タレント事務所がテレビに与える影響の限界

テレビには芸能の部門においても「タブー」というものが存在していて、それが2019年の6月から7月にかけて、「ジャニーズ事務所」や「吉本興業」において、普通にテレビを見ている一般視聴者にまでその内容が知られることになってしまいました。

元々特定の事務所に所属していたタレントが、円満に退社することができなくなった場合、今回名前の出た事務所に限らず、元の事務所が目に見えない形で事務所を出たタレントに直接ではなくテレビ番組に出られないように「あの人を出すならうちの所属タレントをテレビに出さない」というような形でいやがらせをすることはまず間違いなくあったのではないかと思います。具体的な例については、今話題になっている島田紳助さんがプロデュースした「羞恥心」という男性3名のアイドルグループにおいて、一気の面では一番だった? とも思える野久保直樹さんだけを私たちはテレビで見ることはできないでいます。つるの剛士さんや上地雄輔さんは普通にテレビに出ているのにどうしてなのでしょう。

その理由は野久保直樹さんが勝手に自分のブログで渡辺プロダクションからの独立を一方的に宣言したことと関係があると言われていますが、それまでの芸能活動について、あまり所属プロダクションから良い待遇を受けられない中、なりふり構わず潜水の日本記録を作るなど体を張ってテレビに出ていく中で、あまり所属プロダクションからサポートを受けていなかったと感じていたからかも知れません。

何事も多くの人間の所属する所には派閥というものがあり、プロダクション上層部に可愛がられれば優先的にテレビに出してもらえることもあり、逆の立場にいる人間というのはそれこそ体を張ってでもチャンスを掴みたいと必死になるわけですが、その努力が報われた時にはきちんと面倒を見てあげるようにすれば、野久保直樹さんもいきなりの独立宣言など出すこともなかったのではないかと今になって考えたりするのです。

今回の吉本興業の騒動は、当然雑誌FRIDAYで指摘された反社会的勢力にいる人からお金をもらって飲み会に出たタレントに否があることに間違いはありません。しかし社長の会見を見ると、もし所属タレントの中でも上層部からあまり良く思われていない人にとっては、突然のタレントの契約解除という会社の発表には、明日は我が身であると思えてしまうような会社の勢力図というものを、これもまた一般の視聴者に広く伝えてしまったというところがあります。

ちなみに、私は吉本興業社長の会見を「AbemaTV」での生中継で見ていました。ネット中継では延長し放題なので、たとえ吉本興業がテレビ局に圧力を掛けて地上波での放送を差し止められたとしても、ネット中継や現場で会見の内容を録画してYou Tubeに流すというような事は止められません。

その後のワイドショーでも明らかに現吉本上層部寄りの論評をするメディアと、芸人側に立つメディアとの差が目立ちますが、これもいかに事務所が圧力を掛けたとしても、現場で起こった事が広くネットで見られるようになってくると、ごまかしというのはなかなか効きません。逆にそうした事をわかっている人が増えたことにより、本来もっと糾弾されるはずの宮迫博之・田村亮というタレントに対するバッシングが少なくなり(会見の内容が評価された部分はあるでしょう)、吉本興業および上層部と深い関係を持つタレントの方に関心が向くことになってしまいました。

今後はある程度は膠着状態が続く可能性もありますが、そもそもの吉本バッシングの原因である「反社会的勢力との交遊」という点がさらに白日の元にさらされる可能性もなくはありません。

現在の吉本興業は政府から事業をもらっている関係もあって、それまでの暴力団との関係を断ち切るために現会長・社長のような「師匠を持たないタレント」のはしりとなったダウンタウンのマネージャー出身の人物を登用し、それまでの会社としての暴力団との付き合いを断とうと努力してきたと思うのですが、逆に切られた方にしては、「この恨み晴らさでおくべきか」という気持ちを持ち続けている人がいるかも知れません。この辺については、吉本興業がどのように反社会的勢力との関係を断ってきたのかわからないのではっきりとしたことは言えませんが、今回FRIDAYに出たような写真はもっとあり、そこに写っている人物は、現在「男気」を見せている人であるかも知れません。

悪い奴がお金を目的にしないで脅すようなことがあれば、お金や圧力を掛けての解決というのは期待できませんし、少なくともそうした吉本興業が表ざたにしたくない写真があったとしても、近いうちに一般のメディアに向けて流される可能性もあると見ます。そうした事に心当たりがある場合は、タレントも事務所も、正直に話をしてきちんと釈明をするということを徹底しないと、さらにとんでもない事になる場合も出てきます。

ただ、そうした最悪のシナリオは政治家が介入して納めるという手段もあるのですが、それも必ずしも吉本興業が思う通りに解決できるかどうかはわかりません。そもそもイメージがそこまで良くない吉本興業のために動く政治家が出てきたとしても対応を誤れば、自分の政治生命にも影響が出るかも知れないわけですから。

今回の騒動は、古い体質の芸能事務所が今まで好きなようにタレントを使って設けてきたツケが出てきたと個人的には考えています。きちんとツケを払い、謝るべきところはきちんと謝った上で再生への道を進んで欲しいと思っています。


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東京オリンピックでも「メダル至上主義」放送は続くのか

今回のNHK大河ドラマは途中で主人公が変わり、注目される種目も変わるというなじみのない展開になり、今回が阿部サダヲ演じる田畑政治氏がメインになって2回目の放送になりますが、まだ金栗四三氏の出番もあります。

ちなみに金栗四三氏はオリンピックのマラソンでは全くメダルには手が届かなかった選手で、そういう選手にスポットライトを当てたことで、いわゆる「勝利至上主義」をストレートに押してこないこれまでのドラマ展開をそのつもりで見ていたのですが、けたたましい調子でまくしたてる田畑氏の勢いそのまま、第二部は一気に「オリンピックは参加することに意義がある」ではなく、「オリンピックはメダルを獲ってこそ」という「メダル至上主義」の匂いを感じてしまった今回の放送でした。

今回のメインキャストははからずもアムステルダムオリンピックに日本女子選手として初めて参加し、金メダルを狙っていた100m走の準決勝で敗れたことで、一度も走ったことのない800m出場を役員に直訴し、何とか銀メダルを獲得して面目を施した(当時の期待された状況からするとドラマのようにそこまで手離しで喜べなかったと思うのですが)人見絹枝選手でした。

