計算された「ヘンなもの」を見抜けなかった?「ナニコレ珍百景」

今回紹介する2019年11月3日に放送された「ナニコレ珍百景」において、個人的な感想ではありますが、珍百景でも何でもないと思った投稿が珍百景として認定されました。この番組は過去にも書きましたが、街の中で埋もれた生活の面白さをあぶり出すものとして、極めて学術的であるという風に思っていたのですが、それもきちんとしたものを放送しないと、極めて悪質で不確かな情報の無責任な発信にもつながりかねません。ここでは、なぜ私が「珍百景でも何でもない」と思ったのかということをしっかりと説明させていただこうかと思います。

まず、番組を見ていない人のために、何の投稿について書いているかということを明らかにするため、テレビ朝日の放送内容の個別紹介のページから、今回話題にしたい一件についての説明を紹介します(一部、デリケートな部分についてはこちらの判断で伏せ字にしています)

(引用ここから)

■入りづらいセクシーなパン屋さん(埼玉県さいたま市北区)
★珍百景登録★
投稿:T.R.さん
ピンク色の外観に「○○」「△△」(注・この部分だけでも店舗を特定する材料になり有るので伏せ字化させていただきました)などセクシーなことばが書かれた、店頭販売のみの高級食パン専門店「○○○○○」(注・この部分には実際の店舗名が書かれていました)。
販売しているのはプレーンな食パン「△△」と、1日限定20個のレーズン食パン「□□」の2種類。(注・同様に商品名についても伏せ字にしました)
少しでもお店に興味を持ってもらえるようにパン屋さんらしくない店構えにしたそう。

(引用ここまで)

この文章を書いている2019年の時点ではいわゆる「高級食パン」がブームであり、テレビ東京系で放送されている「ガイアの夜明け」の2019年5月7日放送分でも「膨らむ!”食パン”戦国時代」と題して、全国で増殖する食パン専門店の裏側を取材していました。そこで出てきたのが、全国で素人でもノウハウを覚えれば開業して人気店になることも夢ではないと、素人も参入する様々な食パン専門店をプロデュースする「ジャパン ベーカリー マーケティング(JBM)」の岸本拓也社長という方です。

この方のプロデュースするお店は奇抜な外装と紙袋の装飾、そして思わず二度見してしまうような店名で人をひきつけ、高級食パンのみを持ち帰り用のみで売るというところで共通しています。私が住んでいる地域にも岸本氏がプロデュースしたお店があり、連日行列ができているそうですが、今回「ナニコレ珍百景」で紹介されたお店も岸本氏がプロデュースしたお店なのでは? と思って調べてみたらまさにそうで、2019年10月にオープンした、番組放送時の氏のプロデュースしたお店としては一番新しいお店ではないか(「ジャパン ベーカリー マーケティング(JBM)」のホームページの一番新しい開店情報としてお店の名前が紹介されていたことから)と思えました。

個人的には停滞した地域経済を活性化するため、こうしたお店が全国でオープンすることに不快感をもらすなんて想いは全くなく、おいしい食パンとしていただけるならいい事だと思っていますが、それはあくまで口コミやSNSでの反響を意図してプロデュースされた仕組みの中での「ヘンな店名」であり、そこがプロデュースする際の肝になっています。その点においては他の岸本氏のプロデュースした全国にあまたあるお店と何ら違うことはなく、なぜこのお店だけがテレビに出て「珍百景に登録」されなければならないのか、理解に苦しみます。

ここで、改めて引用されたネット情報に注目してみると、この情報を番組に投稿したのはT.R.さんという匿名の人物で、果たしてこの人がお店の関係者であるのかないのかは視聴者レベルではわからず、番組内は岸本氏の存在も明らかにしなかったため、テレビ局もグルになってお店の宣伝をしたのではないか? という疑念が生まれたというわけです。

もしこの番組が「ナニコレ珍百景」でなく、かの上岡龍太郎氏が出演していた当時の「探偵ナイトスクープ」だったらどうなっていたでしょうか。上岡氏はきちんとスタッフや担当の探偵に厳しい発言をしたはずです。少なくとも「ナニコレ?」と思ったものについてその理由も紹介するのが「ナニコレ珍百景」という番組の命だと思うのですが、このネタに限ってはそうした調査をした感じは画面から感じることはできず、そこにテレビ局と業者との癒着があったのではないのかなどという、実際にはそうした事が行なわれていなかったとしても、ある種の「疑惑」が生まれてしまうのです。

というか、私自身も今回の事例がテレビで出る中で、岸本氏のプロデュースしたお店ではないかと思ったのは単に「ガイアの夜明け」で見たことがあったからという理由だけで、特別に勉強したわけでも何でもありません。同様にこの事を知っていて今回のVTRを作ったスタッフがいたのか? という事については、テレビ製作を生業にしている人がこうした事実を知らないでいたことはないと考える方が普通だろうと思うのですが、私の考え方がおかしいのでしょうか。

話はポンポン飛んで申し訳ないのですが、こんな時代だからこそ、「探偵ナイトスクープ」の局長にダウンタウンの松本人志さんが就任されるというニュースを聞き、少なくとも、局長に就任後、なあなあの姿勢でいい加減なVTRを作ったスタッフと出演者に対しては、それこそかつての上岡龍太郎局長のように、ビシッとした一言を決めて視聴者に納得させて欲しいと期待します。それが今回のような適当な番組作りをしている人にも響いてくるのではないかと思うからです。

(番組データ)

ナニコレ珍百景 近所の人が風呂に入りにくる家&怪獣が鳴き叫ぶ住宅街SP テレビ朝日
2019/11/03 18:30 ~ 2019/11/03 19:58 (88分)
【MC】名倉潤・堀内健(ネプチューン)
【珍定委員長】原田泰造(ネプチューン)
【進行】森葉子(テレビ朝日アナウンサー)
【珍定ゲスト】ビビる大木・川島海荷
【ナレーター】奥田民義・広居バン

(番組内容)

