これじゃテレビは政治家の疑惑を追求できない

中国の作家、魯迅の随筆の中に「『フェアプレイ』はまだ早い」という作品があります。魯迅の生きた時代が中国で革命が起こっている時であったため、どのように権力と戦うべきかということを考えて書かれたものかと思いますが、その中の一説で、「打落水狗」という言葉が出てきます。

「狗」とは犬のことで、「水に落ちた犬は打て!」ということになりましょうか。自分達に向かって吠えたり襲ってくる犬は、水に落ちて溺れていたとしてもその姿が可哀想だからと、親切心から水から上げようと手を差しのべたとしたら、そんな親切心など介することのない犬のこと、その攻撃性を再度発揮し差し伸べた手を噛んでくるかもしれない、だから情を捨てて更に打てというわけです。

この辺の感情というのは理解が難しいと思われる方も少なくないかも知れませんが、例えば親切心から弱っている人に施しをしようとしたら、その人は道行く人の懐を狙っていて財布を取られたり最悪の場合は命を失くしたりするようなケースも有りえます。

見ないふりをして無視するということはかっこ悪い事だと思い親切心から人を許してしまう人の方が好意的に受け入れられるかも知れませんが、いつ自分が裏切られてもいいと思って行動しないと、裏切られる度に心に深い傷を負うことになるでしょう。

これは政界とマスコミの関係でも同じような事があったりします。ある時には全マスコミとネットまで含めて対象の人物に向けて大バッシングをしたものの、一切そうしたバッシングに対して答えず、追求しても逃げ出した上に引きこもって表舞台から消えてしまった人物がいたとします。しばらくはテレビでもその人物に対する批判はするかもしれませんが、一定以上の時間が経った頃を見計らうように、今まで糾弾してきた相手をすぐに許して騒動が起こる前のようにテレビ出演させている事例には事欠きません。ここでは、たまたま本日のテレビを付けていて出演していることを確認した前東京都知事の舛添要一氏がTBSのワイドショーに出ていて、正面から小池現都知事を批判するコメントを言ったり、同席しているタレントが舛添氏擁護のコメントを出しているのを見て、さもありなんと思った次第です。

既に舛添氏は日曜午前のトークバラエティ「サンデー・ジャポン」に出演していますが、この番組は情報番組と言ってもバラエティに近く、ある程度出演者の人選については批判の来るのを承知でキャスティングを行なっており、出演するのに不快感を感じる人がいたとしても、「あの番組だから」と許されるような感じの番組に過ぎませんが、朝の情報バラエティではかなり真剣に当の舛添前都知事の疑惑追求を行なっていたはずです。

今回の衆議院選挙では、主に自民党や安倍首相を中心に、TBSを含めたマスコミを「安倍首相の印象を悪くするような操作をした報道をしている」事をマスコミ名を名差しして批判したプラカードを持って演説会に参加していた方がいらっしゃったと思いますが、この主張はある意味正しいと言わねばなりません。なぜなら、あれだけ別荘を売却すると言ったことや、チャイナ服がどうの(前知事は墨を使って字を書くために公費でチャイナ服を購入したとのこと)や、ホテル三日月でどんな会議が行なわれたのか(実際は家族で遊びに行っただけなのを自費で払わなかっただけなのではとの疑惑があります)というような事は未だに舛添氏が公に向かって説明されない中、まるで全てが許されたかのようにコメンテーターとして出演させ、ギャラまで払っているのです。

現在自民党および安倍晋三首相にまつわる「森友学園の国有地払い下げについての疑惑」や、「加計学園が獣医学部を愛媛県今治市で新設することになった経緯」についてマスコミの中でも朝や昼のワイドショーではどの局も一斉に報道していた時がありましたが、これらの事も、今回の舛添要一氏のテレビコメンテーターへの復帰を認めたということから考えると、テレビ報道のスタンスとしては時間とともに「水に落ちた犬に手を差しのべる」という結果になっていくだろうことが見えてきてしまいます。