もちろん、女性の陸上競技の歴史の中では人見絹枝という存在は注目に値するでしょうが、あれほど日本のマラソンのために尽力した金栗四三氏が人見絹枝氏の結果だけを見て喜ぶシーンだけしか出さず、マラソン競技について全く触れなかったのはどう考えてもおかしな事です。落語のシーンをカットしても40キロ付近までトップで通過し、結果四位入賞した山田兼松選手の名前とそのレースの再現は入れないと、何でいままで金栗四三氏をメインで出してきたのか? もしかしてドラマ制作側の意図としては金栗四三氏は「マラソンの先駆者」ではなく「女子陸上普及の立役者」として出したかったのか? という風にも思えてきてしまいます。

それにひきかえ、前回まで全くドラマ的には出てこなかった陸上の三段飛び金メダリストの織田幹雄氏、そして水泳でも唐突に「新人」として出現し、前回出た東大地下の温水プールでは全く練習していないような(前回の筋ではこのプールを作って練習したことで日本の水泳チームが力を付けたように描かれていました)200m平泳ぎの金メダリスト鶴田義行氏はちゃっかりと出番がありました。

まさに、「メダリストはこれまでのストーリーとは無関係でもしっかり役者を付け名前を出すがメダルを取れなければストーリーに関係があっても名前すら出さない」という感じになってくるのです。

その予感が増大するのが、当時まだ小学生だったと思われるベルリン・オリンピックの平泳ぎで金メダリストになる前畑秀子選手が人見絹枝選手に続く日本人女子アスリートの象徴として出てきたことです。前畑選手を出した以上、戦前のベルリン・オリンピックについて触れないわけにはいかないでしょうが、果たしてそこで、当時の日本陸上界にとって悲願であったマラソン金メダルと銅メダルを獲得した朝鮮半島半身のランナー孫基禎・南昇龍の両選手の事はどう扱うのか。また、後のオリンピックチャンピオンになるザトペック選手が陸上を始めるきっかけになったという5000mと10000mでフィンランドの3選手と互角に渡り合うも両方のレースで無念の四位となった村社講平選手は出てくるのか、次回に向けて大変に楽しみになってきました(^^;)。

個人的にはメダルだけに執着し、メダリストばかり注目する状況というのは良いとは思わず、逆に四位入賞者にシンパシーを感じてしまうことがあります。マラソンでは2大会連続四位に入った中山竹通選手の凄さが印象に残っていますし、同じく2大会連続四位ということでは冬季五輪スキーモーグルの上村愛子選手の頑張りはメダリストに全く引けを取りません。しかも上村選手の夫はトリノオリンピックスラロームで四位入賞を果たした皆川賢太郎選手であるというところにもぐっとくるものがあります。

今回の大河ドラマは多くの視聴者を東京オリンピックに向けて盛り上げるために企画されたものだということはわかって見ていますが、今回の内容はあまりにもメダル至上主義が過ぎているという印象でした。次回に向けていくらかの軌道修正があるのか、とにかく次回を楽しみにしておきます。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(26)NHK総合
7/7 (日) 20:00 ~ 20:45 (45分)
【出演】
阿部サダヲ,中村勘九郎,桐谷健太,斎藤工,三浦貴大,大東駿介,上白石萌歌,柄本佑,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,じろう,永山絢斗,菅原小春,根岸季衣,萩原健一ほか
【作】
宮藤官九郎

(番組内容)

アムステルダム五輪が迫り、体協が相変わらず資金難に苦しむ中、田畑政治(阿部サダヲ)は記者人脈を活かし、政界の大物、大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)に選手派遣のための資金援助を直談判。本大会では女子陸上が正式種目に。国内予選を席巻した人見絹枝(菅原小春)はプレッシャーに押しつぶされ、期待された100mで惨敗。このままでは日本の女子スポーツの未来が閉ざされるー。絹枝は未経験の800mへの挑戦を決意する。


サブチャンネルを有効活用しないNHKの姿勢はデジタル化に反するか

2019年の陸上の大きな大会が地上波のテレビ中継とのからみで連続してトラブルになっているように私には思えます。今回は2019年の6月29日と翌日の30日に起きたNHKが放送権を持っていると思われる陸上の日本選手権について思うところを書いていこうと思います。

6月29日は大阪で開かれた各国の首脳が集うG20の会合がありました。その模様を伝えるニュースをNHKでは放送していたのですが、16時からの放送開始時にはトランプ大統領のスピーチをLIVEでずっと流していて、一時はネットを含むどのメディアでも中継がされない状況になってしまいました。

Twitterなどの情報では、直接NHKに抗議の電話を掛け、デジタル放送に切り替わる時にそのメリットとして言われていた「サブチャンネル」での放送についても出来ないという話のみだったということです。

この「サブチャンネル」というのは、同じNHKのBSで大リーグ中継を見ている方にはおなじみかと思いますが、画質は落ちるもののデジタルの特性を生かしてメインチャンネルからは外れるもののメインチャンネルで放送を延長するのではなく、通常の番組はメインチャンネルで行ない、試合終了まではサブチャンネルで伝えることで、大リーグを見たい人も株価が気になる人も(中継終了予定時刻からの番組はニュースや株価を知らせる番組が多い)どちらの人も見たいテレビ番組を見ることができるという、テレビがデジタル化されて良くなったと思える部分です。

よく、民放の地上波についてはサブチャンネルでの放送を嫌がるという向きがある傾向があることが知られています。というのも、民放の経営というのはスポンサーからの広告料金でまかなわれているというところがあるので、スポーツ中継を延長する場合、サブチャンネルになってしまうとメインチャンネルでドラマを放送した場合、広告はメインチャンネルで流れる契約だろうと思うので、多くの人がサブチャンネルに回してしまってメインチャンネルで流すコマーシャルを見てくれなくなる可能性があります。

やはりスポンサーあっての民放ということになると、ドラマとスポーツの両方を流したいからといって安易にサブチャンネルを使うと現状では広告の契約上ややこしいことになるのかも知れません。しかし、こうしたことはスポーツ番組の直後に予定されている番組に広告を出しているスポンサーにとっては、現状でも予定していた時間に広告を流せないことになってしまうので、こうした突発的な状況に備えた契約をしているのなら、改めてサブチャンネルを使うことを前提とした契約というのも作ってもいいのではないかと思います。それくらいサブチャンネルが活用されていないということを感じてしまう中、今回のNHKもサブチャンネルを活用してくれませんでした。

少なくともNHKにはスポンサーはなく、サブチャンネルについても大リーグ中継ではやり慣れているため技術的な問題もないと思えます。また、地域的な災害が起こった場合にも、タイムテーブル通りの放送を続けながらサブチャンネルでニュースを流すということも過去にはあったと思います。