★長崎・雲仙…130年前から他人が風呂に入りにくる民家
▼名古屋…小さな象が踊るように歩く商店街
▼岐阜・瑞穂…超巨大スーパー
▼神奈川・川崎…夕方になると怪獣が鳴き叫ぶ住宅街
▼さいたま市…ピンクの外装&セクシー看板…入りづらいエッチな○○店に大行列
▼長野・大町…ラブレターを売る自動販売機
▼青森・十和田…個人特定の交通安全看板「中野渡さんスピード落として」の謎
▼名古屋…住宅街の家具店に売値35億円の置物の謎
▼岐阜・美濃加茂…道端に「タバコ」と書かれた謎の石碑【家族じまん珍百景】カワイイ動物&おもしろ家族が大集合
★広島・大竹…散歩中に決まった場所で高速回転する犬
▼三重・津…犬の足に現れるタモリさん?
▼兵庫・明石…お医者さんもビックリ!カエルの顔の動きを忠実にマネする25歳の美人姉vs川島海荷も挑戦
▼三重・松阪…20年前から建物の屋上にずっといる黒ネコ?その正体は?
▼名古屋…木の精?人の顔に見える木を発見


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東京オリンピックを外で見るためには事前対策が必要か

日本で開催された世界的なイベントの準決勝となれば、開催国の日本が出場しなくても大きな注目を浴びる試合であることに違いありません。試合の方は世界ランキング一位で今回の大会で三連覇を狙うニュージーランドに対する同世界二位のイングランドの気迫が上回ったという感じで、イングランドの快勝という結果になり大いに盛り上がったと思うのですが、事前に予定されていたデータに基づいた番組データのところを見ると、なぜだと問い掛けたい点が出てきます。

この試合の開始時間は17時で、前後半40分にハーフタイム10分という形で試合が行なわれます。試合途中にはビデオ判定をする場合や怪我をした選手が出た場合は審判が試合を止めますが、もし17時ちょうどに試合が始まった場合、18時44分までというタイムテーブルではロスタイムが全くなくても14分しか余裕がないことになって、試合終了までしっかり中継できなくなってしまうとも思われます。これでは、急遽BS1から地上波へと放送チャンネルを変更したということは評価できても、クレームの嵐がやってくる可能性も出てきます。

ただ、その点についてNHKでは対策を講じていて、総合チャンネルの18時44分からはサブチャンネルに中継を移行して19時まで放送しそこから定時のニュースにつなげるという方法で完全中継を実現しています。が、その画質はというとデジタルとは言え本放送の隙間を使うこともあっておせじにも綺麗とは言えません。この手法はメジャーリーグの延長放送ではおなじみの方法ですが、普段サブチャンネルを意識して見ることがない人にとっては自分でリモコン操作をしなければならないので、うまくチャンネルを変えられなかった方もいたのではないかとちょっと心配になります。

そして、今回のような世界的な大スポーツイベントの場合、自宅のテレビで見ないで外出先のスマホで見ていた人もいるかも知れません。試合時間も17時からということもあり、試合の様子をワンセグで見ていた人がいたとしたら、これはもう悲劇でしかありませんでした。

というのも、サブチャンネルが利用できるのはフルセグチューナーを搭載した機器だけで、家庭のテレビはフルセグ対応であるものの、スマホの中にはあえてフルセグチューナーを搭載せずワンセグチューナーしか付いていないスマホやガラケーでは、試合途中で中継が終了ということになってしまったということになります。

こうした国際的なスポーツイベントのクライマックスの試合で途中でフルセグ視聴前提のサブチャンネル放送を行なうということは、恐らく2020年の東京オリンピック中継でも同じことを行なおうと思っていると考えなければならないでしょう。ラグビーの試合は延長戦もなく、ある程度余裕を持った中継時間を確保すれば、長時間の中断のようなイレギュラーな事態が起こらなければ、まず問題なく試合をメインチャンネルだけで完全中継できると思います。東京オリンピックの種目にはそうはいかないものも多いため、たとえ日本選手が出場してメダルが決まるような試合であっても肝心なクライマックスをサブチャンネルに移動されて画質の悪さに幻滅したり、ワンセグしか写らない端末で中継が中断されて泣くに泣けないような状況というのも大いに考えられます。

それとも、ネットを通じてライブ配信を積極的に行なってくれるのかという考えがあるのかとも思えます。データ通信の場合、ご利用の通信会社との契約によっては動画を気軽に見られないこともありますが、それでも一定の安定した速度が出たらチューナーが付いていないiPhoneでもスポーツ中継を楽しめるので、このような中継手法をNHKが東京オリンピックでも行なうなら、一部のユーザーはさらにテレビから離れるきっかけを作ってしまう可能性すらあると思っています。

さらに、もし今回の試合に日本が出ていた場合、NHKは今回と同じように試合終盤になってサブチャンネルでのリレー中継を決断したか? という疑問もあります。日本戦の途中でサブチャンネルを見られなかった人が多数出たら、それ自体はNHKの失態ではないにしても、何らかの批判の声は高まることが考えられます。そうなると、それを回避するためにサブチャンネルに移行しないで放送し続けたかも知れません。しかし、東京オリンピックでは日本選手の出場する注目に値する試合が多くある中で、オリンピックもニュースも伝えたいということになると、どうしてもサブチャンネルを活用しなければならないことは必ずあるでしょう。

ユーザー側の対策としては、TVチューナー付きのスマホを購入する際にはワンセグ・フルセグの有無を確認して、できればフルセグチューナー付きの製品を選ぶとか、ネット配信で見られると思っている方は、改めて今のスマホのデータプランを動画がストレスなく長時間見られるものに変更するとか、いざ外で見ていたら肝心のメダルの瞬間を見られなくなる恐れを消すための工夫が必要になるでしょう。

(番組データ)

ラグビーワールドカップ2019 準決勝「イングランド」対「ニュージーランド」NHK総合
2019/10/26 (土) 16:40 ~ 18:44 (124分)
【解説】廣瀬俊朗,
【アナウンサー】伊藤慶太,
【スタジオ解説】五郎丸歩,
【スタジオアナウンサー】酒匂飛翔,中川安奈

(番組内容)

エディーHC率いるイングランド対3連覇を目指す王者ニュージーランドの戦い▽意地とプライドを賭けた激闘に注目!▽ゲスト五郎丸歩
(試合開始 17:00)
【解説】廣瀬俊朗,
【アナウンサー】伊藤慶太,
【スタジオ解説】五郎丸歩,
【スタジオアナウンサー】酒匂飛翔,中川安奈
~横浜国際総合競技場から中継~
<中断>ハーフタイムに [字]ニュース(約3分)
[6:44-(7:00)総合2で放送継続]


