決断を促すための心の問題を解くことで断捨離が進むことを示してくれています。BS朝日ではまた忘れた頃に再放送があると思いますので、もし放送に気付いた断捨離を行なおうと思っている方は、今回の第三弾はなかなか見ごたえがある回ということでおすすめだと紹介しておきます。

(番組データ)

ウチ、“断捨離”しました!3 BS朝日
3/22 (木) 21:00 ~ 22:54 (114分)
【出演】やましたひでこ(断捨離 代表/クラター・コンサルタント)、鈴木正幸 他
【ナレーター】平泉成

(番組内容)

大好評企画の第3弾!挑戦するのは、「78歳建具職人が挑む!明るい“終活”にむけて!人生と家族の思い出を閉じ込めたままの家」「隠れモノメタボな家!隠されていたのはモノではなく母娘の確執」「再起不能!?ガラクタで埋め尽くされた名古屋のお城」の3家族。片付けを通じて家族の悩みと向き合う。 さらに、俳優・鈴木正幸さんが登場。母親との同居にむけて、思い出の品や食器類との“断捨離”に向き合う。

不要なモノを減らし、生活に調和をもたらすことを目指す「断捨離」を提唱するクラター・コンサルタントのやましたひでこのアドバイスのもと、片付けに悩む家族が整理整頓に挑む様子を追ったドキュメンタリー。年齢を重ねるに連れて増えていく、「思い出の品」や「捨てられないモノ」を片付けることで、自分が本当に望むものを見つめなおす。


テレビ脚本から生まれたヒーローに思いを馳せる

紹介する「伝七捕物帳」は、私にテレビ時代劇の面白さを教えてくれた作品です。中村梅之助さんはいい役者さんですが、絶世のスターというわけではなく主役に全ての魅力が詰まっているようなものでなく、あくまでも脇を固めた役者さんとの掛け合いが魅力です。当然本放送ではなく、当時の東京12チャンネルが全ての放送終了前に「夜の時代劇」として放送しているのをたまたま目にし、そのおかげでかなり宵っ張りになってしまいました。

当時はあまり気にしなかったのですが、役者さん以外にも後に別の方面で有名になったりする方が関わっておられるのを知るのも、昔の作品を改めて今見直す場合の楽しさで、ついつい時間がある時には見てしまいます。今回は水戸黄門では悪役の親玉としてすっかり名前が売れてしまった柳沢吉保役で有名な山形勲さんがゲストで登場したのが目を引きました。その役どころは老中になるために年貢を増やして取りたてたお殿様の土蔵から千両箱を盗み出し、最後には市中引き回しを受ける盗賊の役なのですが、伝七とやり取りをする中で、自分の命を投げ出す代わりに、その殿様の年貢取り立てによる圧政によって苦しんでいたお百姓衆に施しを行なう義賊として描かれています。

いつもの悪役を見慣れていても、山形さんの義賊としての演技は素晴らしく、さらにそれを受ける中村梅之助さんの微妙なやり取りも良く、いわゆる「莫逆の友」という感じを醸し出していました。単に毎週消費されるだけの連続ドラマに過ぎないのに、今にも通じるような社会の切なさと男の友情を描いていてすごいなと思っていたら、脚本のテロップに「池田一朗」とありなるほどと思いました。

この池田一朗とは本名で、長くテレビドラマの脚本家として活躍されましたが、多くの方にとってはペンネームの「隆慶一郎」の方が有名でしょう。週刊少年ジャンプに連載された異色の時代劇漫画「花の慶次」は多くの方はご存知でしょうし、前田慶次郎はもちろん、それこそ生涯の友として描かれている直江山城守兼続は、この漫画があって広く知られるようになったのではないかと思われます。今でも米沢市に行けば前田慶次郎関連ののぼりを見ることができますし、時代小説家としては活動期間が少なかった関係で寡作ながらも非常に印象深い作品を多く残した作家として、今後も読まれていく方だと思っています。もし、もう少し長く生きて「花の慶次」や「影武者徳川家康」の漫画原作や、もしそれらの作品がテレビドラマ化された際の脚本を書いていたら今の時代劇の体たらくはなかったのではと思うほどの才能が早くに無くなってしまったのは大変残念だと今でも思います。