しかしながら、翌日の30日にも、二日連続で16時から開始予定の陸上の日本選手権が時間通りに始まりませんでした。この日はまたアメリカのトランプ大統領が韓国と北朝鮮の国境の板門店を訪れ、北朝鮮の金正恩氏との会合の模様を流し続けたために起こりました。結局15分遅れの16時15分から中継は始まりましたが、それまではいつ始まるかわからず、さらに状況の変化によっては「動きがあり次第お伝えします」というテロップが流れ、もし本当に何かあったら再度中継が中断されるのかと思いながら見ていましたが、こういう時にこそサブチャンネルを使ってスポーツ中継や突発的なニュースを流すことは技術的にもできたでしょう。

その後の事についてもきちんとここで記録しておきます。16時54分頃に少しの間ニュース画面に切り替わり、さらに16時56分から17時15分までまたニュース画面に強制的に切り替わり競技を見られなくなりました。女子5000mのレース中継はテレビではカットされたことはその後の中継でも直後に触れていません。ただ、個人的には前日のテレビ中継が中断した時の情報でネットによるライブ配信が復活しているということがあったので、YouTubeから日本陸連のチャンネルを見ることもできましたが、ここまでできるというのはそれなりにわかっていないとだめなので、多くの人は結果を気にしながらニュースを見ていたのではないかと思います。

今後「臨機応変にサブチャンネルを活用した放送」がNHKに出来ないというなら、サブチャンネルとは違いますが複数のスポーツを並列して生中継することができるネットのスポーツチャンネルに放映権を潔く譲るべきです。ネット中継なら天候の悪化で見られなくなるようなBSでよくある事も無くなりますし、何よりスポーツチャンネルなら突発的なニュースが入っても中継を中断されることもありません。そうした事が無理そうな、東京オリンピックの中継については、NHK・民放が共同でテレビ以外にもネット同時放送のシステムを作り伝えるような事でもしないと、今回の事とは比べ物にならない騒動が起こるのではないでしょうか。ただそれは、鳴り物入りで切り替えたデジタル放送の利便性を放棄した結果でもあります。4K8K放送を大々的にアピールするよりもサブチャンネルの有効活用ができなければ、テレビはますますその信頼性を失うのではないでしょうか。


「闇営業での反社会勢力との交友」をネタにしたバラエティがあった

吉本興業は所属タレント11人が闇営業で反社会勢力(振り込め詐欺のグループ?)から金銭をもらっていたことを理由にして活動を自粛させると発表しました。ちなみにワタナベエンターテインメント所属のタレント2人についても謹慎処分になったそうです。そうした事は過去に遡ると常態化していたのでは? と思われることもありますが、私が克明に覚えているのが、この件を題材にした「ドッキリ企画」を行なった番組があったことです。改めてその番組のデータを紹介しましょう。

(引用ここから)

(番組データ)
金曜★ロンドンハーツ 2時間スペシャル 予想外すぎ!涙と笑いの新作ドッキリSP テレビ朝日
2018/10/26 20:00 ~ 2018/10/26 21:48 (108分)
【出演者】ロンドンブーツ1号2号/志尊淳/カンニング竹山、くっきー(野性爆弾)、小宮浩信(三四郎)、コロコロチキチキペッパーズ、チョコレートプラネット、Niki、藤田ニコル、藤本敏史(FUJIWARA)、山崎弘也(アンタッチャブル)、渡辺直美、他 [50音順]

(番組内容)

ブレイク前から現在に至るまで渡辺直美を支えてきた、「ある男性」に感謝の気持ちを伝えるために、直美がサプライズドッキリ企画を。しかし、決行当日に思いもよらない展開に…。直美も涙してしまった波乱の結末とは!? そして、現代社会で重要視されるコンプライアンスをおとり捜査!! 闇営業、怪しい薬、反社会的勢力からどんなに甘い誘惑があっても断る事ができるか!?チョコプラやニコル、くっきーの新作ドッキリも!

(引用ここまで)

お笑いコンビのコロコロチキンペッパーズ(よしもとクリエイティブ・エージェンシー東京本部所属)の「ナダル」さんがドッキリのターゲットで、闇営業のお金につられてつい反社会勢力と思しき(これは番組の仕込んだもの)男性にとり入ってしまうナダルさんのモラルの無さを嘲笑気味に笑い飛ばした事を覚えています。

この頃からナダルさんは「人間性を疑われる」ようなキャラクターでブレイクした感があり、当時は笑って見ることもできたのですが、この番組の出演者の中には今回よしもとから発表があった謹慎処分を受けた人物が一人混ざっており、もし彼がこのドッキリのVTRを見て心から笑っていたとしたら、もはや自分のやっていることを棚に上げての人のダメさ加減を笑っていたことになります。

そもそもこんな「闇営業で反社会勢力の人間からお金を受け取るか」ということをドッキリのネタにするということは、もはや芸人たちは当り前にこうした誘惑を受け、今回処分を受けていない人であっても実は裏で同じような事をやっていると思われるような状況があるからなのではなかったのでしょうか。だからこそドッキリにもリアリティがあったと考えることもできるという風に考えが及んでいくと、当時のロンドンハーツのスタッフもちょっと暴走してしまったのでは? と思わざるを得ません。

テレビバラエティは多少暴走するくらいでないと面白くないという意見を持たれる方もいるのではないかと思います。ただ、今回の場合は具体的に「振り込め詐欺」を行ない善良な視聴者の懐からなけなしのお金をだまし取った人達からお金を受け取って自分の遊びや生活のために使っていたということになるわけなので、もはやタレント本人がどんなにお詫びしても許されない可能性があります。単に他人の悪口を言ったり放送禁止用語(実際は各放送局の定めた自粛すべき言葉のリストにある言葉)を連呼したり、全裸になったりする「暴走」の場合は時間とともにほとぼりが冷める事がありますが、詐欺被害者はそのタレントを見ただけで過去の過ちを思い出したりするかも知れないので、なかなか難しい部分があります。

今回の報道では主にタレント個人に対する処分ということだけですが、今回あえて過去に遡って特定の番組を紹介させていただくことで、番組の企画を考える中でも注意したいものが存在するということを紹介させていただきました。


「山谷」をバラエティで簡単に扱う人の根底にあるもの

現代の日本のテレビは様々な「コンプライアンス」にがんじがらめになっていて、昔のテレビと比べると明らかにテレビ制作者がやりたいことができないようになってきているということは当然あります。だからこそ、そんな制約の中で面白い番組を作っている人や番組は応援したいという風に思っているのですが、流石に今回の「山谷」に行くというのは反則ではないかと、見ていて違和感を覚えました。

