番組感想」カテゴリーアーカイブ

早速「シルシルミシル」化した「かりそめ天国」

もはやこのタイトルだけで説明不要かと思いますが、市販のパスタソースのベスト10を決める企画というのは本当に金曜夜8時からの視聴者層に合わせたプログラムで、いったいランキングインしたパスタソースを出している企業からテレビ局はいくらもらっているの? なんてことも疑ってかからなければならない番組に成り果てたという感じがしますね。

深夜の時には実際に出店している食事のできるお店のランキングを作り、その中に完全に取材NGで店名すら出ないところもあり、その点は嘘がないランキングでしたが、手法は同じでもその本気度を疑うような内容に変わり果ててしまいました。

このままだと同じマツコさんが出演する「マツコの知らない世界」のように、スーパーや各種小売店の棚に「かりそめ天国で紹介!!」なんて風にポップが付いて販売促進の材料にされることになります。こういう手法というのは本当に危ない傾向で、もし事前に特定の企業に忖度して順位を決めていて、MCの2人がその製品を台本上で褒めなければならないというような噂が出たとしたら、番組は「発掘あるある大辞典」のような運命をたどる可能性も考えられます。

もしかしたら番組MCのお二人も、ゴールデン昇格の話があった時点から今回のような番組の構成になることを予想し、いいペースで自分の出演する番組を絞っていこうかと思って、こうした状況になっていることをわかってカメラの前で踊っているのかも知れませんが、このままこんなネオ企業宣伝番組になるなら、やはり「ゴールデン昇格は番組の墓場」という流れにこの番組も乗ってしまうのかと思ってしまいますね。

それにしても、表題にした「シルシルミシル」がゴールデンに昇格したのに合わせて放送時間を移動したのがこの番組の前番組である「マツコ&有吉の怒り新党」だったそうで、テレビ朝日はなぜまた同じ事を繰り返すのかという感じがあります。現在の水曜の報道ステーションの後番組は「家事ヤロウ!!!」(バカリズム・中丸雄一・カズレーザー出演のバラエティ)ですが、この番組も人気が出てきてゴールデンに昇格すれば今の内容よりもいかに家事に関連するグッズをランキング化してその商品を売らんがための番組に変わっていくだろうなんて思うと、もはや深夜番組の時点にも関わらず、今後の展開を期待して見られなくなってしまいます。

民放は企業からのコマーシャルがなければやっていけないのは重々承知ですが、新聞でさえ広告のページには「全面広告」という文字が載って通常の紙面とは区別しているのに、シルシルミシルにしろかりそめ天国にしろ、バラエティと広告の境目がわからなくなるような番組の作り方にするなら、いっそのこと「全部広告」の内容でMCの二人から褒め殺しされるような番組にした方が、バカバカしくて笑えるのではないかと本気で思います。

そういう意味では、深夜や午前中枠のテレビショッピングをいかに面白く作るかということを考えておられる番組制作者の方に私はこれからのテレビの可能性を感じます。こういった番組の変化を見てテレビそのものに愛想をつかす人が出てきたとしたら、それはこうした番組を作る決断をしたテレビ局が自分で自分の首を締めていると言っても過言ではありません。このままでいいのか? という根本的な問い掛けを改めてこの番組には申し上げたいです。

(番組データ)

マツコ&有吉 かりそめ天国 テレビ朝日
10/25 (金) 20:00 ~ 21:00 (60分)
【MC】マツコ・デラックス、有吉弘行
【進行】久保田直子(テレビ朝日アナウンサー)
【VTR出演】岡部大(ハナコ)、後藤拓実(四千頭身)

(番組内容)

◇マツコ、スマホのキャッシュレス決済に苦悩!
◇「ガチガチランキング」はいま絶対食べるべきパスタソース編! 約1000種のパスタソースからベスト10が決定!

「子供の習い事、何がベスト?」 マツコ有吉、親主導の習い事に苦言…教育論を語る! 「クーポンやポイントカード、使うのがちょっとはずかしい…」 マツコ、スマホのキャッシュレス決済に苦悩! VTRは「ガチガチランキング いま絶対食べるべきパスタソース編」 マツコ有吉も絶賛! 約1000種の中から、有識者が癒着・忖度なし、ガチで選んだパスタソースベスト10が今夜決定!

視聴者から寄せられた『お悩みメール』や『お怒りメール』、視聴者の皆さんの「こんなことやってみたい、見てみたい!」という“欲望”を叶えるVTRをもとに、マツコ・デラックスと有吉弘行が好き勝手にトークするバラエティ番組!進行は久保田直子アナウンサー。


ジャニーズ事務所から出たことの「逆転人生」は?

SMAPの元メンバーでジャニーズ事務所を出所して元マネージャーの会社で芸能活動を続ける3人について、見事に今の地上波テレビではなかなか出てこないiのは、何かのテレビでは見えない力が働いていて、自由な芸能活動を妨げているのか? と思う今日このごろです。

この番組の前後、同じSMAP元メンバーではジャニーズ事務所に残った木村拓哉さんが主演のドラマ「グランメゾン東京」の番宣でテレビに出まくっていたのとは対照的にジャニーズ事務所を離れた元SMAPメンバーに番組出演のお呼びがかからないというのは、芸能界の掟とは言え誰か何か言ってもいいのではないかと、朝やお昼のワイドショーを見ながら期待していたのですが、今回芸能レポーターがその事をレポートする前に元SMAPの一人である草なぎ剛さんが地上波のテレビに登場するというので(テレビの仕事としては同じNHK総合で放送されている『ブラタモリ』でナレーションを継続していますが)、「これこそ本当の『逆転人生』だ」と思い、ついここで紹介する気になりました。

番組自体は草なぎ剛さんはゲストという扱いで、今回主人公の中国へ行って日本語を教えるカリスマ教師になった男性の人生を見ていき感想を述べていました。別にテレビでの露出度が減ったとは言っても元SMAPの3人は普通に芸能活動は続けられているわけですし、草なぎ剛さんは『ブラタモリ』の収録ではNHKのスタジオに通っていることは以前の変わらず続けられているので、見ていて何か特別なことはありませんでしたが、見ている方はやはり何かが違うと思いつつ番組の進行を見ていたということはあると思います。

