2017年の鳥取巡業の時に起こった貴乃花部屋の幕内力士・貴ノ岩が頭に怪我を負った事件で、一部のマスコミでは全くしゃべらない姿ばかりがテレビに映っていたことから、かなり不快感を持ってテレビであげつらっていた人もいた貴乃花親方が、今までの沈黙は何だったのかと思えるほど饒舌に語るというこの番組は本当にテレビらしいと言えます。
翌日のワイドショーだけでなく、当日の報道ステーションでもこのインタビューの事が放送されるなど、かなり多くの人の目に今回のインタビューが触れたと思うので、今回改めてこの番組を見ていて色んな貴乃花親方についての人物評がされたことでしょう。なぜこのように急に貴乃花親方がカメラの前で喋ったのかというと、番組内で親方は、理事選挙で落選するまでは自分は協会側の人間だったので、協会の意見に反する想いを公の場で述べることは協会と関係なくなるまで喋ることができなかったのだそうです。
そうは言っても大相撲好きな方なら、貴乃花親方というのは現役時代、土俵で対戦する可能性がある力士とは付き合わないなどかなりストイックにご自身の道を生き抜いたという感じで、昔から真面目ではあるが融通がきかないというようなイメージを持たれている方も少なくないと思います。この番組で語るまでは、そうしたイメージ通りに何を考えているかわからないという方も、こんなに饒舌に喋るし、相撲協会へも逐一文書での連絡をしていたことがわかった中で今回の騒動を見ていくと、今まで貴乃花親方に対して思っていたイメージとは変わってしまうこともあるのではないかとも思えます。
ただ、この番組のスタンスは、マフィアのようだとまで言われた「マフラーをする理由」まで細かくフォローするなどインタビューをお願いした貴乃花親方寄りに立って情報を出しているようなところもあるので、ある程度は差し引いて見ることは必要だと思います。番組の中で強調されていたのは、今回のインタビューで出た貴乃花親方の見解について、相撲協会側には質問状を提出したことでした。しかし、番組放送翌日の羽鳥さんのモーニングショーでもテレ朝の方に相撲協会からの回答は送られてこなかったそうです。今回の放送を受けて、相撲協会側の反論が出てきたらさらに盛り上がると思いますが、さすがに相撲協会の方々は番組を見ていても直接カメラの前で問いに答えることは難しいでしょう。実はそれこそが貴乃花親方がテレビカメラの前で沈黙を通した理由なのだと考えると、まともな回答は今後も出てこないのではないかとも思えます。
テレビというものは恐しいもので、このようにテレビカメラの前でインタビューに答えたありのままの姿というのは、これまでの貴乃花親方に対する不信感を払拭するかもしれない力を今後生じさせるかも知れません。というのも昨日の今日でも何回も番組内のシーンが出てきましたし、その言葉がこれまでの協会側の主張を崩すようなものであれば、何度でもリピートされます。と同時に、テレビは貴乃花親方と対立する協会側の親方の姿も映すことになるでしょうが、それは貴乃花部屋まで来てみたものの親方に会わせてもらえず仕方なく帰る姿の繰り返しであったり、どうしても「正義の味方」と「悪の軍団」という風にはっきりとした区分けをするのが好きなのがテレビであり、現状では貴乃花親方に反論するためにカメラの前に出て行けば自分が「悪の軍団」として認識されかねないと恐れている方も少なくないでしょう。
実際のところはそう簡単に善と悪が分かれるものではないということも、多分そんな番組を作っているテレビ制作側の人間もわかっているのではないでしょうか。なぜなら、今回の貴乃花親方が選んだ道と同じように、大きな企業に内部告発をして大企業の悪を訴えようと思った人がいても、その人を必ずしも正義のヒーローとして扱わず、もしかしたら企業の論理に従わない不良社員(または取引先)という風に扱うことも過去にはあったからです。
結局のところ、テレビは大手スポンサーにしろ視聴者にしろ、番組を見てくれてその流れに乗ってくれる層に合わせたような情報を出していくことがあります。もしテレビ朝日はそうでないと言うなら、決して相撲協会の意見をはなから否定するようなことはせず、公平公正に両者の主張を戦わせる続編をやるために、関係者を口説き落として朝まで生テレビ!で徹底的に討論させるというのも一つの手かも知れません。
(番組データ)
独占緊急特報!!貴乃花親方105日沈黙破りすべてを語る
2/7 (水) 19:00 ~ 20:54 (114分)テレビ朝日
【出演】貴乃花光司(貴乃花部屋)
【聞き手】山本晋也(映画監督)
【スタジオ司会】渡辺宜嗣アナウンサー 大下容子アナウンサー
(番組内容)
(1)覚悟の理事選“敗れて悔いなし”全胸中を激白
(2)貴ノ岩関傷害事件とケガ全真相
(3)協会と深い溝…無言の裏で提出文書数十通 猛抗議
(4)“独りに立ち返る”相撲道貫く信念