ただ、このような「地域の有名人」に取材しその人の様子を笑うという番組はあり、最近は複数の番組でそうした事を毎回やっているような番組も存在します。昔の「天才たけしの元気が出るテレビ」(日本テレビ)や「さんまのからくりテレビ」(TBS系)では番組の方からの演出もあったのかも知れませんが、最近の番組ではそうした強烈なキャラクターをそのままカメラの前に出し、強烈な個性を持つ人を取り合っているような感じもあります。「月曜から夜ふかし」(日本テレビ)で注目されたキャラクターがなぜか「町のご意見番」として「バイキング」(フジテレビ)に出ていたりしているのも、そこまでテレビはキャラクター不足でなさそうなのにとも思ったりします。

今回、山谷にいる人の「あだ名」について調査するということで山谷の町や飲み屋に取材カメラが入ったわけですが、当然ながらまともにカメラの前に顔を出せるような人は少なく、露天市である「ドロボウ市」にいたってはそこに集まる人の顔を出すことはもちろん、場所の特定すらもコンプライアンスの関係でしませんでした。山谷に生きる人の事を楽しく番組出演者は見ていたような感じではあるのですが、そもそも山谷とはどんな街で、そこで生きる人はなぜ集まってきたのか? というような予備知識なしに単にその人個人のキャラクターを面白がるというのは、それこそ山谷地域に住んでいる小学生と同じレベルの興味の持ち方ではないかと思えます。

現在の山谷はもはや単なる日雇い労働者の街ではなく、生活保護を受けて生きる人の方が多くなっている「貧困」「高齢化」という正に未来の日本の一部はこうなってしまうのではないかと思われる様々な問題が渦巻いている街です。そうした街の歴史や内情を知っている人がテレビ視聴者に多くいるなら説明不要で一気に現場報告でもいいとは思うのですが、「山谷」という場所で取材するなら今回は「銀座のあだ名」は別の回に回して一回分濃密に山谷を紹介するような形でも良かったのかなと思いますね。

今後、単なる興味本位なだけで今後山谷や釜ヶ崎、寿町のようなところでロケをするような企画があったとして、番組を見た人にとっては残るのは大きな違和感と偏見だけで、それがまた街のイメージを悪くし、ひいてはそこに住む人の居住環境を悪くすることにテレビが一役買ってしまう事も十分に有りえます。全く山谷を知らない人にとっては、単に面白がって作ってしまったテレビの企画によってその人の考えが形作られてしまうわけで、その辺は十分考えてこうした対象と向き合っていただければと思います。

(番組データ)

親愛なる、あだな様【噂のあだ名を大調査~銀座高級クラブの世界~】テレビ東京
2019/06/18 00:12 ~ 2019/06/18 01:00 (48分)
【出演者】
山崎弘也(アンタッチャブル)
大久保佳代子(オアシズ)
向井康二(Snow Man/ジャニーズJr.)
福田典子(テレビ東京アナウンサー)
あだな調査隊

(番組内容)

【銀座の高級クラブ】 座っただけで3万5000円以上もかかる銀座の高級クラブ。それを支えるのが「ドンペリママ」「銀座の女王蜂」など強烈なあだなを持つママ達!さらに、そんな高級な場所に来るお客さんにもあだな調査をすると…「イヤホンマン」「銀座の先生」などクセが強すぎるキャラが続々!さらに伝説のスカウトマン「銀座の黒服王」にも密着調査。
【日本3大ドヤ街 山谷】 日雇い労働者の街として知られる山谷には、「キャッチボールおじさん」「お上手さん」「ニタリ」など、不可思議でワケありのあだな様だらけ!さらに「ドロボウ市」と呼ばれるディープスポットにも潜入。


生中継こそが「花」なのにその「花」を奪った奴らは誰だ?

お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さんと、女優の蒼井優さんが結婚したということが2019年6月5日の朝に唐突に発表され、山里さんが声の出演をしている日本テレビの「スッキリ」では「夜に記者会見をやるから詳細はそこで」と発言したことでその日の夜7時から行なわれるという記者会見にがぜん注目が集まることになりました。

山里さんはその会見の頭に、こうした場を作った理由というのは、FAXをマスコミに送り付けたり、唐突にブログやSNSで発表すると憶測を生むので、しっかりと伝えたいという事を言っていました。まさしく結婚したお二人にとってはこの場が晴れの舞台であり、今後披露宴を行なったとしてもそこまで注目されることはないだろうという中での会見は、当然リアルタイムで行なわれるだろうと思って、様々な会見を生中継することで定評があるAbemaTVを付けて待っていたところ、待てども待てども会見が中継されることはありませんでした。

7時からは地上波で流れた午後5時からのニュースの再放送をしていたと思ったら、しばらくして会見を伝えるAbemaTVのスタジオに切り替わったのですが、そこでもまだ会見の様子については一切伝えられず、いつから会見の様子を中継するのかも明らかにされませんでした。これはAbemaTVの失態か? と思ったらアナウンサーからここまで生中継がされない理由というのが発表されました。それは会見の一分前に発表された事だったそうですが、お二人の事務所のどちらの意向なのかはわかりませんが、会見開始から終了(お二人が会見場から姿を消すまで)の間は同時中継をしないようにだけではなく、会見で語られた内容を出すことも禁止されたという事でした。

そのため、AbemaTVの放送はしばらくアナウンサーの方々がどうでもいい話を数十分間もくどくどと垂れ流すことになり、中継を楽しみにしていた人を裏切るだけでなく、午後9時から放送される番組の出演者も黙って会見の中継録画映像を見ているだけだという、多くの人の予定を狂わせることになってしまったのでした。なぜこんな「報道管制」をおめでたい結婚報告の場で仕掛けるのでしょうか。

これは、情報をあくまでもコントロールし、ネットテレビには好きなようにはさせたくないという事務所側の意向なのかもしれません。そうとでも考えなければ、技術的にも、恐らく会見したお二人についても、会見の様子を生中継することについては大きな問題があるようには思えませんでした。なぜ強制的に「中継録画」を見させられなければならないのかという点において、ネット放送を含めたテレビが、その即時性を放棄した例として、後々にもその記録を残しておくべきだと思いました。

今回の事をおかしいと思わない人もいるかも知れませんが、こうした例はどうでしょう。もし、東京オリンピックのある競技において、一つの競技団体が「自分達の競技の中継は生中継はまかりならん」と一方的に宣言し、試合開始から試合が終わり、選手が会場から完全に退場するまで(つまり試合後のインタビューも含む)中継どころか試合内容の紹介や試合結果を一切報道することはまかりならんとマスコミに圧力を掛けたら、テレビで生中継を楽しみにしていた視聴者はどう思うでしょうか。今回の会見は正にそんな感じで行なわれ、後追い中継録画を見ながら決してスッキリしていなかった視聴者が多くいたのではないかと思います。

