NHKが民放のプロデューサーやAbemaTVの仕掛人、タレントさんを集めて2017年のテレビについて語るトーク番組ですが、まず疑問に思ったのはNHKへの表立った批判が出てこなかったことです。これは、過去に聞いた話ですが全国放送でない地方局のトーク番組に知り合いで身体障害のある方が出演した際に、事前にあれやこれやの制約が多すぎて、自分が喋りたかったことについてはほとんど喋ることができなかったと憤懣やるかたない感じで話を聞いたことを思い出します。
地方でしか放送されないトーク番組でさえこれですから、今回の番組についても事前にきついお達しがあった事が想像されます。本気でテレビの行く末を心配するのなら、まずは1月2日の夜からやるなら生放送にして自局のテレビ離れの象徴とも言える「紅白歌合戦」についてのパネラーの意見を伺うようなことができないなら、少なくともNHK自体が何も変わらないということになってしまいます。また、生放送ならもしNHKからきついお達しが出ていたとしても、後で怒られることを覚悟した人がいれば、かなりの本音を吐ける訳で、それだけでも番組は数倍面白くなったと思います。というわけで、今回の番組にある程度の制約があると仮定した中で、番組で話された内容について、気付いたことを書いていこうと思います。
まず出てきたのは「視聴率以外に番組を評価する別の指標はないのか?」という話です。私の家にはもちろん視聴率を計る機械が付けられたことはありませんが、もしそうしたお宅があったらテレビを付けてさえいれば、その前で居眠りしていようとネコがリモコンのスイッチを押してしまっても視聴率の数字としてカウントされてしまいます。
最近ではリアルタイムで見ないで録画したものを見る人や、ネットの見逃し配信で見るようなケースも有るのですが、一般的に若い人ほどリアルタイムでの視聴にこだわらないような感じになっているそうです。ただ、録画された回数についてそれを番組の評価の指標にしたとしたら、番組を提供しているスポンサーの広告は飛ばされてしまうようになるだけです。ビデオデッキによる視聴の習慣が一般的になってもリアルタイムでテレビを見ることにこだわった背景は、こうしたこともあると思います。
さらに悪いことに、昔なら一社提供の番組という番組の内容を意気に感じてスポンサーが援助してくれるような番組もあったわけですが、今ではそんな番組は数えるほどしかないというのも問題でしょう。松下・東芝など一社提供のドラマをなくしてしまった頃からテレビの凋落は激しくなり、番組でも出ていましたが視聴者のクレームに及び腰になりやすい体質が生まれてきてしまったようにも思えます。
実際、テレビを見ている視聴者はテレビ局のスポンサーはどのような経緯で付くのか、さらにスポンサーの意向がどの程度番組に反映されるのかということについては知ることができないため、はっきりとした事は言えないながらも、テレビの制作だけに日が当たり、営業部については紹介されることがない今の状況が変わらない限り、視聴率至上主義が払拭されることはないのではないかと思うのです。営業の手法で、視聴率以外の一定の条件さえクリアできればあとは自由な番組作りが一定の期間できる(つまりスポンサーが付く)という形でスポンサー契約をし、その経緯が公開されるようなら、営業職にも日が当たることになるだけでなく、視聴者もスポンサーの想いを感じることにもなり、結果としてもっと面白いものができる可能性があります。
では視聴率以外の評価点とは何かということで言うと、今ならSNSでつぶやかれる回数であったり、見逃し配信で見られた回数であったりするかも知れません。コマーシャルを流さない代わりに、スポンサーの製品を番組内で使い、それをわかるように映すことにも注意して番組を作っても(昔の西部警察でよくあったタイアップ手法)、ドラマならストーリーに影響がなければコマーシャルで切らずに民放でもノンストップで番組が作れるかも知れません。この点については視聴率に関係ないNHKでそんな話をしている事自体は面白かったです。
後、気になったのは、今の日本のテレビではテレビ東京の伊藤プロデューサーの言う「企画の保険」が必要で、それが安定した人気のあるキャストの出演だったりする場合、その時点で他のテレビ番組と似たものになってしまって詰まらなくなるというお話は、具体的な芸能事務所には触れなくてもかなりテレビが詰まらなくなる原因の核心を付いていたのではないかと思えました。
また、出演者の方々の発言の中で気付いた点として、フジテレビが「とんねるずのみなさんのおかげでした」と「めちゃイケ」を終了させる点について話が及んだ時、フジテレビは高齢者向けのバラエティでも始めたらどうかと言っているパネラーの方がいらっしゃいましたが「クイズ脳べるShow」はBSフジの番組で、このブログでも特番を11月に11時間ぶっ続けでやったことについて書かせていただきました。今回の番組ではBSの番組について語られる事はありませんでしたが、地上波とネット配信(ネットテレビも含む)の間にはBS放送があるという根本的なことを理解しなければ地上波はさらにおかしな方向に行ってしまうのではないかという危惧も持ったことをお知らせしておきます。
また、文春と新潮という週刊誌が芸能人の不倫現場や事故などの動画を撮影してその動画をテレビ局に売り込むことで利益を上げているという指摘をされているパネラーの方がいましたが、そうなると一般の視聴者には無料で動画を流す権利をもらおうとスクープ映像を募集する各テレビ局の所業とは何だと改めて問いたくなります。もし個人で撮影したスクープ映像があれば、自分でYouTubeに流す方が良いということに視聴者が気付いたら、そちらの方面でも地上波テレビ局は困ることになります。ただそれは本当に自業自得でしかないでしょう。
もしNHKが今回の内容で、深夜から早朝まで生放送の枠で自局への批判も受けて立つという形で番組を作ったとしたら、他の民放も焦るだろうと思いますが、この程度で毎回終わってしまうトーク番組であれば、来年も紅白歌合戦ではその年のヒット局や視聴者が見たい人の歌が聞かれない「国民的番組」というおかしな方向性のまま迷走していくだけだと思います。さらにAbemaTVの藤田氏を出すなら、亀田興毅氏でなく朝青龍のあの番組(朝青竜に勝ったら1,000万円)とNHKとの相撲中継をからめての話をしなければ、相撲協会もNHKも変わらないまま問題はさらに根深くなっていくだけだと思います。他の民放でもいいので、そんな題材の生トーク番組をぜひ実現させて欲しいものだと思いますね。
(番組データ)
新春TV放談2018 NHK総合
1/2 (火) 22:55 ~ 0:15 (80分)
【パネリスト】テリー伊藤,ヒャダイン,カンニング竹山,藤田晋(サイバーエージェント),高橋真麻,品田英雄,伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー),小田玲奈(日本テレビプロデューサー),
【司会】千原ジュニア,首藤奈知子(NHKアナウンサー),
【語り】サンシャイン池崎
(番組内容)
放送局の垣根を越え、今のテレビをぶった斬る討論番組。今年も熱く語ります。2017年の人気番組ランキングを発表!あの感動ドラマは何位に?池が舞台の民放バラエティーはどのように生まれたのか?第一線の制作者たちが秘密を明かす。ネット業界からは72時間番組の仕掛け人が登場。過激な企画の狙いとは?テレビ離れ、長寿番組終了、課題いっぱいのテレビ界はどうなる?テレビのこれからがわかる78分。