早速「シルシルミシル」化した「かりそめ天国」

もはやこのタイトルだけで説明不要かと思いますが、市販のパスタソースのベスト10を決める企画というのは本当に金曜夜8時からの視聴者層に合わせたプログラムで、いったいランキングインしたパスタソースを出している企業からテレビ局はいくらもらっているの? なんてことも疑ってかからなければならない番組に成り果てたという感じがしますね。

深夜の時には実際に出店している食事のできるお店のランキングを作り、その中に完全に取材NGで店名すら出ないところもあり、その点は嘘がないランキングでしたが、手法は同じでもその本気度を疑うような内容に変わり果ててしまいました。

このままだと同じマツコさんが出演する「マツコの知らない世界」のように、スーパーや各種小売店の棚に「かりそめ天国で紹介!!」なんて風にポップが付いて販売促進の材料にされることになります。こういう手法というのは本当に危ない傾向で、もし事前に特定の企業に忖度して順位を決めていて、MCの2人がその製品を台本上で褒めなければならないというような噂が出たとしたら、番組は「発掘あるある大辞典」のような運命をたどる可能性も考えられます。

もしかしたら番組MCのお二人も、ゴールデン昇格の話があった時点から今回のような番組の構成になることを予想し、いいペースで自分の出演する番組を絞っていこうかと思って、こうした状況になっていることをわかってカメラの前で踊っているのかも知れませんが、このままこんなネオ企業宣伝番組になるなら、やはり「ゴールデン昇格は番組の墓場」という流れにこの番組も乗ってしまうのかと思ってしまいますね。

それにしても、表題にした「シルシルミシル」がゴールデンに昇格したのに合わせて放送時間を移動したのがこの番組の前番組である「マツコ&有吉の怒り新党」だったそうで、テレビ朝日はなぜまた同じ事を繰り返すのかという感じがあります。現在の水曜の報道ステーションの後番組は「家事ヤロウ!!!」(バカリズム・中丸雄一・カズレーザー出演のバラエティ)ですが、この番組も人気が出てきてゴールデンに昇格すれば今の内容よりもいかに家事に関連するグッズをランキング化してその商品を売らんがための番組に変わっていくだろうなんて思うと、もはや深夜番組の時点にも関わらず、今後の展開を期待して見られなくなってしまいます。

民放は企業からのコマーシャルがなければやっていけないのは重々承知ですが、新聞でさえ広告のページには「全面広告」という文字が載って通常の紙面とは区別しているのに、シルシルミシルにしろかりそめ天国にしろ、バラエティと広告の境目がわからなくなるような番組の作り方にするなら、いっそのこと「全部広告」の内容でMCの二人から褒め殺しされるような番組にした方が、バカバカしくて笑えるのではないかと本気で思います。

そういう意味では、深夜や午前中枠のテレビショッピングをいかに面白く作るかということを考えておられる番組制作者の方に私はこれからのテレビの可能性を感じます。こういった番組の変化を見てテレビそのものに愛想をつかす人が出てきたとしたら、それはこうした番組を作る決断をしたテレビ局が自分で自分の首を締めていると言っても過言ではありません。このままでいいのか? という根本的な問い掛けを改めてこの番組には申し上げたいです。

(番組データ)

マツコ&有吉 かりそめ天国 テレビ朝日
10/25 (金) 20:00 ~ 21:00 (60分)
【MC】マツコ・デラックス、有吉弘行
【進行】久保田直子(テレビ朝日アナウンサー)
【VTR出演】岡部大(ハナコ)、後藤拓実(四千頭身)

(番組内容)

◇マツコ、スマホのキャッシュレス決済に苦悩!
◇「ガチガチランキング」はいま絶対食べるべきパスタソース編! 約1000種のパスタソースからベスト10が決定!

「子供の習い事、何がベスト?」 マツコ有吉、親主導の習い事に苦言…教育論を語る! 「クーポンやポイントカード、使うのがちょっとはずかしい…」 マツコ、スマホのキャッシュレス決済に苦悩! VTRは「ガチガチランキング いま絶対食べるべきパスタソース編」 マツコ有吉も絶賛! 約1000種の中から、有識者が癒着・忖度なし、ガチで選んだパスタソースベスト10が今夜決定!

視聴者から寄せられた『お悩みメール』や『お怒りメール』、視聴者の皆さんの「こんなことやってみたい、見てみたい!」という“欲望”を叶えるVTRをもとに、マツコ・デラックスと有吉弘行が好き勝手にトークするバラエティ番組!進行は久保田直子アナウンサー。


ジャニーズ事務所から出たことの「逆転人生」は?

SMAPの元メンバーでジャニーズ事務所を出所して元マネージャーの会社で芸能活動を続ける3人について、見事に今の地上波テレビではなかなか出てこないiのは、何かのテレビでは見えない力が働いていて、自由な芸能活動を妨げているのか? と思う今日このごろです。

この番組の前後、同じSMAP元メンバーではジャニーズ事務所に残った木村拓哉さんが主演のドラマ「グランメゾン東京」の番宣でテレビに出まくっていたのとは対照的にジャニーズ事務所を離れた元SMAPメンバーに番組出演のお呼びがかからないというのは、芸能界の掟とは言え誰か何か言ってもいいのではないかと、朝やお昼のワイドショーを見ながら期待していたのですが、今回芸能レポーターがその事をレポートする前に元SMAPの一人である草なぎ剛さんが地上波のテレビに登場するというので(テレビの仕事としては同じNHK総合で放送されている『ブラタモリ』でナレーションを継続していますが)、「これこそ本当の『逆転人生』だ」と思い、ついここで紹介する気になりました。

番組自体は草なぎ剛さんはゲストという扱いで、今回主人公の中国へ行って日本語を教えるカリスマ教師になった男性の人生を見ていき感想を述べていました。別にテレビでの露出度が減ったとは言っても元SMAPの3人は普通に芸能活動は続けられているわけですし、草なぎ剛さんは『ブラタモリ』の収録ではNHKのスタジオに通っていることは以前の変わらず続けられているので、見ていて何か特別なことはありませんでしたが、見ている方はやはり何かが違うと思いつつ番組の進行を見ていたということはあると思います。