そもそもNHKが、一つの壁というか苦難の時代を乗り越えて成果を挙げる人物を呼んでその事について掘り下げる「逆転人生」という番組に草なぎ剛という人物をゲスト出演させたということに、彼自身の逆転人生の足がかりになっていくのか? という風な興味で見てしまったのです。恐らく、草なぎ剛さんは同じアジアの隣国である韓国との関係でチョナン・カンとしての活動があったことからの抜擢なのかという感じもしますが、NHKとしてはキャスティングの英断であることは違いないでしょう。

今回の主人公、笈川幸司さんは元お笑い芸人で、全く売れなかったのですが、そこでがむしゃらに行なってきた経験が生き、まさかの中国での日本語教師の職を得ただけでなく2012年の日本バッシングの中国国内事情の中でもめげずにスピーチコンテストを開催して成功させたVTRを見て、最終的に草なぎさんは「諦めたところからまた出発する」ことの大切さをコメントしていたことが実に印象的でありました。

2019年10月現在は、元SMAPのメンバーの中では当然ながらジャニーズ事務所に残ったメンバー2人の露出が多くなっていますが、まだ彼らの人生は長く、その間に何が起こるかという事はまだわかりません。今回の番組のように、元SMAPのメンバーの中で非ジャニーズのメンバーが各々、テレビから全てパージを受けているわけでもない事を実際に番組に出演することで証明し、徐々にテレビ出演の実績を作っていくことによって今後の元SMAPのメンバーの状況も変わっていくでしょう。そういう意味では、今回の番組は「中国のカリスマ日本語教師」の逆転人生だけでなく、元SMAPの逆転人生のスタートを記録したものとして、ここで紹介させていただきました。

(番組データ)

逆転人生「中国のカリスマ日本語教師 涙の青春スピーチ」NHK総合
10/21 (月) 22:00 ~ 22:50 (50分)
【司会】山里亮太,杉浦友紀,
【ゲスト】教師…笈川幸司,
【出演】草ナギ剛,段文凝

(番組内容)

草ナギ剛と山里亮太が感動!中国のカリスマ日本語教師、激しい反日デモのさなかに起こした知られざる大逆転劇。日本語大会に集まった中国人たちの、涙の青春スピーチとは!?

草ナギ剛と山里亮太がスタジオで大感動!中国で大人気、名門の北京大学や清華大学で教べんをとるカリスマ日本語教師・笈川幸司さん(49)。実はかつて、売れないお笑い芸人だった!?尖閣諸島に端を発する激しい反日デモ。そのさなかに開催された、知られざる奇跡の日本語大会。集まった中国の若者たちの、涙の日本語メッセージを大公開!あのSMAP北京公演、舞台裏の感動秘話も熱く語った。話題の美人過ぎる中国語教師も登場!


ボーカロイド「美空ひばり」は実現するのか?

データを音声に変換する「ボーカロイド」を作ったYAMAHAの技術者が全面協力し、番組タイトルにあるようにAI(自工知能)の技術を使い、できるだけ自然な人間の声に近づけようとして人工的に作った、すでにこの世の人ではない「美空ひばり」の歌を再現することはできるのか? というのが番組の目的で、そのボーカロイドに歌わせるための新曲は秋元康氏が中心になってさらに新曲の詞も秋元氏が書くということで、この番組は成立しています。

さらに、NHKのスタジオで完成披露と番組のラストとして新曲を紹介した際に、動く「美空ひばり」をCGによるホログラムで再現しています。動きの参考として天童よしみさんに今回披露した新曲を歌ってもらい、その仕草をCG作成の参考にしていました。

番組は完成披露したことで終了してしまいましたが、肝心の令和初の美空ひばりの新曲というのはどんな風になっているのかと思ったら、亡くなった頃からの時間の経過とも関係あるのか、ひばりさんが生きている時には決して歌いそうもない曲調のもので、ただ詞は秋元康さんの作品らしく実にわかりやすいもので、曲の間に入った「語り」をそれらしく聞かせるためのYAMAHAの技術者の苦労というものも紹介されていました。

当然、今回新しく作られた曲は美空ひばりさんの持ち歌としてはカウントされませんし、今の状況ではAIを駆使して機械で美空ひばりさんの色を再現しても、上手なものまね芸人にも劣るレベルではあります。しかし、個人的には今回のような番組が作られたことで、さらなるボーカロイドの可能性が出てきたような気もするので、生身の人間の歌とは違ったボーカロイドAIを使った「美空ひばり」という新しい音色が一般的になればという期待を感じてしまったことも確かです。

今後、ひばりプロダクションが許すかどうかわかりませんが、ボーカロイドで歌う「初音ミク」のように「美空ひばり」バージョンの音源が市販され、誰でもネット上で著作権の切れた楽曲や自作の曲を美空ひばり風に表現できるようになると、これはこれでまた面白くなるような気がします。美空ひばりさんは単なる演歌歌手ではなくポップスやジャズも器用に歌いますし、その声質はきわめて日本的と言えるということから、日本発の新しい音楽が美空ひばりさんの声質で歌われた時、改めて彼女の過去の楽曲が注目されることになるでしょうし、同時にそこから派生した新しい音楽が生まれる可能性もあります。

音楽の面白いところは、事前にきちんと今回の番組のように準備されて多くの人の手がかかったから良い作品が生まれるということではないということがあります。美空ひばりさんの代表曲の中に「リンゴ追分」がありますが、この曲は単にラジオドラマを作る過程の中でやっつけ的に作ったものに過ぎず、歌詞の内容も「リンゴの花びらが月夜の風に散った」という単純なものです。その詞と曲に美空ひばりさんが魂を込めたことにより大ヒットしたのですから不思議です。そんな化学反応が、個人で細々と音楽を作っているクリエイターが美空ひばりさんの声でボーカロイドに歌わせることで起こったとしたらそれはそれで素晴しいことです。ボーカロイドの性能も今後より進化していくでしょうし、新しい技術を人の手が妨げることのないように、少なくともこの番組に関わった方は考えていただけると幸いです。

(番組データ)

2019/09/29 21:00 ~ 2019/09/29 21:50 (50分)NHK総合
NHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」
【出演】秋元康,天童よしみ,森英恵,
【語り】三浦大知

(番組内容)