会見についての報道規制はお二人の罪ではないと信じたいですが、もしこうした事が事務所の独断で決められたのだとしたら、今後お二人の会見の裏で様々な憶測が流れることにもつながるかも知れず、この事が原因で騒動になった場合にどうするのかと本気で心配するところです。そんな憶測を生みたくないと思ってお二人は今回の会見を開いたのに、そこから何か変な流れになってしまったらと思うと、「人の幸せをダシに使って金もうけの種にしようとする奴」が一枚かんでいるのか? という風にも思えてしまいます。

こんな事が続けば、もはや芸能人は独自にネット中継をするなどしなければ生で気持ちを伝えることすらできなくなってしまいます。それは、もはやテレビではなくなってしまうので、テレビ業界についての危機にもつながるのではないかと本気で心配してしまった今回の会見録画中継でした。


震災<人災という現実を垣間見せてくれた2つの番組

テレビ局の編成が力を持つのは、まさに今回のNHKの夜の番組の並びを実現できるような選択ができるからだとしみじみ思いました。昨日、2019年6月3日の午後10時から放送された「逆転人生」から「事件の涙」という2つのドキュメンタリーをノンストップで続けられたことで、チャンネルを変えるタイミングを逸してそのまま見てしまったのですが、こういった意見の伝え方があるのかと感じることになったので、ここで改めてその内容について紹介させていただきたいと思います。

まず、「事件の涙」という番組は再放送で、本放送は2018年の5月に初回放送があったもので、初回放送を見た方からすると、単体で見た番組について消化不良な所もあったのではないかと考えられるような番組の構成だったように思います。

最初に「事件の涙」の方の番組内容を紹介すると、この番組自体は大きな事件のその後の関係者の「涙」に焦点を当てて取材する切ないドキュメンタリーなのですが、今回は雪印の食肉偽装(オーストラリア産の肉を和肉として出荷しようとした)を告発した「西宮冷蔵」の社長とその家族のその後にカメラを向けています。

この番組で改めて知った事に、社長の娘さんは衝動的にマンションの14階から飛び降りて命は取り留めたものの下半身不随になってしまっていたということがあります。正義の告発のはずが利用客には契約を打ち切られ、さらに当時の政府には告発をしたのに不正をしばらく黙認していたのではというイジメのような難癖を付けられ、倉庫への強制捜査を入れられるなど、内部告発について告発した側を守るどころか、何の配慮もない行政の理不尽さなどを前にして家族の事までケアできなかったと社長は自分を責め、取材当時には生活のほとんどを娘さんの介護にあてています。

会社を切りもりしていたのは父の想いを受けた息子さんで、必死の努力で何とか売上を最盛期の7割くらいまで回復させたものの、再び当時の大口の顧客から商品の偽装を持ちかけられ、その申し出を断ったところ他の得意先も契約を止めるという、正に日本の企業の底意地の悪さというのか、事無かれ主義というものの犠牲になり、倒産寸前のところまで追い込まれていることが紹介され、まさに倒産寸前の状況を紹介して番組は幕となりました。西宮冷蔵の今後には全く展望が見えないところまで追いこまれているわけですが、これが世の中の現実であることも確かです。

最近のドラマでは「半沢直樹」の大ヒットによる影響もあるのかも知れませんが、中小企業が大企業に対して真っ向から戦いを挑んで勝利する「下町ロケット」や、銀行員が会社の内部で行なわれる理不尽な動きに対して、その妨害にもめげずに自らの行動で状況を変えていくという「集団左遷!」などのドラマが人気になっています。そうしたスカッとするドラマを現実の世界でも行なわれているような形で紹介する番組が、直前に放送された「逆転人生」のようにも思うのですが、今回もやはり最後にはスカッとした結論を導き出すようないわゆるベタな展開になっていました。

別にこの番組で取り上げた岩手県陸前高田市の醤油を作る「株式会社八木澤商店」に罪があるわけではありません。むしろ、東日本大震災の影響で工場にあったもろみと微生物を全て津波で流されてしまったことで会社としてもう二度と震災前と同じ製品を作ることができないということを感じつつも会社を再建しようとする中で奇跡的に4kgだけ残ったもろみから過去と同じクオリティを持つ製品を作ることができた過程は十分感動的でした。

今回、なぜこの番組の後に西宮冷蔵の現在をレポートしたドキュメンタリーを直後にもってきたかということを考えると、あまりにも大きな二つの企業の襲われた災難の「差」というものが浮かび上がってくるのです。

八木澤商店が受けた試練である大きな地震と、それにともなった津波の被害というのは今さら言うまでもなく悲惨な結果を生み出し、多くの人命を奪っただけでなく原子力発電所を壊滅させ、今なおその影響で苦しんでいる人を生み出しています。その被害については大なり小なり違いはあれ、被害を受けた地域では全ての人や企業が同じように受けた災難でありました。それに対して西宮冷蔵が受けた災難というのは自然的な災害では全くなく、西宮冷蔵だけがピンポイントに受けてしまったその全てが「人災」とでも呼ぶべきものでした。顧客の大企業にとって都合の悪いことをしたものの、そのおかげで一般消費者が受ける影響を考えると、誰かがこうした告発者を守ってあげないといけない事例だったのではないでしょうか。

現在西宮冷蔵と同じように営業している同業他社がなぜ問題も起こさず営業を続けているのかということを考えると「決して内部告発などをせず、大人しく産地偽装を黙認していればいい」と考えて社会悪をそのままにしているところが生き残っているという風に少々いじわるに考えてしまうこともできると思います。もしかしたら現在日本の産業全体が低迷しているのは、こうした「正直者が馬鹿を見る」ような状況にあるのではないかという風にも考えられるので、この件についてはまずは西宮冷蔵を貶めた本当の悪はどこにあったかという検証をテレビは行なうべきでしょう。

あの悲惨な東日本大震災よりもひどく、長きにわたって絶望しか生み出さないものが「人災」だというのは本当に悲しいことですし、日本を再生するというのならこの象徴的な事件について、事件の被害者親族を執拗に追い詰めたり、芸能人の不倫事件で関係者のところにしつこく取材するよりも力を注いでいただきたいと思うのですが。

(番組データ その1)

