サスペンスドラマに新技術と言えば聞こえはいいものの

以前、藤子不二雄Aさんが書いた「少年漫画」に関してのエッセイを読んだことがあり、その中で強く印象に残ったことがあります。今の漫画界は少年漫画も成年コミックも並列に語られることが多いですが、昔は漫画は子供が読むものとして読者層は総じて低年齢が多かったということがありました。

藤子不二雄さんの2人は「オバケのQ太郎」が大ヒットし、アニメ化される中、雑誌とテレビの勝手の違いに戸惑うことになります。視聴率的にはまだまだ十分な数字を叩き出していたにも関わらず、キャラクターを使ったお菓子の売り上げが落ちてきたという理由で、藤子さんは「オバQ」に変わる新しいキャラクターによってテコ入レをする必要に迫られたのです。そうして出てきたキャラクターが「パーマン」「怪物くん」「ウメ星デンカ」と続きますが、その後テレビアニメ界はいわゆる「スポ根」ものの雄である「巨人の星」に取って代わられて、藤子さんらはテレビの世界からいったん退場します。

その後、藤子さんら2人は活動の幅を広げ藤子・F・不二雄さんは「異色短編集」、藤子不二雄Aさんは「黒イせぇるすまん」」(後に「笑ウせぇるすまん」に改題)や「毛沢東伝」のような大人向け作品を描くようになり、仕事の幅を広げていきます。ただ、その頃からは藤子不二雄Aさんの記述によると日々の疲れがひどくなり何か調子の出ない日が続いたとのことでした。

そんな時、藤子不二雄さんの元に運命的な一通の手紙が届きます。その内容は当時小学館の学習雑誌に唯一月イチ連載していた「ドラえもん」に関するファンレターで、最後に藤子さんにとって痛烈な一言が書かれていたと言います。それは「なぜ先生は少年漫画を描かないのですか? もっとたくさんの藤子先生の漫画が読みたいです」というような内容のものだったと言います。

その時、藤子さんにはようやくそれまでの不調の原因がわかったのだそうです。心を動かされるような少年少女からの熱い手紙が届かなくなって久しい中、新しい漫画を描く活力が失なわれていたことに気付き、「ドラえもん」をはじめとした藤子作品を中心に据えた「コロコロコミック」で当時必ずしも少年読者向けのものでないものも混じっていた週刊漫画誌とは一線を画すコドモ向けの漫画に力を入れ出したということがあるのです。

こうして少年漫画と成年向け漫画の両方を描いてきてその違いについて、自分の漫画を熱烈に読んでくれるのは少年漫画の方だという結論の他、漫画の描き方にも大きな違いがあるということをエッセイの中で明かしています。何が違うかというと、少年漫画の方は熱烈にコマの中の細かい部分までしっかりと読み込む傾向があるので、成年漫画なら黒塗りでも済んでしまう車の裏側でもきちんと調べて細かく描きこむ必要があるので、同じ枚数を仕上げるにも成年漫画と比べて倍以上の時間と労力がかかるというのです。

現代と昔とは漫画を描く手段も違ってきているので一概に比較はできませんが、熱心に漫画を見ている人からすると、あからさまにコピー原稿を使い回していたり、背景などの省略が多い漫画についてはすぐに気付くことは間違いないでしょう。漫画家の中にはわざとそうした「手抜き」をギャグにしている人もいますが、逆に丁寧に描きこんでいることで出てくる魅力というものがあり、それが少年少女の心をうち、今だに人気が衰えないことにもつながっているのでしょう。

かなり前置きが長くなってしまいました(^^;)。ここまで私が書いたことは、テレビについても同じような事が言えるのではないかと思えます。よくテレビと映画との違いということを考える時、一番の違いはその予算だと思います。予算の差を埋めるためにテレビは様々な工夫をするわけですが、今回見た「越後純情刑事 早乙女真子」というどらまでは、私の勘違いであればいいのですが、一部のシーンでロケに出ないで俳優と背景をクロマキー合成したのではないか? というようなシーンがありました。こうした処理というのはテレビドラマではしばしば使われ、特に列車や自動車運転のシーンの窓の外の風景というのはなかなか合成しなくてはできない部分であることは十分に理解できます。

しかし、外のシーンでクロマキー合成のようなシーンが出てくると、天候の影響でロケができなかったのか? と思う以前にやはり本放送が土曜夜から日曜朝になり相当制作費も削減されているんだろうなと思うと同時に、今後もお金が掛けられないなら映像的な見どころも減るんだろうと思ってドラマ自体を見なくなるという人も出てくるのではないかと思ってしまうのです。

今の時代は市販されている一眼レフカメラでもテレビドラマを作ることができるくらいのクオリティがあります。もしかしたらそうした機材を使ってアマチュアがネットに投稿した連続ドラマの方が、時間とお金の制約がなく作り手が作り上げられる分面白くなるのではないかとも思えます。そうなれば現在のような「ユーチューバー」による面白動画だけでなく、ドラマの世界においてもテレビ局の存在が失なわれていくのではないかというような事を考えてしまうのは先走り過ぎるでしょうか。

そういう意味では、ナイトドラマのようなあえて低予算で作るようなドラマでは仕方ないにしても、昔から多くの目の超えた視聴者のいるサスペンスドラマについては、細かい所で見ている人に指摘されるようなことのないきちんと作りこんだドラマで勝負して欲しいと思う今日このごろです。

(番組データ)

日曜ワイド「越後純情刑事 早乙女真子」テレビ朝日
1/28 (日) 10:00 ~ 11:50 (110分)
【出演】比嘉愛未、宇梶剛士、近江谷太朗、渋谷謙人、松田悟志、濱田和馬、伊藤貴璃、遠山俊也、仲野元子、朝加真由美
【脚本】吉本昌弘
【監督】坂本栄隆

(番組内容)

長岡中央署刑事・早乙女真子(比嘉愛未)は中学生のときに両親を事故で失ってから、警察庁刑事局長の伯父・実(宇梶剛士)が親代わり。亡き母の故郷である長岡にやって来たのは、口うるさい実から逃げるためでもあった…。ある日、ショッピングモールに爆発物を仕掛けたという電話が署にかかってきた。

先輩刑事・鬼平貫一(近江谷太朗)から連絡を受け、後輩刑事の木下裕也(渋谷謙人)と共に現場に駆け付けた真子は、展示物に違和感を抱き、ぬいぐるみの一体に爆発物が仕込まれていることを見抜く。だが、爆発はとても小規模で、被害が出るようなものではなかった。


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