昭和の歌姫・美空ひばりが“復活”。秋元康プロデュースの新曲をAIひばりが熱唱する。人工知能は人々の心を揺さぶる感動を生むのか?今夜、歌謡史の新たな扉が開く。

美空ひばりさんがこの世を去って30年。NHKやレコード会社に残る音源や映像をもとに、人工知能・AIでひばりを現代によみがえらせるプロジェクト。国内最高レベルの技術者がAIを開発。新曲の作詞は秋元康、衣装デザインは森英恵、振り付けは天童よしみという強力布陣。令和の時代に現れる“AIひばり”が歌うのは、これまでにない曲調の新曲。歌声や表現力はどこまで再現できるのか。あなたの目と耳で確かめてください。


結成30年の「渋さ知らズ」をテレビで見られる幸せ

知らない人は全く知らないものの、その存在を知っている人なら詳しく知っているバンドというのは、オリジナリティがあり長く続けている良質のバンドだと思うのですが、今回紹介する「渋さ知らズ」というバンド形態の集団のパフォーマンスを記録したのがこの番組でした。何と「渋さ知らズ」は結成30年が経ったということで、改めて衰えないパワーにその存在感の大きさを改めて感じました。

この番組は、CSでの放送なのですが、私は本放送を見ていません。どういう基準で選ばれたのかはわかりませんが、民放の見逃し配信をネットで一定期間見られるサービスの「TVer」で、しかも無料で見られるというのは本当に嬉しく、ネット配信では85分間だった箱根彫刻の森美術館でのライブに見入ってしまいました。

渋さ知らズの楽曲というのはほとんどが歌なしのもので、分かりやすく踊りやすいテーマをひとしきり流した後は、参加メンバーのソロ回しという、ちょっとジャズ的な展開になるので長尺の曲が多く、ロックフェスのようにずっと縦ノリの気分でという感じではありません。地上波のテレビで1コーラス流されて終わるヒットソングを聴き慣れている人からすると最初びっくりするもののだんだん退屈になり、そしてまた盛り上がるというような感じで曲が進んでいくのでかなり戸惑うことが多いのではないでしょうか。

さらに、渋さ知らズのメンバーは楽器を演奏する人だけでなく大きな人形を動かしたり自分の体を使ってパフォーマンスをしたりというような、様々な人がステージに入り乱れるように集まっています。初見ならまさに一昔前の「見せ物小屋」の中を覗くようなドキドキ感のある、今の日本のミュージックシーンでは珍しい音楽パフォーマンスではないかと個人的には思っています。

今回は音だけではなく、演奏場所となるテントを建てるところから、観客の様子にもカメラを向けながら、どのようにして渋さ知らズのパフォーマンスが作られ、どんな人が楽しんでいるのかということがわかるような構成になっていましたが、当然のごとくたまたま彫刻の森美術館に来館した人を除けば、結成30年ということで長年応援してきた年季の入ったファンの方々の姿が目立ちました。今回のテレビ放送が実現したのも、ある程度のコアなファンが番組を作っている側にもいるということになるのでしょうし、CSとはいえきちんとそのライブが放送され、その番組が一定の時期だけとは言え、ネット上から誰でも見られるような形でアップされていたというのは、渋さ知らズの音楽をもっと広く発信していきたいという志の表れという感じもしました。

私自身は結成当初から渋さ知らズの事は知っていて、番組では2体目のサキソフォンを吹く人形として登場した、メンバーの故・片山広明さん(ts)が登場したのには驚きとともにほろっとしました。本当はこの番組で吹きまくる片山さんの姿を見たかったと思うのは私だけではないでしょう。そうした想いを形にしたメンバーの表現というのは素晴らしいと思いますし、今後もこうしたパフォーマンスは続けて欲しいなと素直に思いました。

実際の演奏場面で印象に残ったのは、多分オリジナルのメンバーだと思われるギターの石渡明廣のソロでした。他の人々はホーンセクションが主だったので、立って勢いよく演奏するため目立つのですが、石渡さんはあえて立つこともせずに淡々と、でも熱いソロを延々と続ける姿に、こういう人もいて、ステージ前面で目立つ人もいて、渋さ知らズというユニットが成り立っているんだなと思い、機会を見付けてライブを見に行ってみたいものだと感じましたね(^^)。

ただこれはテレビの番組の中のライブだったので、掛け値なしのライブ感をそのまま感じることができたわけではありません。番組内でちょっと流れていた、林栄一さん作の「ナーダム」が流れていましたが、この曲は林さんのソロアルバムで聴いて以来の好きな曲なので、渋さ知らズの「ナーダム」もちゃんと聴きたかったなというところではあります。

そうは言ってもテレビというのはあくまで現実を写すショーウィンドウという側面があるので、この番組やTVerを見た人にとって、もし好運にも「渋さ知らズ」という人たちの事を知ってくれる人がいたとしたら、地上波のテレビでは収まらない音というものの存在を十分に感じさせたのではないかと思います。

もしこの文章を読んで「渋さ知らズ」というものに興味を持つ方がいましたら、同名でYou Tubeで検索をかければ、この番組よりも短いものの彼らのパフォーマンスを記録した動画をいくつも見付けられるでしょう。できれば、動画だけで満足せず、さらにはテレビのライブだけで良しとせずに、実際にライブパフォーマンスが近くで行なわれていたら、足を運んでみて下さい。

(番組データ)

渋さ知らズオーケストラ×彫刻の森美術館「箱根渋天幕芸術祭」フジテレビNEXT ライブ・プレミアム
2019/09/17 01:00 ~ 2019/09/17 02:30 (90分)

(番組内容)

彫刻の森美術館開館50周年を記念して開催された「箱根渋天幕芸術祭」。夕暮れのライブステージの模様をお届け
<収録>2019年8月24日(土)〜彫刻の森美術館


ナーバスな題材でも事実隠蔽は反発を招くだけ

このカテゴリーで前回書かせていただいた「ベルリンオリンピック陸上競技」の内容がドラマについにのってきました。前回のロサンゼルスオリンピックと比べるとベルリンオリンピックでは公式の記録映画が作られたこともあり、選手は吹き替えではなく一部本当の競技の内容を記録した映画のシーンを使っていました。

一部というのは実は、当時の機材では日没後に競技が延長されて続いた棒高跳びについては記録できなかったためで、映画や当番組で使われた日本の大江季雄、西田修平の跳躍については、翌日改めて競技の様子を映画用に録り直したものでありました。