逆転人生「復活!奇跡のしょうゆ 被災地の逆転劇」NHK総合
2019/06/03 22:00 ~ 2019/06/03 22:50 (50分)
【司会】山里亮太,杉浦友紀,
【ゲスト】しょうゆ会社社長…河野通洋,
【出演】村上弘明,秋元才加,しょうゆに詳しい専門家…高橋万太郎

(番組内容 その1)

東日本大震災で壊滅的被害を受けた陸前高田の老舗しょうゆ工場。200年受け継がれてきた“もろみ”を使って醸すしょうゆは全国のファンに愛されていたが、その“もろみ”が津波で全て流され、元の味のしょうゆの製造は絶望的状況となる。しかしたった4キロ、研究用に保管されていた“もろみ”が発見された。しょうゆ会社社長の河野通洋さん(45)は、4億円を借金して工場再建を決意。元の味のしょうゆ復活に挑む。

(番組データ その2)

事件の涙 Human Crossroads選▽正義の告発 雪印食品牛肉偽装事件 NHK総合
2019/06/03 22:50 ~ 2019/06/03 23:16 (26分)
【語り】吉田羊

(番組内容 その2)

2002年、大手食品会社の背信として、社会に衝撃を与えた「雪印食品牛肉偽装事件」。発覚のきっかけは「輸入牛肉を国内産と偽っている」と暴露した、「西宮冷蔵」社長・水谷洋一さんの内部告発だった。しかし、取り引き先は次々と去り、国からも処分を受け、経営危機に。経済的理由で高校進学をあきらめた娘は、心を病み、重い障害を負う。それでも水谷さんは、息子とともに会社を死守、「正義」を社会に問う。


地上波では流せないタイアップもネットでなら

2019年5月になり、NHKの朝ドラが新しいシリーズに変わったと思ったら、それまで鳴りを潜めていた日清食品が、前作の朝ドラ「まんぷく」を彷彿とさせ、さらにドラマに出演していた松坂慶子さんを出演させた、ドラマの中で流れてきそうだったコマーシャルを流しまくっています。それも「ビジネスチャンス」なのかも知れませんが、全国どこへ行っても映り、さらに多くの人が見ていることで注目される朝の連続テレビ小説を宣伝のために使った企業として、ドラマのアンチを中心にあまり良い気分でコマーシャルを見ている人は少ないのではないかと思うのですが、今回のケースは全く逆です。

テレビ朝日は、もはやタイアップの番組であることを隠しもしないで企業の宣伝をし、さらにそれなりに面白さも追求した「シルシルミシル」を放送していましたが、今回の「アメトーーク!」のセットを使って、番組のテイストを保ちながらしっかりとスポンサーの製品の宣伝をしてしまう今回の企画は十分に有りだと思うのは私だけではないでしょう。

今回の企画は、「アメトーーク!」の人気企画である「芸人ドラフト会議」のフォーマットを使い、缶酎ハイの種類を指名し合うのではなく、あくまで主役は「ストロングゼロ」で、その商品に何の「おつまみ」が合うのか? という事でどうでもいい議論をし、指名が競合したら本物のドラフト会議のように抽せんまでしていました。

今回の企画を「おつまみドラフト会議」にしたのは、ビールと比べて缶酎ハイに合うおつまみという風に考える人が少ないことで、居酒屋などでは「とりあえずビール」という風になってしまって缶酎ハイが売れない事も考えられます。スポンサーとしてはここで出てきた様々なおつまみを営業時に提案するなどして、ネットの動画を宣伝しながら相乗効果を出そうとしているようで、その動画を見てしまったのはそれこそスポンサーの思う壺であるとも言えるかも知れませんが、逆に決まったフォーマットさえあれば出演者にうまく宣伝をさせることでそれなりの効果を生み出すことができる好例になったのではないかと思えます。

改めて今回出演したパネラーの方々は、そつなく宣伝することのできる人を揃えたと思いますが、このような露骨な宣伝番組に出ることを良く思わない人もいるのかも知れません。しかしながら、売れてお金持ちになるという道には、しっかりとスポンサーを得て適切にその内容を紹介できるスキルが無いとだめという考え方もあります。できればスポンサー側としてはこの「芸人ドラフト会議」の企画を番組内でプレゼンした有吉弘行氏をオファーしたいところだったでしょうが、それが大人の事情なのかどうかはわかりませんが、今回の出演はありませんでした。

今後こうしたネット専門のPR番組は増えていくのではないと思うのですが、テレビショッピングで良く見る芸人のような形でPR番組中心に活躍するような系統の芸人も生まれてくるのかも知れません。どちらにしても無料放送のテレビというものは、様々な人や物が値踏みされる「ショーケース」であるということは変わりはなく、特に民放はスポンサーからの広告料で運営されているのですから、大なり小なりスポンサーに配慮した行動をすることが活躍するための条件になる事は変わりません。

しかし、最初に書いたことの繰り返しになりますが、公共放送として特定の企業を利するような放送をしているNHKと企業がタイアップして認知度を上げ、販売戦略を繰り広げるのは大きなルール違反ではないかと思います。今回の番組を制作するにあたり、スポンサーのサントリーはそれなりの費用を掛けているわけですし、出演者もそのギャラに見合った商品の宣伝をすることを目的に番組内で踊っています。視聴者側は最初から宣伝番組だとわかっていても、よくあるテレビショッピングの番組とは違う「番組を見る楽しさ」というものを求めるところもあるでしょう。

今回は人気番組のコラボとして企画されたものなので、安心して面白く見ることができましたが、他の企業がこうした宣伝方法について力を入れるようになると、競争も激しくなるでしょう。しかし、企業にとっては商品が売れ、視聴者にとっては面白く動画を見られるこうした企画は面白いですし、もし今後このようなPR動画には高速クーポンを消費しないような仕組みができれば、今までYou Tubeだけを見ていた人も、面白い動画なら買う買わないは別にして多くの人が見てくれるようになる可能性はあります。高速クーポン云々を実現するには問題もあるでしょうが、こうした動画が増えること自体はいい事なのではないでしょうか。

(番組データ)

「ストロングゼロおつまみドラフト会議」テレ朝動画
配信期間:2019/5/24~
配信時間:28分
【MC】雨上がり決死隊/
【パネラー】ケンドーコバヤシ アンタッチャブル山崎 陣内智則 狩野英孝

(番組内容)

アメトーーク!ネットだけのスペシャル番組。
「芸人ドラフト会議」の特別版!
ストロングゼロと一緒に食べたい白熱の「おつまみ争奪戦」!!
唐揚げ?餃子?どうしても食べたいドラフト1位は何を指名?
競合したら激アツの抽選会!
狩野がなぜか爆笑のサプライズ指名も!