そもそもNHKが、一つの壁というか苦難の時代を乗り越えて成果を挙げる人物を呼んでその事について掘り下げる「逆転人生」という番組に草なぎ剛という人物をゲスト出演させたということに、彼自身の逆転人生の足がかりになっていくのか? という風な興味で見てしまったのです。恐らく、草なぎ剛さんは同じアジアの隣国である韓国との関係でチョナン・カンとしての活動があったことからの抜擢なのかという感じもしますが、NHKとしてはキャスティングの英断であることは違いないでしょう。

今回の主人公、笈川幸司さんは元お笑い芸人で、全く売れなかったのですが、そこでがむしゃらに行なってきた経験が生き、まさかの中国での日本語教師の職を得ただけでなく2012年の日本バッシングの中国国内事情の中でもめげずにスピーチコンテストを開催して成功させたVTRを見て、最終的に草なぎさんは「諦めたところからまた出発する」ことの大切さをコメントしていたことが実に印象的でありました。

2019年10月現在は、元SMAPのメンバーの中では当然ながらジャニーズ事務所に残ったメンバー2人の露出が多くなっていますが、まだ彼らの人生は長く、その間に何が起こるかという事はまだわかりません。今回の番組のように、元SMAPのメンバーの中で非ジャニーズのメンバーが各々、テレビから全てパージを受けているわけでもない事を実際に番組に出演することで証明し、徐々にテレビ出演の実績を作っていくことによって今後の元SMAPのメンバーの状況も変わっていくでしょう。そういう意味では、今回の番組は「中国のカリスマ日本語教師」の逆転人生だけでなく、元SMAPの逆転人生のスタートを記録したものとして、ここで紹介させていただきました。

(番組データ)

逆転人生「中国のカリスマ日本語教師 涙の青春スピーチ」NHK総合
10/21 (月) 22:00 ~ 22:50 (50分)
【司会】山里亮太,杉浦友紀,
【ゲスト】教師…笈川幸司,
【出演】草ナギ剛,段文凝

(番組内容)

草ナギ剛と山里亮太が感動!中国のカリスマ日本語教師、激しい反日デモのさなかに起こした知られざる大逆転劇。日本語大会に集まった中国人たちの、涙の青春スピーチとは!?

草ナギ剛と山里亮太がスタジオで大感動!中国で大人気、名門の北京大学や清華大学で教べんをとるカリスマ日本語教師・笈川幸司さん(49)。実はかつて、売れないお笑い芸人だった!?尖閣諸島に端を発する激しい反日デモ。そのさなかに開催された、知られざる奇跡の日本語大会。集まった中国の若者たちの、涙の日本語メッセージを大公開!あのSMAP北京公演、舞台裏の感動秘話も熱く語った。話題の美人過ぎる中国語教師も登場!


ボーカロイド「美空ひばり」は実現するのか?

データを音声に変換する「ボーカロイド」を作ったYAMAHAの技術者が全面協力し、番組タイトルにあるようにAI(自工知能)の技術を使い、できるだけ自然な人間の声に近づけようとして人工的に作った、すでにこの世の人ではない「美空ひばり」の歌を再現することはできるのか? というのが番組の目的で、そのボーカロイドに歌わせるための新曲は秋元康氏が中心になってさらに新曲の詞も秋元氏が書くということで、この番組は成立しています。

さらに、NHKのスタジオで完成披露と番組のラストとして新曲を紹介した際に、動く「美空ひばり」をCGによるホログラムで再現しています。動きの参考として天童よしみさんに今回披露した新曲を歌ってもらい、その仕草をCG作成の参考にしていました。

番組は完成披露したことで終了してしまいましたが、肝心の令和初の美空ひばりの新曲というのはどんな風になっているのかと思ったら、亡くなった頃からの時間の経過とも関係あるのか、ひばりさんが生きている時には決して歌いそうもない曲調のもので、ただ詞は秋元康さんの作品らしく実にわかりやすいもので、曲の間に入った「語り」をそれらしく聞かせるためのYAMAHAの技術者の苦労というものも紹介されていました。

当然、今回新しく作られた曲は美空ひばりさんの持ち歌としてはカウントされませんし、今の状況ではAIを駆使して機械で美空ひばりさんの色を再現しても、上手なものまね芸人にも劣るレベルではあります。しかし、個人的には今回のような番組が作られたことで、さらなるボーカロイドの可能性が出てきたような気もするので、生身の人間の歌とは違ったボーカロイドAIを使った「美空ひばり」という新しい音色が一般的になればという期待を感じてしまったことも確かです。

今後、ひばりプロダクションが許すかどうかわかりませんが、ボーカロイドで歌う「初音ミク」のように「美空ひばり」バージョンの音源が市販され、誰でもネット上で著作権の切れた楽曲や自作の曲を美空ひばり風に表現できるようになると、これはこれでまた面白くなるような気がします。美空ひばりさんは単なる演歌歌手ではなくポップスやジャズも器用に歌いますし、その声質はきわめて日本的と言えるということから、日本発の新しい音楽が美空ひばりさんの声質で歌われた時、改めて彼女の過去の楽曲が注目されることになるでしょうし、同時にそこから派生した新しい音楽が生まれる可能性もあります。

音楽の面白いところは、事前にきちんと今回の番組のように準備されて多くの人の手がかかったから良い作品が生まれるということではないということがあります。美空ひばりさんの代表曲の中に「リンゴ追分」がありますが、この曲は単にラジオドラマを作る過程の中でやっつけ的に作ったものに過ぎず、歌詞の内容も「リンゴの花びらが月夜の風に散った」という単純なものです。その詞と曲に美空ひばりさんが魂を込めたことにより大ヒットしたのですから不思議です。そんな化学反応が、個人で細々と音楽を作っているクリエイターが美空ひばりさんの声でボーカロイドに歌わせることで起こったとしたらそれはそれで素晴しいことです。ボーカロイドの性能も今後より進化していくでしょうし、新しい技術を人の手が妨げることのないように、少なくともこの番組に関わった方は考えていただけると幸いです。

(番組データ)

2019/09/29 21:00 ~ 2019/09/29 21:50 (50分)NHK総合
NHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」
【出演】秋元康,天童よしみ,森英恵,
【語り】三浦大知

(番組内容)