ただ、前回の内容でちょっと触れましたが、やはりというかこの大河ドラマでは、メダル獲得者以外は興味がないようで、三段跳びの田島直人選手は出てきましたが、5千メートルと1万メートルでともに4位に入り、現地でも大人気だった村社講平選手の存在は全く出てきませんでした。

そして、ドラマのコンセプトであるマラソンについては、これも記録映画に残っているものをそのまま流し、金メダル孫基禎選手、銅メダル南昇龍選手のメダル獲得と、それまで日本マラソン界がなしえなかったオリンピックの金メダルと複数メダル獲得の快挙を伝えました。

番組の中では日本の放送席の隣に陣取っていた優勝候補のザバラ選手の母国であるアルゼンチンのクルーが、ザバラ選手の途中棄権がわかると、そのまま放送を終了して帰ってしまったことが出てきましたが、これは当時のNHKアナウンサーの証言そのものです。また、オリンピックのマラソン中継は、スタートの部分を実況したもののそこで放送は中断し、レースが終わってから改めて放送されたということも事実に即しています。当時の取材では全コースの模様をつぶさに実況できるような事はできなかったということで、恐らくドラマで表現されたような怒号のあとの歓喜というものは日本のあちこちで起こったものだと思われます。

マラソン金と銅の孫・南選手は当時は日韓併合の渦中にあった朝鮮半島出身のランナーで、いわゆる「金栗足袋」を履いての快挙であることも間違いありませんが、前回の放送から播磨屋の店頭に両選手が金栗足袋を履いていてオリンピック代表に決まったというくだりが実は正確ではありません。この点は日韓両国にとって実にナイーブな内容を含むのですが、今回の放送でメダルを取ったことがわかった後、一瞬「今回のメダル獲得は朝鮮半島出身ランナーの快挙で日本人選手ではない」ことに残念がる気分が広がったのですが、そうした当時の日本人の気分を忖度したのか、実は日本選手団が出発する時にもマラソン日本代表は決まっていない状態だったのです。

話はマラソン代表の選考会の時にまで遡るのですが、当時孫基禎選手は、以前から他の競技で活躍していた同じ朝鮮半島出身の先輩から、とんでもない情報を入手します。当時、選考会前に孫基禎選手は当時の世界新記録を出しており、マラソン代表は間違いなしと言われていました。朝鮮半島出身のランナーとしては今回紹介された南選手は実力的に孫選手に次ぐ力があっても、出場枠の3には入らず、当時の日本陸連は日本人選手2名を選ぶというのです。その話を逆手に取るような結果に選考会レースはなってしまうのですが、その結果は南選手が一位、孫選手が二位ということになってしまったのです。

普通に考えると世界記録を持っている孫選手を落とすことができず、さらに日本陸連のメンツにかけても朝鮮半島出身のランナーが代表で2名入ることは避けたいと思ったのかどうかはわかりませんが、ベルリンに派遣する選手は朝鮮半島の選手2名、日本選手2名とし、大会出場の3名はベルリン現地で行なう30キロの現地予選で決定するとしました。

こうした当時の日本陸連の選手選考における不可解さはそれこそ最近の日本のマラソン代表選考にも影響を及ぼしていたようにも思います。しかしドラマでは孫・南選手が大会に派遣される前から日本代表になっているかのような流れになっています。

この辺は2019年現在の日本と韓国との主に政府同士の関係の悪さもあり、史実をそのままドラマ化するよりもある程度フィクションを入れながら描いた方がいいという考えあってのことかも知れませんが、日本人が朝鮮半島出身のランナーに勝てないという状況の中で、露骨な日本人贔屓をした事実は事実として、それら多くの忖度による代表選考が続いたことの反省のもとで2020年東京オリンピック代表選考の一発選考「マラソン・グランド・チャンピオンシップ」が生まれたということもあるので、そうした背景とともに過去の歴史を学習する機会になれば良かったのではという気がしてしまうのです。

個人的には今回の内容自体がニュース配信され、さらなる日韓両国の関係悪化につながるような事にはなって欲しくないですね。まさか放送のあるタイミングで日本と韓国に関する騒動が加熱しているとは制作者側にとっては想定外だったかも知れませんが、この問題はシナリオを書く前から問題としては続いていたと思うので、今後に遺恨の種を残す可能性もある一連の放送ではなく、せめてドラマ終了後のミニコーナーの中ででも、きちんと日本側から見た当時の国内の状況をきちんと説明して欲しかったと思っています。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(35)「民族の祭典」NHK総合
2019/09/15 20:00 ~ 2019/09/15 20:45 (45分)
【出演】阿部サダヲ,中村勘九郎,上白石萌歌,柄本佑,杉咲花,仲野太賀,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,トータス松本,リリー・フランキー,三宅弘城,皆川猿時,塚本晋也,薬師丸ひろ子ほか
【作】宮藤官九郎

(番組内容)

ベルリンオリンピックはナチスが総力をあげ運営する大規模な大会となり、田畑(阿部サダヲ)を圧倒し当惑させる。IOC総会では治五郎(役所広司)が日本開催を訴える。

1936年夏。ベルリンで4年後の次回大会の開催地を決めるIOC総会が始まり、嘉納治五郎(役所広司)は「日本で平和の祭典を!」と熱く訴える。その直後に開幕したベルリンオリンピックは政権を握るナチスが総力をあげて運営する大規模な大会となり、田畑政治(阿部サダヲ)を圧倒し当惑させる。マラソンでは金栗四三(中村勘九郎)と同じハリマヤ足袋を履くランナーが出場。水泳では前畑秀子(上白石萌歌)のレースが迫る。


アスリートとメディアの関係を掘り下げないと何も変わらない

2019年9月15日に行なわれる、2020年東京オリンピックマラソン代表を決める一発勝負、マラソングランドチャンピオンシップについて生放送する中で、かつて一発選考とされていた日本陸連の選考基準が変えられたソウルオリンピック男子代表の選考についてのVTRによる解説がされたのですが、その内容に気にかかることがありました。

当時、代表有力だったダイエー所属の中山竹道選手がインタビューに答えた週刊誌の記事が画面に大写しなり、選考レースである福岡国際に怪我のため出場が不可能となった瀬古利彦選手に向かって「這ってでも出てこい」と中山選手が発言したかのような当時と同じ内容を報じていましたが、あれから相当の時間が経ち、当時の状況を当時者が説明した本も出版される中、この内容についてそのままVTRにしてしまうのはいかがなものなのかという気がしたのです。