政治家の「モノマネ」が芸人にできない時代

今回の内容は、「アメトーーク!」としたらかなりゆるい内容で、出演した皆さんが全員サンドウィッチマンについては骨抜きになったような悪い事は一切言わない状況だったのであまり評価としては高くないかも知れませんが、そんな内容だからこそ垣間見えた点がありました。

ゲストが全員サンドウィッチマンの「イエスマン」だからこそ、サンドウィッチマンのお二人がなかなかテレビでは見ることのないいわゆる「楽屋裏」の写真やモノマネが出てきたのですが、今回は伊達みきおさんがそんな自身に甘い状況の中で披露した「安倍晋三(安倍首相)氏のモノマネ」について思うところを書いていきたいと思います。

まず、伊達みきおさんの安倍首相のモノマネはそれほどクオリティが高くなく(^^;)、さらに内容も「どんな事を聞かれてもアメリカ大統領のトランプ氏に電話して一致した」という事を話すというワンパターンのもので、テレビで何度も披露するものではないのではないかと思えます。しかし、この時の首相のモノマネというものをテレビで見る機会がほとんどなくなった今見ていると、そんなモノマネでも結構面白く、「全部トランプ氏に相談して決める」という行動を揶揄しているわけではないにしても、それ以外ネタがないので同じ事を何回も何回も繰り返しているうちに微妙な面白さというのが生まれてくるから不思議です。

過去には政治家を揶揄して笑いを取るというのは、古くは三木鶏郎氏のラジオ「冗談音楽」がありまして、NHKが政治ネタを笑いにすることを禁止されるようなこともあったのですが、その後は時の権力をやり込めるというよりも、単にものすごい個性のある政治家の姿を真似することで、そのデフォルメされた姿がより一層広まることもあり、政治に全く関心のない人でも加藤茶さんが真似をする田中角栄氏とは本当にそんな喋り方をする人なのかとつい国会中継を見てしまうというような事もあったと思います。寄席ではモノマネではなく「声態模写」の芸と言われた桜井長一郎さんが様々な声色を使って「一人国会中継」をやるのが演芸番組で放送されたりされたことで、日本の当時の政治家の方々を身近に感じられるようになったということもありました。そして、今から考えると田中角栄・大平正芳・三木武夫・福田赳夫といった元首相の面々が文句をテレビに言うこともなく「声帯模写」の芸を殺さないで放置していてくれた事も重要な点であったような気がします。

現在の政治家については、小泉純一郎さんや麻生太郎さんがモノマネをされていたことがありましたが、これはそれだけ個性の強い声をしている政治家であったことの裏返しで、かえってその人物の大きさを感じる事ができると思う方もいらっしゃるでしょう。その後、小堺一機さんと清水ミチコさんの鈴木宗男氏と田中真紀子氏との対決なんてネタもありましたが、You Tubeで検索しても消されているのか出て来ないのが悲しいところです。

恐らく、今後真面目に安倍首相の国会答弁をデフォルメして笑いに使おうと思った人がいたとしてもテレビ局側からNGが出るような気もしますし、すでに時の首相でお笑いなんてことがご法度になっているのかも知れませんが、だからこそこの番組で安倍首相のモノマネを何回も何回も強要させる姿というのは何とも言えない面白さがあったのだと思えます。恐らくあれだけ東北の復興に力を尽くしているサンドウィッチマンのお二人にテレビ局も政治家方面も、今回は特別だと思わせることができれば、改めて文句も出ないと思われます。

ただ、同じ事をテレビでやるというのはなかなか難しいでしょうね(^^)。それでも、私なども半は忘れ掛けていた芸人による政治家のモノマネで笑いを取る行為というものがまだテレビの裏側では生きていたということを確認できたということだけでも今回の番組は貴重なものを見たという感じにさせられて、見る機会があって良かったと心から思えるものでした。実際に伊達みきおさんの安倍晋三氏のモノマネが見たい方は、テレビには出ない劇場でリクエストされると、もうお腹いっぱいと思えるくらいやってくれるのではないでしょうか。

(番組データ)

アメトーーク! サンドウィッチマン大好き芸人
2019/05/16 23:20 ~ 2019/05/17 00:20 (60分)テレビ朝日
【MC】雨上がり決死隊
【ゲスト】サンドウィッチマン/中川家&ナイツ&狩野英孝&トミドコロ&口笛なるお

(番組内容)

▽サンドを知り尽くしたメンバー
▽中川家&ナイツ&狩野
▽大ファン剛の盗撮写真
▽塙&伊達…即興漫才
▽礼二がダメ出し
▽後輩が暴露
▽テレビでは見せないウラの顔&モノマネ


スポーツのライブ中継では何を伝えるべきなのか

2019年5月11日から12日の日程で行なわれた「世界リレー」を中継したのはTBSでしたが、TBSと陸上中継というとやはり俳優の織田裕二氏とフリーアナウンサーの中井美穂氏がメインキャスターとして伝えてきた「世界陸上」の恒例化があってこそのものだったでしょう。

今回の「世界リレー」とはその名前の通りリレーに特化した陸上の大会でありますが、日本チームも必ずしもベストメンバーを組んで出場していませんし(大会に出場していないサニブラウン・ハキーム選手は米国で100m9秒99を同時期に出してこちらの方が大きなニュースになりました)、今まで国際舞台の経験に乏しい若手に出場のチャンスを与えたり、男女混合種目など今までなかったような新しい種目を見せるということで色々と馴染みが薄い大会ではあったと思います。ただ、今回の大会が翌年の東京オリンピックを睨んでの日本開催だったということと、さらには男女二人ずつがそれぞれ400メートルを走るマイルリレーが東京オリンピックの新種目として採用されるということもあり、恐らく東京オリンピックの陸上競技と同じくらいの時刻に行なうこともあり、BSや地上波で生中継をするだけの意味を持つ大会とTBSが判断したであろうということは何となくわかったつもりになっていました。

しかし、それにしては今回の世界リレーの伝え方について、甚だ杜撰で結果が気になって見ている人からすると頭に来るような中継のやり方をしていたのです。実際に放送を見ていない方にもわかるように、私が見ていて気になった点を挙げてみます。

まず5月11日はBS-TBSで19時から20時50分まで大会前半部を放送し、その後地上波のTBS系列で20時50分から21時54分まで放送されました。恐らく大会のプログラムが予定時間より長引いてしまったのは、TBSにとっては大変な誤算だったでしょう。民放の場合はBS放送と地上波の移行にはコマーシャルやローカルニュースなど、番組の編成上、止めることのできない部分があるため、予定ではBSで中継できる種目がちゃんと終わってから日本期待の種目のある地上波放送へ移行するつもりだったことは想像に難くありません。