昭和の歌姫・美空ひばりが“復活”。秋元康プロデュースの新曲をAIひばりが熱唱する。人工知能は人々の心を揺さぶる感動を生むのか?今夜、歌謡史の新たな扉が開く。

美空ひばりさんがこの世を去って30年。NHKやレコード会社に残る音源や映像をもとに、人工知能・AIでひばりを現代によみがえらせるプロジェクト。国内最高レベルの技術者がAIを開発。新曲の作詞は秋元康、衣装デザインは森英恵、振り付けは天童よしみという強力布陣。令和の時代に現れる“AIひばり”が歌うのは、これまでにない曲調の新曲。歌声や表現力はどこまで再現できるのか。あなたの目と耳で確かめてください。


結成30年の「渋さ知らズ」をテレビで見られる幸せ

知らない人は全く知らないものの、その存在を知っている人なら詳しく知っているバンドというのは、オリジナリティがあり長く続けている良質のバンドだと思うのですが、今回紹介する「渋さ知らズ」というバンド形態の集団のパフォーマンスを記録したのがこの番組でした。何と「渋さ知らズ」は結成30年が経ったということで、改めて衰えないパワーにその存在感の大きさを改めて感じました。

この番組は、CSでの放送なのですが、私は本放送を見ていません。どういう基準で選ばれたのかはわかりませんが、民放の見逃し配信をネットで一定期間見られるサービスの「TVer」で、しかも無料で見られるというのは本当に嬉しく、ネット配信では85分間だった箱根彫刻の森美術館でのライブに見入ってしまいました。

渋さ知らズの楽曲というのはほとんどが歌なしのもので、分かりやすく踊りやすいテーマをひとしきり流した後は、参加メンバーのソロ回しという、ちょっとジャズ的な展開になるので長尺の曲が多く、ロックフェスのようにずっと縦ノリの気分でという感じではありません。地上波のテレビで1コーラス流されて終わるヒットソングを聴き慣れている人からすると最初びっくりするもののだんだん退屈になり、そしてまた盛り上がるというような感じで曲が進んでいくのでかなり戸惑うことが多いのではないでしょうか。

さらに、渋さ知らズのメンバーは楽器を演奏する人だけでなく大きな人形を動かしたり自分の体を使ってパフォーマンスをしたりというような、様々な人がステージに入り乱れるように集まっています。初見ならまさに一昔前の「見せ物小屋」の中を覗くようなドキドキ感のある、今の日本のミュージックシーンでは珍しい音楽パフォーマンスではないかと個人的には思っています。

今回は音だけではなく、演奏場所となるテントを建てるところから、観客の様子にもカメラを向けながら、どのようにして渋さ知らズのパフォーマンスが作られ、どんな人が楽しんでいるのかということがわかるような構成になっていましたが、当然のごとくたまたま彫刻の森美術館に来館した人を除けば、結成30年ということで長年応援してきた年季の入ったファンの方々の姿が目立ちました。今回のテレビ放送が実現したのも、ある程度のコアなファンが番組を作っている側にもいるということになるのでしょうし、CSとはいえきちんとそのライブが放送され、その番組が一定の時期だけとは言え、ネット上から誰でも見られるような形でアップされていたというのは、渋さ知らズの音楽をもっと広く発信していきたいという志の表れという感じもしました。

私自身は結成当初から渋さ知らズの事は知っていて、番組では2体目のサキソフォンを吹く人形として登場した、メンバーの故・片山広明さん(ts)が登場したのには驚きとともにほろっとしました。本当はこの番組で吹きまくる片山さんの姿を見たかったと思うのは私だけではないでしょう。そうした想いを形にしたメンバーの表現というのは素晴らしいと思いますし、今後もこうしたパフォーマンスは続けて欲しいなと素直に思いました。

実際の演奏場面で印象に残ったのは、多分オリジナルのメンバーだと思われるギターの石渡明廣のソロでした。他の人々はホーンセクションが主だったので、立って勢いよく演奏するため目立つのですが、石渡さんはあえて立つこともせずに淡々と、でも熱いソロを延々と続ける姿に、こういう人もいて、ステージ前面で目立つ人もいて、渋さ知らズというユニットが成り立っているんだなと思い、機会を見付けてライブを見に行ってみたいものだと感じましたね(^^)。

ただこれはテレビの番組の中のライブだったので、掛け値なしのライブ感をそのまま感じることができたわけではありません。番組内でちょっと流れていた、林栄一さん作の「ナーダム」が流れていましたが、この曲は林さんのソロアルバムで聴いて以来の好きな曲なので、渋さ知らズの「ナーダム」もちゃんと聴きたかったなというところではあります。

そうは言ってもテレビというのはあくまで現実を写すショーウィンドウという側面があるので、この番組やTVerを見た人にとって、もし好運にも「渋さ知らズ」という人たちの事を知ってくれる人がいたとしたら、地上波のテレビでは収まらない音というものの存在を十分に感じさせたのではないかと思います。

もしこの文章を読んで「渋さ知らズ」というものに興味を持つ方がいましたら、同名でYou Tubeで検索をかければ、この番組よりも短いものの彼らのパフォーマンスを記録した動画をいくつも見付けられるでしょう。できれば、動画だけで満足せず、さらにはテレビのライブだけで良しとせずに、実際にライブパフォーマンスが近くで行なわれていたら、足を運んでみて下さい。

(番組データ)

渋さ知らズオーケストラ×彫刻の森美術館「箱根渋天幕芸術祭」フジテレビNEXT ライブ・プレミアム
2019/09/17 01:00 ~ 2019/09/17 02:30 (90分)

(番組内容)

彫刻の森美術館開館50周年を記念して開催された「箱根渋天幕芸術祭」。夕暮れのライブステージの模様をお届け
<収録>2019年8月24日(土)〜彫刻の森美術館


ナーバスな題材でも事実隠蔽は反発を招くだけ

このカテゴリーで前回書かせていただいた「ベルリンオリンピック陸上競技」の内容がドラマについにのってきました。前回のロサンゼルスオリンピックと比べるとベルリンオリンピックでは公式の記録映画が作られたこともあり、選手は吹き替えではなく一部本当の競技の内容を記録した映画のシーンを使っていました。

一部というのは実は、当時の機材では日没後に競技が延長されて続いた棒高跳びについては記録できなかったためで、映画や当番組で使われた日本の大江季雄、西田修平の跳躍については、翌日改めて競技の様子を映画用に録り直したものでありました。

ただ、前回の内容でちょっと触れましたが、やはりというかこの大河ドラマでは、メダル獲得者以外は興味がないようで、三段跳びの田島直人選手は出てきましたが、5千メートルと1万メートルでともに4位に入り、現地でも大人気だった村社講平選手の存在は全く出てきませんでした。