というのも、私自身はその後の中山竹道氏へのインタビューを読んだのですが、その中で言った言葉は「這ってでも出てこい」ではなく「自分なら這ってでも出ますけどね」というニュアンスの違いが今となっては明らかな事実として認識されています。その発言には瀬古利彦選手への敵意はなく、あくまで自分の心情を述べているだけなのですが、当時のマスコミはこの週刊誌の内容に沿って中山選手のイメージを作ってしまったのです。

当時のマスコミは、いわゆる「空白の一日」事件で悪役となったプロ野球読売ジャイアンツの江川卓選手のように、それまでの経緯や直接発言した内容を捻じ曲げたり肝心な事を紹介しなかったりしてまで、テレビの視聴率を上げたり、雑誌の売り上げを伸ばそうとしたり、そんな時代背景の中マラソンに関する話題もヒートアップしていったのだろうと思います。しかし、あらゆる報道の裏側が明らかになった2019年の今、まだ中山竹道氏の発言についての裏取りをしないで週刊誌報道をそのままVTRにして出してしまうのか、本当に理解に苦しむとともに、この番組に関わった人の中には本気で陸上競技を愛している人がいないのではないかと思ってしまいました。

ただ、番組が生放送で、VTRの最中に抗議の電話が局に入ったのか入らなかったのか、その真偽はわかりませんが、VTRが終わった後にスタジオでの話になった際、MCの安住紳一郎アナウンサーが有森裕子さんに振るような形でその話を出し、「自分なら這ってでも……」という内容を紹介したにとどまりました。本当ならソウルオリンピックに出場した瀬古利彦選手と不可解な選考基準によって落選した工藤一彦氏とのVTR対面を間接的に演出するよりも、当時の記事を湾曲して週刊誌に掲載した責任者が中山竹道氏のところに行って直接謝罪させるくらいの方が良かったのではないかと思います。ちなみに、スタジオの後ろに設置されている過去の内容を写真とともに紹介したパネルには「瀬古、這ってでも福岡へ来い!」という文字が刻まれていました。これはあくまで個人的な印象ですが、上記のコメントは用意されたものでなく、前半の内容についての批判の声が入ったから急遽行なわれたものではないかと思えて仕方ありません。

いつの世も、売らんがなのために実際の取材内容と微妙にニュアンスを変えて報道するマスコミはいるものですが、今回のマラソングランドチャンピオンシップについても、事前・事後に何らかのマスコミが起因する問題が起こった場合、TBSはどのように報道するのかということまで考えてしまった今回の放送でした。

(番組データ)

マラソン・グランド・チャンピオンシップ 東京五輪代表を懸けた運命の決戦へ TBS
2019年9月11日(水) 20時00分~22時00分(120分)
MC:安住紳一郎、江藤愛 ゲスト:有森裕子、高橋尚子、原晋、土田晃之
ドラマ:徳重聡、三浦理恵子、武井壮、佐藤真弓、手塚とおる、嶋大輔

(番組内容)

順位なのか、タイムなのか、はたまた実績なのか…。選手も国民もスッキリしない、あいまいな選考システム。その裏には、誰も踏み込めないマラソン界のタブーが存在していた…。ソウル五輪代表選考で、あいまいな選考基準によって、代表の座を逃した悲運の男が生まれたた。この騒動は、日本マラソン界最大の事件として、これまで誰も触れることができなかったのだ。あれから32年、悲劇のランナーが、封印してきた禁断の選考問題を初告白。そして今回、瀬古が長年心にしまっていた思いを初めて彼に伝える。「人生を変えてしまって申し訳なかった…」その思いを聞いた男は…。


後からの言い訳は傷口を広げるだけか?

私のいる静岡県内では、東京で7月5日深夜(実際の放送時間は7月6日未明)に放送された今回紹介する「2019年上半期のTBS」という番組が8月4日の午後という変則的な時間に放送されたので、今さらという感じもする方もいるかも知れませんが、このブログでも触れさせていただいた「世界リレー」中継に関するTBSの見解について司会の安住紳一郎氏がコメントしましたので、今回はその内容についてのみになりますがコメントの内容を検証していきたいと思います。

この「世界リレー」についての中継におけるドタバタ劇については、以前にこのブログで紹介させていただきました。

スポーツのライブ中継では何を伝えるべきなのか

上のリンクの中で3つの問題だと思った点を指摘させていただきました。それは以下のような事です。

・その1
世界リレー初日の地上波の放送前にBSで競技内容が中継されていたものの放送時間が終わってしまって中継できなかったレースについて、地上波内ではキャスターを含め全く伝えなかったこと。

・その2
地上波の中継でも全レースを中継する事ができず、直後にある通常の生放送番組「新・情報7DAYS ニュースキャスター」でも、番組が始まってレースの内容を中継するのに10分くらい時間がかかり、結果が気になる視聴者は、安住紳一郎氏とビートたけし氏の雑談にしばし付き合わされたこと。

・その3
翌日の第二日の中継におけるレース結果について、字幕では正しい結果が発表されているのに、本来はその事をきちんと伝えるべきキャスター(織田裕二氏・中井美穂氏)の元には伝わっておらず、しばし推測と憶測を元にしてのコメントが続いたこと。

このうち、番組で安住紳一郎氏が弁解した点はご自身が携わった「その2」の部分のみで、会社として陸上についてはかなり長いこと「TBSの顔」となっているお二人の事については最後まで全く触れませんでした。この点については、番組の最後に安住氏は「責任は全て私にある」と言っていましたのでここで会社やメインキャスターの事を書いても仕方がないと思いますので、今回は直接ご自身の問題として弁解した「その2」についてその内容とそれに対するコメントをしていきたいと思います。

まず、安住氏はスタッフから、世界リレーについてはタイムテーブル通りに進まないという事が想定外で、さらに中継できなかった競技についても「結果のみを伝えれば良い」と言われていたことを明かしました。しかし、この状況でレースの内容を伝えることは大事だということもあり、急遽録画したレース内容を「新・情報7DAYS ニュースキャスター」で放送するためには、元々構想になかった事なので、すでにスポーツ中継のスタッフが保存していた動画データから問題となったレースのスタートからゴールまでの部分を切り出し、さらに放送できるように編集するために7分から8分の時間がかかってしまうので、それまでの時間をビートたけしさんとのおしゃべりでつないでいたという説明でした。

