渡る世間も「橋田壽賀子」<「クィーン」なのか

今回の内容はたまたま番組宣伝で知り、実は昔からクィーンは聴き込んできたので、地上波でクィーンがどのような扱われ方をするのかということに興味があり、録画で見ました。なぜ録画で見たかというと、今の日本のテレビの世界を考えた時に番組MCの坂上忍さんが、直接脚本家の橋田壽賀子さんのお宅を訪れてインタビューするという方がインパクトがあると思い、クィーンの話は後回しにされると思ったからです。

もし日本の芸能界で橋田壽賀子さんに対抗するだけの人をクィーンに関わった人物の中で挙げるとすれば渡辺プロダクションの渡辺美佐氏以外には考えられず、もし番組で渡辺美佐氏のインタビューが取れたならクィーンを先に出すのかなと思っていたのですが、事前に確認した中でも、実際に見た中でも個別に渡辺プロも渡辺美佐氏の存在も紹介していなかったのに、クィーンを最初に持ってきたというのには、それだけ日本でも映画「ボヘミアン・ラプソディ」がヒットしていることで、視聴者の興味という点で勝った以外には考えられず、改めてクィーンの魅力とは何かということを考えさせられる番組の半分を使った特集になっていました。

ただ、この点というのは番組として見るといかにも放送されている今を切り取って流行りにおもねっているという感じが拭えないものがあります。その分、特集の内容も薄っぺらく感じてしまう方も少なからずいたかも知れませんが、あの映画がなかったらわざわざ地上波でクィーンの事が取り上げられなかったと思い、改めて今回のクィーンの特集に限っての内容の感想を書くことにしました。

今回の特集のポイントとしては、映画には描かれなかった日本でのクィーンのデビュー当時の人気ぶりと、日本の骨董や文化を愛したメンバーの姿を紹介したことと、フジテレビのライブラリの中から「夜のヒットスタジオ」にフレディを除くメンバーがライブ告知のために出演した映像と、当時のFNNのニュース報道でフレディのエイズ感染と訃報がどのように伝えられたかということを改めて紹介してくれたことがあると思います。

さらに、当時のボディーガードや、フレディが来日した際によく訪れたというバー(新宿二丁目か?)のマスター、栃木県足利市にある伊万里焼を集めた栗田美術館の館長さんへのインタビューなど、日本のテレビでなければ見られないオフのフレディの様子を知れたのもファンにとっては嬉しいことだったでしょう。でも個人的にはもう少しディープな話題も教えてくれた方が、特に今回の映画で初めてクィーンを知った人にとってはさらに興味が出るでしょうし、ナベプロがなぜ日本でのクィーンの売り出しに関わったのか? ということについてもしっかりと出してくれたらなお良かったという風に思います。

ただ、クィーンはデビュー当初こそスーパースター扱いであったかも知れませんが、ビートルズのように出す曲が全て1位になるわけでもなく、そこまで今のような勢いで売れ続けていたわけでもなく、当時のラジオチャートでもABBAの後塵を拝していたような印象もあります。ただそれは、表立ってはラジオにハガキを送ったりはしないけれど、気になって楽曲は聴いていて密かに支持していた層によって現在の日本での知名度が形作られていったように思います。

というのも、当時洋楽のチャートを聴いていた人が大人になり、それなりに現場で流す音楽やコマーシャルの後ろで流す音楽を決められる地位に付いたと思われる感じで、クィーンの過去のヒット曲がコマーシャルやドラマの中で使われるようになり、そこで新たなファンを獲得するような流れが出てきたのです。それが、番組でも言われている「楽曲の力」ということにあるのでしょうが、さらに言えるのが、緻密な音作りというものが密かに多くの男性にも支持を受けていたところもあり、そうした緻密な音の編集作業というのは、クィーンのメンバーが揃って高学歴のインテリバンドであったことにも由来するのではないかと思うのです。本来はそうした点こそ、テレビ界やCM界の関係者へのパイプを持っているテレビ局の得意とするところだと思うのですが、今回はそういう話も聞けなかったのは残念でした。

あと、これは番組には関係ない話ではありますが、クィーンの魅力一つと考えるところを最後に紹介させていただきます。私が過去に読んだメンバーへのインタビューの中で、確か「バイシクル・レース」や「ドント・ストップ・ミー・ナウ」の入ったアルバム「ジャズ」(1978)が出た後だったと思うのですが、ドラムスのロジャー・テイラーに日本の音楽(特にドラムス)の評価は? という質問に彼がツトム・ヤマシタ氏(当時グラミー賞にノミネートされた打楽器奏者)とともに挙げたのが山下洋輔トリオだったのにはびっくりしました。

今でこそ山下洋輔さんはジャズ界の重鎮ですが、ツトム・ヤマシタ氏のような海外での知名度という点では当時それほど高くなかったと思います。ただ、70年代には山下洋輔(pf)・坂田明(sax)・森山威男(ds)というトリオでのヨーロッパツアーの様子をライブ録音した「クレイ」というアルバムが出ており、ロジャー・テイラーはもしかしたらそのアルバムを取り寄せて聴いていたのかも知れません。その中での森山威男さんのドラミングは素晴しいもので、森山さんが日本が世界に誇ることができるドラマーの一人であると私自身信じて疑わないのですが、まさかロックバンドであるクィーンのロジャー・テイラーの口からその言葉が出るというのは、いかに広い範囲で音楽を聴きながら研究をしているかということの現われではないかと思ったものです。

番組ではそのロジャー・テイラーの作った「レディオ・ガガ」が対訳付きで長く紹介されていましたが、4人のメンバーが全てビックヒットを作ったメロディメーカーであったことも、バンドとしてその生命を全うした理由の一つであろうと思います。

今後、映画のヒットと共にさらに彼らに関するテレビ番組は作られるかも知れませんが、まだまだネタは多くの関係者が持っていると思うので、どこかのテレビ局が特集を組むとしたら、今回の内容とは違う内容で踏み込むか、それこそ渡辺美佐氏に直接話を聞きに行くとか、面白い趣向でやってくれることを期待しています。

(番組データ)

直撃!シンソウ坂上SP【クイーン特集!秘蔵映像&フレディの真相▽橋田壽賀子】
2018/12/13 19:57 ~ 2018/12/13 21:54 (117分)
【MC】 坂上忍
【VTR出演】 橋田壽賀子 他
【チーフプロデューサー】 小仲正重
【総合演出】 島本亮
【ゼネラルプロデューサー】 石塚大志
【プロデューサー】 挾間英行  大川友也
【演出】 山崎貴博
【制作】 フジテレビ 第二制作室

(番組内容)

クイーンはなぜ愛されるのか?日本との意外な絆&フレディ最後の5年に迫る!名曲に込めたメッセージ▽橋田壽賀子“安楽死宣言”の真相!夫の遺産3億に衝撃事実

今夜の『直撃!シンソウ坂上2時間SP』では、『おしん』『渡る世間は鬼ばかり』など数々のヒットドラマを生み出してきた脚本家・橋田壽賀子がたどりついた独自の人生観に、子役時代に橋田作品への出演経験もある坂上忍が迫る!彼女が「私の時代は終わった」と語った真意や、知られざる最愛の夫との出会いと別れ、『おしん』や『渡る世間は鬼ばかり』の驚きの誕生秘話、さらに社会に衝撃を与えた「安楽死宣言」の真相まで、橋田が語り尽くす。

また、公開中の映画『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットによりブームになっている伝説のロックバンド「クイーン」。彼らがなぜ日本人に愛されたのか、そしてなぜ彼らが日本人を愛したのか、秘蔵映像を交えひもといていく。


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