最近のテレビは時代劇はお金がかかるとその数が少なくなったと思ったら、現代劇の2時間サスペンスさえも減らす傾向にあるようです。話題のドラマは数々あれど、主役に注目される俳優・女優を起用してその人気で見てもらおうとするものが多かったりして、たとえ時代の人気者が出なくても、脚本や演技で見せ、この作品のように40年以上前の作品であっても陳腐さを感じることもなくむしろその脚本の妙に唸るような作品を作っているということを考え合わせてみると、改めてこれからのテレビは何を発信していくのか? という所にたどり着きます。

生放送のニュース番組にコメンテーターを並べ、出演者のキャラクターに助けられて一通りの政権批判をするのもいいでしょうが、時間を掛けて作るドラマにこそテレビ局の主張が詰まっているとも思えるので、スポンサーを納得させるためには当代一流の俳優を主役に据えるドラマもいいでしょうが、逆にこの伝七捕物帳のようにレギュラーメンバーは地味でも毎回出演するゲストに当代注目を浴びる人物を出すという方法で、地味ではあるが後々の鑑賞にも耐えうるような中味の濃い脚本のドラマを作ることもできるのではないでしょうか。

個人的には「民自党」なんていう自民党だか民主党だかわからない政治家を悪役にして正義の味方が悪党をやっつけるというような現代劇よりも、封建主義で権力をかさにきて好き勝手している地方の小役人の中に現代の悪党を映し出せるような時代劇の方が時の権力者も文句を言えないでしょうし、スポンサーにも迷惑を掛けずに悪い奴を叩ける分、時代劇を今の時代にあえて作るのは無駄ではないように思います。もちろん、そんな意図を視聴者にわからせてくれる良質な脚本が必要になると思いますが、まだ世に出てこない才能はこの世界に埋もれていると思うので、テレビ局はそうした才能を発掘し世に出すという役割も担っていることも忘れないで欲しいですね。先に紹介した隆慶一郎さんの小説を私達が読めるのも、長い間テレビの脚本家として活動してきたからだと思いますし、ぜひ今後のテレビでは年齢性別にこだわらず、いい脚本を書く人を登用して欲しいものです。


美輪明宏さんはテレビの外で「一発屋」を脱した

お笑い芸人の小島よしおさんが、そろそろテレビでは飽きられてきた時の話から今回は始めさせていただきます。たまたま何かの番組内で小島よしおさんが美輪明宏さんとご一緒する時があり、小島さんが美輪さんに「一発屋にならないためにはどうしたらいいのですか?」ということを尋ねたのですが、小島さんの脳裏には美輪さんは芸能界の重鎮としての地位があり、自分とは全く違う雲の上の存在だと思ってそんな常人にはなかなか答えが見付からないような問いを発したのですが、その時に美輪さんが発した言葉というものを覚えています。

「あら、私だって一発屋だったのよ」

その時は私自身も美輪さんが言われるように「一発屋」という存在だったことを知りませんでした。この番組を見れば、それが真実であり、さらに苦労を重ねて歌い続けてきたからこそ今の美輪明宏という存在があることがわかります。

番組を見ていない方のために簡単に説明すると、東京に出て銀座の「銀巴里」の専属歌手になりフランスのシャンソンを自分で訳詞して歌ったのが評判になり、出したレコード「メケ・メケ」がヒットしたのですが、人気絶頂の時に同性愛者であることをカミングアウトしたことで芸能マスコミからの大バッシングを受けて全く仕事が無くなります。

無一文になった美輪さんが全国のキャバレー回りをする中で生まれたのが時代的にもシンガーソングライターのはしりのように自分で作詞作曲した曲で、多くの売れている時に擦り寄ってきた人々が手のひらを返すように去っていく中、当時「上を向いて歩こう」がヒットしていた作曲家の中村八大さんのところでした。このくだりを中村八大さんの息子さんが語るところは、やはり一流の仕事をしている人はホンモノを理解できるのだなあとしみじみ思いました。その結果、美輪さんは中村八大さんが音楽を担当するNHKのバラエティ「夢で逢いましょう」の「今月の歌」に登場。その姿は黒のセーターに黒のスラックスという、後に同じNHKの「SONGS」や「紅白歌合戦」に出演した時に見せた姿のようで、これが美輪さんの本気の姿なのかなと思ったりしました。

