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「箱根駅伝」より面白い? ご当地駅伝から世界への道

今回はあえて掟破りの、私の住む静岡県でしか放送されず、さらに静岡県に関わる人でないと面白くも何ともない番組のレポートです。よく日本人はマラソン好きと言われていますが、過去オリンピックでは女子こそ高橋尚子・野口みずきの両選手がオリンピックの金メダルを獲得したものの、男子は戦前のベルリンオリンピックまで時間をさかのぼっても、当時日本が統治していた朝鮮半島出身のランナー孫基禎選手の優勝が記録としてはあるのみです。この結果というのは箱根駅伝生みの親としても知られる金栗四三氏が初参加したストックホルムオリンピックから数えても、未だ現在の日本国内で生まれた選手は、オリンピックの華である男子マラソンの金メダルには届いていないというのが実情です。

さらに最近では、前回の東京オリンピックの銅メダル円谷幸吉選手以降、大会のたびにメダル争いにからみ、日本のお家芸とも言われたマラソンにおける日本の影響力に陰りが見えつつあります。かといって、日本方式の指導そのものがダメかというとそんなことはありません。本格的に強化に乗り出しているアフリカ勢の躍進についていけない状況はあるものの、日本式の選手育成方法に魅力を感じて日本に留学してきたアフリカ勢の選手がオリンピックでもメダルを取るということにもつながっています。ただ、本来は日本勢に力を付けるための指導なのに、他国の選手をより強くしてしまうという皮肉な結果になっています。

かつて日本の男子マラソンの躍進を支えた箱根駅伝も必ずしもマラソン強化に繋がらないのではないか? という話も出てくる中、本気で日本の長距離走のレベルを上げるためには、運動能力の高い子供の時から勝つために走るという意識を持たせるために、幅広い地域で幅広い年代が参加できる駅伝大会を開くというのは地味ではありますがいつどこから出てくるかわからない才能を見い出すチャンスでもありますし、地道に練習をしている年配の市民ランナーにも参加のチャンスが出てきます。さらに、過去の名選手がひょっこりと顔を出し、その健在ぶりを確認できる場でもあるのです。

そういうことで、この静岡県でも市町村対抗という形での(大きな市は複数チームに分けての参加もあり)駅伝大会が開かれるようになって今回が18回目になりました。現在はこうした大会を開催している都道府県は23もあるそうです。全国の方から見ると、静岡県というのはそんなに有名選手を出しているわけでもないでしょうにと思われるかも知れません。さらに、毎年行なわれる都道府県対抗駅伝でもそんなに強いわけでもありません。ただ、実際にこの大会から世界に羽ばたく活躍をしている選手も出てきているので、特に小・中学生の強い選手を見付ける楽しみがあります。そこは今回で18回も開催を続けてきた成果だと言えるでしょう。

第2回の大会では、当時清水町チームの代表として出場し当時から日本一だった天才中学生・佐藤悠基選手が走りました。彼は高校から陸上のために長野県にある佐久長聖高校に駅伝留学し、そこから大学・社会人へと進んだので静岡県との関わりは知らない方もいるでしょうが、この市町村対抗駅伝で見たことで、高校駅伝から箱根駅伝、そしてニューイヤー駅伝からオリンピックと継続して応援できる存在になっています。さらに、長距離ではありませんがリオデジャネイロオリンピックの400メートルリレーで銀メダルを取った飯塚翔太選手も小学生の時に浜岡町の選手として大会に参加しています。地域によっては陸上部の所属でなくても、地元に足の速い子がいるというレベルでも出場できるようなところもあるので、本当の原石といえる選手の走りを見られるということで、この駅伝をテレビ中継してくれるのは有難いことです。

今回のレースを見ていて、やはり注目したのが強くなると地元を離れてしまう事が多いので、中学生までの選手です。静岡市静岡A(静岡市は元静岡市で2チームと、元清水市を中心にしたチームの3チームがエントリーしています)の細谷愛子選手(静岡東中1年)の走りが素晴らしく、中学一年で800メートルを2分14秒のタイムで走り、ジュニアオリンピックで優勝した実力の片鱗を見せてくれました。若い選手は必ずしも順調に伸びていくかどうかはわからないながらも、マラソンでの東京オリンピックの出場を目指す同じ静岡県出身で大会出場経験のある豊田自動織機の萩原歩美選手との交流が現在あるそうで、そうした意識の高い選手がこの駅伝を卒業してからどこまで成長していくのか、そんな姿を今後も見せてくれるかと思うと実に楽しみです。

さらに、同じ静岡市静岡Aチームには2015年の東京マラソンに出場してギネス世界記録を出した望月将悟選手も今回残念ながらエントリーはされませんでしたがメンバーに名を連ねています。一位でないのに何故世界記録? と思われる方もいるかも知れませんが、この方は山岳レース・トレイルランニングの世界では有名な人で、日本海からスターとして太平洋にゴールする「トランス・ジャパン・アルプスレース」で前人未到の四連覇を達成し、東京マラソンはそのためのトレーニングという位置付けなのか、40ポンド(約18キロ)の重りを背負ってフルマラソンを走るというギネス記録に挑戦し、それまでの3時間25分21秒という記録を大幅に破る3時間6分16秒という記録を樹立しました。

