この番組は「不良」を正当化したり過去の「不良」の悪行を美化するものなのか? という風に感じる人がいるかも知れませんが、当時のファッションを紹介したり、彼らが住んでいたと思われる部屋を再現したセットに入り、マツコ・デラックスさんと土田晃之さんが懐かしそうにトークしている姿を見ると、単に出演者またはスタッフが青春時代を過ごしたその世代にとっては「古き良き時代」を懐かしんでいる自己満足に近い番組だろうと思いながら見ていました。
というのも、番組の中で「昔はヤンキーの喧嘩は一対一だった」「ヤンキーは今より礼儀正しかった」というような発言がありましたが、それはあくまで出演者の側の感想であり、そうでない思い出を持つ人もいるはずです。思い出は美化されるものだとは言え、いじめられたりカツアゲをされた側の人から見ると、被害を受けたことが「いい思い出」になるとは思えません。その点について、当時の常識からしても正しくない事をやっていただろう人達を持ち上げるこうした番組を作る難しさというのはあると思うのですが、個人的には「不良」の全てを否定的にとらえて糾弾しようとは思いません。番組内のコーナーで過去に販売されていたという本物の女性の暴走族の構成員に取材した紹介VTRなどは、これはこれで当時の風俗の貴重な記録であり、今の時代によく日の目を見たなと個人的には別の感動を覚えたりします。
今では限られた地域によっては残っている「文化」(この番組ではそのように扱っていたのでそのまま書いておきます)は、テレビニュースで中学の卒業式や成人式に「特攻服」を着て現れる若者を非難するようなスタンスで報道する方が多いのが普通なのですが、日本のバラエティーにはこうしたものを「やんちゃ」という言葉で片付けて大目に見るという風潮も一部にはあります。取り上げるテーマとしては興味深いもののクレームが来ることが予想される中でこの番組を成立させるために、この番組ではある技術が使われていました。
それが、番組内できわどい話題をしている時に出てきた注意テロップというもので、私は番組を録画していなかったので一言一句同じような形で再現はできていないかと思いますが、何回も以下のようなテロップが番組内で表示されていました。
「当番組が注目するのは不良の精神性や文化であり法律違反を肯定するのもではないことを明言する」
このようなテロップを出さなければ番組自体が放送できないという事情はあったのだろうと思いますが、まだこうした言い訳をすればギリギリこのような番組を作って放送できるだけいいのかなという風に思ったりもします。そもそも不良が文化なのか? という疑問を持つ方もいるかも知れませんが、例えばビートルズが来日する前後、エレキギターを持つだけで「不良」というレッテルを貼られた時代もありました。ビートルズの来日公演を見に行くだけで「不良」と呼ばれ、泣く泣くコンサートに行くことを諦めたケースもあったといいます。今から考えると、ロックをやったりビートルズを目の敵にする方が新しいカルチャーを理解せずに潰しにかかる勢力として批判されるべき存在ではなかったかと考えることもできます。
今の若い世代の中にも目立とうと莫迦な事をやったり、かなり奇抜な格好をしてみたりする人がいると思いますが、現代はそういう事がインターネットで拡散されることによって、仲間うちの笑い話になることもなくなり、それこそテレビニュースで報道されたり、多くの人を巻き込んで炎上するような事になった話などは、後年になっても「昔はこんなことをして楽しかった」というような思い出にはならないでしょう。それどころか、若気の至りがそのまま未来永劫に動画や写真としてネットにアップされ、さらに名前や住所が特定されることになってしまえば、楽しかった思い出がたちまち消し去ろうとしても消せない暗い過去ということになってしまいかねないのが今の世の中だからです。
そういう意味からすると、今回の番組に出てきた大人たちは、自分達だけ昔話を楽しんでいてずるいというような感想を持つ人もいるかも知れませんが、それはちょっと違います。自分達だけでちょっとまずいかな? と思ったことはtwitterにもInstagramにも投稿しないであくまで仲間うちだけの秘密の楽しみにするような形で行なえばいいだけの話です。ほとばしる感情をより広く伝えられないもどかしさはあるかも知れませんが、それが現代の不良が生き残り新たな文化を作り出していくカギになるような気がします。一つ言えることは、本当にすごいことは自分でネットにアップして拡散するような事をしなくてもテレビの方から取材に来るという事です。そういう意味では、多少世の中からはみ出しているような行動をする若年層のやっている事を一概に糾弾するのではなく、その中に何か光るものがあった場合それを指摘して褒めるような事も今後のテレビはやっていった方がいいのではないかという気がします。
最後に一つ、残念だったのが番組が何とも中途半端に終了してしまったことです。コメンテーターの言葉も相当カットされていたような感じがして、最後にVTRが出ていた当時の不良のアイドルという女性が現在の姿を披露したところでもうエンディングロールが出てきたので、この女性は何のために番組に出てきたのか? という疑問が生じてしまったことも確かです。こういったテーマで語りたいことが製作者の側で多すぎ、尺の中に収まり切れないということのなのかも知れませんが、もう少しちゃんと番組を作ることが続編を放送するためには必要なことではないのかという気もして、最後の最後にちょっと違和感が残りました。
(番組データ)
仲村トオルが地井武男にワッパを掛けられた時代…とマツコ 日本テレビ
3/19 (月) 23:59 ~ 0:54 (55分)
【司会】マツコ・デラックス
【ゲスト】土田晃之、岩橋健一郎(青少年不良文化評論家)、中森明夫(アイドル評論家)、阿部真大(東京大学卒・社会学者)
【演出】高橋敬冶(オフィスぼくら)、大輪和孝(ザ・ワークス)
【統轄チーフプロデューサー】森實陽三(日本テレビ)
【プロデューサー】鈴木淳一(日本テレビ)、山口敦司(ザ・ワークス)
(番組内容)
マツコが「不良が最も輝いていた時代」をディープに振り返る!ヤンキーの変形制服や憧れていたアイドルの変遷、そしてヤンキーの部屋を黄金比で完全再現!さらに(秘)ビデオも
パンタレイ…万物は流転する。この番組は「あるモノ」が最も妖しい輝きを放っていた時代をマツコがディープに振り返る。今回のテーマは「不良が最も輝いていた時代」。「変形制服」「裏ボタン」でヒエラルキーを紹介。またヤンキーの部屋を黄金比で完全再現!そしてヤンキー御用達の原付「クレージュタクト」にマツコが試乗!?さらにヤンキーが憧れたアイドルの歴史…工藤静香は凄かった!レディースアイドルの幻のビデオも登場!