その後、番組のテーマである「ヨイトマケの唄」をNET(現テレビ朝日)「木島則夫モーニングショー」でノーカットで歌ったことが話題になったことでレコードが出て、40万枚の大ヒットになり、見事「一発屋」から脱したわけなのですが、この後、さらに理不尽な境遇に美輪さんも「ヨイトマケの唄」も晒され、美輪さんが「ヨイトマケの唄」をテレビで歌うことはしばらくできなくなってしまったのです。

それは、当時様々なメディアで起きていた「差別的な用語」についてのかなり強硬な抗議活動をする団体があったため、この「ヨイトマケの唄」の中にある「土方」という呼び方にクレームが付き、「放送禁止歌」という名前の「放送を自粛すべき歌」としてテレビ局にリストアップされたことで、曲および美輪さん自身もテレビに呼ばれなくなってしまったというわけです。

普通ならそこまでバッシングを受け、テレビの中からもはじき出された中で復活することは難しいと思うのですが、まさに不死鳥のように美輪明宏さんはテレビに復活し、史上最高齢での初の紅白歌合戦出場を「ヨイトマケの唄」で果たすことになるわけですが、そこに至るまでにもかなりの長い期間、テレビではない外の世界でどさ回りのように日本中を旅して回り、多くの人達と語り合い、そんな中でさらなる歌の説得力を持って行ったように思います。テレビというのはある種のショーウィンドウだとするならば、「一発屋」から抜け出すためにはテレビに固執することなく自分の実力をテレビでない所で磨くことが一番の近道のように思うのです。

冒頭で紹介した小島よしおさんも、今や小さな子どもたちのためにテレビでないステージをこなす中で「ごぼうのうた」を作り、今やデビュー当初とは違った顔を見せています。実際に小島よしおさんが美輪さんに受けたアドバイスからそうなったのかどうかはわかりませんが、恐らく今後も小島さんは「一発屋」というネタをうまく使いながらこれからも安定した芸能生活を行なってくれると思います。

最後に、私が考える「ヨイトマケの唄」の魅力について書いておきたいと思います。その歌詞において、たいがいの曲というのは時代とともに古びていきます。すでに現代の人にとって電話といえば「スマホ」のことで、ダイヤル式の電話など全くその存在も知らない人が存在する中、「電話のダイヤル回して」なんて歌詞があったら何の事かわからずに古びていくのが普通です。「ヨイトマケの唄」の歌詞の以下の部分が、この曲を今でも歌い継がれるものにしている素晴らしい歌詞だと思います。

「今じゃ機械の世の中で おまけに僕はエンジニア」

「機械」と「エンジニア」という言葉はレコードが出て50年以上経っても「死語」になって辞書の記述から消えるようなことにはなっていません。数ある言葉の中からこの二つの言葉を選んで歌詞にした美輪さんの才能というのはそれだけでも素晴しいと感心するしかありません。

(番組データ)

美輪明宏 ヨイトマケの唄 その愛と秘密 NHK BSプレミアム
2/3 (土) 19:30 ~ 21:00 (90分)
【出演】シャンソン歌手…美輪明宏,
【語り】石澤典夫,久保田祐佳

(番組内容)

美輪明宏の伝説の名曲「ヨイトマケの唄」。この歌が人々に愛されるまでには数々のドラマがあった。その謎をひもとく未公開テープが作曲家・中村八大の遺品に残されていた。そこには若き日の美輪の肉声が。美輪が自らの人生を投影し、底辺で精一杯生きる人々の姿に心を動かされ、書き上げたこの曲は数奇な運命をたどりながら時代を越えて歌い継がれていく。美輪本人や関係者の証言からこの歌が人々の心をとらえ続ける秘密に迫る。