そして、ドラマのコンセプトであるマラソンについては、これも記録映画に残っているものをそのまま流し、金メダル孫基禎選手、銅メダル南昇龍選手のメダル獲得と、それまで日本マラソン界がなしえなかったオリンピックの金メダルと複数メダル獲得の快挙を伝えました。

番組の中では日本の放送席の隣に陣取っていた優勝候補のザバラ選手の母国であるアルゼンチンのクルーが、ザバラ選手の途中棄権がわかると、そのまま放送を終了して帰ってしまったことが出てきましたが、これは当時のNHKアナウンサーの証言そのものです。また、オリンピックのマラソン中継は、スタートの部分を実況したもののそこで放送は中断し、レースが終わってから改めて放送されたということも事実に即しています。当時の取材では全コースの模様をつぶさに実況できるような事はできなかったということで、恐らくドラマで表現されたような怒号のあとの歓喜というものは日本のあちこちで起こったものだと思われます。

マラソン金と銅の孫・南選手は当時は日韓併合の渦中にあった朝鮮半島出身のランナーで、いわゆる「金栗足袋」を履いての快挙であることも間違いありませんが、前回の放送から播磨屋の店頭に両選手が金栗足袋を履いていてオリンピック代表に決まったというくだりが実は正確ではありません。この点は日韓両国にとって実にナイーブな内容を含むのですが、今回の放送でメダルを取ったことがわかった後、一瞬「今回のメダル獲得は朝鮮半島出身ランナーの快挙で日本人選手ではない」ことに残念がる気分が広がったのですが、そうした当時の日本人の気分を忖度したのか、実は日本選手団が出発する時にもマラソン日本代表は決まっていない状態だったのです。

話はマラソン代表の選考会の時にまで遡るのですが、当時孫基禎選手は、以前から他の競技で活躍していた同じ朝鮮半島出身の先輩から、とんでもない情報を入手します。当時、選考会前に孫基禎選手は当時の世界新記録を出しており、マラソン代表は間違いなしと言われていました。朝鮮半島出身のランナーとしては今回紹介された南選手は実力的に孫選手に次ぐ力があっても、出場枠の3には入らず、当時の日本陸連は日本人選手2名を選ぶというのです。その話を逆手に取るような結果に選考会レースはなってしまうのですが、その結果は南選手が一位、孫選手が二位ということになってしまったのです。

普通に考えると世界記録を持っている孫選手を落とすことができず、さらに日本陸連のメンツにかけても朝鮮半島出身のランナーが代表で2名入ることは避けたいと思ったのかどうかはわかりませんが、ベルリンに派遣する選手は朝鮮半島の選手2名、日本選手2名とし、大会出場の3名はベルリン現地で行なう30キロの現地予選で決定するとしました。

こうした当時の日本陸連の選手選考における不可解さはそれこそ最近の日本のマラソン代表選考にも影響を及ぼしていたようにも思います。しかしドラマでは孫・南選手が大会に派遣される前から日本代表になっているかのような流れになっています。

この辺は2019年現在の日本と韓国との主に政府同士の関係の悪さもあり、史実をそのままドラマ化するよりもある程度フィクションを入れながら描いた方がいいという考えあってのことかも知れませんが、日本人が朝鮮半島出身のランナーに勝てないという状況の中で、露骨な日本人贔屓をした事実は事実として、それら多くの忖度による代表選考が続いたことの反省のもとで2020年東京オリンピック代表選考の一発選考「マラソン・グランド・チャンピオンシップ」が生まれたということもあるので、そうした背景とともに過去の歴史を学習する機会になれば良かったのではという気がしてしまうのです。

個人的には今回の内容自体がニュース配信され、さらなる日韓両国の関係悪化につながるような事にはなって欲しくないですね。まさか放送のあるタイミングで日本と韓国に関する騒動が加熱しているとは制作者側にとっては想定外だったかも知れませんが、この問題はシナリオを書く前から問題としては続いていたと思うので、今後に遺恨の種を残す可能性もある一連の放送ではなく、せめてドラマ終了後のミニコーナーの中ででも、きちんと日本側から見た当時の国内の状況をきちんと説明して欲しかったと思っています。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(35)「民族の祭典」NHK総合
2019/09/15 20:00 ~ 2019/09/15 20:45 (45分)
【出演】阿部サダヲ,中村勘九郎,上白石萌歌,柄本佑,杉咲花,仲野太賀,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,トータス松本,リリー・フランキー,三宅弘城,皆川猿時,塚本晋也,薬師丸ひろ子ほか
【作】宮藤官九郎

(番組内容)

ベルリンオリンピックはナチスが総力をあげ運営する大規模な大会となり、田畑(阿部サダヲ)を圧倒し当惑させる。IOC総会では治五郎(役所広司)が日本開催を訴える。

1936年夏。ベルリンで4年後の次回大会の開催地を決めるIOC総会が始まり、嘉納治五郎(役所広司)は「日本で平和の祭典を!」と熱く訴える。その直後に開幕したベルリンオリンピックは政権を握るナチスが総力をあげて運営する大規模な大会となり、田畑政治(阿部サダヲ)を圧倒し当惑させる。マラソンでは金栗四三(中村勘九郎)と同じハリマヤ足袋を履くランナーが出場。水泳では前畑秀子(上白石萌歌)のレースが迫る。


アスリートとメディアの関係を掘り下げないと何も変わらない

2019年9月15日に行なわれる、2020年東京オリンピックマラソン代表を決める一発勝負、マラソングランドチャンピオンシップについて生放送する中で、かつて一発選考とされていた日本陸連の選考基準が変えられたソウルオリンピック男子代表の選考についてのVTRによる解説がされたのですが、その内容に気にかかることがありました。

当時、代表有力だったダイエー所属の中山竹道選手がインタビューに答えた週刊誌の記事が画面に大写しなり、選考レースである福岡国際に怪我のため出場が不可能となった瀬古利彦選手に向かって「這ってでも出てこい」と中山選手が発言したかのような当時と同じ内容を報じていましたが、あれから相当の時間が経ち、当時の状況を当時者が説明した本も出版される中、この内容についてそのままVTRにしてしまうのはいかがなものなのかという気がしたのです。