その他の注目選手としては、先週の女子の社会人駅伝のクイーンズ駅伝にパナソニック所属として出場し区間賞を取ったばかりで参加した函南町の渡邊菜々美選手は素晴しい走りでごぼう抜きの快走を見せてくれました。ちょっと変わった観点での注目はAKB48のチーム8の静岡県出身、横道侑里さんの中学生になる妹・横道亜未さんが優勝候補の一つ浜松市西部チームの選手としてエントリーして走りました。今年の800メートルのベストは2分21秒81と先に紹介した細谷選手には劣りますが、立派なタイムで連続出場を果たしています。

色んな駅伝はありますが、ストレートに陸上でオリンピックを目指す選手から、畑違いの競技のトップランナーが入りまじるような選手構成の駅伝というのは、地域という枠だけで区切る駅伝の醍醐味ではないでしょうか。お互いに刺激し合う中で、まだ走ることすらおぼつかない小学生にも世界の存在を感じさせる事ができるというのも、日本の陸上全体を押し上げる効果があるのではないかと思います。

あと、大切なことはこのブログで紹介しているからではありませんが、大会自体を行なってもテレビでの生中継がなければ地域への波及効果というのはかなり下がるということです。これだけ地域を分けて出場チームが多く出ていると、リアルタイムで見ている中でも誰かの知り合いとか親戚だとか、近所の人だとかがメンバーとして出場しているケースが有るはずです。そんな形で未来に希望の持てる有望な才能の持ち主が陸上への門を叩いたり、別の道に進むにしても大会の出場が契機になって大成したりする可能性すらあるのです。まだ市町村対抗駅伝を行なっていない都道府県でも、こうした大会の開催及びテレビ中継を考えていただきたいなと思う次第です。

(2018.1.4追記)

2018年の箱根駅伝は青山学院大学の4連覇で幕を閉じましたが、実際のところ箱根ランナーの中で市町村対抗駅伝に過去に出ていた人の活躍はなかったのか調べていたら、面白い新聞記事に遭遇しました。城西大学の大石巧選手がその人で、陸上選手としては高校まで行なっておらず、大学で0からのスタートだったにも関わらず、3年生で8区を走り、区間4位の走りで城西大学としては念願のシード権をぐっと引き寄せました。

実は大石選手は高校3年の秋までは袋井高校のサッカー部に所属していて陸上経験はなかったそうですが、小学生時代に市町村対抗駅伝の磐田市福田(旧・福田町)代表とし、小学校6年生で名前が残っているのを発見しました(^^)。ただ、選手としては補欠扱いで本番で走ったわけではないものの、それこそ地域で「足の速い子」としてお呼びが掛かったものと思われます。

こうした経験があったからなのかも知れませんが、サッカー人生が終わった大石選手は、まさにドラマ「陸王」を地で行くように陸上競技への転向を決意し、5,000mの記録会で走った記録(15分32秒)という事を示しつつ箱根駅伝で有名な大学に電話して入部を訴えたそうなのですが、当然のごとくどの大学からも相手にされない中で唯一拾ってくれたのが櫛部監督の城西大学だったというわけです。

大石選手は大学生になって一昨年の市町村対抗駅伝に一般ランナーとして出場し、そして箱根で結果を出すまでに成長したというのですから、実に夢のある話です。彼はまだもう一年チャンスがあるので、単なる箱根のランナーとしてだけではなく、その次を見据えながら活躍されることを期待します。

(番組データ)

第18回しずおか市町対抗駅伝【39チームの激走すべて実況生中継!】SBS(静岡放送)
12/2 (土) 9:30 ~ 11:45
【センター解説】金 哲彦(ニッポンランナーズ代表)
【センター実況】岡村久則(静岡放送アナウンサー)
【1号車実況】小嶋健太(静岡放送アナウンサー)
【2号車実況】牧野克彦(静岡放送アナウンサー)

(番組内容)

ふるさとへの誇り、それぞれの”しずおか愛”を胸に39チームが駿河路を駆ける!今年は小学生の区間が増え、全12区間に。去年までとは違うレースを制するのはどのチーム


音声だけでも十分に面白い素材を発掘できるか? 「聴くメンタリー」

地上波とは違うBS波での新たな挑戦として、BSフジが出す新たな企画には単なる旅番組やドラマの再放送にはない面白さがあるので、興味深く見守っていきたいと思っています。今回は新番組としてシリーズ化を狙っているのかも知れない「珍盤アワー」という、何やらテレビ朝日の「タモリ倶楽部」のコーナー、「空耳アワー」のような感じの名前の番組が始まりましたので見てみました。

のっけから出演者のタレント頼みのような感じではありますが、MCをイワイガワの井川さんがやってレコードの説明などを行ない、関根勤さんと清水ミチコさんがそれに対しておしゃべりをするというかなりぬるい番組で、スタジオ内にいる全員の事を良く知っている人であれば、テレビでなくラジオの番組としてあってもおかしくはありません。