三島由紀夫を現代に蘇らせる新ドラマ

当日の新聞のテレビ欄でこのドラマのことを知り、夜のサスペンスでは松本清張や西村京太郎、森村誠一はシリーズ化して放送しても、なかなかこの人の作品はドラマとして見る機会のない三島由紀夫氏の作品をドラマ化するということで見ようと思ったのですが、これが連続ドラマだとわかり、続けて見られるか不安に思ったのですが、オープニングからかなりぶっ飛んでいて素晴しいと心より思いました。

というのも、ドラマのオープニング舞踏に田中泯、語りが美輪明宏、そして主題歌がロックバンド「人間椅子」の書き下ろしという、まさに三島由紀夫の世界を現代の視聴者に見せる気満々という気合いが、これらの名前を列挙しただけでもわかる方にはわかるでしょう。でも、たまたま見るテレビがなくて、たまたま土曜夜9時になった時にBSジャパンに合わせてしまって、このドラマのオープニングを見てしまった方にとっても、何だこれは? と思わせるだけのインパクトは大きく、恐らく地上波で毎日番宣をやっているドラマと比べて見ている人は少ないんだろうなと思ってしまう悲しさもあります。

このドラマの元となった同名小説は50年前のものであり、ちょっとストーリーのテンポがゆっくりかなという感じを持つ方もいるかも知れません。さらに今回のパターンを見てしまうと、毎回死のうとする主人公が死ねないで続くというありがちなラストも見えてしまうのですが、実際のところ三島の描く「生」と「死」をからめた世界観を楽しむドラマでもあると思うので、何回か見続けることで感じてくる味というものを感じられるとしたら、ぜひそういう方には三島由紀夫の小説にも手を出して欲しいと思います。さらに、エピソードとともにどんなゲスト俳優さんが出てどんな怪演を見せてくれるかも楽しみです。

(番組データ)

[新]連続ドラマJ 三島由紀夫「命売ります」 BSジャパン
1/13 (土) 21:00 ~ 21:54 (54分)
episode.1『開業。命売ります』
【出演者】
・山田羽仁男…中村蒼
・井上薫…前田旺志郎
・宮本…田口浩正
・杉元杏子…YOU
・岸宗一郎…田中泯
【第1話ゲスト】
・岸宗一郎…田中泯
・岸るり子…橋本マナミ
・李正道…大杉漣
【原作】 三島由紀夫『命売ります』(ちくま文庫)
【脚本】 小山正太、大林利江子
【監督】 金澤友也
【音楽】 瀬川英史
【主題歌】「命売ります」人間椅子 (徳間ジャパンコミュニケーションズ)

(番組内容)

三島由紀夫が自決する直前に書いた怪作「命売ります」が初映像化!自殺を図るも失敗した羽仁男(中村蒼)は、自分の命を売り出す商売を始める。毎回舞い込む奇妙な依頼は…

変わらぬ社会、延々と続く日常に見切りをつけ、自殺を図った山田羽仁男(中村蒼)。しかし、死ぬことに失敗した羽仁男は、自分の命を売り物にして商売をすることを思い立つ。最初の客、岸(田中泯)の依頼は、自分の若き妻(橋本マナミ)と関係を持ち、その愛人に見つかって殺されてほしい、という奇妙なものであった…。


CSの有料放送を無料のBS民放で見せる試み

この番組は、過去の歴史上の人物を「被告」とし、時代劇では出てこない事実を検察官役の渡辺いっけいさんがあぶり出す法廷劇です。NHK教育テレビで「昔話法廷」という番組がありました。これは2015年の番組ですが地上波で放送され一部の新聞でも取り上げられたりするなどしたことで覚えているのですが、実はこちらの番組の方が同じコンセプトで2010年から放送され、さらに2011年に放送された田沼意次を被告にした回がギャラクシー賞を受賞するなど、実はNHKがこの番組のコンセプトをそのままに番組を作って評価を得たということがあるのです。個人的に思うのは、その当時「昔話法廷」を紹介する新聞のテレビ欄の紹介の中にこの番組の事を書いて知らせてくれれば、少なからぬ人たちが、早くにこの番組に触れるきっかけになっていたかも知れないということです。