というのも、私自身はその後の中山竹道氏へのインタビューを読んだのですが、その中で言った言葉は「這ってでも出てこい」ではなく「自分なら這ってでも出ますけどね」というニュアンスの違いが今となっては明らかな事実として認識されています。その発言には瀬古利彦選手への敵意はなく、あくまで自分の心情を述べているだけなのですが、当時のマスコミはこの週刊誌の内容に沿って中山選手のイメージを作ってしまったのです。

当時のマスコミは、いわゆる「空白の一日」事件で悪役となったプロ野球読売ジャイアンツの江川卓選手のように、それまでの経緯や直接発言した内容を捻じ曲げたり肝心な事を紹介しなかったりしてまで、テレビの視聴率を上げたり、雑誌の売り上げを伸ばそうとしたり、そんな時代背景の中マラソンに関する話題もヒートアップしていったのだろうと思います。しかし、あらゆる報道の裏側が明らかになった2019年の今、まだ中山竹道氏の発言についての裏取りをしないで週刊誌報道をそのままVTRにして出してしまうのか、本当に理解に苦しむとともに、この番組に関わった人の中には本気で陸上競技を愛している人がいないのではないかと思ってしまいました。

ただ、番組が生放送で、VTRの最中に抗議の電話が局に入ったのか入らなかったのか、その真偽はわかりませんが、VTRが終わった後にスタジオでの話になった際、MCの安住紳一郎アナウンサーが有森裕子さんに振るような形でその話を出し、「自分なら這ってでも……」という内容を紹介したにとどまりました。本当ならソウルオリンピックに出場した瀬古利彦選手と不可解な選考基準によって落選した工藤一彦氏とのVTR対面を間接的に演出するよりも、当時の記事を湾曲して週刊誌に掲載した責任者が中山竹道氏のところに行って直接謝罪させるくらいの方が良かったのではないかと思います。ちなみに、スタジオの後ろに設置されている過去の内容を写真とともに紹介したパネルには「瀬古、這ってでも福岡へ来い!」という文字が刻まれていました。これはあくまで個人的な印象ですが、上記のコメントは用意されたものでなく、前半の内容についての批判の声が入ったから急遽行なわれたものではないかと思えて仕方ありません。

いつの世も、売らんがなのために実際の取材内容と微妙にニュアンスを変えて報道するマスコミはいるものですが、今回のマラソングランドチャンピオンシップについても、事前・事後に何らかのマスコミが起因する問題が起こった場合、TBSはどのように報道するのかということまで考えてしまった今回の放送でした。

(番組データ)

マラソン・グランド・チャンピオンシップ 東京五輪代表を懸けた運命の決戦へ TBS
2019年9月11日(水) 20時00分~22時00分(120分)
MC:安住紳一郎、江藤愛 ゲスト:有森裕子、高橋尚子、原晋、土田晃之
ドラマ:徳重聡、三浦理恵子、武井壮、佐藤真弓、手塚とおる、嶋大輔

(番組内容)

順位なのか、タイムなのか、はたまた実績なのか…。選手も国民もスッキリしない、あいまいな選考システム。その裏には、誰も踏み込めないマラソン界のタブーが存在していた…。ソウル五輪代表選考で、あいまいな選考基準によって、代表の座を逃した悲運の男が生まれたた。この騒動は、日本マラソン界最大の事件として、これまで誰も触れることができなかったのだ。あれから32年、悲劇のランナーが、封印してきた禁断の選考問題を初告白。そして今回、瀬古が長年心にしまっていた思いを初めて彼に伝える。「人生を変えてしまって申し訳なかった…」その思いを聞いた男は…。


CBCテレビ「ゴゴスマ」問題の根底にあるもの

毎日の事件を報道し、番組に出演しているコメンテーターが私見を述べるというのがワイドショーの定番ですが、出演者同士のバトルが大きな騒動になることもままあります。お互いの主義主張が違う中で、放送時間が限られている中で討論するわけですから、時には声が大きくなり、相手を罵倒することもこれまでのテレビの歴史の中では何度も起こってきました。

そんな騒動を引き起こす原因の一つとして、実は主演者同士をまるで闘犬の犬のようにけしかけてハプニング的にバトルを大きくして番組を注目させたいという番組制作側の決して表面には出さない意図というものがあると思います。そうした意図を暗黙のうちに了承し、騒動にならない程度のバトルを繰り広げるある種の「安全なトラブルメーカー」がこうした番組では重宝される傾向があるのですね。それこそ、テレビ朝日の今も続く名物番組である「朝まで生テレビ」の創世記のメンバー、映画監督の大島渚氏などはそうしたテレビ制作側の意図を汲み取って視聴者が寝落ちするのを見計らうように「バカヤロー!」と叫んだりすることは、松尾貴史さんがギャグにしたりしていました。

いわゆる「ヘイトスピーチ」をテレビのコメンテーターが行なうことについてはここでは書きませんが、同じCBCテレビで平日お昼に放送されている「ゴゴスマ」の騒動の一つとなっている東海大学教授の金慶珠氏と、タレントの東国原英夫氏との番組内での言い争い以上の罵倒については、その言動を謝罪した東国原英夫氏の言い訳の中に、喜怒哀楽の激しいキャラクターを演じるタレントと、そうしたキャラクターを出演させることで番組の注目を集めたい番組制作側との蜜月さというのが謝罪の態度にも表われていたような気がしました。

というのは、東国原英夫氏は自身の発言について謝罪したものの、その中で一定の言い訳も付けてきたのです。あらかじめ共演者の顔ぶれがわかっていて、金慶珠氏と共演する予定であることがわかっていれば、決して出演しなかったと発言した点について、事前に番組スタッフから渡された資料に記された出演者一覧の文字が「小さすぎて読めない!」とハズキルーペのCMのような制作サイドへの責任転嫁のような主張をしてきたのです。

個人的にはこの言い訳については、東国原英夫氏の番組サイドへの不信感から出たものではないかと思えます。これは想像でしかありませんが、小さなトラブルを望んでいるところもあるかも知れない番組制作側が、騒動が大きくなり東国原氏およびCBCへの批判が大きくなってくると、手のひらを返すような対応を東国原英夫氏に行なってきたのではないかと考えると、ちくっと番組スタッフに対しての批判を入れながら謝罪を行なった東国原氏の気持ちも少しはわかる気がするのです。