ただ、テレビでこういった企画をやるというのは、実際のレコードジャケットや中の解説がどんなもので、画像のない音だけという中でレコードを聴く人ができるだけ具体的にイメージが湧くようなものを作っていたのかを見せるには大事な事ではなかったかと思います。番組内でF1の日本グランプリが富士スピードウェイで行なわれていた時の実況録音盤を紹介していましたが、コースの一覧及び、どこにどういった機材をセットして録ったのか、さらに機材の名前までクレジットしているということは、やはり現物を見てこそ実感できるものですし、実際に持っていたという人にとっては懐かしさいっぱいのものですので、しっかり紹介することは必要でしょう。この辺は、最近のBSフジの傾向である、簡単に若者におもねったりせず、中高年で昔を懐かしむような人向けのコンセプトをキープしていることがわかります。

ただ、番組はそれだけではなく、この番組で紹介する「音によるドキュメンタリー」を「聴くメンタリー」と称し、まだ家庭用の動画撮影機材としては8ミリフィルムしかなく、カセットデンスケを担いで集音マイクをセットしてあらゆる生活音を「生録」して悦に入っていた生録マニアがいた時代、何とかして音で時代の雰囲気を残そうと努力しようとした人々の悪戦苦闘した結果としての作品をピックアップするというようなコンセプトがあるようです。

しかし、ネットではスマホで動画を撮ってアップして共有するのが当り前の時代にあって、音楽でもない音だけを楽しむのは時代遅れではないか? と思われる人もいるかも知れませんが、実は案外そうでないところもあるのです。

最近はある意味では動画はあえて撮影せず、スマホやICレコーダーを隠し持つことで決定的な瞬間を狙う「隠し録り」をする人も出てきています。例えばそれは、正々堂々とカメラを向けたらその人は自分の正体を隠してしまい、決定的な証拠となる暴言を吐いてはくれないということがあるからだと言えるでしょう。2017年に多くの人に強い印象を残したテレビワイドショーの題材の一つは、画面ではICレコーダーを映しただけの豊田真由子・前衆議院議員の肉声でした。私たちは実のところ、動く豊田前議員の姿は見ていたものの「このハゲー!」や「違うだろ違うだろ」や、ミュージカル調でネチネチと秘書を追い詰める姿については一切見ていないのに、あの音声だけで想像の翼を働かしてご本人が再起不能になるくらいの強い印象を受けてしまったわけで、現在の世の中であっても今後この番組で紹介されるような変な音のレコードのような企画が受ける可能性を持っていると思います。

ただし、この番組が化けるかどうかというのはまた別の問題で、やはり一番大事なのはテレビ受けする素材をどこまでテレビで紹介できるのかということと、この番組の主題はあくまでレコードの音源であるので、むだなおしゃべりを中心にしないで、素材の面白さをじっくりと聴かせていただけるかが鍵になるような気がします。

この時間には地上波のフジテレビでは人気番組の「全力!脱力タイムズ」とかぶってしまうので同時視聴はきびしいとは思いますが、こちらは一時間番組なので、裏番組録画をして追っかけ再生をするようにすれば、ほぼリアルタイムで2番組を続けて見られます。ただ、面白そうな音源を少ししか掛けず、つまらないおしゃべりが主になってしまうようなら、個人的には早めの離脱も仕方ないかなと思っていますので、今後に期待というところでしょうか。

(番組データ)

[新]珍盤アワー 関根勤の聴くメンタリー BSフジ
12/1 (金) 23:00 ~ 23:55
出演者:関根勤 清水ミチコ 井川修司(イワイガワ)
ナレーター:よしいけいこ
編成:大森慎司
企画構成:若木康輔
演出:粂田剛
プロデューサー:河野孝則

(番組内容)

「レコードといえば音楽」と思っていませんか? しかし、ビデオがまだなかった時代、音楽以外の音、効果音や肉声、ドキュメンタリーなどが録音されたレコードが存在しました。「聴くメンタリー」とは、耳で聴くドキュメンタリー。これはテレビ史上初、音楽じゃないレコードを「聴く」番組です。出演者にモノマネ芸人として「音」を繰り出すプロである関根勤と清水ミチコを迎え、ひたすらマニアックな迷盤・珍盤を数々のモノマネを交えいじり倒す贅沢な1時間です。

第1回目は、ドドンと豪華に6枚のレコードを紹介します。日本初のF1グランプリの爆音が収められたレコードはなぜ・どのように作られたのか?当時の録音技師を尋ね直撃取材するなどVTRも充実。日本の名鐘を集めた重厚なレコード「梵鐘」に収められる、今では聴くことのできない名寺の鐘を聞き比べは必聴! さらに7連覇達成当時の読売巨人軍の王や長嶋のプライベートのひとコマを録音したレコードから、蓄音機を発明したエジソンの肉声の演説や、「ヒトのいびき」を集めた変り種のレコードまで、懐かしさと真新しさが同時におしよせるレコードの数々を大放出します。