ただ、そうした言い訳をするなら、番組開始冒頭にそういう話をした方が印象が良かったのではないかと普通に思えるのですが。安住氏からすると、自分の番組にも予定があり、放送すべき内容を削ってまでレースの録画放送をすることでこれ以上自分ら番組に責任はないと放送時には思っていた感じもあります。

もちろん、元々はタイムテーブルを発表し、さらにテレビ中継のある中でどんどん予定時間を過ぎてしまう世界リレーの運営サイドの問題であるのに、たまたまスポーツ中継後の生放送を担当していたキャスターが責任を問われるというのは厳しい話です。しかしアナウンサーがテレビ局の顔である以上、局に対する批判を和らげるためにも、番組開始直後のコメントをもう少し考えて行なった方がここまでのTBSに対する非難は大きくならなかったのではないかという点を考えると、全く安住氏やビートたけし氏に責任はないのかというと、少し考えてしまいます。

そして、今回の放送を見て改めて、TBSアナウンサーのレベルでは「世界陸上」のような大きなイベントの動向について文句も言えないのではないかと番組を見た側としては考えざるを得ません。この番組のホームページでは「TBSへのご意見を募集中」という投稿リンクがありましたが、どちらにしてもメインキャスターにご退場いただいたり、番組における発言内容を考えてくれと意見しても聞く耳を持たないんでしょと思わざるを得ません。やはり、こうした何が起こるかわからないスポーツ中継はインターネットによるキャスター無しの同時中継を責任を持ってやってもらう方が、同じような弁解を何回も安住紳一郎氏にさせるよりも楽に責任逃れができるのではないかと個人的には思います。

(番組データ)

安住紳一郎と2019年上半期のTBS★安住紳一郎と「水ダウ」藤井健太郎初タッグ! TBS
2019/07/06 00:20 ~ 2019/07/06 01:20 (60分)

(番組内容)

TBSで今年の上半期に起きた様々な出来事を振り返り、ハードTVウォッチャーとしても知られる安住紳一郎が出演者として…またTBS社員として…独自の目線で徹底解説!

日曜早朝に放送している『TBSレビュー』(TBSおよび放送全般が抱える問題について幅広く取上げ検証していく番組)を思いっきり柔らかくした感じの自己批評風バラエティ。アナウンサー安住紳一郎が独自の目線でこの1月~6月のTBSを振り返り、ときに現場の舞台裏を語りつつ、後輩アナウンサーからの疑問や悩みにも向き合いながら、上半期を締めくくります。

【MC】安住紳一郎(TBSアナウンサー)
【出演】日比麻音子(TBSアナウンサー)、山形純菜(TBSアナウンサー)、宇賀神メグ(TBSアナウンサー)


東京オリンピックでも「メダル至上主義」放送は続くのか

今回のNHK大河ドラマは途中で主人公が変わり、注目される種目も変わるというなじみのない展開になり、今回が阿部サダヲ演じる田畑政治氏がメインになって2回目の放送になりますが、まだ金栗四三氏の出番もあります。

ちなみに金栗四三氏はオリンピックのマラソンでは全くメダルには手が届かなかった選手で、そういう選手にスポットライトを当てたことで、いわゆる「勝利至上主義」をストレートに押してこないこれまでのドラマ展開をそのつもりで見ていたのですが、けたたましい調子でまくしたてる田畑氏の勢いそのまま、第二部は一気に「オリンピックは参加することに意義がある」ではなく、「オリンピックはメダルを獲ってこそ」という「メダル至上主義」の匂いを感じてしまった今回の放送でした。

今回のメインキャストははからずもアムステルダムオリンピックに日本女子選手として初めて参加し、金メダルを狙っていた100m走の準決勝で敗れたことで、一度も走ったことのない800m出場を役員に直訴し、何とか銀メダルを獲得して面目を施した(当時の期待された状況からするとドラマのようにそこまで手離しで喜べなかったと思うのですが)人見絹枝選手でした。

もちろん、女性の陸上競技の歴史の中では人見絹枝という存在は注目に値するでしょうが、あれほど日本のマラソンのために尽力した金栗四三氏が人見絹枝氏の結果だけを見て喜ぶシーンだけしか出さず、マラソン競技について全く触れなかったのはどう考えてもおかしな事です。落語のシーンをカットしても40キロ付近までトップで通過し、結果四位入賞した山田兼松選手の名前とそのレースの再現は入れないと、何でいままで金栗四三氏をメインで出してきたのか? もしかしてドラマ制作側の意図としては金栗四三氏は「マラソンの先駆者」ではなく「女子陸上普及の立役者」として出したかったのか? という風にも思えてきてしまいます。

それにひきかえ、前回まで全くドラマ的には出てこなかった陸上の三段飛び金メダリストの織田幹雄氏、そして水泳でも唐突に「新人」として出現し、前回出た東大地下の温水プールでは全く練習していないような(前回の筋ではこのプールを作って練習したことで日本の水泳チームが力を付けたように描かれていました)200m平泳ぎの金メダリスト鶴田義行氏はちゃっかりと出番がありました。

まさに、「メダリストはこれまでのストーリーとは無関係でもしっかり役者を付け名前を出すがメダルを取れなければストーリーに関係があっても名前すら出さない」という感じになってくるのです。

その予感が増大するのが、当時まだ小学生だったと思われるベルリン・オリンピックの平泳ぎで金メダリストになる前畑秀子選手が人見絹枝選手に続く日本人女子アスリートの象徴として出てきたことです。前畑選手を出した以上、戦前のベルリン・オリンピックについて触れないわけにはいかないでしょうが、果たしてそこで、当時の日本陸上界にとって悲願であったマラソン金メダルと銅メダルを獲得した朝鮮半島半身のランナー孫基禎・南昇龍の両選手の事はどう扱うのか。また、後のオリンピックチャンピオンになるザトペック選手が陸上を始めるきっかけになったという5000mと10000mでフィンランドの3選手と互角に渡り合うも両方のレースで無念の四位となった村社講平選手は出てくるのか、次回に向けて大変に楽しみになってきました(^^;)。