ただ、そのような番組の裏の顔を垣間見せるような言動を、テレビに映っている中でしてしまう人というのは、テレビ制作の側からすると「使いずらい」というイメージが大きくなってしまいます。今後、東国原氏のタレントとしての活動がどうなるかはわかりませんが、今のようにテレビに毎日出てお金を稼ぎたいなら主義主張よりもしっかり反省した体を装った方がいいわけです。

逆に言うと、全く問題を起こさないで適度に言いたいことを言っているようなタレントや文化人というのは、ほとんどテレビ制作側の犬のように、まさに闘犬の犬のようにテレビ画面の中で動かされているという風に捉えた方がいいということでしょう。好き勝手をやっているようでいても決して暴言を吐かないあの人この人というのは多くの人の頭に浮かぶのではないかと思うのですが、そういった人の出演する番組というのは総じて内容が乏しいものだということを今回の騒動は教えてくれたように思います。


後からの言い訳は傷口を広げるだけか?

私のいる静岡県内では、東京で7月5日深夜(実際の放送時間は7月6日未明)に放送された今回紹介する「2019年上半期のTBS」という番組が8月4日の午後という変則的な時間に放送されたので、今さらという感じもする方もいるかも知れませんが、このブログでも触れさせていただいた「世界リレー」中継に関するTBSの見解について司会の安住紳一郎氏がコメントしましたので、今回はその内容についてのみになりますがコメントの内容を検証していきたいと思います。

この「世界リレー」についての中継におけるドタバタ劇については、以前にこのブログで紹介させていただきました。

スポーツのライブ中継では何を伝えるべきなのか

上のリンクの中で3つの問題だと思った点を指摘させていただきました。それは以下のような事です。

・その1
世界リレー初日の地上波の放送前にBSで競技内容が中継されていたものの放送時間が終わってしまって中継できなかったレースについて、地上波内ではキャスターを含め全く伝えなかったこと。

・その2
地上波の中継でも全レースを中継する事ができず、直後にある通常の生放送番組「新・情報7DAYS ニュースキャスター」でも、番組が始まってレースの内容を中継するのに10分くらい時間がかかり、結果が気になる視聴者は、安住紳一郎氏とビートたけし氏の雑談にしばし付き合わされたこと。

・その3
翌日の第二日の中継におけるレース結果について、字幕では正しい結果が発表されているのに、本来はその事をきちんと伝えるべきキャスター(織田裕二氏・中井美穂氏)の元には伝わっておらず、しばし推測と憶測を元にしてのコメントが続いたこと。

このうち、番組で安住紳一郎氏が弁解した点はご自身が携わった「その2」の部分のみで、会社として陸上についてはかなり長いこと「TBSの顔」となっているお二人の事については最後まで全く触れませんでした。この点については、番組の最後に安住氏は「責任は全て私にある」と言っていましたのでここで会社やメインキャスターの事を書いても仕方がないと思いますので、今回は直接ご自身の問題として弁解した「その2」についてその内容とそれに対するコメントをしていきたいと思います。

まず、安住氏はスタッフから、世界リレーについてはタイムテーブル通りに進まないという事が想定外で、さらに中継できなかった競技についても「結果のみを伝えれば良い」と言われていたことを明かしました。しかし、この状況でレースの内容を伝えることは大事だということもあり、急遽録画したレース内容を「新・情報7DAYS ニュースキャスター」で放送するためには、元々構想になかった事なので、すでにスポーツ中継のスタッフが保存していた動画データから問題となったレースのスタートからゴールまでの部分を切り出し、さらに放送できるように編集するために7分から8分の時間がかかってしまうので、それまでの時間をビートたけしさんとのおしゃべりでつないでいたという説明でした。

ただ、そうした言い訳をするなら、番組開始冒頭にそういう話をした方が印象が良かったのではないかと普通に思えるのですが。安住氏からすると、自分の番組にも予定があり、放送すべき内容を削ってまでレースの録画放送をすることでこれ以上自分ら番組に責任はないと放送時には思っていた感じもあります。

もちろん、元々はタイムテーブルを発表し、さらにテレビ中継のある中でどんどん予定時間を過ぎてしまう世界リレーの運営サイドの問題であるのに、たまたまスポーツ中継後の生放送を担当していたキャスターが責任を問われるというのは厳しい話です。しかしアナウンサーがテレビ局の顔である以上、局に対する批判を和らげるためにも、番組開始直後のコメントをもう少し考えて行なった方がここまでのTBSに対する非難は大きくならなかったのではないかという点を考えると、全く安住氏やビートたけし氏に責任はないのかというと、少し考えてしまいます。

そして、今回の放送を見て改めて、TBSアナウンサーのレベルでは「世界陸上」のような大きなイベントの動向について文句も言えないのではないかと番組を見た側としては考えざるを得ません。この番組のホームページでは「TBSへのご意見を募集中」という投稿リンクがありましたが、どちらにしてもメインキャスターにご退場いただいたり、番組における発言内容を考えてくれと意見しても聞く耳を持たないんでしょと思わざるを得ません。やはり、こうした何が起こるかわからないスポーツ中継はインターネットによるキャスター無しの同時中継を責任を持ってやってもらう方が、同じような弁解を何回も安住紳一郎氏にさせるよりも楽に責任逃れができるのではないかと個人的には思います。

(番組データ)

安住紳一郎と2019年上半期のTBS★安住紳一郎と「水ダウ」藤井健太郎初タッグ! TBS
2019/07/06 00:20 ~ 2019/07/06 01:20 (60分)

(番組内容)

TBSで今年の上半期に起きた様々な出来事を振り返り、ハードTVウォッチャーとしても知られる安住紳一郎が出演者として…またTBS社員として…独自の目線で徹底解説!

日曜早朝に放送している『TBSレビュー』(TBSおよび放送全般が抱える問題について幅広く取上げ検証していく番組)を思いっきり柔らかくした感じの自己批評風バラエティ。アナウンサー安住紳一郎が独自の目線でこの1月~6月のTBSを振り返り、ときに現場の舞台裏を語りつつ、後輩アナウンサーからの疑問や悩みにも向き合いながら、上半期を締めくくります。

【MC】安住紳一郎(TBSアナウンサー)
【出演】日比麻音子(TBSアナウンサー)、山形純菜(TBSアナウンサー)、宇賀神メグ(TBSアナウンサー)