なぜこんな話をするかというと、この「時代劇法廷」という番組はBSフジの制作した番組ではなく、CS放送の有料放送の会社「日本映画衛星放送」が作ったオリジナル番組で、「時代劇専門チャンネル」で放送されたのですが、何とCS放送専門局がギャラクシー賞を獲得したのはこの番組が初めてであったということなのです。時代劇を心から愛する人はこのチャンネルにお金を払って加入して、こうした番組を見る機会もあるでしょうが、浅く広くまんべんなくテレビ番組を見たいと思う人までには届かなったところもあったのではないかと思うのです。

今回の徳川吉宗と大岡忠相を被告とした回は2011年10月にCSで放送されたものですが、5年以上前の放送ながら、前日のNHKBSプレミアムで新シリーズが放送されたリメイク版の「大岡越前」放送の次の日に放送を持ってくるところはBSフジの方で何か意図があったのかと勘ぐりたくもありますが、無料放送でそのまま話題の番組を見せてくれるのは有難いことです。

BS放送のプログラムの中にはかなりの歴史紀行番組がありますが、このような現代の価値感のもとに時代劇のヒーローを法廷に出すことでかなり人間的な魅力を伝えることができ、新たな歴史についての知識を得ることもできるという点でやはり賞を取るだけのことはあると思われます。

今後、このプログラムをBSフジがどう取り扱うのかと思ってネット上を調べていたら、何と昨年の一月末にも同じ徳川吉宗被告の回がBSフジで放送されていたのを発見しました。このシリーズの中では、現在大河ドラマから朝ドラマで出演されて絶大な人気を誇る高橋一生さんを土方歳三役で出している回など、ぜひ見てみたいと思ったのですが、初放送から時間が経過しているものでも、そのままの形で流すのは難しいのかということも考えられます。

ただ、現状のBS民放のプログラムは興味深いオリジナル番組もあるものの、その多くがQVCやShopチャンネルの同時放送や、中国・韓国のドラマ、放送枠をそのまま使った通販番組であることを考えると、通販番組をバラエティ化したり、ドラマで出演していた中国・韓国で活躍する俳優を出すバラエティ番組というような形での発展の仕方はあるものの、せっかく日本のテレビ番組の中にCS放送のオリジナル番組というストックがあるのですから、その資産を有効に活用して欲しいと思うのは私だけではないでしょう。

今回は「時代劇専門チャンネル」と「BSフジ」との間での話ですが、例えばCSのテレ朝チャンネル1で放送されている「ゲキレア珍百景」をBS朝日で通常放送にするとか、様々なやり方はあると思うので、そうした試みも今後されて欲しいなと思うところです。

(番組データ)

時代劇法廷 被告人は徳川吉宗 BSフジ(制作・日本映画衛星放送)
1/13 (土) 15:00 ~ 16:00 (60分)
<出演者>
渡辺いっけい 福士誠治 眞島秀和 森下哲夫 茅島成美 井沢元彦  ほか

(番組内容)

享保の改革・目安箱など、まさに”スーパースター”と呼ぶにふさわしい吉宗は本当に名君だったのか?罪名は「詐欺罪」。「被告人・徳川吉宗は庶民の味方という揺るぎないスターダムを築き上げたが、それは吉宗自身による自己像のでっちあげであり、その実像は苛烈な倹約政策と重税を推し進め、庶民を疲弊させた張本人」というのが時代劇検察官の主張だ。 「大岡越前」でおなじみの大岡忠相が弁護人側証人として出廷し、”時代劇黄金コンビ”で余裕の構えの吉宗だが、やがてそのスター然とした態度の裏に潜む弱気で孤独な本性が垣間見え…。時代劇検察官が歴史の嘘に切り込み、”スターの孤独”を浮き彫りにする!