もし、森友学園の問題が何らかの決着を得たとしたら、元理事長の籠池氏夫妻をどのようにしてテレビのコメンテーターやバラエティ番組の出演者として引っぱリ出そうかと手ぐすねを引いて待っているというのがテレビ局の思惑であると考えることもできます。そうすると、テレビ局には「水に落ちた犬に手をさしのべる」覚悟はあるものの、自分が怪我をしないように万全の体制を整え、歯向かってきたら徹底的に打ちすえるだけの用意があった上での親切であるということになるのかも知れません。

これは、テレビが単にニュースを伝えるだけの新聞のようなメディアではなく、四角四面の真面目な事を言っていても、次の瞬間にはバラエティ番組で悪ふざけをする番組もあるなど、振り幅の広さを持っているからだと思っていますが、そうした振り幅に応じて複数のキャラクターを使い分けることができるテレビ慣れした人と比べると、今回紹介した疑惑の渦中にあった中でテレビに出てくる人というのは、なまじ渦中にいた人だけに、脇を固めて当たり障りのない事だけを言ってお茶を濁すようなコメントの仕方をするということは難しいでしょうし、テレビ局にとっては「いいお客さん」として視聴者が食い付いている間だけでも使っておけと思っているのかも知れません。

もしかしたら今後の舛添氏も、過去の栄光を取り戻すことなく人気が落ちればお払い箱になってしまうかも知れませんが、これではとても彼の疑惑を視聴者の前で明らかにすることはできませんし、かつての疑惑に答えて欲しいと思って見ている視聴者にとっても見ていてあまり面白い存在ではなくなるでしょう。

このあたりは、同じテレビ局内でもきちんと疑惑を追求したい派と、視聴者が食い付いてくれればそれでいいと思う派との葛藤があるとは思いますが、疑惑について徹底的に追求するぞと正義感をふりかざしていた当のテレビ局が、それほど期間も空かないうちに同じ番組のコメンテーターをやってもらう事をお願いするような番組の作り方をしているならば、最初から正義感を見せない方がいいでしょう。今回のケースは、報道とバラエティでやっていることが違うということではなく、過去に舛添氏を直接批判していた番組が本人のほとぼりが冷めた頃を見はからって、それまで彼を批判してきたコメンテーターと並べて番組に出すところに、テレビ番組だからいいかという感情が作り手にあるのかはわかりませんが、見てる方としては作り手のこざかしさを感じてしまうのです。

少なくとも番組で公人の疑惑を批判するなら(ネットで「ビビット 舛添批判」というキーワードで検索すると具体的な当時の批判について書かれたページがヒットします)、魯迅の書く「打落水狗」の姿勢を貫いてきちんと過去の疑惑について明らかにした上でテレビに出すことで、視聴者も納得するのではないでしょうか。

今後は同様な事が起こった時に過去の内容を振り返ることができるように、気付いた点があった番組については、その内容を記録するような形でブログを更新していきたいと思います。制作に携わっている方も、テレビ番組で過去にやったことは視聴者も忘れてくれるだろうと軽々しく考えない方がいいのではないでしょうか。

(番組データ)

ビビット TBS制作
10/23 (月) 8:00 ~ 9:55 (115分)
国分太一 真矢ミキ 堀尾正明 カンニング竹山 雪野智世 増田雅昭(気象予報士)上路雪江 ゲスト 舛添要一 有馬晴海 赤荻歩 古谷有美 吉田明世(以上TBSアナウンサー)

(番組内容)

舛添要一元都知事がスタジオ生出演!失速・希望の党、二足のわらじ・小池知事に吠える? ▽新潟4区 菊田VS金子 女の戦いは意外な結末に! ▽不倫報道で逆風の戦い 大激戦を制した無所属・山尾志桜里氏の選挙戦に雪野智世が密着! ▽暴言・暴行の豊田真由子氏 リポーター初挑戦の上西小百合が直撃! ▽東京で全敗「希望の党」に風吹かず!小池知事のおひざ元をカンニング竹山が取材! ▽全国で進次郎フィーバー


スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA