NHKは喜劇そのものを作るより「喜劇講座」を放送した方が良い理由

「たけしのこれがホントのニッポン芸能史」というシリーズも今回12回目になりました。中には、あんまり知識のない内容についても無理にビートたけしさんに語らせているような回もあり、あえて「たけしの」と番組名を付けてしまったスタッフの苦心する様が垣間見えた事もありましたが、今回の題材は「喜劇」という事で、ビートたけしさんやゲスト出演した伊東四朗さんの言葉はすっと入ってきました。

ただ、当のNHKの流すテレビの喜劇というのは最後の最後にビートたけしさんが語ったように、NHKの流す現代の喜劇はつまらないという言葉の通りなのではないかと思います。

民放では「吉本新喜劇」を除けば、もはやお芝居として喜劇役者を出すなんてことは、民放のドラマ自体でお金を掛けたキャスティングが予算の都合で出来ず、さらにセットや道具などで現代劇よりお金のかかる時代劇をなくし、ついには2時間サスペンスも消そうとしているのではないかと思われる番組編成を一部でしていることからもわかるように、まずそんな事はできないでしょう。テレビ放送のためにセットを一回の芝居のために作るお金も勿体無いと思っているのかどうか知りませんが、昔のドリフターズのような番組というのも今は作れなくなっているのではないかと思われます。

ただ、その点NHKには潤沢な受信料による資金があるので、民放では一時とだえてしまった時代劇も大河ドラマだけでなく「金曜時代劇」という枠もあり、最近になってBSジャパンの時代小説のドラマ化やBSTBSで水戸黄門が始まるまでは唯一時代劇をレギュラーで作り続けていて、その余波で最近はコント番組にも手を付けていて、現代のテレビコント消滅の危機を時代劇と同じように巣食っているようにも見えます。しかしビートたけしさんがNHKの喜劇がつまらないとおっしゃる意味を考えてみると、出ている人がみんな民放に出ている時とは違い優等生になってしまったり、出る人が優等生らしくふるまうように場の雰囲気を作ってしまうからなのではないかと思ったりします。

この事を考える時に、かなりはっきりと覚えている事をここで披露したいと思うのですが、当時大人気の間寛平さんが十二単を着て顔は白塗りにして登場する「引きずり女」というキャラクターがあって民放では大ウケだったということで、その年のNHK紅白歌合戦の幕間で登場したのです。しかし、それまでの厳かな雰囲気の中で登場したためなのか、とにかくその場の雰囲気に馴染めなかったというか登場した時点でお客さんが引いてしまい「引きずり女は……客が引く」と小さい声を絞り出して舞台から去っていったのです(^^;)。やはり何の説明もなく引きずり女の格好をして紅白の舞台に出るというのはやってはいけなかったのでは? とその当時は思うとともに、こういうギャグが受けないから当時のNHKではコント番組で大爆笑できないんだと思ったことを思い出します。それが私自身の今にまで続くNHKとコント番組のイメージとなってしまっています。

そういう意味では、NHKがバラエティというよりも真面目に「喜劇」の事を勉強するというようなスタンスで紹介するこの番組の事については、逆に違和感なくさまざまな喜劇についての人物や歴史を教えてくれたのでためになったように思います(^^)。優等生には優等生らしくきちんとした講座でさまざまな芸能史をひもとく企画というものにも個人的には期待しているのですが。

あと、もう一つ番組を見ていて気になったのが、伊東四朗さんが最後に言っていた「今の若手は(ネタ元を知らないので)パロディができない」という事でした。これについて、実は逆にフジテレビの人気番組「さんまのお笑い向上委員会」に謹慎明けの漫才コンビの片方であるアンタッチャブルの柴田英嗣さんが出ていじられた時、その事を強く感じました。

というのも、最初に何とか横山やすしさんの「メガネメガネ」と落としたメガネを探すギャグを振られて何とか受けたものの、その次に彼のメガネ姿をいじろうとFUJIWARAの藤本敏史さんから出た「三木のり平」さんの名を出されても柴田さんはその事がわからず、

・「ねぼすけに、はじめ優しい、ママの声」
・「午前様、角と一緒に、茶漬け出し」
・「長電話、聞こえるように、邪魔をする」

と藤本さんに振られても「ごはんですよ」と、長年三木のり平さんのアニメで、のり平さん亡き後も息子の小林のり一さんが声の出演をしていた桃屋のテレビCMの返しをすることができなかったのです。

柴田英嗣さんは1975年生まれで、藤本敏史さんは1970年生まれということで5年の開きがあります。ちなみに上記の川柳がちりばめられた桃屋の「ごはんですよ」のコマーシャルはネット調べでは1981年放送ということなので、柴田さん6才、藤本さん11才ということで、それなら柴田さんはのり平さんの出た久世光彦さん演出のホームドラマ「あとは寝るだけ」(テレビ朝日 1983年)なんかも知らないんだなあとしみじみと時代の流れを感じてしまいました。

現在20代から30代くらいの若手のお笑い芸人とのジェネレーションギャップはあるかも知れませんが、すでに40を越えている中堅どころのお笑い芸人さんにも三木のり平さんの事を全く知らない人がいるというのは、別に柴田さんを個人的に突っかかっているというわけでなく、単純に伊東四朗さんの嘆きは相当深刻なものであることを今回改めて確認してしまいました。

これからテレビに出てくるお笑い芸人の予備軍の方は、自分から言う必要はないにしても、一通りは芸人の先輩や長老の方から急に昔の事を振られても、振られた「元ネタ」に関して何とか自分の知識の中で返せるだけのスキルを付けていかないと、テレビの笑いというのは瞬発力こそが大事なので、立ち往生になってしまえば次からは呼ばれなくなるかも知れません。また、色んな事を知った上でテレビを見ている人から「あの人はこんな事も知らないんだ」という色メガネを付けて見られてしまう可能性があることを理解しておいた方がいいのではないかとも思います。

(番組データ)

たけしのこれがホントのニッポン芸能史(12)「喜劇」NHK BSプレミアム
12/2 (土) 19:30 ~ 21:00
【出演】ビートたけし,所ジョージ,伊東四朗,ムロツヨシ,遼河はるひ,荒俣宏,
【アナウンサー】黒崎めぐみ

(番組内容)

芸歴60年喜劇界のレジェンド伊東四朗がたけしと語り合う名優たちの伝説!▽初共演、ムロツヨシがたけし・所に体当たり!▽動くエノケン・ロッパ?貴重な映像を大公開!▽希代の喜劇王・三木のり平の魅力を中村メイコが語る▽驚異のリハーサル日数!?吉本新喜劇の舞台裏に密着!不動の人気を誇る関西の笑いの秘密をすっちーと池乃めだかが語った!▽実験!80年前の喜劇を東京03が現代に再現!?▽たけしが語る喜劇とは?


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