改めて人間の差別的言動について考える

番組はこの後に第二部もあり、紅白歌合戦の裏で行なわれた今は無き新宿コマ劇場での美空ひばりコンサートの様子を伝えるのですが、今回は美空ひばりさんの曲の中でも、放送でそのまま流せるのかと思っていた曲がこの「第一部」で流れたので改めてこの項目を起こしました。

ちなみに、その曲とはテレビ番組サイトが提供するデータの中には入っていませんが、昭和49年の「ひばりワンマンショー」の中の一曲「波止場だよ、お父つぁん」です。この曲は番組が収録された昭和49年には普通に放送で流れていたのですが、ネットで「放送禁止歌」で検索を掛けるとこの曲名が出てくるページがあります。

今回紹介する番組はBSなので地上波だとまた違うのかも知れませんが、今回は「不適切な語句がありますが当時のまま放送します」というようなテロップは入ったものの「ピー音」が入ることもなくそのまま問題の歌詞である「年はとっても盲でも」という部分がそのまま放送されていました。

以前、アニメの「妖怪人間ベム」を再放送したBS11のセリフ処理について紹介したような気がしますが、この辺はあくまで現場の判断に委ねられているような気がしました。ということは、この曲を始めとする「放送禁止歌」というのは言葉の通り放送では絶対に流せないものではないという事も改めてわかったわけです。

美空ひばりさんの「波止場だよ、お父つぁん」は、今の考え方でいくと視覚障害者に対する配慮を欠いた表現を作詞家の先生がしていたということなのですが、それは作詞家の先生の個人的問題だけとは言い切ることはできません。当時の日本の社会全体に、この歌詞に問題があると思う人がいなかったということでもあり、それが様々な議論がされる中で人々の意識が徐々に変わっていったという事として考えた方がいいでしょう。

日本の歴史の中で、体に障がいがある人というのは、現代の人権の考え方からすると不適当と思われるところがあったり、小さなコミュニティの中ではお互いに共生しているようなところもありましたが、基本的には異形の者として見ていたところは確かにあります。今回の放送で歌詞の字幕も付いた状態で「波止場だよ、お父つぁん」を流せたということからここまで考えられ、さらに40年以上前とはいってもそんなに今と変わらないだろうと思われても、やっぱりそこに生きる人の意識というのは今と違うし、社会もそんな感じだったということを現代を生きる人にも知らせることができたということでもあるでしょう。

これは、近代史や近代の風俗を調べたり、当時の社会的状況を知るという意味において大変に重要なところだと思います。ひばりさんの歌が最初から卑猥な表現を使ったり、過激な言葉を使ったりして「放送禁止」を狙うような歌ではなく、この歌がヒットした当時にはそのような差別的な意図がない中で歌われた曲に過ぎないからこそ、現場の判断でそのまま歌も字幕もカットされることなく流されたという事の意味を多くの方に考えていただければと思います。

この年末から年始にかけて、「テレビにおける差別的な表現」について、主にネットにおいてかなりの議論が出ています。ダウンタウンの年越し番組で出演者の浜田雅功さんがエディー・マーフィーさんの真似をするために顔を黒く塗った「ブラックフェイス」について「黒人差別である」と思う人が多くいるという事実をネットに書き込んだ人がいたことから騒ぎになりましたが、この事についても、改めて視聴者やテレビの制作者がこうした指摘を受け止めて、差別されたと感じた方々との相互理解を目指した話し合いが大切になることは言うまでもありません。

日本人が黄色人種として露骨な差別をされたことがあるという体験を持っている方は、海外へ渡った方を中心にしてその数は少なくないと思われますが、そうした事実や海外メディアのステレオタイプ的な日本人像についても議論の中で指摘することも必要ではないかと思う方もいるでしょう。

今回の場合は、アフリカ大陸から有無を言わさず連れて行かれ、奴隷という人間扱いされない扱いを受けたという負の歴史を背負っている国で暮らしている人達からすれば、ダウンタウンの番組は見るからにおぞましいと思う方もいるでしょう。そうした歴史がない中で日本人との交流を持ってきた国の人では肌の色が黒いということだけでは顔を黒く塗っただけでは差別だと思わない人もいることも確かです。今の世の中は日本の国内だけで発するものであってもネットにアップされるとすぐに広まってしまうため、やはりこうした状況になったらどうするかは考えておくべきでしょうし、今後同じような批判が出た時に、作り手の側から主張したいことについても考えておくべきかと思います。