しかし、何が起こるかわからないのが生中継の醍醐味でもあり恐さでもあります。あろうことか、11日にあったリレーの決勝種目で、世界リレーならではの種目である男女2人が400mを2回ずつ走る男女混合2x2x400mリレーにおいて、日本チームはメダルを狙える好位置に付けてアンカーにリレーした時点でBSの放送時間が終了してしまったのでした。

普通に考えるとNHKの高校野球中継のようにザッピングしているうちにすぐに続きの中継が見られるように何故できないのかと思ってしまう方もいるかも知れませんが、TBSに限らず民放はスポンサーとの関係もありますし、ニュースも定時に伝えなければならないのでそんなにすぐに切り替えて中継はできないのです。ただ、TBS側が色気を出して世界リレーの中継を全てBS-TBSだけでなく地上波でも行なおうとしたことは裏目に出てしまったと言えます。もし11日の全てのレースをBSで中継していたら、ここから書くようなひどい事にはならず、この稿を書くこともなかったはずです。

地上波でのTBSは、放送が進まってもBSを今まで見ていて早くリレーの結果が知りたい人は全く関係ないとばかり、放送後しばらくして始まる日本陸上チームにとって一番メダル獲得に近い種目である男子100m×4リレーについてのVTR煽りと、織田・中井両氏の男子400mリレーについての期待のコメントを流すだけで、それまでのレースについて全くコメントも字幕伝達もありませんでした。

結局、その後もBSで中断したレースの結果は全く伝えないまま中継が進んでしまったのですが、地上波を見ている人にはそれで良くても、BSから地上波に追ってきた視聴者の事を無視する姿勢を露骨に感じざるを得ませんでした。実際に中継を途中で打ち切られたリレーに出たクレイアーロン竜浪(男子)、塩見綾乃(女子)の両選手からしたら、必死になって走り(わずかなインターバルで400mを2回走る大変さがあります)、しかも他チーム失格によって銅メダルを獲得したにも関わらず全く織田・中井の両名が伝えず、インタビューも取らないと言うのは、スタッフ及びキャスター二人が無名選手は相手にしないような事をしているのではないか? という視聴者側の疑念を生じさせるには十分な状況でした。

実際にメインキャスターのお二人はテレビの中でしか見ていないので断定することはできませんし、スタッフの責任をキャスターがかぶってしまっているかも知れません。しかしこうした事実の積み重ねが「TBS陸上中継のスタッフとキャスター陣との間に不協和音が?」というような憶測を生んだりするのです。テレビを生中継するなら少しでも見ている側に疑念を生じさせないようなフォローをするために、何らかの対応を中継現場にいたスタッフがするべきだったのではないかと個人的には思うのですか。

世界リレー第一日の11日の中継は、さらに放送時間内で最後のレース結果を伝えることができず、次番組の「新・情報7DAYS ニュースキャスター」内で結果を伝えるということでしたが、同じTBSの番組なのになかなかレースのVTRが届かず、10分あまり司会の安住紳一郎アナウンサーと出演のビートたけしさんのフリートークで繋ぐのみでした。直前レースの結果だけでも字幕で出してくれたらいいのに(野球中継ではよく使われる方法です)と思いつつも、たけしさんがバトンがうまく受け取れずに予選敗退した男子400mリレーについて愚痴のようなコメントを発するなど、「世界リレー」中継のネット炎上に一役買う始末でした。当然先の男女混合2x2x400mリレーのVTRも流さず結果も報告せず、これでは情報番組としての存在価値を発揮できていないので、今後は単なるお笑いバラエティとして(例えばフジテレビの「全力!脱力タイムス」のような)見た方がいいのではないか? とすら思えてしまいます。

中継のトラブルはこれだけだと思っていたのですが、何と翌日にもスタッフとキャスターとの連絡が付かずにみっともない状況になってしまった所がありました。それは、普段の大会ではこれもなかなか見ることができない200mを4人の走者がリレーする女子4×200mリレーにおいて、きちんと画面表示ではアメリカが失格したことで4位入賞になったのですが(ジャマイカはバトンの受け渡しでもたついたものの失格にはならず3位)、どうやらその情報がメインキャスターの織田氏、中井氏の元には伝わっていなかったようで、「日本は5位」だとか「ジャマイカは失格ではないか?」とかいうコメントを発するに至り、すでに画面で最終結果を知っていて中継を見ている私としては、「この人たちはまさかギャグで言っているのか?」と思ってしまったくらいです

もしこれらのやり取りが単なる伝達ミスだったとしたら、視聴者に情報を見せる前にキャスターにしっかりと結果を伝達すべきではないか? と思えるような不手際ということになるでしょう。この様子を裏読みすると、もはや織田・中井両氏からするとスタッフに恥をかかされたと思っても可怪しくなく、本当に「TBSスタッフとメインキャスターとの間には不協和音が生じているのではないか」と思わせてしまう中継となってしまいました。

少なくともライブでスポーツをテレビ中継する場合には、きちんと結果を伝えることが大事で、そのためには裏方とキャスターの息がぴったりと合っていないといけませんし、レース後の感動の瞬間を捉えるためには、レース直後に選手の元に駆けつけ、興奮が冷めない中でコメントを生で伝える努力が大切になるのではないでしょうか。この点で言えば先述の女子4×200mリレーせっかく日本新記録を出したのに、生中継の中で全くインタビューも取らず、これも期待種目・期待選手以外はどうでもいいと思っていて、早く次の番組である福山雅治主演の「集団左遷!」に繋ぐことばかり現場のスタッフは考えていたのではないかと下衆の勘繰りをしたくなってしまうのです。

たとえ人気のない種目・選手の出る競技であってもきちんと伝え続けることで、今やそのソフトが大化けして多くの視聴者を引き付ける「卓球」を長年手掛けてきた「テレビ東京」とTBSとの違いを感じるとともに、今まではテレビ中継を有難がっていた競技団体も、「延長中継あり受ち切りなし」のネットによるライブ配信サービスの方に鞍替えした方がコアなファンを繋ぎ止められるのではないかという気すらしてきました。例えばこのままDAZNが今より多くの日本国内で注目のスポーツ中継を扱いだしたら、正直テレビ自体の危機につながると思われますが、今だに今回のような不手際の多い内容の中継を行なっているテレビ局には全く危機感はないのでしょうか。