個人的にはメダルだけに執着し、メダリストばかり注目する状況というのは良いとは思わず、逆に四位入賞者にシンパシーを感じてしまうことがあります。マラソンでは2大会連続四位に入った中山竹通選手の凄さが印象に残っていますし、同じく2大会連続四位ということでは冬季五輪スキーモーグルの上村愛子選手の頑張りはメダリストに全く引けを取りません。しかも上村選手の夫はトリノオリンピックスラロームで四位入賞を果たした皆川賢太郎選手であるというところにもぐっとくるものがあります。

今回の大河ドラマは多くの視聴者を東京オリンピックに向けて盛り上げるために企画されたものだということはわかって見ていますが、今回の内容はあまりにもメダル至上主義が過ぎているという印象でした。次回に向けていくらかの軌道修正があるのか、とにかく次回を楽しみにしておきます。

(番組データ)

いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~(26)NHK総合
7/7 (日) 20:00 ~ 20:45 (45分)
【出演】
阿部サダヲ,中村勘九郎,桐谷健太,斎藤工,三浦貴大,大東駿介,上白石萌歌,柄本佑,森山未來,神木隆之介,荒川良々,川栄李奈,じろう,永山絢斗,菅原小春,根岸季衣,萩原健一ほか
【作】
宮藤官九郎

(番組内容)

アムステルダム五輪が迫り、体協が相変わらず資金難に苦しむ中、田畑政治(阿部サダヲ)は記者人脈を活かし、政界の大物、大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)に選手派遣のための資金援助を直談判。本大会では女子陸上が正式種目に。国内予選を席巻した人見絹枝(菅原小春)はプレッシャーに押しつぶされ、期待された100mで惨敗。このままでは日本の女子スポーツの未来が閉ざされるー。絹枝は未経験の800mへの挑戦を決意する。


「山谷」をバラエティで簡単に扱う人の根底にあるもの

現代の日本のテレビは様々な「コンプライアンス」にがんじがらめになっていて、昔のテレビと比べると明らかにテレビ制作者がやりたいことができないようになってきているということは当然あります。だからこそ、そんな制約の中で面白い番組を作っている人や番組は応援したいという風に思っているのですが、流石に今回の「山谷」に行くというのは反則ではないかと、見ていて違和感を覚えました。

ただ、このような「地域の有名人」に取材しその人の様子を笑うという番組はあり、最近は複数の番組でそうした事を毎回やっているような番組も存在します。昔の「天才たけしの元気が出るテレビ」(日本テレビ)や「さんまのからくりテレビ」(TBS系)では番組の方からの演出もあったのかも知れませんが、最近の番組ではそうした強烈なキャラクターをそのままカメラの前に出し、強烈な個性を持つ人を取り合っているような感じもあります。「月曜から夜ふかし」(日本テレビ)で注目されたキャラクターがなぜか「町のご意見番」として「バイキング」(フジテレビ)に出ていたりしているのも、そこまでテレビはキャラクター不足でなさそうなのにとも思ったりします。

今回、山谷にいる人の「あだ名」について調査するということで山谷の町や飲み屋に取材カメラが入ったわけですが、当然ながらまともにカメラの前に顔を出せるような人は少なく、露天市である「ドロボウ市」にいたってはそこに集まる人の顔を出すことはもちろん、場所の特定すらもコンプライアンスの関係でしませんでした。山谷に生きる人の事を楽しく番組出演者は見ていたような感じではあるのですが、そもそも山谷とはどんな街で、そこで生きる人はなぜ集まってきたのか? というような予備知識なしに単にその人個人のキャラクターを面白がるというのは、それこそ山谷地域に住んでいる小学生と同じレベルの興味の持ち方ではないかと思えます。

現在の山谷はもはや単なる日雇い労働者の街ではなく、生活保護を受けて生きる人の方が多くなっている「貧困」「高齢化」という正に未来の日本の一部はこうなってしまうのではないかと思われる様々な問題が渦巻いている街です。そうした街の歴史や内情を知っている人がテレビ視聴者に多くいるなら説明不要で一気に現場報告でもいいとは思うのですが、「山谷」という場所で取材するなら今回は「銀座のあだ名」は別の回に回して一回分濃密に山谷を紹介するような形でも良かったのかなと思いますね。

今後、単なる興味本位なだけで今後山谷や釜ヶ崎、寿町のようなところでロケをするような企画があったとして、番組を見た人にとっては残るのは大きな違和感と偏見だけで、それがまた街のイメージを悪くし、ひいてはそこに住む人の居住環境を悪くすることにテレビが一役買ってしまう事も十分に有りえます。全く山谷を知らない人にとっては、単に面白がって作ってしまったテレビの企画によってその人の考えが形作られてしまうわけで、その辺は十分考えてこうした対象と向き合っていただければと思います。

(番組データ)

親愛なる、あだな様【噂のあだ名を大調査~銀座高級クラブの世界~】テレビ東京
2019/06/18 00:12 ~ 2019/06/18 01:00 (48分)
【出演者】
山崎弘也(アンタッチャブル)
大久保佳代子(オアシズ)
向井康二(Snow Man/ジャニーズJr.)
福田典子(テレビ東京アナウンサー)
あだな調査隊

(番組内容)

【銀座の高級クラブ】 座っただけで3万5000円以上もかかる銀座の高級クラブ。それを支えるのが「ドンペリママ」「銀座の女王蜂」など強烈なあだなを持つママ達!さらに、そんな高級な場所に来るお客さんにもあだな調査をすると…「イヤホンマン」「銀座の先生」などクセが強すぎるキャラが続々!さらに伝説のスカウトマン「銀座の黒服王」にも密着調査。
【日本3大ドヤ街 山谷】 日雇い労働者の街として知られる山谷には、「キャッチボールおじさん」「お上手さん」「ニタリ」など、不可思議でワケありのあだな様だらけ!さらに「ドロボウ市」と呼ばれるディープスポットにも潜入。


震災<人災という現実を垣間見せてくれた2つの番組

テレビ局の編成が力を持つのは、まさに今回のNHKの夜の番組の並びを実現できるような選択ができるからだとしみじみ思いました。昨日、2019年6月3日の午後10時から放送された「逆転人生」から「事件の涙」という2つのドキュメンタリーをノンストップで続けられたことで、チャンネルを変えるタイミングを逸してそのまま見てしまったのですが、こういった意見の伝え方があるのかと感じることになったので、ここで改めてその内容について紹介させていただきたいと思います。

まず、「事件の涙」という番組は再放送で、本放送は2018年の5月に初回放送があったもので、初回放送を見た方からすると、単体で見た番組について消化不良な所もあったのではないかと考えられるような番組の構成だったように思います。