ただ、こうした批判を受ける形でダウンタウンの番組が今年は作られなくなってしまうとしたら、私達はこうした議論の結末を迎えないまま中途半端な形で今後に同じ問題を残してしまうかも知れません。その点だけは避けて新たな問題提起というものを日本のテレビ制作の方々にもお願いしたいところです。例えばの話ですが、今年のダウンタウンの番組が続くとして、今回顔を黒く塗った浜田さんがあえて二年連続でエディー・マーフィーの扮装をすることにして、その際には顔の黒塗りはせず、収録前の何ヶ月か日焼けサロンに通い、松崎しげるさんやたいめいけんの茂出木シェフのような肌の色に焼いた状態でエディー・マーフィーさんの扮装をしたら今回の事で批判した方々はどのような反応をするのかちょっと興味があります。さらに直近でブラックフェイスをした人がテレビに出た例としては、ダウンタウン以前に昨年のテレビ朝日の名物ディレクター友寄氏のちょっと考えられない黒さについて(アマゾンの中で入れ墨に使う染料を顔や体に塗ったため黒くなった)、差別的だと批判を浴びるべき事例になるのかなど、議論をする余地は多く残されているように感じます。

そうした議論を封殺してまで白黒付けようとする人たちが今回の番組の構成に関わっていたとしたら、見ている側からすると不自然な形で「波止場だよ、お父つぁん」をカットしてしれっと放送してしまっていたかも知れません。日本人特色の曖昧さというものはしばしば批判の対象になることがありますが、そこから人間の本質に至る議論に持って行ける方法というものはないものかと、しみじみ感じるところです。

(番組データ)

美空ひばり 特別企画 大晦日・紅白と大勝負!伝説の“新宿コマ劇場ライブ”第一弾 BS朝日
1/8 (月) 16:57 ~ 18:54 (117分)
【ナビゲーター】下平さやか(テレビ朝日アナウンサー)

(番組内容)

紅白歌合戦の真裏でひばりが行った、公開生放送の貴重映像をたっぷりお届け!パート1では、昭和48年のワンマンショーと昭和49年の新宿コマ劇場でのライブをお送りする。

昭和48年から5年間、「紅白歌合戦」の真裏で生出演した、ひばり涙のワンマンライブ。ファンの間でも“極めて希少価値が高い”とされる貴重映像より、圧巻のステージをお届け!パート1となる今回は、昭和48年のスタジオでのワンマンショーと、昭和49年の新宿コマ劇場での大みそかライブをお送りする。

(主な曲名データ)

リンゴ追分、悲しい酒、ひばりのマドロスさん、三味線マドロス、港町十三番地、哀愁波止場、柔、悲しき口笛、東京キッド、私は街の子、ひばりの花売娘、花笠道中、あの丘越えて、真赤な太陽、ある女の詩、影を慕いて、リンゴの唄、星の流れに、王将


新旅番組のキーワードは「同郷」

昨年末から出川哲朗さんの「充電させてもらえませんか?」(テレビ東京)が人気になったこともあり、新たな旅番組のパターンを求めて様々な番組が誕生しています。今回新番組ということと、まさにこの文章を書いている私の出身地である静岡県を最初の舞台としてスタートした「同郷どらいぶ」について、どんな形に仕上がっているのか気になったので拝見しました。

最初から「富士山は静岡のものだ!」という事と、静岡県側から見た富士山が「表富士」だと、出演した筧利夫さんと中山雅史さんが一致し(^^;)、山梨県人の方が見たらこの部分だけで番組を見るのを止めてしまうかも知れませんね。お二人はこれが初対面だとは思えないほど打ちとけていましたが、番組を見ている人が静岡県の人がお二人のようなテンション高過ぎの人間ばかりではないということはわかって欲しいと思いながら見ていました。

お二人は三保の松原で富士山からパワーを受けた後、中山さんの実家のある静岡県藤枝市(中山さんが何度も番組内でおっしゃっていましたが、実家があるのは平成の大合併で藤枝市の一部となった「岡部町」です)に訪れ、母校の藤枝東高を訪れてグラウンドでサッカーを楽しみます。芝のグラウンドのある練習場は立派ですが、中山さんがいた当時は土のグラウンドだったとのこと。

番組からの「ルール」としてスマホの自撮りをピンポイントで取るということと、自分の故郷で「おもてなし」をするということが基本なのだそうです。最初に故郷にやってきた中山さんが筧さんをおもてなすためにしたことは、サッカーワールドカップの時には中山さんのことを「小僧!」と呼び、中山さんからも「儀助!」と呼ばれていた父親の中山儀助さんのいる実家に招待することでした。

静岡の方言丸出しの儀助さんは、たまたま同時のゴールデンタイムに見た静岡の有名人「たけのこ王」と同じ静岡方言の面白さがあり、同郷の旅の魅力の片鱗は感じられたかなという感じもします。

翌日に浜松に移動して筧さんの地元のお宮で小学生当時からの友人とともに三角ベースを遊んでいるところをじっくり映したりしているのを確認し、これはもはや観光のための番組ではないと思ったら、コンクリの「マンモス滑り台」が出てきて、ここは県外の方でも一度は来て滑ってみたいと思えるものでした。適当に回っているところでも外から見て魅力的な場所を見付けることができれば、他にない旅番組になるかも知れないなと思った瞬間でした。

筧さんの「おもてなし」は「いそやき」という浜松のお祭りの屋台で出たソウルフードでした。一本100円のいそやきはお好み焼きのようなものですが、イカのすり身に海のものを入れ、ハマグリの型に入れて焼きソースをかけていただくものでした。おもてなしにしてはかなりしょぼいものだと思う方も多いと思いますが、小さい頃においしいと食べていたものというのは案外そういうものが多く、かえって事業化された「B級グルメ」として昔と違う洗練された物になってしまうのも地元民からするとちょっと違うと思えますし、次回以降にもこのセンスで地元のソウルフードを紹介していってくれる方が、他の番組との差別化ができるのではないかと思えます。

最後に訪れたのは、2002年のサッカーワールドカップ日本チームの合宿地として使われた宿泊施設「北の丸」でしたが、ようやく普通の旅番組になってきたかなと思ったら終了という感じでした。

果たしてこの番組を見た方々が静岡県を訪ねてみたいと思うだろうかという疑問がわくというのが正直なところなのですが、全国に知られた観光地は三保の松原しか行っていませんし、最後に出てきた「北の丸」で食事をするというのもなかなか難しいことを考えると、番組でキャスティングする人選によっても変わってきますし、決して有名でないところであっても、番組を見た人が行きたくなるような場所とソウルフードを紹介してくれるなど、普通の旅番組では決して出てこないものが生まれるような番組として化けて欲しいと思います。

(追記)

番組に登場した「マンモス滑り台」について補足します。改めて観光地ではありませんので、地元の方に配慮した楽しみ方がされるといいと思います。このすべり台のある公園というのは、静岡県浜松市中区中沢町54-8の「住吉公園」にある滑り台かと思われます。ちなみに、ネット口コミによる情報によると駐車場なしということなので、周辺への駐車にもご注意下さい。

(番組データ)

<金曜+1>『同郷どらいぶ』筧利夫・中山雅史 静岡編 BSフジ
1/5 (金) 23:00 ~ 23:55 (55分)
<出演者>筧利夫、中山雅史

(番組内容)

同郷の芸能人が、一緒にふるさとへ帰郷。同郷を通じて、お互いが新たな一面を引き出しあう予測不能でハートフルな“帰郷旅バラエティー”が誕生する! 番組には、3つのルールがある。 レンタカーに乗って、ドライブで帰郷。 帰省した際に必ず立ち寄る店や、地元で一番の絶景、再会したい人などを紹介。 同郷人だからこそ、お互いを最高のもてなしで親睦を深める。 普段では見られない異色の組み合わせが、化学反応を引き起こすとき、地方の新たな魅力が見えてくるハズ~ 記念すべき第1回の舞台は、静岡県。浜松市出身の俳優・筧利夫と藤枝市出身のサッカー・中山雅史が、それぞれの故郷を案内してまわる。