最初に「事件の涙」の方の番組内容を紹介すると、この番組自体は大きな事件のその後の関係者の「涙」に焦点を当てて取材する切ないドキュメンタリーなのですが、今回は雪印の食肉偽装(オーストラリア産の肉を和肉として出荷しようとした)を告発した「西宮冷蔵」の社長とその家族のその後にカメラを向けています。

この番組で改めて知った事に、社長の娘さんは衝動的にマンションの14階から飛び降りて命は取り留めたものの下半身不随になってしまっていたということがあります。正義の告発のはずが利用客には契約を打ち切られ、さらに当時の政府には告発をしたのに不正をしばらく黙認していたのではというイジメのような難癖を付けられ、倉庫への強制捜査を入れられるなど、内部告発について告発した側を守るどころか、何の配慮もない行政の理不尽さなどを前にして家族の事までケアできなかったと社長は自分を責め、取材当時には生活のほとんどを娘さんの介護にあてています。

会社を切りもりしていたのは父の想いを受けた息子さんで、必死の努力で何とか売上を最盛期の7割くらいまで回復させたものの、再び当時の大口の顧客から商品の偽装を持ちかけられ、その申し出を断ったところ他の得意先も契約を止めるという、正に日本の企業の底意地の悪さというのか、事無かれ主義というものの犠牲になり、倒産寸前のところまで追い込まれていることが紹介され、まさに倒産寸前の状況を紹介して番組は幕となりました。西宮冷蔵の今後には全く展望が見えないところまで追いこまれているわけですが、これが世の中の現実であることも確かです。

最近のドラマでは「半沢直樹」の大ヒットによる影響もあるのかも知れませんが、中小企業が大企業に対して真っ向から戦いを挑んで勝利する「下町ロケット」や、銀行員が会社の内部で行なわれる理不尽な動きに対して、その妨害にもめげずに自らの行動で状況を変えていくという「集団左遷!」などのドラマが人気になっています。そうしたスカッとするドラマを現実の世界でも行なわれているような形で紹介する番組が、直前に放送された「逆転人生」のようにも思うのですが、今回もやはり最後にはスカッとした結論を導き出すようないわゆるベタな展開になっていました。

別にこの番組で取り上げた岩手県陸前高田市の醤油を作る「株式会社八木澤商店」に罪があるわけではありません。むしろ、東日本大震災の影響で工場にあったもろみと微生物を全て津波で流されてしまったことで会社としてもう二度と震災前と同じ製品を作ることができないということを感じつつも会社を再建しようとする中で奇跡的に4kgだけ残ったもろみから過去と同じクオリティを持つ製品を作ることができた過程は十分感動的でした。

今回、なぜこの番組の後に西宮冷蔵の現在をレポートしたドキュメンタリーを直後にもってきたかということを考えると、あまりにも大きな二つの企業の襲われた災難の「差」というものが浮かび上がってくるのです。

八木澤商店が受けた試練である大きな地震と、それにともなった津波の被害というのは今さら言うまでもなく悲惨な結果を生み出し、多くの人命を奪っただけでなく原子力発電所を壊滅させ、今なおその影響で苦しんでいる人を生み出しています。その被害については大なり小なり違いはあれ、被害を受けた地域では全ての人や企業が同じように受けた災難でありました。それに対して西宮冷蔵が受けた災難というのは自然的な災害では全くなく、西宮冷蔵だけがピンポイントに受けてしまったその全てが「人災」とでも呼ぶべきものでした。顧客の大企業にとって都合の悪いことをしたものの、そのおかげで一般消費者が受ける影響を考えると、誰かがこうした告発者を守ってあげないといけない事例だったのではないでしょうか。

現在西宮冷蔵と同じように営業している同業他社がなぜ問題も起こさず営業を続けているのかということを考えると「決して内部告発などをせず、大人しく産地偽装を黙認していればいい」と考えて社会悪をそのままにしているところが生き残っているという風に少々いじわるに考えてしまうこともできると思います。もしかしたら現在日本の産業全体が低迷しているのは、こうした「正直者が馬鹿を見る」ような状況にあるのではないかという風にも考えられるので、この件についてはまずは西宮冷蔵を貶めた本当の悪はどこにあったかという検証をテレビは行なうべきでしょう。

あの悲惨な東日本大震災よりもひどく、長きにわたって絶望しか生み出さないものが「人災」だというのは本当に悲しいことですし、日本を再生するというのならこの象徴的な事件について、事件の被害者親族を執拗に追い詰めたり、芸能人の不倫事件で関係者のところにしつこく取材するよりも力を注いでいただきたいと思うのですが。

(番組データ その1)

逆転人生「復活!奇跡のしょうゆ 被災地の逆転劇」NHK総合
2019/06/03 22:00 ~ 2019/06/03 22:50 (50分)
【司会】山里亮太,杉浦友紀,
【ゲスト】しょうゆ会社社長…河野通洋,
【出演】村上弘明,秋元才加,しょうゆに詳しい専門家…高橋万太郎

(番組内容 その1)

東日本大震災で壊滅的被害を受けた陸前高田の老舗しょうゆ工場。200年受け継がれてきた“もろみ”を使って醸すしょうゆは全国のファンに愛されていたが、その“もろみ”が津波で全て流され、元の味のしょうゆの製造は絶望的状況となる。しかしたった4キロ、研究用に保管されていた“もろみ”が発見された。しょうゆ会社社長の河野通洋さん(45)は、4億円を借金して工場再建を決意。元の味のしょうゆ復活に挑む。

(番組データ その2)

事件の涙 Human Crossroads選▽正義の告発 雪印食品牛肉偽装事件 NHK総合
2019/06/03 22:50 ~ 2019/06/03 23:16 (26分)
【語り】吉田羊

(番組内容 その2)

2002年、大手食品会社の背信として、社会に衝撃を与えた「雪印食品牛肉偽装事件」。発覚のきっかけは「輸入牛肉を国内産と偽っている」と暴露した、「西宮冷蔵」社長・水谷洋一さんの内部告発だった。しかし、取り引き先は次々と去り、国からも処分を受け、経営危機に。経済的理由で高校進学をあきらめた娘は、心を病み、重い障害を負う。それでも水谷さんは、息子とともに会社を死守、「正義」を社会に問う。